サヨが斬る!   作:ウィワクシア

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今年は花粉が多くて大変です


第百二話

 脱走兵を斬る(中編)

 

 

 

双子の姉妹ミーラとロリスを加えたマシロは暗殺部隊への復讐を果たすべく各地を転々としていた、だが、その足取りは掴めずにいた。

 

 

 

「ふう、今日もむだ足でしたわ」

 

「全く嫌になっちゃうね」

 

 

双子は不満顔でぼやいているがマシロの顔はさらに不機嫌であった。

 

 

「足を棒にして情報収集したのは私だ、お前達は暴れていただけだろう」

 

 

はっきり言って双子に情報収集は無理なのでマシロが一人で行っていたのである、それだけならまだマシなのだが

双子は余計な騒動を頻繁におこしていたのである。

 

 

「仕方ありませんわ」

 

「だってあいつらがケンカを売ってくるんだから」

 

「無視しろ、いちいち買う奴があるか!」

 

 

マシロは少し後悔していた、双子がなかなか腕が立つので組んだが、これだけ騒動をおこすとは思っていなかった、

しかし、いまさら後の祭りである、この面子でやるしかないのである。

 

 

「少し出かける」

 

「どこへ行くのです?」

 

「酒場だ」

 

 

酒を飲んで気分転換しないとやってられない、心の中でぼやくマシロであった。

 

 

「じゃあ私達も行く」

 

「・・・好きにしろ」

 

 

正直邪魔なのだが、ついて来るなと言ってもついて来るだろう、ならあきらめて同行を認めた方がいい。

 

 

「余計な騒動はおこすなよ」

 

「わかりました」

 

「はーい」

 

 

若干の不安を感じながら酒場へ行くことにした、何事もなければいいが・・・

 

 

 

三人は適当な酒場へ赴いた、いわゆる場末の酒場である、柄の悪い連中がウロウロしている、その何人かにマシロは

声をかけられたが睨みつけて追い払った、空いているカウンター席に座りマシロは酒、双子はジュースを注文した。

 

 

「これからどうするか・・・」

 

 

帝国の暗殺部隊の足取りを掴むのは容易ではない、連中がそんなマヌケならやすやすコウガがやられるわけがない、

私がもっと裏に精通していればいいのだが、これは性格にも左右されるからな、私では適任とは言い難いな、謀に詳しい奴がいれば少しは楽なのだが・・・いかんな、無い物ねだりをしては・・・

 

 

マシロが思案していると別のテーブル席の方で騒ぎが起こった、何事かと見たらポーカーの勝負が行われていた。

 

 

「またコイツの勝ちかよ」

 

「イカサマじゃねえのか?」

 

「そんなそぶり見せてないな」

 

 

男達の話を聞く辺りかなり勝ちまくっているらしい、マシロは少し興味がわいた、             

気分転換もかねてマシロはそのテーブル席に向かった、双子も後をついていく。

 

 

 

テーブル席には二人の男が座っている、一人は少し柄の悪い男でもう一人は明らかに風変わりの衣装を着ていた、あの衣装は見覚えがあるような気がするのだがマシロは思い出せないでいる、それは後回しにしてテーブルを見ることにした、表情を見ると勝っているのは風変わりの衣装の男である。

 

 

 

「エースのツーペア」

 

「2のスリーカード」

 

 

またあの男が勝ったようである、負けた男はさらに不機嫌になっていた。

 

 

「へえ、あの男賭け事強いんですね」

 

「まあな・・・」

 

「どうしたの?マシロさん」

 

「ああ、ちょっとな」

 

「ちょっと?」

 

 

マシロ達が話をしている間にさらにポーカー勝負が進んだ。

 

 

「キングのスリーカード!」

 

「ハートのフラッシュ」

 

 

またまたあの男が勝ってさらに盛り上がった、負けた男は爆発寸前である。

 

 

「またまた勝ちましたわ」

 

「うん、姉様」

 

 

驚いている双子と裏腹にマシロは冷めた様子で見ている、ある予想があったからである。

 

 

「イカサマしているな」

 

「イカサマ?」

 

