地方都市を斬る(前編)
8月10日
私達は今帝都から南方にある都市にいた、なぜ南方の都市にいるのかというと私達ナイトレイドが本部から召集されたからである、何故召集されたのか心当たりがあった、先月チームカプコーンの暴走を阻止するという任務を果たせなかったからである、だけどそれはボスに責任はないはずである、彼らが勝手に暴走してエスデス達にやられたんだから、とにかく本部に到着しなくては始まらない。
「ここには私達の手配書回ってないのよね」
「ああ、この都市は革命軍の息がかかっているからね」
「よく帝国に潰されずにいるわね」
「この都市が潰されると南方の交易に支障が出るからね、それに革命軍との関係は表沙汰にはなってないからね」
「でも帝国ならそんなの関係ないんじゃないの?」
「そこは金でなんとかなるんだよ、地獄の沙汰もってやつさ」
ラバは指でお金のしるしをした、なるほど・・・お金は天下の回りものとは言ったものだ。
「お前達、あんまりはしゃぐなよ、この都市にも帝国兵はいるんだからな」
確かに・・・時々帝国兵を見かける、けどあまりやる気がないように見える。
「帝都から離れているからね、まあ、地方軍のていたらくは今に始まったわけじゃない」
上が腐ると下も腐っていくのも当然ね・・・これじゃあ盗賊がのさばるのも当然だ・・・
「まあ、ここはまだマシな方だよ、盗賊の被害はかなり少ないから」
「えっ?ラバ今地方軍がだらし無いって言わなかったっけ?」
地方軍がだらし無いのになんで盗賊の被害が少ないの?どういうこと・・・
「盗賊を退治してるのは地方軍じゃないよ、革命軍の兵士だよ、むろん秘密裏にだけど」
「そうなんだ」
「それも密約に入ってるんだよ」
どうりで・・・帝都に比べて少し活気があると思った、少しだけだけど・・・
私達はこの都市にあるアジトに向かっている途中である、ここは帝都ではないが帝国兵がいる以上気は抜けない、繁華街の裏道を歩いていると前方に三人の人影が見えた、一瞬帝国兵かと思ったけどその三人は革命軍の軍服を着ていた、味方である。
「お久しぶりです、隊長」
三人の内の一人が話かけてきた、隊長?どういうことだろう?
「私はもうお前達の隊長ではないぞ」
「いえ、俺達にとってはナジェンダ隊長は俺達の隊長です」
ボスの知り合い?隊長ってもしかして・・・
「あのボス、この人達はもしかして・・・」
「ああ、この二人は私が将軍だった頃の部下だ」
やっぱり、ボスは帝国を抜ける時ボスの部隊も一緒に帝国を抜けたのであったから。
「紹介しておこう、隻眼の男がレッド、隣にいる大男はトレイルだ」
「レッドだよろしく頼む」
「・・・」
トレイルは無言で頭を下げて礼をした。
「すまないな、こいつはノドに傷を受けたせいでしゃべれないんだ、まあ、もともと無口な奴だったがな」
傷?そういえばボスとボスの部隊はエスデスの追撃によって甚大な被害を受けたんだっけ・・・
「あの時からずいぶん時が経ったな・・・」
「はい・・・」
「・・・」
三人は昔を思い出している・・・
ナジェンダはバン族の反乱を鎮圧してからずっと思い詰めていた、レッドとトレイルもそれを気にしていた。
「隊長、帝都に帰還してからずっとああだな」
トレイルは無言で頷いた、二人にはナジェンダの気持ちがわかったからである。
「まあ、あんな惨状見せつけられたら当然だな」
彼らもエスデス軍の非道を目の当たりにしたのである、憤りを感じずにはいられなかった、だが軽はずみな行動はできなかった、隊長であるナジェンダに迷惑がかかるから、それから月日が経ってナジェンダの部隊に山賊の討伐の命令が下された、二人はやきもきした気持ちを抑えて任務に集中することにした。
「もうすぐファーム山だな」
トレイルは無言で頷く。
「確かこの山は反乱軍の前線基地だったな」
反乱軍・・・最初は小さな抵抗集団だったがこの数年で大きく勢力を伸ばしているのだ、反乱軍は帝国の統治に反感を抱き決起したのだが、正直少し気持ちは理解できる、バン族の惨劇を見てしまった後では・・・
「いかん、いかん、今は任務に集中しないと・・・」
俺は帝国軍人でナジェンダ隊長の部下なのだ、俺が勝手なマネをすると隊長に迷惑がかかる・・・レッドは気を引き締めることにした、しばらくしてナジェンダがファーム山の前に布陣し終えた、ナジェンダの顔に覚悟が満ちていた。
「おい、隊長の様子おかしくないか?」
「?」
トレイルは無言で首を傾げた、レッドも同じ気持ちである、ナジェンダは深呼吸をして自分の決心を宣言した。
「真に討つべき敵は悪政で民を苦しめる奸臣達だ!!私はこれより革命軍に身を投じ民が安らかに暮らせる国を作る!!激しい戦いになるだろう、だから私は強制はしない、去る者も追わない!!それでも私についてきてくれる者がいたら力を貸してほしい!!」
