サヨが斬る!   作:ウィワクシア

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もう少しで今年は終わります、今年最後の作品ご覧ください。


第百十三話

顔なじみを斬る

 

 

9月16日

 

 

 

西方の辺境の任務以降これといった依頼もなく鍛錬の日々が続いていた、そんなとある日。

 

 

 

「うふふ」

 

 

サヨは笑みを浮かべて笑っている、最近とてもいいことがあったのである。

 

 

「···お前、また目が銭になってるぞ」

 

 

イエヤスに指摘されるもサヨは全く気にしておらずさらに笑みを浮かべて言った。

 

 

「この前の任務で帝具回収の報酬だけでなく羅刹四鬼を倒した褒美ももらってホクホクなんだから顔も緩むわよ」

 

「いや、もはやそんな話じゃ···」

 

 

目が銭になるのは緩むどころの話じゃないと思うのだが···

 

 

 

「故郷の仕送りもさらに増えたんだからいいじゃない」

 

「そりゃそうだが···」

 

 

イエヤスは知らないことだがサヨは服を新調する際に生地を上質なものにしていたのである、見た目は以前と同じだが。

 

 

「なんとでも言ってよ、私は気にしないから」

 

 

 

だめだこりゃ、今のサヨに何を言っても馬の耳に念仏である、イエヤスは何も言わずその場を離れることにした、サヨがポツンと残されることになった。

 

 

 

「それにしても最近依頼全然ないわね、もっと仕送りしたいのに」

 

 

依頼がないのにも理由があった、イェーガーズの取り締まりが一層厳しくなり、依頼を受け取るのも容易でないからである。

 

 

 

「とりあえず鍛錬をしよう、さらに実力を上げないと」

 

 

羅刹四鬼は運良くまぐれで倒せたがまぐれはそう続かない、実力だけで倒せるようにならないと···

 

 

 

サヨが鍛錬の準備を始めようとしたその時にレオーネが突然現れた。

 

 

「いたいた」

 

「どうしたの?」

 

「ボスが呼んでる、会議室に集合だ」

 

「集合?わかったすぐ行く」

 

 

集合、もしかしたら新しい任務かな、そうだったらさらに仕送りができる、サヨは期待を抱きながら会議室に向かった、会議室に入るとすでに全員が揃っていた。

 

 

「集まったな、さっそくだが要点を言おう、本部からの指令でムスリーの街に赴くことになった」

 

「ムスリー?」

 

 

ナジェンダの説明によるとムスリーの街は西の異民族の国の国境と目と鼻の先にある北西に位置する都市である、信頼の証を示せと西の異民族からある依頼をしてきたのである。

 

 

 

「どのような依頼ですか?」

 

「ある人物の抹殺だ」

 

「それは誰ですか?」

 

「詳しい話は現地で聞くことになっている」

 

「ずいぶんずさんですね」

 

「私もそう思うが選択の余地がないからな」

 

 

ナジェンダも不満はあるがようやく訪れた国交回復の好機である、これを逃すわけにはいかなかったのである。

 

 

「本部はこの依頼受けたのですね」

 

「そうだ、手間をかけるがお前達に行ってもらう」

 

「出発はいつですか?」

 

「明日だ、エアマンタで行ってもらう」

 

「本部の人も同行するのですか?」

 

「ああ、誰が来るかまではわからんがな」

 

「わかりました、ところで一つ気がかりなことが」

 

「なんだ?」

 

「依頼料、西の異民族が出してくれるのですか?」

 

「···心配するな、本部が出してくれる」

 

 

こういう場面でも金の心配するとはコイツらしいな、と心の中で思ったナジェンダであった。

 

 

 

翌日、本部からエアマンタが到着して今回の任務に参加するメンバーが乗り込みムスリーの街に出発した、なお、ナジェンダ、スサノオ、レオーネの三人はアジトに残ったのである、緊急の事態に備えてナジェンダはアジトに待機した、スサノオはナジェンダの護衛である、レオーネは帝都に赴いてイェーガーズの監視及び偵察を担うことになった。

 

 

エアマンタの背中でサヨは今回参加しているメンバーを見回した、前の任務に参加した者も何人か参加している、今までの任務に参加していない者も多かった、すると以前の任務に参加していたシヴァが話かけてきた。

 

 

 

「久しぶりやな、サヨ」

 

「久しぶり」

 

 

幻のキノコ回収以来の再会である。

 

 

 

「あのキノコで薬作れた?」

 

「作れたで」

 

「総大将の容体はどう?」

 

「まだ意識は戻らんけど徐々に良くなってるで」

 

