異世界転生すると美少女になれるって本当ですか!? 作:DENROK
スレイン法国。神都。
最上級の神官達が議事堂のような場所に集まり、喧々囂々の議論を交わしている。
議事堂の中央には、周囲から浮くほど若い年端もいかぬ少年が立ち、周囲の神官達から質問攻めにあっていた。
「その話は本当なのだろうか」
「確かに100年の周期には符号するが。にわかには信じがたいな」
「しかし! 私が会った者達は、確かにこの”聖典”に描かれている者達と同じ姿をしていました!」
議事堂の中央のテーブルには、法国が”聖典”と崇める神々が遺した書物が開いて置かれている。
手描き・魔法を問わず”聖典”の複製を作ろうとすると、複製品の文字が書いた端から消えてしまったりしてここにあるオリジナル以外には複製はひとつも存在していなかった。
ここまで広い範囲で一切の複製を禁じているこの”聖典”にかけられた魔法の強さは、まさに神の領域である。幸い保存の魔法が掛かっているのか、数百年間”聖典”は汚れ一つシワ一つつかず元の姿を保ち続けている。
今開かれた”聖典”には、耳の長いダークエルフの美少女が、普通の耳を持つ黒髪の美少女と舌を絡め合うように接吻している絵画が描かれていた。
絵画は非常に完成度が高く、宗教画のような雰囲気を醸し出している。
「やはり何度見ても美しい」
「ああ、私も初めてこの”聖典”を閲覧する機会を得られた時は神に感謝したものだ」
噛みしめるよう言いながら壮年の神官達が頷き合った。
“聖典”は神の遺物であるから、閲覧したり触れたり出来るのは、法国でも高い身分を得ている者に限られる。
神々の言語である日本語は、スレイン法国の一定以上の身分の者達には難しい一部の漢字などを除き簡単な読み書き程度は出来るように厳しく叩き込まれていた。神々の遺産には日本語が書かれたものが多く残っているため、ソレらを解読し適切に使用するためと、何より神々の言語を失伝させないためである。
この”聖典”も日本語で書かれており、この場に集まるほど位の高い者達は皆内容をこれまでに一度は熟読していた。
「まさかインラン様が直接この世界に舞い降りてこられたのか? 法国が崇める存在がこのタイミングで降臨されるとは、さすがに我々に都合が良すぎるのではないか?」
「静粛に! 確かに我らは数百年間待ち続けたが、その間一向に神々は降臨されなかった! しかし、今! ついに降臨された! その可能性が認められた以上、我々は一致団結し、万が一にでも不快な思いをさせるようなことがあってはならない! 漆黒聖典の証言だけでは全面的に信用は出来ないが、神か否かという確証が得られるまでは我々は一切敵対する意志を見せず、友好的に接していくこととする!」
議長を兼ねた神官長が、議事堂の中心で老いを感じさせない力強い声で宣言すると。この場にいた者達は頷いていく。
「神霊、性を司る神。生命の根源を司る神とはまさに神の頂点。私が生きているうちに降臨されるかもしれないのか」
スレイン法国で高位の役職を与えられている老婆であるカイレは、感慨深く身を震わせた。
”聖典”には神の来歴なども詳しく記されていた。実際に人類を護り導いた6大神の遺物に記された内容を疑うような不信心な輩はここにはいなかった。彼ら彼女らにとって”聖典”の内容は現実であり事実なのである。
ちなみに、”聖典”の表紙には日本語の美しい書体でこう3行で書かれている
”神霊”
”インラン”
”『性を司る神』”
あと端っこに小さく”R-15版”と書かれていた。
ナザリック地下大墳墓第10階層。
ナザリック執務室の中央に置かれたテーブルの前に置かれたソファーで、宝石のように美しい黒髪ツインテールの美少女は鼻歌を歌っていた。玉を転がした様な綺麗な声が部屋に木霊する。
ソファーに浅く腰掛け、インランは下書きもせずにサラサラと絵を描いていく。
「エロエロー。もっとエロくなれー」
絵の中ではアウラがあられもない姿でもの凄いポーズを取っていた。
「くぱぁ」
「んなぁにしとんじゃわりゃああああああ!!!!!!」
「あばぎゃッッッ!!!」
頭上から振り落とされた鉄槌でインランは脳漿が口から飛び出るかと思った。
インランが涙目で頭を抑えながらソファーの後ろを振り返れば、
「な、な、何考えてんだ貴様ぁああああ!?!?」
「……ギルド長はキレ芸でも身につけたの? ちょっと沸点低すぎないかしら」
