サヨが斬る!   作:ウィワクシア

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第百十六話

おせっかいを斬る

 

 

「とんでもないところね、ここ」

 

 

 

 

小さい時に時に親に捨てられて施設に送られて、その施設もろくでもないところでとても苦労して突然帝国の組織と名乗る連中に売られて有無を言わさず連行されてたどりついたのがこの大秘境なのよね、ホント私の人生ろくでもないわね。

 

 

 

 

「指示されたところまで行けって言ってたけど···」

 

 

 

簡単に行ってくれるわね、ここは右も左もわからない大秘境、凶暴な危険種がウヨウヨしている、大人でもあっさり死んでしまう危険地帯、まして子供ならなおさらよ、アイツらまともじゃないわね。

 

 

 

「とにかく今は動かないと」

 

 

 

このまま何もしなければ危険種のエサになってしまう、ゴールへただ進むのみ。

 

 

 

 

全速力で走った、ただ走るだけでなく注意深く辺りを観察して大丈夫だとわかったら全速力で駆け抜けた、途中で何人もの歳が近い子供と遭遇した、間違いなく連中に買われた子供達である、だがその子供達は次々と危険種に襲われて命を落としていった、その光景を見て憤りを感じたが自分の身を守ることで手一杯でただ見てるだけしかできなかった。

 

 

 

「全く、いつまで続くのやら」

 

 

 

見殺しにして全速力で逃げる、最初は後ろめたさを感じた、だが何回かそれを繰り返すうちに次第に薄れていったのである。

 

 

 

「ゴールまであとどれくらいかな」

 

 

進んでいくうちにまた別の子供を見かけた、それは二人の少女であった、この二人は顔が似ている、おそらく姉妹だろう、彼女達はたった今多数の危険種に襲われている最中であった。

 

 

「私から離れるな!!」

 

「うん、お姉ちゃん!!」

 

 

姉と思われる少女が妹をかばって危険種から守っている、多数の危険種に迫られても全く怯むことなく一体、また一体と仕留めていく、彼女はかなり強いことは一目瞭然であった。

 

 

 

「強いわね、でも···」

 

 

いくら強いといってもまだ子供である、体力も多いわけがない、徐々ではあるが動きが鈍くなってきている、このままでは力尽きるのも時間の問題である。

 

 

 

「そろそろ離れないと私も危ないわね」

 

 

あの姉妹がやられたら次は自分が襲われるであろう、その前に立ち去ろう、これまでに何人もの子供を見殺しにしてきたのである、今回も自分が生き残るために誰かを見殺しにする、それは間違いではない、ここはそういうところなのである、そのはずである。

 

 

「···」

 

 

 

なぜか足が動かない、なぜ足が動かないのかわからない、もしかして自分はあの姉妹を見殺しにしたくないのであろうか、さんざん何人も見殺しにしておいてあの姉妹を見殺しにしたくないというのはまさに偽善である、それでもあの姉妹を見殺しにするのは何かスッキリしないのである。

 

 

 

「···仕方ないわね」

 

 

腹をくくって姉妹の元へ駆け出した、姉の背後を襲おうとした危険種に飛び蹴りをくらわしてぶっ飛ばしたのであった。

 

 

 

「お前は!?」

 

 

とても驚いた様子であった、まさか誰かが助けてくれるなんて思っていなかったのであったから。

 

 

「質問はあと、こいつらを蹴散らすよ」

 

「わかった」

 

 

 

そう答えた姉であったが正直不安はあった、だがこのままでは体力が尽きて確実にやられてしまう、そうなったら妹も守ることができない、覚悟を決めて彼女を信じることにしたのである。

 

 

 

彼女が乱入したことで形勢は完全に逆転した、二人から三人になったことで負担は大幅に減ったのである、あっという間に数を減らした危険種の群れはおそれをなして逃げ去ったのであった。

 

 

 

 

「なんとかなったわね」

 

「···ああ」

 

 

姉は肩で息をしながらなんとか返事をした、妹の方はそんな余裕はなく力尽き寝そべってただ荒く呼吸するしかなかったのである。

 

