羅刹四鬼を斬る(後編)
サヨがイバラとの戦いで苦戦しているさなか、シェーレも苦戦の中にいた、その相手は同じく羅刹四鬼のシュテンである、シュテンは巨体の中年の男で武芸の達人であった。
「お前の魂、解放してやろう、皇拳寺百裂拳!!」
シュテンは無数の拳打をシェーレに向けて繰り出した、一発一発の威力もさることながら速さもずば抜けていた。
シェーレは拳打を回避するのは不可能と判断し、エクスタスを前に出して防御に徹することにした、無数の拳打がエクスタスに直撃しその際の衝撃がシェーレの身体に襲いかかった。
な、なんて威力、それにすごく速い、少しでも気を抜けば命を落としてしまう···
シェーレはなんとか反撃をと思ったが、シュテンに全く隙がなく、ただ防御に徹するしかなかったのである。
一方のシュテンも一方的に攻めてはいるもののエクスタスの防御力に驚くしかなかった。
ワシの拳打を受け続けているにもかかわらず全くの無傷とは、なんという強度だ、もしやこのハサミは···
シュテンは一度後ろに跳んで間合いを取ることにした、このまま攻撃を続けても無駄に拳を痛めるだけであったから。
シェーレはシュテンの猛攻をエクスタスでなんとかしのいだ、だがエクスタスで防ぎきってもその衝撃はシェーレの身体に確実に消耗を強いていたのである。
「頑丈なハサミだ、やはり帝具か」
シュテンは自身の力に絶対の自信を持っており、全くハサミに凹みが見られなかったのでそう決断せざるをえなかった。
「だが使い手はそうではないな」
シュテンが見た所使い手の女は明らかに消耗しつつあった、帝具で拳打を防ぎきっても使い手の体力は確実に消耗していく、明らかに有利な立場に立っているのである。
「このまま焦らず攻めていけば勝てるのだがな···」
シュテンに一つ気になることがあった、それはイバラのことである、無論イバラが負けるとは思っていない、別のことが気になっていた。
イバラがもう一人の使い手を片づけて意気揚々でこの場に現れて、まだ片づけてないのかとふんぞり返る様を見せられるのは面白くなかったのである。
「小細工を使うか」
シュテンは再び拳打を繰り出した、無数の拳打を繰り出すもエクスタスの前では傷一つつかない、無論、シュテンも百も承知である、シュテンの狙いは別にあった。
「喰らえ!」
突然シュテンのあごひげが刃物のように鋭くなり、シェーレの顔面へ高速で伸びたのである。
バキ!!
シェーレは反射的に紙一重でそれをかわした、だが、その際にメガネが粉砕されてしまったのである。
「かわしたか、勘のいい奴だ」
···今ので仕留めたと思ったが、伊達にナイトレイドの殺し屋をやってないな。
シュテンは今ので仕留められなかったことをやや残念に思った、だがシェーレにとってはメガネを壊されたことはとてもまずかったのである。
···ほとんど見えない、このままじゃやられる、なんとかしないと···
だがメガネを失ったシェーレにはシュテンの姿はほとんど見えずわずかにぼんやりとしか見えなかった、それでも何かをしなければやられるのを待つのみであった、シェーレに残された手は···
「エクスタス!!」
シェーレはエクスタスの奥の手閃光を放った、周囲にまばゆい光が一面に広がった。
「目くらましか、小賢しい!」
シュテンもエクスタスの閃光の眩しさに手で防ぐしかなかった、それだけ閃光が強かったのである。
「悪あがきをしおって」
シュテンは目をつむり精神を集中した、そしてシェーレの気配をとらえると全力で駆け出した。
「この一撃で終いだ」
シュテンの右腕に気が練り込まれていく、これこそトドメの一撃である。
一方のシェーレは再び閃光を繰り出した、ほとんど目くらましにならないことはシェーレにもわかっている、それでも何もしないわけにはいかなかった、すると思わぬ事態が起こったのである。
大きな影が、見える
それは迫ってくるシュテンであった、エクスタスの閃光によって影が生まれシェーレの目でも視ることができたのである。
うまくいくかわからない、でも、やらないと!
シェーレは迫ってくる影にエクスタスを広げて身構えた。シュテンがシェーレを仕留めようと目前まで迫ってきていた。
落ち着いて、私
この窮地の状況でもシェーレの頭はクリアになっていた、わずかに見える影に合わせてエクスタスを広げ、そして一気にエクスタスを閉じた。
ジャコッ!!
エクスタスの両断によってシュテンの巨体は上半身と下半身に分断された、それぞれの傷口からおびただしい量の血があふれている。
「ば、馬鹿な···鍛えて抜かれたこの鋼の肉体をこうもやすやすと···」
シュテンは地面に落ち、そのまま何も語ることなく事切れた、シュテンの表情は驚愕そのものであった。
シェーレはシュテンが死んだことを察した、ほとんど見えないので視覚で確認できなかったがシュテンの気配が消えたこと、エクスタスの手応えでシュテンを仕留められたのを確信したのである。
「···すごく強かったです、ほとんど運でした」
実際メガネを失った時点でほぼ負けが確定していた、じっくり攻めて手傷を負わせる戦いをされたらどうにもできなかった、一撃で仕留める手で攻めてきたからこそ反撃のチャンスが生まれたのである。
「サヨは大丈夫でしょうか?」
サヨも間違いなく苦戦しているはずである、応援に行きたいがほとんど見えないので動くことができない、サヨが無事なことを祈るシェーレであった。