異世界転生すると美少女になれるって本当ですか!?   作:DENROK

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第6話:最大の敵は味方

 

 

 

 

 エルフ国の辺境の町で最も大きな宿屋にインランは顔を出すと、非常に整った容姿の耳の長く尖った美女が笑顔で出迎えた。

 

 「これはこれはインラン様」

 

 「女将さんおひさー。どうよ、あれから不届きな人間共の襲撃はあったのかしら?」

 

 「あはは、最近は平穏そのものでしたね」

 

 この辺境の町を法国の尖兵である特殊部隊の火滅聖典が襲撃したのは宿の女将にも記憶に新しい。人々が寝静まった深夜に町の一角が破壊工作で吹き飛んだのだ。

 

 まぁ、被害が広がる前に女将の目の前の裸パーカーの痴女が火滅聖典を全て縛りあげて、町の役場につきだしたのだが。

 

 法国の特殊部隊の精強ぶりはエルフ達にも知れ渡っていたので、それを迎撃した功績もあり、この痴女を護衛に連れた人間達のキャラバンはこの町では概ね好意を持って迎えられている。

 

 エルフ達も人間達全てを嫌っているわけではないのである。一部の人間達とは交流が続いていた。

 

 「そうなんだ。……しかしエルフの衣装は本当に半端なくエロイわね。どうよ?10発くらいヤらせてくれないかしら?」

 

 殆ど紐同然のスリングショットをスレンダーな体に纏っただけの女将に、インランは鼻の下を伸ばして提案する。

 

 このスリングショットはエルフ国を興したエルフのプレイヤーが好んで纏っていたため、エルフ達の伝統衣装になった背景があった。もっとも元々この卑猥な衣装を纏っていたプレイヤーは年端もいかない幼女のアバターだったが。

 

 凄まじい強さを誇りエルフ国を建国したエルフの始祖にあやかって今でもエルフ達はこの衣装を纏っているのだろう。

 

 「私は同性愛者ではありませんので……丁重にお断りさせて頂きますわ」

 

 「えー、あたしはちんこ付いてるから、ちゃんと男性としても楽しませられるわよ?」

 

 「……え?」

 

 「ほっれ」

 

 ぴらりと、インランが裸体の上に一枚だけ纏っているパーカーの裾を捲ると、ご立派様が露わになった。

 

 「あら立派。……こほんっ、インラン様はフタナリなのですか?」

 

 「おっふ、ここでその言葉を聞くとは思ってなかったわ。アグネス達が広めたのかしら」

 

 アグネスとはエルフ国を建国したプレイヤーのことで、ギルド”幼女戦記”のギルドマスターでもあったド変態の名前である。

 

 「その通りよ。両性具有って奴ね。ちゃんと子種も出るわよー」

 

 かくかくと腰を揺らすインランは、どこからどうみても痴女で変態だった。こんなところで恥部を曝け出して奇行に走っても通報されたりしないので、それなりにこの町に受け入れられているのだろう。女将も毒され初めているのかもしれない。

 

 「そうですね。まずはお友達から始めましょうか」

 

 「ヒューッ 脈ありね!」

 

 全然脈はないのだが、インランは一人で盛り上がっていた。黙っていれば至高の宝石のような超級の美少女なのだが、その奇行と言動と格好が全てを台無しにしている。法国を追い返した実績がなければ問答無用で通報されていたかもしれない。

 

 「それで、宿泊で宜しいでしょうか?」

 

 「そうね団体で泊まるわよ。今回も一番高くてとにかく広い部屋ね!」

 

 インランがそう叫ぶと、宿屋の入り口に大きな影が差す。

 

 「FOOOOO!! ここがエルフの辺境の宿屋なのですねええ!! うーん、とても至高の御方が宿泊するに足るものではないのですね!!」

 

 「静カニシロ。御方ノ御前ダ」

 

 「……え?」

 

 「ちょっと異形種も泊まるけど、女将とあたしってお友達だし、いいわよね?」

 

 ゾロゾロと宿屋の入り口から入ってくるデカい埴輪に、なんとか入り口を潜り抜けてきた体高2.5mの虫。理解を超えた来客?に女将の思考が停止した。

 

 デカい虫の後ろに隠れるように、オッドアイの超カワイイダークエルフの男装した少女もついて来ている。

 