 

「助かった、感謝する」

 

 

「気にすることないよ、ただの趣味、おせっかいみたいなものだから」

 

「それでも構わない、本当に助かった」

 

 

理由がどうあれ本当に危なかったのである、もし助けがなかったら確実に二人共死んでいたはずであるから。

 

 

 

「···あの、ありがとう」

 

 

 

姉の後ろから怖がりながら妹がお礼を言った、なんか可愛いなと思った。

 

 

「こら、礼を言うならはっきり礼を言うんだ」

 

「ご、ごめん、お姉ちゃん」

 

 

姉に叱られて妹が前へ出て背すじを伸ばして大声でお礼を言った。

 

 

「助けてくれてありがとう」

 

「どうも」

 

 

殺伐とした血なまぐさい密林であるのだが一瞬ほのぼのとした雰囲気を感じた、だがいつまでものんびりとしているわけにはいかなかった。

 

 

「とりあえずここから離れない?他の危険種がやってくるかもしれないから」

 

「そうだな」

 

 

危険種との戦いで辺りには血が飛び散っていた、その血を嗅ぎつけて別の危険種がやってくる危険性は十分にありえたからである。

 

 

「離れる前に自己紹介しておこう、私はアカメだ、こっちは妹のクロメだ」

 

「私は···」

 

 

お互いの自己紹介を終えるとすぐに走り出してその場を去った、そして適度に高い木に登り太めの枝に腰を掛けて休息することにしたのである。

 

 

 

「とりあえず休めるわね」

 

「ああ」

 

「一応聞くけどあなた達も売られたクチ?」

 

「ああ、父親に売られて今に至る」

 

「···あんなヤツ父親じゃないよ」

 

 

クロメは嫌悪感をあらわにして言い放った、まあ、実の娘を売るヤツなんてろくでもないものであるから。

 

 

「酒ばかり飲んで酔うと私やお姉ちゃんを殴りにくるんだ」

 

「まさにクズね、ところで母親は?」

 

「私が物心がつく前にいなくなった、あのクズに嫌気が差して逃げたんだと思う」

 

「あり得るわね」

 

 

別にこの姉妹が特別じゃない、この国ではよくあることなのである、それだけこの国はダメになっているのである。

 

 

 

 

「アカメ、あなた、相当苦労したのでしょう?」

 

 

このアカメが母親代わりとして妹の面倒を見てきたのであろう、大変という言葉で済まされないはずである。

 

 

「たいしたことはない」

 

「そんなことないよ、クズから私を守るためにどれだけお姉ちゃんが痛い思いをしたか···」

 

 

 

話を聞くだけで相当のクズね、金欲しさに娘を売っても不思議じゃない。

 

 

 

「大変な人生だったわね」

 

「ああ、だが私達はまだ生きている、生きていれば希望はある」

 

「うん、お姉ちゃんとならどんな苦しいことだって乗り越えられるよ」

 

 

この姉妹、揺るぎない絆で結ばれているのね、少し羨ましいかな···

 

 

 

「そろそろ寝ましょう、明日はもっと大変になるだろうし」

 

「そうだな」

 

「おやすみ、お姉ちゃん」

 

 

三人はあっという間に泥のように眠りに落ちた、ただ生き残ることを夢見て。

 

 

 

 

朝になって目が覚め最初に告げた言葉は···

 

 

 

「今なんて言った?」

 

「最後まで付き合うって言ったのよ」

 

「何でそこまでしてくれる?お前とは昨日知り合ったばかりで···」

 

「何を今更、言ったでしょ趣味みたいなものだって、あなたが負い目を感じることはないわよ」

 

「それは確かに···」

 

「あなたは強いけど妹を庇いながらでは限界がくるわよ」

 

「···」

 

「私が危なくなったらあなたが助ける、持ちつ持たれつよ」

 

「そうだな、わかった」

 

「じゃあ、行くわよ」

 

 

三人は終着地に向けて走り出した、途中で危険種の襲撃にもたびたび遭った、だが三人は巧みな連携で退け、たいした怪我もなく着実に距離をつめていた。

 