「アホかお前! お、お前ぇえええ! やっていいことと悪いことがあるだろうがぁあああ!!」
凄くプルプルと震えた指先で、今しがたインランが絵を描いていた開かれた一冊のノートを、モモンガが指さしていた。
「何よ? ギルド長も何か描きたいの?」
「おま! それ! それえええ!! もおやだああああ!!」
口をぱくぱくさせたモモンガの顔面は茹で蛸のように真っ赤である。涙目になりながらバンバンと地団駄している。
「ん? アルベドを描いた方が良かったかしら?」
インランがエロ絵を描いたノートは、先日モモンガが法国の漆黒聖典に渡した。お互いに遠隔で意思疎通を図るためのマジックアイテムだった。
対になるノート同士では書かれた内容が2冊で同期される。対になるノートをそれぞれが持ちお互いがメッセージをノートに書き込むことで、遠方からでも電子メールのようなやりとりが行えるようになるマジックアイテムである。
そして今しがた、インランは法国に対する友好の証として、元気が出る絵を描いたのである。エロ画像を電子メールに添付するのがイメージ的には近い。
「ちっげええよおおおお!!! 分かれよぉおお!!!」
人間性を喪失し始めたモモンガにインランは困惑していた。
10年来の友人が疲れている様子を見て、インランが本音で労りの言葉をかける。
「大分疲れているみたいね、休んだ方が良いんじゃないかしら。執務はデミえもん達IQ三銃士に任せて地上でパーッと遊んできたら? 地上のお金あげようか?」
アイテムボックスからインランがデカい巾着袋を取り出すとモモンガの方にさしだした。袋の中には金貨がズッシリと詰まっている。
モモンガは疲労感からその場に崩れ落ちた。アルベドが腰に手を回して支えると、そのままずるずると部屋から連れて行かれる。
「まさかあそこまで疲れていたなんて、それに気づかなかったなんて親友として情けないわね……」
目を細めてインランは自嘲した。
スレイン法国、神都。最上級の神官達が集まった議事堂のような広間。
皆、中央のテーブルに置かれた”聖典”とは別の一冊の開かれたノートに釘付けだった。
そのノートは漆黒聖典が件の神の関係者と思わしき者達から与ってきた。遠隔同士での意思疎通を可能とする強力無比なマジックアイテムである。
「こ、この美しい絵画は!?」
「ま、間違いない!! 神の遺した聖典に描かれているモノだ!!」
神官達が慎重に開いた”聖典”を、ノートの横に移動させる。2冊に描かれた絵画は白黒と彩色の違いはあるが、描かれたモチーフが同じでありさらに同じ人物が書いたとしか思えないほど画風が瓜二つだった。
「「「おおおおおおお!! 神よぉおおおおお!!」」」
広間はもの凄い熱気と歓声に包まれ、建物が震えているかのようである。
熱気の中心では、ノートに描かれたダークエルフの美少女が卑猥なポーズであられもない姿を曝け出していた。
ナザリック地下大墳墓。第十階層。ナザリック執務室。
モモンガが過労死したので、現在ナザリックの執務はIQ三銃士こと、デミウルゴス、アルベド、埴輪。それとインランが行っている。
座り心地の良い椅子に腰掛けて、インランは執務机に置かれた書類に目を通していた。少女が大人の真似ごとをしているようで、仕えるシモベ達はその姿にキュンキュンしていた。
「インラン様。この書類に決裁を頂きたく」
「ふむふむ、スクロールの補充案ね。確かに賢者の石をスクロールの生産に回したくはないから、現地で生産できるものは現地で賄う方が合理的ね。素材は……羊? この世界の羊は優秀ねー」
「はい、それはもう」
ニッコリとデミウルゴスが悪魔的に微笑む。
「それと、くぉおちらはぁ!」
「はいはい煩い。普通に喋ってよ」
「……はい。こちらは現在の賢者の石の稼働状況です」
スッと軍帽を抑えながら、埴輪が書類をインランの前に滑らせる。
「オーバーロードで回してもウンコレートね。これで
「いえ、本来は手に入らないアイテムを時間さえあれば無尽蔵に入手可能な点で、間違いなく
「おお、遂にフレームだけでなく装甲材まで100%メタトロンのパワードスーツが作れるのね。チートだわー」
「ごほんっ、……メタトロンの生産は後回しにしろと我が創造主からのご命令が」
「えぇ……けちねー」
頬を膨らませたインランに、執務机の前のシモベ達はノックアウトされていた。やる気が漲る。
