異世界転生すると美少女になれるって本当ですか!?   作:DENROK

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11,12,2018
前半部分加筆修正


第5話:模擬戦(初心者狩り)

 

 

 濃厚な青臭さに包まれた森の中に聳え立つ、巨大な円形闘技場。大木で形成された森から顔を出すような巨大な建造物。第六階層は広大な空と大地の世界だが、原生林のような鬱蒼とした森の中に無骨な石造りの巨大建造物が存在するのは異様さを放っていた。

 

 闘技場の中から見上げれば、天井は丸くくり抜かれたように存在せず、まるで空を切り取っているかのようである。そんな天井から差し込む強い日差しを受け、闘技場の中心で佇むインランの背負い纏う衣の色彩が映えた。

 目を楽しませる鮮やかな色を纏うインランは、その美貌も相まってとても絵になる。ただしそのシルエットはとても少女のそれではない、直線を多用した装甲板と機械で組まれた大型の獣、それも肉食獣を連想させるものであった。

 

 最初は鼠色であった装甲材が瞬く間にビビットな色合いに変化する様はカメレオンの様である。普段は裸同然の姿のインランが、今は胴体の前面と顔を覗くほぼ全身に鮮やかな装甲を纏っていた。四肢は装甲された機械の四肢で大幅に延長され、脚に関しては関節が一つ増え、まるでカンガルーのような関節構造になっている。

 

「フェイズシフトに電力回すから、まぁ、あんまり出力は出ないわよ。ハンデも兼ねてメインの動力はほとんど眠らせてるからね」

「手加減ガ必要ナノデショウカ?」

「必要ないと思わせてくれたらすぐにやめるわよ。でも、実戦に関しては童貞同然のあんたには必要だと思うわよ?」

 

 コキュートスの擦れた男の声に対して、インランの声は甲高くも愛らしく幼さを残した少女のそれ。傍目には子供が目上に対して不遜な態度を取っているようにも見えたかもしれない。だが少女の声の中には嘲るような雰囲気は欠片もなく、ただ当たり前の事実を淡々と述べている冷たさがあった。

 

「装甲だけ手を抜かないのは、あんたは火力だけはあるからね」

 

 インランが纏っている装甲に包まれた義肢はなお目まぐるしく鮮やかに彩られていく。ペンキを塗ったようなマットな質感と色を纏っていく装甲がほとんどな中で、四肢の先端だけが金属質な光沢を持って黄金に発光していた。

 

 

 

 全身が機械で構成された獣は、生物のように生々しく体を動かす。それを二人羽織のように這おう少女も当然同じように動き姿勢を変えた。四つん這いに四肢を投げ出し踏ん張る様は力を溜めた虎を連想させる。

 インランの背面はほぼ装甲に覆われているため、正面で対峙するコキュートスからは機械の獣の姿より強く強調された。工業製品の様に鮮やかな消費者の目を惹きつける色彩を持った機械製の獣がコキュートスに立ちはだかる。

 

「それで、コキュートス、そっちの準備はオッケーかしら?」

「ハイ、イツデモカマイマセン」

 

「そういえば、今あたしが使ってるフレームって近接用なんだけど。なんなら後でコキュートス用に一機カスタムして生産するのも良いかもね」

「アリガトウゴザイマス!」

 

 仕える至高の存在から武具を賜るのは、武人の気質を有するコキュートスには史上の喜びである。

 

 

 

「このフレームは近接戦用だから、コキュートスの相手には丁度良いでしょう。模擬戦の結果を見てフレームの動作に問題がなかったら、後でコキュートス用に1機カスタムしたのを生産してあげてもいいわ」

 

「アリガトウゴザイマス!」

 

 インランと相対するコキュートスは、4本の腕に己の誇りでもある最高の武器を持ち臨戦態勢を取っている。

 

「同レベルでのタイマンは初めてよね?気楽にいきましょうよ」

 

 フシュフシュと冷気を口から吐き出すコキュートスをパワードスーツのセンサー越しに見て、インランは苦笑した。

 

 戦意に満ちあふれているのは分かるのだが、ちょっと心に余裕がなさすぎるように感じたのだ。

 

 スーツが解析したコキュートスのステータスは『高揚』となっている。凄く気分が盛り上がってるらしい。

 

