三匹を斬る(後編)
5月6日
マインとラバは寒村を救済しようとしている文官の護衛に来ていた、マイン達は村の外にある林に待機している。
「さすが良識派、これで当分はしのげるだろう」
ラバは文官が村民に米を配給しているのを見て感心している。
「・・・」
マインは仏頂面で無言であった。
「なあ、いらいらするのよしなよ」
「いらいらしてないわよ!!」
マインはラバを怒鳴り散らしている。
「(全然いらいらしてるんだけど、まあ、無理ないか)」
ラバは出発する前のことを思い出していた。
ナジェンダの部屋でマインがナジェンダと口論している。
「だからって、ボス!!」
マインはナジェンダに噛み付いている、シェーレと別々にされたことに不満であったから。
「今説明した通りだ」
ナジェンダの説明はサヨとシェーレを組ませたのはエクスタスの奥の手で敵の目をくらませている間に村雨で切り付ける作戦を試すためということである。
「仕方ないだろ村雨の戦略の幅を広めなくてはならんからな」
「でも・・・」
マインは納得できないでいる。
「とにかく、これは命令だ従ってもらうぞ」
「・・・それはボスとしての命令? ナジェンダ」
マインは不満そうにナジェンダを睨みつけている。
「ああ、そうだ、ナイトレイドのボスとしての命令だ」
ナジェンダはマインが呼び捨てにしたことを無視している。
「わかったわよ・・・」
マインは渋々承諾して、部屋から出ていった、するとすぐにラバは入ってきた。
「・・・マインちゃんすごい剣幕でしたよ」
「まあ、そうだろうな」
「村雨とエクスタスの組み合わせ面白いと思いますけど・・・」
ラバはいまひとつすっきりしないようであった。
「お前も反対か」
「いえ、そんなことは」
ラバは慌てて否定した。
「まあ、そう思うのも無理はないな、サヨとシェーレを組ませたのはそれだけが目的ではないからな」
「どういうことです?」
「今からいうことはマインに知らせるなよ」
「は、はい」
「マインは爆発力はあるがその反面隙も多い、だからこそパンプキンの所有者に適任だがな」
「確かに」
「今あいつはこないだの一件を気にして不調だからな、あいつは否定してるが」
「それがマインちゃんですよ」
「そこで支援に適したお前と組ませることにしたのだ、ストレートに言ってもあいつはますますむきになるからな」
「マインちゃんは負けず嫌いですからね」
「そこでサヨのフォローにシェーレをつければ、自然な流れでお前とマインを組ませることができるからな」
「ナイスアイデアですね」
「マインのフォローを頼んだぞ、お前の柔軟な思考に期待する」
「まかせてください、期待に応えてみせます!」
ラバは力強く返答した。
いらいらしているマインを見てラバは。
「・・・今のマインちゃんじゃシェーレさんの命が1ダースあっても足りやしないな、ナジェンダさんの判断は大正解だったってわけだな」
すると突然ラバの帝具に動きがあった。
「反応あり、近くまで来ている」
「待ってたわよ、かかって来なさい」
マインは意気込んでいる、だがラバは首を傾げている。
「どうしたの」
「うん、糸の反応が一人だけなんだ」
「一人?敵は三獣士でしょ、つまり三人に決まってるじゃない」
「そのはずなんだが、もうすぐ目視できる所まで来る」
「ラバがびびって勘違いしたんでしょ」
「(反応だと確かに一人なんだよな、どうなってんだ?)」
二人が話をしている間に一人の大男が姿を見せた。
「やっぱり一人だ」
「一体どうなっているの?」
マインは想定外のことに目を点にしている。
「おそらくアカメちゃんがいなくなったナイトレイドなら一人で十分だと思ったんだろう」
「!?」