 回らない頭でノロノロと女将が宿屋の外を見れば、なんか他にも色々いる。

 

 女将は考えることをやめた。

 

 「や、宿代は10倍でお願いします……」

 

 「いいわよ。はいコレ」

 

 ズシリと、大量の金貨が詰まっているのだろう大きな巾着袋が、女将の手に抱えるように握らされた。

 

 

 

 

 

 インランが宿屋に泊まる少し前。

 

 ナザリック地下大墳墓第10階層。ナザリック執務室の中央に置かれたテーブルとソファー。

 

 そこでは対面になるようにソファーに腰掛けたモモンガと埴輪顔が見つめ合っていた。なかなか座ろうとしない埴輪をモモンガが命令して座らせた形である。

 

 「モモンガ様!」

 

 「喋るなぁあああ!」

 

 「ファッ!? どうなされたのですか!? まさかお体がどこか!?」

 

 「だまらっしゃい!!」

 

 インランの超位魔法《星に願いを(ウィッシュアポンアスター)》で肉の体を得た副作用?で精神沈静化が働かないモモンガは、目の前の歩く黒歴史を視界に入れるだけで平静を保てなかった。

 

 「……インランサンノ旅ニ同行シロ」

 

 「え?」

 

 必死に平静を保とうと片言になってしまいながらも、モモンガは目の前の埴輪を追い払う方法を見つけ出した。

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓。玉座の間。

 

 そこには人型、異形を含め、ナザリックが誇る精鋭のシモベ達が集められ、玉座にいるモモンガとインランを跪きながらも仰ぎ見ていた。

 

 「あれよ、あんた等には壊滅的に経験が足らないわ。というわけで、あたしの旅に同行して経験を積みなさい。それと、緊急時にはナザリックに戻れるように転移用の課金アイテムを配るわ」

 

 「なるほど、素晴らしいお考えかと」

 

 モモンガとインランの前に集められた幹部クラスのシモベ達の中で、なんか一人でデミウルゴスが納得していた。怖い。

 

 

 

 

 

 そして現在。

 

 エルフ国辺境の町最大の宿屋。に隣接したバーの中。

 

 「わはははは! ここの酒って不味いけど美味いわね!」

 

 「くぅう! まさかインラン様と酒の席を共に出来るとは! このプァンドラズアクター感激です!」

 

 「同感!同感デスゾォオ!」

 

 「あの、あんまり煩くしない方が、いいんじゃないかなぁと……いえ、なんでもないです」

 

 「マーレ! 至高の御方が楽しまれているのに水をさすつもりなの!?」

 

 「そ、そんなつもりじゃ……」

 

 「くひゅ! あとでインラン様と寝室でしっぽりするでありんす!」

 

 「なんか知んないけど、あんた等いちいち大げさよね!」

 

 ナザリックが誇る最精鋭のシモベ達が、そこそこ広い宿屋のバーの中でごったがえしていた。

 

 現地基準から見ると突然魔王の本拠地が宿屋に出現したようなものなので、店員や女将は店の脇で震え上がっている。

 

 正規の店員が震えているなか、セバスとプレアデスがそれはもう見事な所作で酒とつまみを給仕していった。出しているのはちゃんとこの店に置かれた品である。食料品の持ち込みはマナー違反なので当然だ。

 

 「あれよ! 明日はちょっと法国の陣地を消し飛ばしましょう! インラン様の超絶テクを見せたげるわ!」

 

 酒が入ってべろべろになりながら、インランがさらりともの凄いことを言ってのける。

 

 わっしょいわっしょい!シモベ達もそんなインランを囃し立てるものだからもう止まらない。魔王軍の意志決定機関のトップが言うことに逆らうものなどここには居なかった。

 

 「まぁアグネスはマブダチだしぃ、どうせ肩持つならエルフ達の方よね!わはははは!」

 

 

 

 

 翌日。

 

 エルフ国に隣接した場所に設営されている法国の陣地。

 

 その陣地に向かってエルフ国の方からノッシノッシと進んで来る者達がいた。

 

 「む? ん? 何だ……アレ?」

 

 法国の兵はいずれも精強で、信仰心篤く。その職務に忠実である。

 

