継承を斬る(後編)
さらに数時間が経過した、残った人数は6人だけになっていた、その中にラバは残っていた。
「・・・」
ラバは意識がもうろうとした中で走っていた、呼吸は乱れ汗まみれで鼻水やヨダレが垂れまくっている、何よりラバは全裸であった、ラバ自身いつ全裸になったのか全く記憶がなく、自覚も全くなかった。
「そろそろええかな」
キョウジが止めの合図をすると走っていた男達はフラフラになりながら足を止めた、一人を除いて。
「・・・」
ラバは止まれの合図が耳に入らず走り続けていた、兵士がラバの元に駆けより止まるよう指示した。
「おい、止まれ」
「な、なにを・・・」
「キョウジさんが止まれと言ったんだ、だから早く止まれ」
「・・・だいい・・おわり?」
「そうだ、だからキョウジさんの元に行け」
「・・・わ・・・」
ラバは言葉もろくに話せないままキョウジの元へフラフラしながら駆けつけた、他の参加者も似たようなものだった。
「お疲れさん、今から第二の試練に入るで」
参加者達全員息を切らしたまま驚いた、こんなに早く開始されるとは思ってなかったからである。
「お、俺達走りまくってへとへと・・・」
「何言うてんのや、君達がどれだけへばってても関係あらへん、敵さんは君達の都合に合わせてくれへんで」
参加者達は何も反論できなかった、キョウジの言うことは完全に正しかったからである。
「せやけどその前に、そこの緑色の髪の少年」
「な、なんで・・・すか?」
「せめてパンツぐらい履こうか」
「パンツ?・・・うおお!?なんだこりゃ!?」
ラバはようやく自分がフルチンであることに気づいた、慌てて股間を手で隠した。
「ひょっとして君、体力回復の時間稼ぎのためにパンツ脱いだんかな?」
「い、いえ、違います!」
「まあ、ええわ、早うパンツ履いてな」
「は、はい!」
ラバは兵士から渡されたパンツを素早く履いて参加者達の列に入った。
「じゃあ、君達にひとつ質問するで」
「質問?」
「そうや」
「し、しかし、自分達は体力を消耗して・・・」
「それがどうしたんや?」
「い、いえ、何でも・・・」
これ以上何を言っても無駄だと全員が理解した、疲労しきった状態でも頭を働かせることができるかの試練だと。
「じゃあ、言うで、今君達はクローステールの使い手で目の前に自分より遥かに格上の敵がおる、振りきって逃げるのは不可能や、さて、君達はこの窮地どう乗り切る?」
全員が困惑した、格上の敵相手に逃げることが不可能、残った選択は多くない、それぞれ思考を巡らせ考えをまとめた。
「自分は剣を造ります」
「俺は槍を造ります」
「俺は網を造って動きを封じます」
次々と答えていくのを見てラバは焦りを感じていた、俺も速く答えないと、そう思った瞬間キョウジの表情を見て何かピーンと感じた、キョウジの表情はいたって普通だが何かを感じたのである。
なんだ?何か違和感を感じる、キョウジさんの表情はいたって普通だ、だが、何か妙だ、もしかして俺達勘違いしているのか?何を・・・
どうやって乗り切る?
そうだ、キョウジさんは敵を倒せとは言ってない、乗り切れと言ったんだ、だったら発想を根本的に変えないと・・・
「そこの君」
「は、はい!」
「君だけやで答えてへんの」
「すいません!」
やべえ、速く答えないと、だが、どう答えたら・・・
「答えられないんか?」
「い、いえ、そんなことは!!」
くそ!!もう時間が・・・こうなったら一か八かだ!!