「だけどチャンスだ一人だけなら俺達二人で・・・」
「・・・ふざけるんじゃないわよ!!」
マインは激怒して帝具を構えた、ラバは止めようとするもそれを振りきって帝具を発砲した、射撃は大男に向かっていく、だが大男は素早く身をかわした。
「外れた!?」
マインはさらに連射するも、ことごとくかわされた。
「なんで当たらないのよ」
マインはますますいらついている、すると大男は背中に背負っていた斧をマイン達がいる林へ投げつけた、斧は次々と木を切り倒していく、ついにマイン達が登っていた木も切り倒された、二人は空中で態勢を立て直し着地した。
「なんて馬鹿力だ、林が・・・」
周りは切り倒された木で一杯だった、すると、大男が現れた。
「生きていたか、まあ、これで終わったら経験値が稼げねえからな、俺は三獣士のダイダラだ、まあ、お前らはじき死ぬが一応紹介しておくぜ」
「なんですって」
マインはダイダラの態度に激怒した。
「今日の俺は絶好調だぜ、なにしろお前の気をビンビンに感じたからな」
「何をわけのわから・・・」
マインは自分のいらいらが敵に悟られたことを気づいた。
「なんてことなのアタシとしたことがこんな失態を・・・」
マインは歯ぎしりをして悔しがっている、するとラバは。
「他の二人はどうした、まさかお前一人ってことはないだろ」
ラバはおおかたの状況を推測しているが確実な裏を取りたかった、こいつならポロッとしゃべりそうと思った。
「ああ、それはな・・・・・・・・・・・・・忘れちまったぜ」
ダイダラはすっかり忘れてしまっていた。
「はあ、なんだよそれ」
ラバは思わずツッコミをいれた。
「しょうがねえだろ、忘れちまったんだから、モメたのは少し覚えているんだがよ」
「(モメた?つまり、三手に分けようとした奴と反対した奴がいるということだ、こいつはどっちでもないな)」
ラバは冷静に分析している、するとダイダラは斧を二つに分けた。
「さっさと始めようぜ」
ダイダラはダッシュして突撃してくる。
「くっ、今は考えている場合じゃないな」
ラバは迎撃態勢を整えた、するとダイダラは二つに分けた斧の一つを投げつけた。
「危ねえ!」
ラバはなんとか回避した、ダイダラはもう一つの斧でラバを切りつけようとしていた、ラバは糸を束ねて網を造りだし動きを封じようとした。
ドッ!!
ラバが突然前へ倒れ込んだ、ラバの背中には最初に投げつけた斧が刺さっていた、この帝具はベルヴァーク、投げると勢いが続く限り敵を追尾することができるのである。
「!?」
マインは何が起こったのかわからなかった、目の前には背中に斧が刺さってピクリとも動かないラバが・・・
「ラバ・・・?」
マインは目の前の出来事を理解し始めた。
「う、嘘でしょ、ラバ」
ラバの返事はなかった、ダイダラはラバの背中に刺さった斧を持ち上げた、斧には血がべっとり付いていた。
「へへ、この経験値がさらに俺を強くするぜ」
ダイダラは大きく笑みを浮かべた。
「よくもラバを・・・」
マインはパンプキンを連射した、だが、怒りにまかせて連射しているのでことごとくかわされていく。
「面白くなってきたぜ」
ダイダラは巨体とは思えぬほどの身のこなしである。
「この、この、この!!」
マインはますます冷静さを失っていった、するとダイダラは帝具を投げようと大きく振りかぶった。
「来なさい、打ち落としてやる」
ダイダラは投げつけた、マインはパンプキンを構える、しかし、斧は真上に舞い上がっている。
「!?」
マインはふわりと舞い上がった斧を見て一瞬思考が停止した、その瞬間ダイダラは猛ダッシュした。
「しまった、フェイント!?」
マインが判断したときダイダラの蹴りがマインの左腕に直撃した。
ボギィ!!
