三上さんと僕の不思議な話
ぽつぽつと雨が降るなか、人通りの少ない路地裏で傘も挿さずに僕は呆然とたたずんでいた。
余計な雑音は一切しない、ポツポツと降る雨の音と遠くから聞こえるサイレンの音のみ。
いつの間に僕はこんなところにいたのだろう……。
平日の昼間、普通だったら会社に出勤しているような時間だ。僕だって本来ならば会社にいるはずだったのだ。
簡単に言ってしまえば先ほど会社を首になったのだ。
ほんの些細なミスだった。しかし、上司から疎まれていた僕は、袋叩きにあった。
まるで中世の魔女狩りのようだ。
人生とはどうにも上手くいかないものだ、自分の思い通りには事が進まない。
不条理で理不尽、神様がいたならば呪ってやりたいくらいだ。道端の猫でさえ僕を哀れむように見てくる。
そんな至極どうでもいいことを一人愚痴っていたのだ。
「こんなところで傘もささずにいったい貴方は何をしてるの?」
不意に背後から声をかけられた。鈴の音のように透き通る美しい声色だった。
僕がふりかえると妖艶さを醸し出す美しい女の人が呆然と雨に打たれる僕を見つめていた。
背丈は僕と同じくらいで艶のある黒髪を後ろで束ねており整った顔立ちをしている。
年齢は僕より少し年上といったところだろうか大人びた表情をしている。
彼女は差していたビニール傘をクルクルっと器用に回しながら僕にこう告げた。
「よかったらそこ私の事務所だから雨が上がるまで上がっていかない?」
突然の提案に困惑する僕を置いて彼女は歩いていく。
どうするべきだろうと少し迷ってはいたが結局ついていく事にした。
あのまま雨に打たれ続ける訳にもいかず、かといって家に帰る気にもなれなかったのだ。
それならばこの美人と雨が上がるまで時間を潰せた方が有意義だろうと思ったのだ。
僕は小走りで彼女のあとを追いかけた。
これが僕と三上さんとの出会いだった。
それから15分くらい歩いただろうか彼女はここよと言って立ち止まった。
案内された事務所は彼女の言う通りすぐ近くだった。このボロいビルの2階が彼女の事務所らしい。ところどころ薄汚れており年期を感じさせていた。
お化けでも出そうなところだなぁなんて内心思いながら階段を上っていく。コツコツというハイヒールの音が木霊する。
「ついたわ上がって」
彼女は簡素にそう言って扉をあけ事務所に入って行った。
ところどころ錆びた扉には三上なんでも相談所と書かれた表札
なんでも相談所……いったいなんなのだろうか、相談所なのだから相談に乗ってくれるのであろうか、でもなんだかただの相談所では無さそうだ。
失礼します。
僕はそう呟いて、吸い込まれるように扉の中に入って行った。