「そう」

 

 

もし総大将が亡くなる事態になれば革命軍にとっては一大事である、なんとか回復してほしいところである。

 

 

「ところでさっきから気になっているんだけど···」

 

「なんや?」

 

「そこで泣いている娘、誰?」

 

 

シヴァの後ろで泣いている娘にサヨは全く覚えがなかった、本部では確かに見なかったのである、するとイエヤスが首を傾げて考え込んだ。

 

 

「どうしたの?イエヤス」

 

「うーん、その人どっかで見たことあるんだよなあ」

 

「···もしかしてナンパで?」

 

「そんなんじゃない、そんなんじゃ···ああ‼」

 

 

イエヤスは何か思い出して大声を上げた、周りもなんだと注目した。

 

 

「確かあんた、レオーネ姐さんの顔なじみだよな‼」

 

「どういうこと?」

 

 

イエヤスは説明した、数ヶ月前にレオーネと共に麻薬組織の暗殺に向かった、その際に薬漬けにされた女性を多数発見し、治療のためにレオーネの知り合いの医者に預けたのである。

 

 

「そんなことがあったんだ」

 

「ああ、しかし、まさかこんなところで会うとはな」

 

 

 

イエヤスもその時は彼女達のことは気になっていた、だが、その直後アカメが死んでしまい、完全に忘れてしまっていたのである。

 

 

 

「それでなんでここにいるの?」

 

「それはウチが話すわ」

 

 

 

シヴァは説明した、レオーネの知り合いの医者によって多くの女性は回復したのだが、彼女はなかなか回復せず、代わりにシヴァが治療を引き受けたのである、シヴァとその医者は知り合いであった。

 

 

「そこであのキノコを原料とした薬の試作も兼ねて投薬したら回復したんや」

 

「そうだったんだ」

 

 

イエヤスはホッとした、あのまま廃人として死んだら後味が悪かったからである、ところがサヨは疑問に思った。

 

 

「その人がここにいる説明がつかないんだけど」

 

「そういやそうだな」

 

 

イエヤスもサヨの一言でおかしいと思った、回復したのならなぜここにいるのだろうか、不思議でならなかった。

 

 

「ああ、その後、ウチの助手にしたんや」

 

「助手?」

 

「ウチ個人の助手が欲しかったからちょうどよかったんや」

 

 

二人は驚いた、まさかそんないきさつがあったなんて、それでもスッキリしないものがあった。

 

 

「よくこいつの助手になったもんだな」

 

「···全然同意していないんだけど」

 

「そうなのか!?じゃあ、なんで?」

 

「治療費払えって言われて、でも私、全然お金ないから···」

 

「マジか!?」

 

 

なんだそりゃ、それじゃあ、脅迫じゃないか、完全な悪徳医者だ。

 

 

「文句があるって顔しとるな、言いたいことはわかる、けど、本来金があっても簡単に治せるモンやないで」

 

 

イエヤスは文句を言えなかった、彼女の状態は最もひどく、完全な廃人状態だったからである、普通の治療では治らなかったであろう、二人は納得するしかなかった。

 

 

「俺達は納得しても姐さんが納得するかどうか···」

 

「その心配はいらんで」

 

「どういうこと?」

 

 

 

回想

 

 

 

 

シヴァは彼女の治療して治療費の代わりに彼女を助手にするとレオーネに通達した、するとレオーネは猛反対した。

 

 

 

「ふざけるな、そんなマネ、この私が許さんぞ!」

 

「どうしてもアカンか?」

 

「許さん!」

 

「じゃあ、アンタが治療費払うて」

 

 

 

その一言にレオーネは言葉が詰まった、しばらく考え込むとある決断をした。

 

 

「アイツのこと、頼んだぞ!」

 

レオーネは治療費を払えないので阻止を断念したのであった。

 

 

 

 

 

「そりゃないぜ、姐さん」

 

「···ある意味レオーネらしいけど」

 

 

お金のために顔なじみを見捨てる、まさにロクでなしにふさわしい所業である。

 

 

「···レオーネの裏切り者、絶交よ」

 

 

恨めしそうにブツブツつぶやいている、まあ、当然であろう、見捨てられたようなものであるから。

 

 

「まあ、ええやないか、食い扶持分はは稼げるんやから」

 

「そりゃそうだけど···」

 

 

 

実際、スラムにいた頃より全然稼げているのは事実である、それを考えたら全く悪い話じゃない。

 

 

 

「でも、本部であなたの助手をするならともかく、北西の端まで連れてこられるのは別よ」

 