「あああああ!!」
骨が折れる鈍い音とともにマインは吹っ飛んだ、マインの顔は激痛で歪んでいる、ダイダラは大笑いしている。
「このフェイントでさらに経験値アップだぜ」
倒れたマインは自分自身の醜態に怒り心頭している。
「なんてザマなの、勝手にいらついて敵を仕留められず、あげくにラバを・・」
マインはアカメが死んだ日のことも思い出していた。
「・・・わかってるわよ、アタシのしたことが殺し屋として言語道断だということも、殺し屋である以上いつかアタシ達の誰かが死ぬということも」
マインはあの日のことを引きずってしまい、今の窮地を招いてしまった、それでも心は折れずにいた。
「さて、あいつを竹のように真っ二つにぶった切って締めくくるか」
ダイダラは勝ちを確信している、それを見てマインは激怒した。
「ざけんじゃないわよ、まだアタシは負けてないわよ」
マインはパンプキンに意識を集中する、パンプキンの出力が上がっていく。
「こりゃすげえぜ、もろに食らったら死ぬな、だが、だからこそ経験値ががっぽりはいるぜ」
ダイダラは突撃していく、マインは撃てなかった、撃ってもかわされると判断したから。
「一瞬でいい、一瞬でも動きが止まれば・・・」
マインが躊躇している間にダイダラは大きく斧を振りかぶった、その時、ダイダラの動きが止まった、何かに動きが封じられたようにも見えた。
「いっけえええええ!!」
パンプキンから高出力の光線が放出された、ダイダラの体が真っ二つになった。
「な、なにが起こった・・・」
ダイダラは自分に何が起こったのかわからないまま絶命した。
「ハア、ハア、ハア・・・」
マインは体力を絞りだして疲労困ぱいである。
「勝った、でも、アタシのせいでラバが・・・」
マインが落ち込んでいるとどこからか声が聞こえてくる。
「おーい」
「アカメに続いてラバが」
「ちょっとー」
マインは声のする方に向いた、するとラバがいた。
「わあああああ!!!化けてでたわねラバあああ!!!」
マインは大泣きして叫んだ。
「死んでない、死んでない、ちゃんと生きてるよ」
ラバはピンピンしていた。
「な、なんで生きてるの、アンタ斧が背中に刺さったじゃない」
「体に糸巻いていたから」
「でも、あの斧を糸で耐えられるの?」
「通常の糸じゃだめだったよ、界断糸の糸を巻いていたから」
「かいだんし?」
「ああ、クローステールの素材となった超級危険種の急所を守る体毛でできてるんだよ、段違いに頑丈なんだよ」
ラバの説明が終わるとマインは怒りで真っ赤になっていく。
「生きてるんなら、さっさと助けなさいよ、腕折れちゃったじゃない!」
マインの怒りにラバはうろたえている。
「しょうがないだろ、あいつ、頭悪そうなのに全然隙なかったんだから、ワンチャンスに賭けたんだよ」
「確かにね・・・」
「にしても三獣士、一人だけでもすげえ強かったな、三人揃っていたらマジでやばかったな」
「そうね・・・」
マインにいつもの強気がない、この状況を招いたことにへこんでいる。
「にしてもナジェンダさんの不安的中だな」
ラバはついポロッとこぼした。
「何?」
「え、別に・・・」
ラバはごまかそうとするがマインの迫力に白状してしまった。
「・・・ナジェンダの奴」
マインはムッとしたが予想が的中したので怒りをあらわにしなかった。
「ナジェンダさんはマインちゃんに配慮したんだよ」
「まあ、今回は大目に見てあげるわ」
いつものマインに戻った。
「まあ、とにかく任務完了よ、ラバ、アンタはその帝具を運んで」
「え、俺一人で?」
「当然でしょ、アタシ腕折れてんだから」
「こ、この斧すごく重そうなんだけど」
ラバは突然の言い付けに慌てている。
「じゃあ、まかせたわよ」
マインはさっさと歩きだした。
「ちょっとー!!」
ラバの叫び声が周囲に鳴り響いた。
なんとか三獣士編を書き終えました、バトルシーンを小説に書くのは本当に難しいです、次回はあのキャラが登場します、お楽しみに。