 今日も真面目に櫓の上で陣地の周囲を監視していた兵が。真っ先にソレを発見した。よく訓練された前線の兵だった彼は米粒よりも小さなソレを誰よりも先に目視したのだ。

 

 ドスン ドスン

 

 地響きが鳴っているように錯覚するほど、巨大な虫型モンスターが陣地に向かって直進してくる。

 

 ここまでは、まぁ法国としては慣れたものである。モンスター討伐は本業みたいなものだ。モンスターを見た程度で法国の兵はそこまで狼狽えない。

 

 ゾロゾロとデカい虫型モンスターの後ろに、統一感の無い者達がついて来ていた。

 

 明らかに人間種の者もいるので、虫型モンスターを使役しているのだろうか? 櫓の上で兵は一瞬考えたが、職務を思い出すと櫓に備え付けられた鐘をガンガンと叩き鳴らす。

 

 

 

 「まぁ今回は前回の模擬戦の雪辱も兼ねて、コキュートスとあたしで行くわ。あんたらは見てるだけよ」

 

 「有リガタキ幸セ!!」

 

 「「「ははぁ!!」」」

 

 コキュートスの後ろに散らばるように付いて来ているシモベ達に、インランは気楽に命令する。

 

 「ぶっちゃけコキュートス単機で余裕なんだけど、それじゃあ訓練にも経験にもならないから、ちゃんと連携しましょうね」

 

 「カシコマリマシタ」

 

 前回の模擬戦と同じパワードスーツを着たインランは、コキュートスの横に並びながら進む。

 

 「あと、敵陣地の隊長格は生かしておいてね。手足はもいでもいいけど。殺しちゃだめよ。蘇生するのも勿体ないし」

 

 「ハハァ!」

 

 「じゃあ始めましょうか」

 

 インランのパワードスーツの背面から銃器がアームを介して前方にせり出すと、ポンッと擲弾を一発射出した。

 

 擲弾は櫓に命中して凄まじい爆発が起こり、櫓どころか周囲に設置されていた塀を根こそぎ薙ぎ倒した。

 

 「うん、初心者向けのクエストを10年ぶりにやってる気分ね」

 

 ちなみに、インラン達がいるのは敵陣地からまだまだ遠く離れた位置であり、狙った櫓は米粒のように小さく見える。

 

 上空に飛ばしたドローンから弾着観測を行い、地上からは目視出来ない陣地内施設に向けて曲射弾道でさらにポンポンッと擲弾を追加で射出する。

 

 「アノ、私ノ出番ハ」

 

 「おっふ、めんごめんご。ついつい楽しくてね」

 

 既に半壊どころか全壊しかけた陣地を見て、コキュートスが思わず言葉を零した。

 

 「よし、このまま法国に切り込みましょう。まだ他にも陣地がいっぱいあるみたいだしね」

 

 ちょっとコキュートスが不憫になったインランは、追加目標を作ることにした。ちなみに陣地にいた隊長格は先ほどの砲撃でミンチになった。

 

 あと、後衛の有用性をコキュートスに教え込むために、あえてこのようなことを行ったとかなんとか、ナザリック内でデミウルゴスが感心していた。ポジティブマンかよ。

 

 

 

 

 エルフ国にほど近い何個目かの法国の陣地。

 

 「ウォオオオオ!!!」

 

 「ぐわぁあああ!!!」

 

 「ウォオオオオ!!!」

 

 「ぐわぁあああ!!!」

 

 「ウォオオオオ!!!」

 

 「ぐわぁあああ!!!」

 

 最早無表情と化したインランが、目の前で繰り広げられるしょうもない戦のような何かを眺める。

 

 「敵が弱すぎぃッッ!! これじゃ訓練にもなんないわよぉぉ!!」

 

 連携してもしなくても鎧袖一触なので、これはもうどうにもならんね。

 

 ピンチ!ピンチが欲しい!ピンチを連携で切り抜けたい!

 

 ピンチ来てー!