「ありえないくらい勝っているから?」

 

「そうじゃない、あいつの表情には自分が負けるという可能性を一切感じない」

 

「可能性?」

 

「絶対勝てる賭け事などない、だがあいつは自分が負けるとみじん思っていない、つまりイカサマをしているから

絶対負けないと確信しているんだ、だが・・・」

 

「だが?」

 

「どんなイカサマをしているかわからん」

 

「なんですか、それ?」

 

「そんなので大きな顔しないでよ」

 

 

マシロは何も言えなかった、イカサマがわからないのであればイカサマといえない、だがマシロの目をもってしてもイカサマがわからないのである、あの男の手に妙なそぶりは一切ない、普通にポーカーをしているのである。

 

 

 

 

「・・・」

 

「どうしました?」

 

 

負け続きでいらいらしているのをわかっていて言ったのであった、その一言で男はぶちギレた。

 

 

「てめえ、イカサマしただろ!」

 

「何をおっしゃるのです?」

 

「ふざけるな、こんなに勝ち続けるなんてありえないだろう!!」

 

「たまたまですよ」

 

「そんなわけないだろ!」

 

「じゃあ、どんなイカサマを私がしたのです?」

 

「そ、それは・・・」

 

「説明できないのであれば言い掛かりでしかありません」

 

 

男は何も言い返せなかった、どんなイカサマなのか説明できなければイカサマにならないからである。

 

 

「うるせえ!!」

 

 

男は怒りのままに殴りかかろうとした、だがとある男が腕を掴んで阻止した。

 

 

 

「何しやがる!?」

 

「そいつを殴るのはかまわんが、一応これが俺の役割だからな」

 

「訳のわからんこと言うんじゃねえ!」

 

 

男は力まかせに振りほどこうとした、だが逆に男は投げ飛ばされおもいっきり地面に叩きつけられそのまま失神した。

 

 

「あの男やるな」

 

「ええ、ただ者ではありませんわ」

 

「あいつ、かなり強いよ」

 

 

双子でさえも認めるその男は見た目は10代半ばのようである、だがその身のこなしは素人ではない、訓練されかなりの場数を踏んだ人間のものであった。

 

 

 

「ご苦労様です」

 

「調子にのりすぎだ雑魚主人」

 

「否定はしません、だがあなたが路銀を稼いでくれれば私はこのようなやり方をしなくてよかったのですよ」

 

「主人なら従者の食い扶持をどうにかするべきだろ」

 

「・・・まあ、十分稼ぎましたし、よしとしましょう」

 

 

 

明らかに苦虫をかみつぶしたような表情をした、だが同時にあきらめの表情もした、何を言っても無駄だと悟ったのであろう、いろいろと訳ありのようである。

 

 

「さっさと引き上げるぞ、雑魚主人」

 

「わかってますよ」

 

 

二人はさっさとその場を立ち去ろうとした、だが主人の方の男は従者に比べて拡大に動きが遅かった、従者の男も遅いと言われている、主人は不満な表情をしつつも全速力で立ち去って行った、辺りの人間はわけがわからずキョトンとしている。

 

 

「マシロさん、いろいろすごかったですね」

 

「ああ」

 

「絶対立場逆だね」

 

「そうだな」

 

 

マシロは解せなかった、なぜあれだけの腕の男があの者についているのか、不遜な態度をとってもなぜ怒らないのか、不思議に思っていたがふととあることを思い出した。

 

 

 

「そうだ、あの衣装!」

 

「それがどうしたの?」

 

「あの衣装、プトラの墓守のものだ」

 

「プトラの墓守って、あの?」

 

「そうだ、帝国北西に位置する渓谷地帯プトラに存在する王家の遺跡を護る部族だ、革命軍は以前連中に使者を送ったのだが門前払いされた」

 

「まあ、そうなりますわね、あの人たち誰かと組むことは余程のことでもないですから」

 

「革命軍もダメもとで送ったからな、だが今回は違う」

 

「まさかあの連中と組むの?できると思えないけど」

 

「普通なら無理だな、だが今なら別だ」

 

「どういうこと?」

 

