継承を斬る(前編)
ラバはへこんでいた、店の本をただで持っていかれることにへこんでいるのだが、それ以上にナジェンダに告白できないヘタレな自分にへこんでいたのである。
「ラバさん、元気出してください」
「・・・ありがとう、エアちゃん、俺は大丈夫だから」
「そうそう、気にすることないよ」
「もう、元はといえばファルが」
「そもそも私本貸してって言ってないよ」
「それはそうだけど・・_」
ナジェンダさんに告白してあげるなんて言えばラバさんこうするしかないじゃない、ファル、本当に困った娘ね!
「・・・この話はこのくらいにして今は仕事に専念しよう」
「わかりました、ラバさん」
自分がへこんでいるのに私達に気遣いをしてくれるラバさんはやっぱりすごい人だと感心するエアであった。
「じゃあ、周囲を確認してと・・・」
ラバの右手のグローブがキュルキュルと音を出しながら動きだした、その様子をルナはジーと見ている。
「なんだい?」
「ラバさんの帝具いつ見ても面白いと思いまして」
「そうだろう、そうだろう、こいつはなかなか興の深い代物なんだぜ」
へこんでいたのに、コロッと機嫌を直す、案外単純だなと思うルナであった。
「前から気になっていたのですが、どういういきさつで手に入れたのですか?」
「いきさつ?」
「私達の帝具は骨董屋で手に入れましたけど、ラバさんはどういういきさつだったのですか?」
「ああ、これは譲り受けたんだ」
「誰からです?」
「キョウジさんから」
「キョウジさんですか?」
キョウジ、白髪の細身の男性で独特の話し方をする革命軍の情報部長である。
「キョウジさんがどうやって手に入れたのかは知らないけど、遥か西の地からやってきてプライム総大将のところへ訪れた時にはすでに所有してたんだ」
「いつ頃ですか?」
「それも詳しくは知らないけど、レジスタンスを結成するだいぶ前のことだけは確かだよ」
「そうなんですか」
「ちなみにハクロウさんとジャドのおっさんも同じ時期に出会ったんだよ」
「ジャドさんも?」
「ああ、どういういきさつかは本人から聞いてくれ」
ジャドさんってそんな昔からいたんだ、興味あるけど教えてくれるかな・・・
「ラバさん、譲り受けの話・・・」
「ああ、そうだった、キョウジさんが任務で重傷を負って帝具を継承させることになったんだ」
「そこでラバさんが受け継いだのですね」
「いや、選抜することになった」
「その選抜をラバさんが勝ち抜いたんですね」
「まあね」
ラバはその選抜戦のいきさつを語り始めた・・・
ラバは走っていた、息が上がり汗まみれになって必死に走っていた、この走り込みが第一の試練であった。
「それじゃあ、僕がええと言うまで皆に走ってもらうで」
そうして数時間が経過した、最初には数百人いた志願者もどんどん脱落して百をきっていた、辺りには体力が尽きて倒れ込んでいる男だらけである。
・・・いつまで走るんだ?このままじゃやばい・・・
走っているラバの前にへばって倒れている数人の男がいた、彼らは開始前にラバを馬鹿にしていた男達であった。
・・・だらしねえな、大口叩きやがって、俺はこいつらみたいにならねえ・・・
ラバは力を振り絞り走った、いつ終わるのかという不安を感じながら・・・
さらに数時間が経過した、脱落者も増え続けて走っているのは20人に満たない、その中にラバは残っていた
や、やべえ・・・息が・・・足も、うご・・・
フラフラになりながらも走ってきたラバであったが限界に達しようとしていた。
もう、リタイアしても、いいかな・・・俺にしては頑張ったかな・・・
リタイアを決意しかけた瞬間、ある人物の顔が脳裏に浮かんだ、それはラバが
想い続けてきた女性、ナジェンダの顔であった。
ダメだ、リタイアするわけにはいかねえ!!ナジェンダさんの力になるって決めたんだ、そのためには帝具がいるんだ、何が何でも手に入れるんだ!!
ラバは汗まみれのシャツを脱ぎ捨ててがむしゃらに走りだした、今までにない速度で
なりふり構わなきゃまだまだいけるぜ、いざとなったらフルチンになってでも走ってやる!!
第一の試練は終わりの気配を見せることなくさらに続くのであった。