 

 

 ピピピッ

 

 上空のドローンが、高レベルの存在が近づいて来ていることをインランに知らせた。

 

 「ピンチ来たー!」

 

 「!? ドウシマシタ!?」

 

 「喜びなさい、なんかレベルが高いのが法国の方から凄い速度で飛んで来てるわよ」

 

 「ホホウ! 漲リマスナ! 弱イ敵ニウンザリシテイタトコロデス」

 

 

 

 

 「コキュートスとの模擬戦では、殺しちゃわないようにパワーセーブしてたけど、今回はフルパワーで行くわよ!」

 

 地味にコキュートスがその言葉に傷つきながらも、戦意を滾らせ武器を構え直す。

 

 「メタトロンのフレームは伊達じゃないんだから!!」

 

 「OH!?」

 

 その言葉に後ろに控えていた埴輪が両手をYの字に掲げて驚く。彼はその素材の希少性を良く知っていた。纏まった量を手に入れようとしたら世界級(ワールド)アイテムに匹敵する入手難度である。

 

 ということは、あのパワードスーツは世界級(ワールド)アイテムに匹敵する希少性があった。

 

 というか、その素材は当ギルドでもほとんど入手出来ず、敬愛する創造主を含めギルドメンバーにも泣く泣く使用を断念した者が多数出たほどらしいが、いったいインランはそれだけの量をどうやって手に入れたのだろう? 埴輪は明晰な頭脳で悩む……までもなく答えに行き着いた。

 

 「むっ、そうかあんたは分かってるのね! そうよ! 鉱山から出た奴を国庫に入れずにあたしのポケットにちょっとだけちょろまかしたのよ!」

 

 ちょっとじゃないだろソレ。埴輪は口には出さないが内心そう思った。あまりの極悪ぶりに埴輪は震える。さすがは至高の存在であると。

 

 「というわけで、多分世界にあたしだけしか持ってない混ざり物なしのメタトロン製のパワードスーツよ! その性能を見せてあげるわ! コキュートスは模擬戦で手を抜いてゴメンね!」

 

 「イ、イエ、気ニシテナドイマセンノデ……」

 

 プルプル震えながらもコキュートスは気丈に返す。

 

 ちなみに転移直後のモモンガとの精子を賭けたガチバトルでこのパワードスーツを使わなかったのは、世界意志(ワールドセイヴァー)があったからである。

 

 

 

 キラキラとインランの体から金色の神気が粒子となって溢れ出す。

 

 インランの発する神気に反応し、着込んだパワードスーツのフレームが金色に発光し、金色の粒子を装甲の隙間から噴き出しながら唸りを上げた。

 

 「あはははは!!! ワールドエネミー……とのタイマンは無理だけど、弱くて相性の良いレイドボスぐらいならなんとかなるスペックを見せたげるわ!!!」

 

 完全に虎の威を借る狐状態のインランが、着込んだ虎の衣の秘めた力を解放していく。

 

 ギルドメンバーの涙を吸い取って力を得たパワードスーツが真価を発揮しようとしていた。涙の数だけ強くなる。(血涙)

 

 

 

 

 

 漆黒聖典の隊長は、ソレを見て思わず口を開く。

 

 「なんだアレは、虫か?」

 

 「それに変な格好をした途方もなく美しいお嬢さんですね。キラキラと光っていてさらに美しいです」

 

 「その後ろの団体さんも全く統一感がないな。今まで見たこともないような奴らばかりだ」

 

 《飛行(フライ)》のマジックアイテムで現場に急行していた漆黒聖典のメンバー達は、優れた視力で目標を目視した。

 

 エルフ国に隣接した前線の陣地がひとつ消し飛ぶくらいならば、漆黒聖典が出張ることはない。

 

 問題なのは、陣地を潰した敵がなおも法国に向けて途中にある陣地を消し飛ばしながら、もの凄い速度で進撃していることである。さすがに不味いということで法国の切り札たる彼らが多忙の中でも駆り出されたのだ。

 

 あと少しで接敵というところで、隊長が空中で急制動をかけて滞空する。他の隊員達も隊長に合わせて空中で止まった。

 

 「ちょっと待て、俺はアイツ等に見覚えがあるぞ」

 

 「何? 隊長、どういうことだ。説明を求める」

 

 大盾を両手に持った大男が、年端もいかない少年の隊長に催促する。

 

 「いつだったか、あの少女を見た覚えがある。それに後ろにいる奴らも…… ちっ、思い出せないな」

 

 「なんだそれは、ちゃんと説明してくれ。曖昧な情報は任務遂行の妨げになる」

 