キリリッとしたキメ顔でアルベドが執務机の正面に立つと、角が合わせられた書類の束を両手でインランに恭しく差し出した。そのまま一切書類を見ずにアルベドはスラスラと説明していく。
「───現在稼働中の生産施設ですが、酒類生産施設の生産率が少し落ちていますわ。民芸品生産施設は現在順調に目標とした水準で稼働中。そしてインラン様肝いりの出版部門なのですが……」
「え? 何? インクで刷るだけでしょ?」
「いえ、現地のレベルに合わせた紙の大量生産に手間取っております」
「ああ、和紙みたいに手作業で作らせてるんだっけ。人海戦術でなんとかならないの?」
「何分インラン様が求められた量が膨大なため、現在の生産量は必要量を半分も満たしておりませんわ。……つきましては紙は魔法的な生産方法も併用することで妥協していただきたく」
「うぇ……あたし手作業で作られた紙に憧れてたのよね。リアルでは和紙とか展示品でしかお目にかかれなかったし、大学では画材代だけででいくら飛んでいったのか……」
虚ろな瞳になったインランがブツブツと呟き出す。涙目になっているインランを見て、アルベド達シモベの胸に耐えがたい苦しみと罪悪感が押し寄せる。
「……まぁ、あたしのエゴをシモベに押しつけても仕方ないか。いいわよそれで」
「ありがとうございます!」
主の優しさにシモベ達が感動し、さらにやる気を漲らせた。
インラン製紙工場。
エルフ国辺境の森を切り開き建てられた巨大な施設。
その中では見目麗しいエルフ達が、せっせと樹木からパルプを作り、紙にしていた。
クラフト系の職業レベルを持つシモベがナザリックに不足していたため、クラフトスキルに縛られない原住民を有効活用しようとこの施設は稼働している。
給金は周辺のエルフ達が得られる平均的な給金よりも良く、仕事内容も原住民としてはそこまでキツいものではないため、働く従業員の表情は明るい。なによりも良いものを作っているという自負があった。彼女達が作る紙はそれまで目にしたことがないほど美しく純白であり、その高い品質が自負心を高める。
ちなみに女のエルフしか従業員になれないという地味に厳しい選考基準がある。
「5時だよ! も……(ブツッ)」
壁に備え付けられたスピーカーのようなマジックアイテムから、ぷりぷりのアニメ声が工場に響き渡った。
「も、何なのかしらね?」
「毎回気になるわよね」
汗を拭いながら、従業員達が更衣室へと向かっていく。とある人物の鶴の一声で、この会社では定時退社を義務づけていた。勿論夜勤による工場の24時間稼働もない。キッチリ5時に上がれるように従業員達は準備を終えている。
更衣室で、支給されているツナギ姿から、エルフの伝統衣装であるスリングショットに着替えたエルフ達は、肩で風を切りながら工場から退社していった。
インラン印刷工場
インラン製紙工場に隣接するように建てられた巨大施設。
福利厚生はインラン製紙工場と同じ。従業員の選考基準も同じである。
「うわ、コレ見てよ。卑猥ね」
「卑猥だわ」
「あたし、なんか変な気分になってきちゃった……」
隣の工場から運ばれて来た紙に、絵が彫り込まれた木版にインクを塗って押し当て、従業員達は印刷していく。
出来上がった印刷物には、ちょっとどころか凄く卑猥な絵柄が浮き出ていた。勿論無修正である。
ぶっちゃけ魔法でちゃちゃっと印刷して複製した方が速いし綺麗なのだが、インランは頑なに手作業に拘った。
印刷されたものは製本されて梱包される。やがて無数の運送経路を経て世界中のスケベの手の中に収まるのだ。
革命的に高品質で何より革命的にエロイため。末端価格は非常に高価である。
それでも需要に供給が追いつかず、値段はドンドン釣り上がっていた。
金貨を刷っているようなもので、あまりの利益率の高さにデミウルゴスが涙を流して「感服しました……」とかインランに言って感動していた。怖い。
区切りが良いから短いけど投稿
この話でスレイン法国が崇める”聖典”は1話で登場してます。
それとこの二次創作の作者が普通にスターシルバーを超希少魔法金属だと勘違いしていたので、過去投稿した話のスターシルバーの部分を差し替えました。(原作では、スターシルバーは希少貴金属で、るし★ふぁーがちょろまかした件の超希少魔法金属は名称不詳)
今後、この二次創作では件の超希少魔法金属は”メタトロン”と命名します。
あと作品タグに”ギャグ”を追加しました。自分で書いてて思ったけどこれギャグ小説ですわ。(今更)