ナジェンダが宣言し終えた瞬間、全員が賛同の咆哮をした。
「オオオオオ!!」
普段から無口のトレイルもこの時は腹のそこから雄叫びをあげた。
「隊長、俺達はどこまでもあなたについて行きますぜ!!」
レッドも今の帝国に嫌気がさしていたのである、隊長とともに国を作る、レッドの心はその思いに高揚していた。
「では出発するぞ!!」
ナジェンダはファーム山にいた兵と合流し革命軍本部に向けて進軍を開始した、すぐにでも帝国の追撃部隊が来るであろうから。
「隊長、後ろから何者かが追って来ます!!」
「来たか、思ったより早かったな」
ナジェンダは部隊に戦闘態勢をとらせた、だが、追っ手は一人だった、ナジェンダは目を凝らして見るとその者に見覚えがあった、それは・・・
「ナジェンダさん!!」
「ラバ!?なぜここに・・・ロクゴウ将軍に手紙を渡すよう指示していたはずだぞ!?」
ナジェンダはとても驚いた、ラバが北方にいるロクゴウの元へ向かったのを見届けたのであるから。
「すいません、けど最近のナジェンダさん様子がおかしかったから・・・でもこの手紙ではっきりしました」
その手紙の内容はラバが自分の帝国の離脱とは関係がないということとラバをロクゴウの部下として仕えさせてほしいというものであった。
「今すぐ戻れ!!」
「それだけは聞けません、俺もついて行きます!!」
「わかっているのか!?私達は反逆者だぞ、私達と共にいればお前も罪に問われるのだぞ!」
「心配ご無用です、出発する前に公文書を改ざんして俺は死んだことにしておきました」
「な、なんてことを・・・もうお前は家族に会うことはできなくなったのだぞ!!」
「・・・俺も帝国にはうんざりしたんです、もう潮時だと」
「・・・言っておくが命の保障はないぞ」
「覚悟の上です!!」
「・・・好きにしろ」
ナジェンダはそっけない態度をとったが口元は微かに笑みが浮かんでいた、ナジェンダは部隊に進軍を命じ前進した、途中で地方軍が現れたがあっさりとあしらってさらに前進した。
「隊長、そろそろ誰かを革命軍の本部へ使者を送ってみては?」
「そうだな、ラバ、お前が行ってくれ」
「わかりました」
ラバは単身で早馬に乗って本部へ走り抜けて行った、ナジェンダはもうすぐ本部に到着できると安堵し進軍を開始した、ナジェンダに心の緩みがなかったわけではなかった、実際この一帯には名だたる将軍は駐留していなかったから、だがナジェンダは後悔することになる、エスデス軍が常識外れの速度で進軍してナジェンダの目の前に現れたからである。
まずい・・・備えもなくエスデスにぶつかるのは・・・
動揺するナジェンダに副官は交戦を意見具申した、だがエスデスによって首を飛ばされてしまったのである。
エスデスは無数の氷の矢を放った、ナジェンダもパンプキンで迎撃する、だがあまりの苛烈な攻撃にナジェンダは右目を潰された。
「隊長!!」
レッドとトレイルは他の兵と共にナジェンダの救援に向かった、だがエスデスの放った氷の矢にレッドは左目を潰され、トレイルは咽を貫かれ、他の兵も身体を撃ち抜かれた。
「隊長・・・」
レッドは力を振り絞りナジェンダの救援に向かおうとした、だがナジェンダがエスデスに右腕を砕かれるのをただ目の当たりにすることしかできなかった。
その瞬間南方から部隊が進軍してきた、革命軍の部隊が駆けつけてくれたのであった。
エスデスは革命軍の部隊を見るとすぐさま口笛を吹いて撤退していった、エスデス軍は強行して進軍したため疲弊して連戦はキツイと判断したと思われる、もっとも後日の戦いを楽しむためにわざととどめを刺さなかった可能性もあったのである。
「隊長・・・」
レッドは深手を負ったナジェンダの元へ駆け寄った、ナジェンダは虫の息であった。
「被害は・・・」
「詳細はわかりません・・・かなりやられたでしょう」
「・・・すまん、私の責任だ・・・」
「死んでいった連中はこうなるのを覚悟で隊長について来たんです、誰も隊長を恨んでいませんよ・・・」
「・・・」
ナジェンダの意識は出血によりもうろうとしていた、その後革命軍の衛生兵の治療でなんとか一命を取り留めたのであった。
「ボス、どうしたんですか?」
「いや、別に何でもない」
サヨの言葉でナジェンダ達は回想から現実に戻された、三人にとっても忘れなれない過去である。
「ひとまずこの都市のアジトへ向かうぞ、そこで休息をとる」
一同はアジトへ足を運んだ、その中でナジェンダは・・・
・・・どうあれ私は生き残った・・・最後の最後で私は勝ってみせる!!
ナジェンダは心の中で雪辱を誓ったのであった。
今回はナジェンダの過去を少し書きました、ナジェンダの元部下も革命軍にいると思い登場させました、次回はあるキャラの過去を書いてみるつもりです、これからも応援お願いします。