 「うーん、確か……神都の宝物庫で見た……覚えがあるんだが、そこまでしか思い出せない」

 

 「……神都の宝物庫、ということはまさか神が関係してるのか?」

 

 「かもな」

 

 「確かにあの奇抜な格好と統一感のなさは、神に通じるものを感じますね」

 

 「破竹の勢いで進軍してる実力も神の関係者ならばむしろ当然か。しかし、神が関係してる可能性が僅かでもあるなら我々には迂闊に手が出せないじゃないか。隊長、お前が判断してくれ」

 

 両手に巨大な盾を構えた大男が、隊長である少年に判断を促す。周りに対空した隊員達も警戒しながらも隊長の判断を待っていた。

 

 「とりあえず対話を試みよう。向こうの意志を確認しないことにはこちらも動けない」

 

 周囲の隊員が頷き、漆黒聖典は風のように目標へと空を駆けていく。

 

 

 

 

 

 空からやってきた集団は、インラン達の目の前に両手を掲げて降りてくる。攻撃の意志がないことを示しているらしい。

 

 「こちらに攻撃の意志はない! 貴殿達が何者なのか教えて頂きたい!」

 

 黒髪の中々の美少年が先頭に立ち、両手を上げたまま声を張り上げて問うてきた。

 

 「えぇ、なんて答えればいいのかしら?」

 

 臨戦態勢になった獣型のパワードスーツを着て仁王立ちしながら、インランは若干困惑気味に呟いた。

 

 インランはこの世界で自身を定義する言葉をまだ持っていなかった。エルフ国ではキャラバンの護衛で通しているが、さすがにこの場には適していないだろう。

 

 

 

 スッとコキュートスが、インランと目の前の少年との間に護衛として立とうとする。守護者の本能みたいなものである。

 

 だが、インランは退くように促した。

 

 「コキュートス、邪魔よ」

 

 「アッハイ……」

 

 実際今の状態なら不意打ちを食らってもほぼ問題ない。インランの経験も技量も、ギルドメンバーの涙で出来たパワードスーツの性能もそんなにヤワじゃないのだ。

 

 ユグドラシル時代にも似たような状況になったことは沢山ある。

 

 「んー、迷子かしら?」

 

 「迷子とはどういう意味であるか、もっと具体的に教えて頂きたい!」

 

 なんかやたらとピリピリした雰囲気で、少年がさらに質問してくる。

 

 「いや、なんか気づいたらこの世界に居たっていうの? まぁ、こんな話しても意味ないわよね」

 

 凄い剣幕で少年が聞いてくるので、インランも思わず本音を喋った。

 

 こんな意味不明なことを言ってもふざけてると思われるのがオチだろうと、インランも自分の言ったことに苦笑している。

 

 「それは本当でしょうか!? もっと詳しく教えて頂きたい!」

 

 「ファッ!? 近い!」

 

 ヌルリと、少年がインランに接近してきた。敵意が全くなかったのでインランは反応できなかった。

 

 「無礼者ッッッ!」

 

 「バカッ止まれ!」

 

 瞬間的に激昂したコキュートスがインランに止められていたことも忘れて少年に斬りかかろうとしたので、インランは思わずスーツの腕部に内臓された衝撃砲をコキュートスに向けてぶっ放した。思考とスーツが直結しているので思ったことをAIが汲み取ってそのまま実行してしまう。緊急時にタイムラグなく反応出来るのは利点だが欠点でもあるのだ。

 

 まさか守ろうとしたインランに攻撃されるとは思っていなかったので、衝撃をモロに喰らったコキュートスは巨体に見合わない速度で砲弾のように吹っ飛んでいく。

 

 「グハァッ!」

 

 「あ、ゴメン」

 

 「も、申し訳ない! 敵意はないのです! 信じて頂きたい!」

 

 「あーまぁ、分かるわよ。反応ないし」

 

 敵意を感知するパッシブスキルの『敵感知』にも反応がないので、欺瞞用アイテムでも使っていない限りはこの少年の言っていることが本当だというのがインランには分かった。

 

 両手を上げたまま振り回して謎のダンスを踊る少年が可愛い。ちょっとインランのイケない扉が開きかけた。

 

 「そ、それで! 突然この世界にやってきたとか!?」

 