「しゃあないやろ、これから行くムスリーの街、アンタの臣具役に立つから」

 

「どういうこと?」

 

 

彼女の臣具が役に立つ?そもそも彼女、臣具使えたの?サヨはさっぱりわからないでいた。

 

 

 

「とりあえず臣具見せた方がええな」

 

 

シヴァは彼女に臣具を見せるように言った、後ろにあった荷物入れから臣具を取り出しサヨ達に見せた。

 

 

 

「なにこれ!?」

 

 

その臣具は一目で生物型の臣具だとわかった、ただ、その大きさはチホシやチュニのとは明らかに大きく、何よりもその形状が異形であった。

 

 

「バケモノかよ···」

 

 

イエヤスはあ然とした、その臣具は全身緑色で両側にはヒレみたいなものがびっしりついており、口はホースのような長く伸びた管の先にあり、まるでマスクのようなかたちをしている、なりより頭部にある目がなんと五つもあるのである、こんなの見たことがない。(この形状は昔の生物オパビニアをイメージしてください)

 

 

 

 

「どうや?」

 

 

どうや、って言われてもなんてリアクションしたらいいか。

 

 

 

「どんな能力なの?」

 

 

サヨは形のことは一切聞かないことにした、キリがないに決まっているからである。

 

 

 

「これは酸素を造り出すんや」

 

「酸素?」

 

「ムスリーの街は高い山にある山岳都市なんや、高い山に慣れてないモンが行ったら高山病になる恐れがある、そこでこの臣具の出番や」

 

 

 

確か小さい頃高い山に登った時に頭が痛くなったり気持ち悪くなったりした、その対策ならわからなくもない。

 

 

 

「このマスクみたいなとこへ口をつけるのよね」

 

「そや」

 

 

正直この部分に口をつけるのは気が引けるんだけど、体調を整えるためには仕方ないかな。

 

 

「あなたよくこの臣具の所有者になろうとしたわね」

 

 

はっきり言ってこの臣具グロテスクなのよね、人の感性はそれぞれだけど。

 

 

「それがいつの間にか所有者になっちゃってたのよ」

 

「どういうこと!?」

 

「それは、意識がまだもうろうとしていた時にこれはキモカワイイってシヴァに刷り込まされていたのよ、そしたら意識が戻った時にはすでに所有者になってたのよ」

 

「ええ!?」

 

 

なにそれ、そんなんで適合しちゃうの?すごくいい加減···

 

 

「それであなたはいいの?」

 

「最初はかなり戸惑ったけど、段々と愛着が湧いてきて結構気に入ってるわよ」

 

 

本人が気に入っているのなら別にいいかな、村雨もすごくキレイな刀なのにみんなは怖がっている、それと似たようなものよね。

 

 

「あなたが良いのなら私は何もいうつもりはないわ、ええと、あなたの名前は?」

 

「アキ、私の名前はアキよ」

 

「よろしくね、アキ」

 

 

サヨがあいさつする中イエヤスはアキの姿をジロジロ見ている。

 

 

「それにしてもあんたの衣装、あの時の色街に着ていたものだよな」

 

「うん、この服はすごく気にいっているの」(アキの衣装はアカメが斬るアニメ第6話で着ていた衣装と同じです)

 

「そうだな、すごくいいぜ」

 

サヨは妙だと思った、イエヤスがこんな気が利いたことをいうなんて、するとその理由が明らかになる。

 

 

「ちょっとアキ、パンツ見えてる!」

 

「え?きゃっ!」

 

 

おかしいと思った、コイツが気の利いたこと言うなんて、こういうことだったのか。

 

 

「成敗!」

 

サヨの鉄拳がイエヤスに直撃し吹っ飛んだ、勢い余ってエアマンタから落ちそうになった、なんとかエアマンタのしっぽを掴むことができ落下を防いだ。

 

 

 

「お、落ちるー!!」

 

イエヤスは死にものぐるいでしっぽを掴んでいる、その形相はブサイクそのものであった。

 

 

「いいの?」

 

「いいのよ」

 

 

いいのかな?パンツ見られたの恥ずかしかったけどあのまま死んじゃったらさすがに寝覚めが悪い···

 

 

「大丈夫よ、アイツしぶといから」

 

「そうなの?」

 

 

大丈夫よね、一応帝具使いだし、なんとかなるよね。

 

 

「二人共そろそろムスリーの街に着くで」

 

 

前方を見ると大きな街が見えてきた、あれが今回の任務の場ムスリーである、革命軍にとって重大な任務である、失敗は許されないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 




あっという間に一年が過ぎました、来年もよろしくお願いします。

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