「未確認情報だが、プトラの墓守は滅んだらしい」

 

「本当!?連中かなり強いって評判だったのに」

 

「それが本当なら滅ぼしたのって・・・」

 

「帝国の暗殺部隊だろうな」

 

 

双子は思った、暗殺部隊の連中手当たり次第に仕掛けている、奴らが通った道はまさに血まみれであると。

 

 

「連中の狙いが暗殺部隊なら組める可能性はゼロじゃない、とにかくあいつらを追うぞ」

 

「うん」

 

 

三人は彼らの後を追った、胡散臭い連中ではあるが復讐を果たせるのであればたいした問題ではなかった。

 

 

一方、その胡散臭い連中は酒場から離れた裏道で足を止めていた、とある用事を済ませるためである。

 

 

「おい、雑魚主人」

 

「わかってますよ、あなたが何を言いたいのか」

 

 

主人と呼ばれた男はじーっと一点を見つめていた、そこには誰もいない。

 

 

「そこにいるのでしょう、気配を消してもわかります」

 

 

男の呼びかけに応じてマシロ達は現れた、さほど驚いてはいなかった。

 

 

 

「やはり気づいていたか」

 

「私はそんなに鈍くはありませんよ」

 

 

 

男は自慢げに振る舞った、自分は鋭いとアピールしたいのであろう、だが現実はそうではなかった、

マシロ達は完全に気配を消していなかったのである、気づくようほんのわずかに気配を残していたのである。

 

 

「勘違いするな雑魚主人、こいつらは雑魚主人が気づくようわざとわずかに気配を残していたんだ」

 

「・・・わかっていますよ」

 

 

男は少しムッとした、少しくらい花を持たせてもよいではないかという表情をした。

 

 

 

「早速だがお前らと話がしたい、いいか?」

 

「構いませんよ」

 

 

マシロ達はそれぞれ自己紹介した、自分達が元革命軍とオールベルグの者だと告げた。

 

 

「なるほど、元革命軍の兵士とオールベルグの一員の組み合わせですか、面白いですね」

 

「お前、その衣装、プトラの墓守の人間だろう」

 

「そのとうりです、よくご存知で」

 

「任務の過程でいろいろ知ったのだ、単刀直入に聞く、プトラの墓守は帝国の暗殺部隊に滅ぼされたのであろう?」

 

「・・・そのとうりです」

 

 

男の表情が一気に曇った、無念の極みであろうことがひとめでわかる、それゆえマシロは組み込める可能性が高いと思ったのである。

 

 

「単刀直入に聞く・・・」

 

「私達と組まないかということですね」

 

「ほう、察していたか」

 

「そう難しくありませんよ、あなた達の立場を考えれば」

 

「そうか、ならば話は早い、手を組まないか?」

 

「そうですね」

 

「言っておくが一蓮托生の関係ではない、お互いを利用しあう関係だ」

 

「つまり、同盟というわけですか」

 

「そんなところだ」

 

 

男は納得した、正直一蓮托生の関係なんて面倒で復讐を果たすのに不都合の方が多そうだからである、その点同盟となればいざとなったら解消してしまえばいいのである。

 

 

「いいでしょう、その提案受けましょう」

 

「そうか、ところでお前の・・・」

 

「私の名はムディです」

 

「そうか、そっちの奴は」

 

「名はありません」

 

「どういうことだ?」

 

「正確に言えばわからないのです、彼記憶喪失なので」

 

「記憶喪失!?」

 

 

 

さすがのマシロも驚いた、まさか記憶喪失だとは予想もしていなかったからである。

 

 

「最初はナということは覚えているのですが」

 

「そうか・・・」

 

「あなたが名前をつけてくれませんか?」

 

「私が?」

 

「名前がないとあなた達が不便でしょう、いいですよね?」

 

「別にかまわん」

 

「それでは・・・」

 

「私達がつけましょう」

 

「いいよね、マシロさん」

 

「まあ、別にいいが」

 

 

双子はいろいろ思いついた名前をつけたが彼は全く気にいらなかった、双子は不満を爆発させた。

 

 

「どこが気にいらないんですの?」

 