 

「だいぶ進んだわね」

 

「ああ」

 

「あと少しで終わりなんだね」

 

 

終わり、この馬鹿げた試験がやっと終わる、でもさらなる過酷が待ち受けているのは予想できる、クロメはそこまで考えてないと思う、そこまで考えが及ばないのよね、とにかく今は乗り切ることだけ考えないと。

 

 

「お姉ちゃん、水飲んでいい?」

 

クロメは近くの川に指を指してアカメに聞いた、アカメは許可をしてクロメは川に向かって行った。

 

 

「もうすぐね」

 

「ああ、お前の助けのおかげでここまでこれた」

 

「そんなことないわよ」

 

「いや、私一人ではどうなったかわからん」

 

「まあ、それはさておき、これからのあなた達だけど···」

 

「私達がどうした?」

 

「これからもあなた達がずっと一緒にいられたらいいな、と思って」

 

「どういうことだ?」

 

 

···言いにくいんだけど、連中姉妹を一緒にしてくれるのかな、もしかしたら離れ離れにさせる恐れがあるのよね。

 

 

「きゃあああ!!」

 

 

突然クロメの悲鳴が鳴り響いた、二人はすぐさま川の方に振り向いた、そこには川から大蛇が現れていた、大蛇はクロメに噛みつこうとした、クロメは紙一重で交わすも尻尾による攻撃でクロメは思いっきり吹っ飛ばされてしまったのである。

 

 

「クロメ!!」

 

アカメは危険を顧みず大蛇に向かって行った、アカメはナイフで斬りつけるも硬いウロコの前にほとんど傷をつけることができなかった。

 

 

「倒すのは無理、クロメを助けることに専念した方がいい」

 

「ああ」

 

「私が引き付けるからあなたがクロメを助けなさい」

 

「すまない」

 

 

 

指示に従ってアカメはクロメの救出に向かった、その間大蛇の注意を向けるため積極的に攻撃を仕掛けたのである。

 

 

「硬いわね」

 

 

力には自信があったがウロコがものすごく硬くほとんど傷をつけることができなかった、やはり倒すのは不可能であろう、残された手は一つである。

 

 

「気を失っているがクロメは大丈夫だ」

 

アカメはクロメを救い出し背中に背負っている、少し怪我をしているが命に異常はない。

 

 

「先に行って」

 

「しかし···」

 

「あなたが妹を守らずに誰が守るの?」

 

「すまない」

 

「そういうのは後よ」

 

「死ぬなよ」

 

「もちろん」

 

 

アカメはクロメを連れて全速力でその場を去って行った、残されたのは少女と大蛇のみであった。

 

 

「さて、ある程度時間を稼いだら逃げるとしますか」

 

 

大蛇の攻撃は速く激しかった、だが、回避に専念していたため紙一重でこらえられていたのである。

 

 

「もう少し···」

 

 

ガシッ!!

 

 

突然何かに捕まってしまった、そして大蛇も捕まってしまったのである、両者を捕られたのは···

 

 

 

「エビルバード!?」

 

 

 

特級危険種エビルバード、ひとたび村が襲われたらあっという間に滅ぼされてしまうという獰猛な鳥である、眼の前のエビルバードは以前目撃したエビルバードよりもふたまわりも大きかった、おそらく希少種だろう、より大きいと聞いていたがこれ程とは···

 

 

 

エビルバードは瞬時に上空へ舞い上がり、あっという間にその場を飛び去ったのである、あまりの速さに呼吸もままならない。

 

 

 

「今すぐ逃げないと!」

 

 

今すぐ逃げたかったが数百メートルの上空では逃げることはできない、確実に命を落としてしまう、低くなったところを見極めて逃げるしかないのである、そう考えている間にもどんどんあの森から離れていく、自分の命はもちろん心配だが、アカメとクロメのことも心配である、無事にゴールできればいいのだが、それにしてもこの鳥いったいどこまで飛ぶつもりなのだろう?

 

 

 

 


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