サーカスを斬る(前編)
ミーラとロリスが大暴れしていた頃、とある場所にギルベルダとカサンドラがいた。
「ドラ、水筒くれ」
「はい」
「全く、こんな雑魚相手にしてノドが渇くとはな」
ギルベルダは受けとった水筒の水を飲み干した、二人の周りには賊の死体であふれていた。
「以前のアタシ達ならノドが渇くなんてなかったんだがな・・・」
「仕方ありません、それだけ私達は弱体しているんです」
「ちっ・・・」
かつてアカメ達暗殺部隊と戦い命を落としたのだが、メラルドが生み出した蘇生虫により九死に一生を得たのだが、その代償に多くの力を失ったのである。
「わかっているがもどかしいな」
「はい」
「・・・お前の表情からもどかしいが感じとれないぞ」
「では、大声で泣き叫びましょうか?」
「・・・いい、アタシが悪かった」
「はい」
相変わらずだなコイツ、最初に会った時から変わんないな・・・
「今日は半月だな」
「そうですね」
「半月って中途半端だな、今のアタシ達と同じだ」
「そうですね」
「アタシ達が最初に出会った時も半月の夜だったな」
「・・・そうですね、あの時もこんな半月の夜でした」
とあるサーカス場、そこに一人の少女が連れて来られた、その少女は薄汚れおり、なりより鎖で繋がれていたのである、その少女の近くに団長らしき男が近づいて行く。
「よお」
「・・・」
「団長の俺があいさつしているのにだんまりか?」
「・・・鎖に繋がれてあいさつする気になるとでも?」
「そりゃそうだ、だがお前の怪力を目の当たりにすれば仕方ないだろう」
「・・・」
「とにかく俺はお前を金で買ったんだ、俺の言うことを聞け、いいな」
少女は無言で頷いた、全く納得していないが今暴れても無意味なので渋々であった。
「こっちへ来い」
団長に言われるまま少女は歩いた、テントから離れしばらく歩いていくと目の前に二つの檻が見えた。
「あれがお前の部屋だ」
「あれが!?ただの檻じゃねえか、ふざけるな!!」
「お似合いじゃねえか、怪物の部屋にはピッタリだろ」
「てめぇ!!」
少女は怒りにまかせて殴りかかろうとした、だがその時金属音がした、少女が振り向くと猟銃を向けた男が立っていた、飛び掛かれば撃つつもりである。
「怪物でもそれくらいのことはわかるな」
少女は歯ぎしりをした、頑丈さには多少自信がある、だが猟銃にはさすがに自信がなかった。
「鎖は外してやる、さっさと入れ」
少女は言われるままに檻に入った、一か八かで殴りかかってもよかったがどこにも行く当てがなかったのでそうしなかった。
「今日はゆっくり休みな、明日からみっちり働いてもらう」
そう告げると団長達は去って行き、少女一人がポツンと残された。
「何が休めだ、こんな檻で休めるか」
文句を言いつつ少女は横になった、はっきり言って寝心地は最悪である。
「しかしなんで檻が二つあるんだ・・・ん?」
少女は隣の檻をじーっと見つめた、すると中に人が入っていた。
「わっ!?」
少女は驚いた、中に人が入っていたのもあるがそれ以上の理由があったのである。
「・・・うるさいですね」
その声は少女、幼い少女の声だった、どうやら眠っていたようである。
「お前・・・」
「新入りの方ですか?どうも」
ご丁寧にあいさつした、だが少女は全く聞こえていない。
「・・・お前、その腕」
少女の腕がなかったわけではない、むしろ逆である、その少女の腕は四本あったのである。
「驚かせてしまいましたか、見ての通りです、私手が四本あるのです」
「・・・」
少女は言葉が出なかった、腕が四本ある人間など実現しているとは思わなかったからである。
「生まれつきなんです」
生まれつき、その言葉に人事ではないものを感じた、自分も生まれつきの怪力を持ってしまっているからである、そのため親から恐れられここに売られてしまったのである。
「そうか、生まれつきか・・・」
コイツもこの生まれつきのせいでひどい目にあってきたんだな、よし一つ励ましてやるか。
「まあ、いろいろ大変だったが、アタシが力に・・・」
「何を言っているのです?」
「だからアタシが力に・・・」
「あなた、自分の状況、わかってます?」
「うっ・・・」
檻に入れられどこにも行く当てがない、それで力になるなどまさに滑稽であった。
「あなた、バカですね」
「何だと、この野郎!!」
「本当のことじゃないですか」
「確かにアタシはバカだ、だが言われるのはむかつくんだよ」
「じゃあ、お利口さんと言えばいいですか?」
「やめろ!嫌みみたいで腹が立つ!」
「じゃあ、どうすればいいんです?」
「そんなの知るか!!」
それからしばらく二人の言い合いが続いた、そして二人は疲れ果ててだんまりになったのである。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・おい」
「なんです?」
「ええと・・・」
「何を話すか決めてないんですね」
「しょうがないだろ」
「無駄に話をするとお腹が減りますよ」
「わかってる、だけど、だんまりは嫌なんだよ」
二人は空腹だった、今日は水しか口にしていなかったからである。
「明日から営業です、何か食べさせてくれるでしょう」
「どうせろくなものしか食わせてくれないだろう」
「それでも水よりはマシです」
「ちっ・・・」
自分達だけがなんでこんな目にとは思わなかった、今のこの国で豊かで幸せに暮らしている人間の方が珍しいのだ、この数年で税が重くなり口減らしとして子供が売られることも珍しくないのだ。
「とにかく今の私達には選択の余地はありません」
「飯を食いたきゃ働けか・・・」
「そういうことです、まあ、楽な仕事には絶対なりませんが」
「そうだな」
あの嫌な奴がアタシ達を楽させてくれるわけがない、きっとこき使うに決まっている。
「とにかく今日はもう寝ましょう、少しでも体を休めないと」
「そうだな、ええとお前、名前は?」
「私に名前はありませんよ」
「・・・そうか」
「驚かないのですね、意外です」
「・・・アタシも名前がないんだ」
名前がない・・・全く愛情がなかったからつけられなかった、少しでもあれば売られることもなくここにいることもないのである、まともな生まれをしてないからやむを得ないが・・・
「余計なことを聞いたな」
「別に気にしてません」
「・・・まあ、とにかく明日からがんばろうな」
「はい」
「それにしても今夜は半月か・・・」
「半月が嫌いなのですか?」
「ああ、なんか中途半端でな、はっきり言って嫌いだ」
「奇遇ですね、私もです」
「そうか?」
たいしたことじゃないけど嫌いが共通するのって悪い気分じゃないな、案外コイツとは気が合うかも・・・
「やっぱ、一番は三日月だよな、カッコイイし」
「そうですか?一番は満月ですよ可愛いですし」
前言撤回だ、やっぱりコイツとは気が合わねえ!!
「じゃあ、私は寝ます、おやすみなさい」
「お、おい!」
呼びかけるも返事がなかった、眠ったようである。
「ちっ、アタシも寝るかな」
少女は横になるもなかなか寝付けなかった、自分は明日からどうなるのだろう、いい予感が全くしない、でも何とかするしかないのだ、誰も自分なんかを助けてくれるわけがないのだから。