サヨが斬る!   作:ウィワクシア

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第百二十話

糸を斬る(中編)

 

 

 

メラミは目の前のスーツの男を分析していた、間違いなく今までに戦ってきた者達よりもはるかに強い、おそらく自分よりも強い、逃げるのが得策だが簡単には逃げられそうにないだろう。

 

 

 

「覚悟しな悪共!」

 

 

男の言葉にメラミは面白くないものを感じた、確かに自分は正義などではない、今までに食うために畑から野菜とかを盗んだこともあるし、襲ってきた盗賊などを返り討ちにして殺したこともあったのである。

 

 

「確かに私達は正義じゃないよ、でもあなたが正義とは限らないでしょ?」

 

「何言ってやがる、お前らは国を乱そうとしただろう、それを悪と呼ばずなんて言う?」

 

 

···コイツ、この帝国が今どういう有り様なのか知らないんでしょうね、まあ、そのこと言っても絶対信じないよね。

 

 

「そういうことだからさっさと俺に倒されやがれ」

 

「そんな義務一切ないよ、だから抗うことにするから」

 

「好きにしな、どうせ俺が勝つに決まってるからな」

 

 

メラミと男は瞬時に戦闘態勢をとった、そのまま激しい戦闘になるかと思いきや二人はお互いにらみ合って動かずにいた。

 

 

「···どうしたの?」

 

 

キャスカは動かないメラミに質問した、なぜ動かないのかキャスカも薄々感づいていた。

 

 

この男はすごく強い、だがうかつに動けない理由は他にもあったのだ、それは男のスーツであった。

 

 

 

突然洞窟の奥から現れた、明らかに人間業ではない、間違いなくスーツの能力であろう。

 

 

 

コイツのスーツ、もしかしたら帝具かな?もし帝具ならかなりまずい、なんとか確認しないと。

 

 

 

「そのスーツ、もしかして帝具?」

 

「さぁ、どうかな」

 

「じゃあ、臣具?」

 

「そ、そんなことどうでもいいだろ」

 

 

臣具と言われて少し動揺した、間違いないこのスーツ臣具だ、臣具は帝具よりも制限が多くてムラがあるのよね、おそらく能力は乱用しにくい、一気にかたをつける。

 

 

メラミは猛ダッシュで男の右側面に回り込んだ、狙うのは右脇腹である、そこは人間の急所の一つであり、防御が困難な場所であった、打ち合いになれば圧倒的に不利であり、一撃で大ダメージを負わせる戦法をとったのである。

 

 

全身全霊で撃ち込む、一撃で仕留められるかは微妙だけど···

 

 

メラミは左腕を振り上げて男の右脇腹に狙いをつけて思いっきり拳打を入れようとした、だが男はとっさに右拳を振りかざしてメラミの拳打を防いだのである。

 

 

 

「ツッ!!」

 

 

メラミの左の拳の皮膚が破けて血が飛び散った、左拳に激痛が走りグーパーをして骨折していないか確かめた。

 

 

すごく痛いけど骨折はしていないわね、けど左手は使えないわね···

 

 

 

ただでさえ体格で負けているのに左腕が使えなければ勝ち目はほぼない、それにあのスーツの能力も全くわかっていない、何か手を打たないと···

 

 

「ねぇ、全力の一発勝負しない?」

 

「ああ?」

 

「私とあなたでそれぞれ渾身の一撃で勝負をつけようって言ってるのよ」

 

「なんで俺がそんなモン受けなきゃならねぇんだ」

 

 

そんなもの受ける義務なんて微塵もねぇ、何を言い出すんだコイツ···

 

 

 

「怖いの?」

 

「ああ!?」

 

「あなた腕っぷしは強いけどものすごく打たれ弱いんじゃないの?」

 

「バカを言え、そんなわけねぇだろ」

 

「無理することないよ、打たれ弱いって知られるの恥ずかしいから受けたくないんでしょ?」

 

「んなわけねぇって言ってるだろ!!」

 

「可哀想ね、図体だけでかいひ弱君なんてとんだ笑いものだからね」

 

「···いいぜ、お前の提案受けてやるよ」

 

 

男は明らかに激怒しており大爆発寸前であった、さんざんひ弱呼ばわりされたのだから当然であった。

 

 

「ホント?じゃあさっそくやろうか?」

 

 

二人は渾身の一撃を繰り出すために精神を集中している、そのさまを見てキャスカは不安そうにメラミに話しかけた。

 

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

「大丈夫って?」

 

「あなたアイツに勝てるの?」

 

 

キャスカは正直に言ってあの大男にメラミが勝てるとは思えなかった、力勝負では圧倒的にあの男の方が優勢である、素早さもあの巨体で考えられないほど高いのである。

 

 

「やるだけやってみるわ」

 

 

メラミには一つだけ打つ手があった、だがあの男が思惑通りに動いてくれるかわからない、それでも動かなくては活路は見い出せないから。

 

 

 

男はブンブン腕を振り回しながら笑みを浮かべている、渾身の一撃を繰り出すために気合を入れている。

 

 