「カッコイイのに!」

 

「どこがいいんだ、センスの欠片もないな」

 

 

マシロは怒った双子をなだめて自分が考えることにした、凝りすぎた名前もどうかと思いシンプルな名前を考えることにした。

 

 

「ナックルというのはどうだ?」

 

「なんですか、それ?」

 

「パッといない」

 

 

文句を言う双子とは対象的に男はこれといって不満はなさそうに見える。

 

 

「これでいい」

 

「なんでこれでいいんですか!?」

 

「私達の方がカッコイイのに!!」

 

 

怒りが爆発している双子を見て男はいかにもめんどくさい表情をした。

 

 

 

「お前達が考えた名は長すぎるし、センスがなさすぎる、ナックルの方が短い分だけまだマシだ」

 

 

短さで選んだのか、マシロは口には言わず心の中でつぶやいた、口に出さなかったのはゴタゴタするのを避けたかったからである。

 

 

 

「ではこれからはお前のことをナックルと呼ばせてもらう」

 

「ああ」

 

 

マシロにはそれ以上に気になることがあった、ムディが教えてくれるかどうかは微妙ではあるが。

 

 

「お前、さっきのポーカーでイカサマしていただろう?」

 

「そうですよ」

 

「どんな手を使ったんだ、イカサマの手が全くわからないのだが」

 

「これです」

 

 

その瞬間ムディの腹部から針金のような細長い何かが現れた、クネクネと動き回っている。

 

 

「何ですか、それ!?」

 

「気持ち悪い!」

 

 

双子はあからさまに気持ち悪いそぶりを見せた、マシロも口には出さなかったが気持ちのいいものではなかった。

 

 

「気持ち悪いと失敬ですね、こんなに愛らしいのに」

 

 

コイツとは趣味が合わないな、マシロは確信した、それでも何かの役に立つかもしれない、我慢しておこう、心の中でマシロは誓った。

 

 

「それを使ってイカサマを成功させたんだな」

 

「そうです、私の意のままに緻密に動いてくれます、イカサマなんて造作もありません」

 

「たいしたものだな」

 

「いえいえ」

 

 

ムディは謙虚に振る舞ったが能力の一部しか披露していなかった、虫を寄生させてナックルを操っていることは他言するつもりはなかったのである。

 

「もう一つ別に話がある」

 

「話とは何です?」

 

「この集団を誰がまとめるかだ」

 

「それはあなたがいいのでは?」

 

「少なくとも計略に関しては私よりもお前のほうが詳しいだろう、それに私は考えるよりも体を動かすほうが合っている」

 

「そういうことでしたら引き受けましょう」

 

「お前達もそれでいいな」

 

「別に構いません」

 

「いいよ」

 

「ではムディ、お前がまとめ役をやってくれ」

 

「わかりました」

 

 

ムディは快く引き受けた、だがマシロ達に情は一切なく便利な手駒感覚である、マシロもそれを予想している。

 

 

「早速ですがあるところへ赴きます」

 

「どこだ?」

 

「ハクバ山です」

 

「ハクバ山?」

 

「ある筋の情報で暗殺部隊の次の標的の可能性があるのですよ」

 

「そうか、なら行くことにしよう」

 

「では明日の早朝に」

 

「ところで一つ気になることがある」

 

「何です?」

 

「ナックルの顔色があまり良くないように見えるのだが、ケガでもしてるのか?」

 

「はい、ですがたいしたケガではありません」

 

「そうか、ならいい」

 

 

ムディはそう言ったがナックルのケガはかなりの重傷だった、だがムディはナックルの治療はしたくなかったのである、自分の故郷を滅ぼした連中の人間を治療するのは抵抗があったのである、どうせ復讐がすんだら始末するつもりだから。

 

 

「明日に備えて休みましょう」

 

「ああ」

 

「はい、ですわ」

 

「わかった」

 

 

後にマシロはムディの言葉を鵜呑みにしたことを後悔した、あの場でナックルのケガの状態を知っておけばその時に適切な治療をして最悪の状況になることもなく、革命軍本部にいるシヴァを連れて来る事態になることにならなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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