 「お、おう、そうよ」

 

 なんでこんなファンタジーな話にこの少年は食いついてくるのかとインランは困惑する。そして、あ、この世界ファンタジーだったわ。と納得した。

 

 「そうですかそうですか! 是非もっと詳しいお話を伺いたいので、また会う機会を作れないでしょうか?」

 

 「え? あのさぁ、多分あんたら法国のなんちゃら聖典よね? あたしら結構暴れてるけど、いいのかしら?」

 

 「え、ああ! そうですね! それはお互いの悲しいすれ違いということで、是非また話し合える機会を頂きたいのですが!」

 

 そこに、何かやたらと渋いイケボが響き渡る。

 

 「いや、今話しましょうか」

 

 

 

 

 ずもももも、真っ黒い絵の具のような物が円上に地面に広がると、そこから浮かび上がるようにこれまた真っ黒いローブを纏った黒髪の青年が出現する。

 

 「おおう、来たのね」

 

 「こういった重要な話には俺も呼んで下さいよ」

 

 インランが聞いたこともないような、凄まじく渋いボイスでモモンガは言葉を返した。

 

 「あんた誰よ?」

 

 「うおっほんぅぅぅ!! 我が名はモモンガ、そこのインランと一緒にギルドを組んでいるものです。それで話し合いたいことがあるとのことですが?」

 

 「は、はい! 是非話し合いの場を設けて頂きたく!」

 

 「いいでしょう。それで、いつどこで行いますか?」

 

 「そ、それは、誠に申し訳ないのですが私の一存では決めることが出来ません。私共が法国の神都に一度戻り、このことを伝えて、神官達と決める必要があるでしょう」

 

 「ふむ、ではコレを使って、決まったら連絡して下さい」

 

 モモンガは2冊の紙のノートを取り出すと、1冊を少年に手渡す。

 

 「これは?」

 

 「ペアリング…… コレは遠方同士で意思疎通出来るマジックアイテムでして、その紙に書いたものは、対になるコチラの紙にも同じものが浮かび上がります」

 

 モモンガは手元のノートを開くとサラサラと万年筆で絵を描いていく。

 

 「おお!」

 

 少年が渡されたノートを開いて眺めていると、触れてもいないのに独りでに絵が浮き出るように現れた。モモンガの手元のノートと比べれば寸分違わず全く同じ絵である。ちなみにパンドラズアクターが来ている軍服が描かれていた。

 

 「会談の日時や場所が決まったら、このマジックアイテムに書いて知らせて下さい」

 

 「こ、こんな素晴らしいマジックアイテムをお貸し頂けるとは! その誠意に感謝します!」

 

 「いえ、それはさし上げますよ。あと紙は自動的に補充されますから理論上ほぼ無限に使えます。今後も良いお付き合いが出来るようにという、友好の証だと思って頂ければ」

 

 「ありがとうございます! 必ず法国にこのことを伝えます!」

 

 非常に感激した様子で、少年は他の隊員を連れて法国の神都へ向けて飛び立っていった。

 

 

 

 「なんか凄い不完全燃焼なんですけど」

 

 ゴウゴウと神気である金色の粒子を全身から間欠泉のように噴き出しながら、インランが不満タラタラな顔で文句を述べる。

 

 「そんなことより鉱山からちょろまかした件について話がある」

 

 「ファッ!?」

 

 インランが見たモモンガの顔は、なんかもう筆舌に尽くしがたいほど怒りに歪んでいた。

 

 ピンチ来た。

 

 

 




 メカ書きたいんだよ。メカ。エロ。メカ。エロだよ。どっちも男の浪漫ジャマイカ。

 もしも当時インランが超希少金属を鉱山から大量に抜いてたのがバレてたら普通にギルド内裁判からの制裁及び追放も十分ありえた件。リアルカルマ値極悪にギルメンも開いた口が塞がらない。
 まぁその分ギルドのために精力的に活動してたからね。毟り取った資源を使ってな!HAHAHA!!
 ま さ に 外 道 ! !

 ちなみにパワードスーツのフレームは100%メタトロンで、装甲材もそれに劣らないレア素材を国庫から毟り取って使ってます。

 どこからかユニコーン!て叫びが聞こえてきそう。

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