「死んだふりをします!!」
「死んだふり?」
その瞬間キョウジ以外の人間は大笑いした、あまりにも格好悪い答えであったから。
「死んだふり?格好悪いぜ、はははは!」
「ヘタレそのものだ、ヒャハハハ!!」
大笑いされながらもラバは頭をさらに回転させた、次につなげるために。
「詳しい説明してくれへんか?」
「はい、ただの死んだふりではすぐにばれます、そこでクローステールを使って血管を縛って脈を止めて
死んだと思わせるのです、これなら敵が油断する確率は小さくないと思います」
「ほう」
キョウジ以外の男達は大笑いしながらラバをバカにしていた、それでもラバは全く後悔していなかった。
バカにしたいのならいくらでもしやがれ、俺は自分のひらめきを貫いたんだ、後悔はねえ!
キョウジは何も語らずにラバをしばらく見つめていた、そして次の一言は・・・
「君、正解や」
その瞬間周りがしんと静まりかえった、そしてすぐさま騒動が起こる。
「な、何を!?」
「どういうことですか!?」
「そんなバカな!?」
全く納得できずに参加者達はキョウジに詰め寄った、キョウジはすぐに説明を始める。
「僕は実際彼のやり方で死んだふりをして窮地を逃れたんや」
「し、しかし・・・」
キョウジの説明でもまだ納得ができずにいた。
「そもそも死んだふりがあかんって誰が決めたんや?」
「そ、それは・・・」
「クローステールに一番重要なのは発想力や、これはできんと思ったらそこまでや」
「はあ・・・」
「いずれ革命軍は帝国と戦争することになる、僕らは弱者や、弱者が手段を選んだらあかん、どんな手段を使っても勝つ覚悟をせなあかんのや」
キョウジの説明に一同は何も言えなかった、帝国との戦いは正々堂々と戦って勝てるほど甘くないものであるから。
「話が少しそれてもうたが君が・・・ええと君名前は?」
「ラバックです」
「ラバック、君だけが正解した、第二の試練通過や」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあ僕についてきて」
「はい」
ラバとキョウジと数人の兵士はある場所へ向かっていた、人っ子一人いないまったいらな高原である、だがそこにある物体があった、それは大きな檻で中に危険種の群れが入っている。
「あのー?」
「なんや?」
「あれは?」
「ああ、あれは特級危険種の・・・」
「いえ、そういうことでは、なんであそこに特級危険種が?」
「決まってるやろ、あれが最後の試練やからや」
「・・・」
ラバは薄々気づいていた、あの危険種が試練に関係していることに、だがあの危険種に勝てる自信はなかった、だが正直に言えば失格になってしまうかもしれないと思い何も言えなかった。
「このクローステールを使って乗り切る、それが最後の試練や」
「はい!」
ラバはキョウジからクローステールを受け取った、ラバはクローステールを見るのはこれが始めてではない、以前キョウジが装備している状態のクローステールを見たことがあるのだ、その時クローステールを見てとてもイカス手袋だと思ったのである。
「さて、最後の試練いきますか!!」
檻が開けられて危険種の群れがラバに向かっていく、かなり飢えていたからである。
「これはこれは・・・」
正直不安で一杯だが、ここまできた以上やらないわけにはいかない、それにこのクローステールならなんとかなるかもしれない、そう感じるものがあった。
「いくぜ、相棒!!お前の力見せてくれ!!」
「そこで発動したのがクローステールの奥の手だったんだよ」
「すごいですね、初めての帝具でいきなり奥の手発動なんて」
「いやあ、そんなことあるよ」
ラバは昔話をしてすっかり有頂天になっていた。
「その奥の手私達にも見せてよ」
「まあ、機会があったらね」
「ラバさんはただのスケベな人じゃないって改めて実感しました」
「スケベって・・・」
確かに俺はスケベだがまともな男はスケベなのは普通だろう。
「とにかく俺はこの相棒とともに修羅場をくぐりぬけてきたんだよ」
「修羅場はくぐりぬけてきたのにナジェンダさんへの告白はできないのは不思議ですね」
「うっ・・・」
痛いところをつかれてラバは言葉がつまった、本当に我ながら情けないと思うラバである。
「と、とにかく、いつかナジェンダさんをおとしてやるから」
「頑張ってくださいラバさん」
「ありがとよ、エアちゃん」
そう言ったエアであったが微かに胸の奥にもやもやを感じている自分がいるのを感じていた。