「度肝を抜かせてやるぜ」

 

 

その様子を見て男が小細工せず真っ向勝負に挑んでくる可能性が高いとメラミは予想した、これならなんとかなる、あとはタイミングさえずれなければうまくいく、腹をくくって勝負に挑むことにした。

 

 

「行くわよ」

 

「来いや!」

 

 

二人はダッシュで駆け出し右腕を思いっきり振りかざして同時に拳打を打ち込んだ···打ち込んだに見えたがメラミは瞬時に腕を引っ込めてその場にしゃがみ込み男に背を向けて両手で男の右腕を掴みそのまま一本背負いで男を投げ飛ばしたのである。

 

 

「うおおお!!?」

 

 

男は今自分に何が起こったのかわからず何もできなかった、そしてそのまま洞窟の壁に激しく激突し崩れ落ちた石に埋もれてしまったのである。

 

「···すごい」

 

あの大男を小さい体で投げ飛ばすなんてこの娘本当にすごい···

 

 

「ちょっとあなたぼさっとしない」

 

「え?」

 

「あいつが埋もれているうちに逃げるよ」

 

「う、うん」

 

 

メラミとキャスカは駆け足で洞窟から逃げ出した、あれであの男が倒れるとは思えない、すぐに起き上がり仕留めにくるだろう、出来る限り距離を離さなければならない。

 

 

「もっと速く走って」

 

「う、うん」

 

 

そう返事したキャスカだったがメラミの足はかなり速くついていくのがやっとであった、それでも走るしかなかった。

 

 

「このままこの一帯から逃げるよ」

 

「え?でも···」

 

 

指定されたエリアから離れたら問答無用で殺す、そう通告されていたのである、キャスカはそのことを思い出しにげることを一瞬躊躇した。

 

 

 

「あいつ等は最初から約束なんて守る気なんてないよ」

 

「えっ!?」

 

「無罪放免というエサをちらつかせてあなた達にその気にさせて体の良い練習台にしたのよ、あなたも薄々連中が約束を守るのか不安に感じていたのでしょう?」

 

「···」

 

メラミのいう通り約束を守るのか不安はあった、だが他に選択の余地がないので約束を守ると信じたかったのである。

 

 

「で、でもここを逃げ切れてもいつかどこかで捕まってしまうよ!」

 

 

取り決めを破って逃げ出したら帝国全土に手配される、そうなったらもうお手上げになってしまう、常に追われる不安とともに生きていかなくなってしまう。

 

 

「そんな心配は今逃げ切ってからしたらいい」

 

「そんなアバウトな···」

 

 

 

だが実際メラミの言う通り今は逃げることに専念しなくてはならない、死んだらそこで終わりである。

 

 

 

 

「わかった、わかったわよ、腹をくくるよ、このまま全力で逃げるよ!!」

 

「そう、その意気よ」

 

 

正直に言ってすごく怖い、だけどこのまま足掻かずに死ぬのは絶対嫌だ、どれだけ格好悪くてもジタバタしなければ後悔する。

 

 

 

「私、走りながら糸仕掛けるね、何もしないよりはマシだと思うけど」

 

「やってちょうだい」

 

 

キャスカは糸の罠をそこらに仕掛けまくった、あの大男に有効とは思えない、それでも1秒でも足止めできればもうけたものである。

 

 

二人は走った、とにかく走った、男に追いつかれる前にこの地から逃げ切らなければならないのである、もし追いつかれたら勝ち目は極めて低いであろう、すると目の前に崖が見えた。

 

 

 

「あの崖の向こうがエリア外だよ」

 

 

···エリア外と言われても向こう側までかなり距離があり、とても飛んでいける距離じゃない、別のところ探さないと、ん?あれ、あれは···

 

 

メラミは前方に人影を見つけた、それも見覚えのある人影を、それはさっきまで洞窟で戦っていた男であった。

 

 

 

「なんであいつが!?後ろから追ってする気配は感じなかったのに」

 

 

全力で逃げつつも常に後ろを警戒していた、確かに後ろから気配を感じなかった、それなのに突然前方に現れた、おそらくスーツの能力であろう、瞬間移動の能力を持っているのだろうか?

 

 

 

「ど、ど、どうしよう?」

 

 

キャスカは恐怖に引きつった顔でメラミを見つめた、あの男に対抗できるのはメラミしかいないからである。

 

 

「どうしようって言っても···」

 

 

投げ飛ばせたのも完全に不意をついたからできたわけでもうあの手は使えない、真っ向勝負になったらはっきり言ってほとんど勝ち目はない、かと言ってすんなり逃がしてくれるわけがない。

 

 

 

「どうしたものかな···」

 

 

はっきり言って打つ手はない、それでも何もしなければ死ぬだけだ、メラミは腹をくくることにした。

 

 

一方男の方もメラミ達の姿を確認した、真っ向勝負と言いながら姑息な手を使った女に怒り心頭であった、必ずリベンジをする、男の頭にはそれしかなかった、元々思慮が浅い人間であるが。

 

 

 

「来やがれ、クソチビが、ひねりつぶしてやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 


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