 まぁほとんど初めての実戦だし無理もないだろう。インランの記憶する限りではコキュートスが初めて戦場に出たのはプレイヤー1500人のギルド拠点に対する大進行への迎撃だったが、カンストプレイヤー達にタコ殴りにされてしまったのでマトモな実戦経験的な意味ではほとんどゼロかもしれない。

 

「全力ヲ尽クシマス!」

 

「そう」

 

 凍てつく体の内に燃える闘志を秘めたコキュートスに対して、インランは冷ややかに返した。

 

 

 

 

 

 模擬戦開始の合図を受けて、コキュートスが刀を振るうと、剣先から斬撃が飛び出す。

 

 インランは放たれた牽制の斬撃を前方に鋭く跳躍しながら体を捻り紙一重で躱すと、そのままの勢いでコキュートスに距離を詰めた。

 

「シッ」

 

 返す刀でコキュートスがインランの突進を迎えうつ。

 

「ふおっ」

 

 転移後の慣れない身体能力に振り回され気味なインランは思わず声を上げてしまう。

 

 だが、スーツ内臓のAIがインランの動きを補助してコキュートスの刀を腕部のかぎ爪で弾き返した。

 

 コキュートスの残った3本の腕の武器がインランに殺到する。

 

 インランは下から掬い上げるようにに切り上げてくる武器にスーツの足のかぎ爪を合わせて、───迫る2本の武器をAI制御の回避姿勢で上手いこと避けながら───反動を利用することで一気に後ろに跳躍して距離を取った。

 

「うーん。生身だったら切られてたかしら? もしかしするとAIの方が強いかもね」

 

「ゴ冗談ヲ」

 

 武術的なリアル側のプレイヤースキルによる近接戦はインランはそれほど得意ではない。それでも、並のプレイヤー相手ならばそこまでPvPで足枷になるほどではなかった。

 

 そもそも武術をしっかり習っているかどうか等のリアル側のスキルが、それほどゲーム内での戦闘力の差に出ないように、ユグドラシルのゲームシステムは組まれている。リアル側の武術経験などがPvPに影響するのはワールドチャンピオンを決める大会などの近接職のトッププレイヤー同士の戦闘に限られる。

 

 だが、今コキュートスと一瞬だが斬り合ってみて、頭が体についていかない感覚をインランは感じていた。

 

「丁度いいわ。肩慣らしに付き合って頂戴!」

 

「喜ンデ!!!」

 

 コキュートスは武器を目の前でクロスさせて力強く答えた。

 

 

 四つん這いになっているパワードスーツの背部から銃器が飛び出しアームを介して前方にせり出すと、コキュートスに銃口を向ける。

 

 機体重量と四肢の駆動による反動制御によりスーツは僅かに身じろぎするだけで、大質量の擲弾がポンポンと射出された。

 

「ヌッ! フッ!」

 

 コキュートスは2本の腕を使い最小限の動きでそれぞれの擲弾を斬り飛ばす。切断された擲弾は後方へと巨体をすり抜けるように飛び。コキュートスの背後で地面に当たると凄まじい爆発が起こる。

 

「あー、そういうところはゲームなのね」

 

 物理的には切り払っても意味はなさそうだが、弾丸の切り払いは立派な近接職の防御スキルである。ゲームでは切り払われた弾丸は切り払った対象への当たり判定を消失するのだ。

 

 インランは銃をスーツの背部に収納すると、踏みしめた地面を吹き飛ばしてコキュートスに向けて再び低く跳躍した。

 

 コキュートスは腕を2本伸ばして手にした武器でインランの突進しながら振るわれたかぎ爪を受け止める。

 

 2.5mの体格を持つコキュートスの膂力は火力特化のステータス振り分けもあって、インランが纏っているパワードスーツである巨大な金属の獣の突進を受けても揺るがない。

 

 コキュートスはそのまま残った2本の腕に握る武器を、パワードスーツの装甲が覆っていない部位、インラン本体のパーカーしか纏っていない柔らかそうな腹部に突き立てようとした。

 

 ガキンッ

 

「ナント!?」

 

 だが、突き立てた刃先はいかにも柔らかそうな素材で出来たパーカーに弾かれる。

 

「あ、外装統一って知らなかったっけ? 非表示にしてるけどちゃんとあたしは鎧を纏ってるのよ?」

 

 それも世界級(ワールド)アイテムの鎧である。神器級(ゴッズ)アイテムの武器でもそうそうダメージを与えることは出来ない。

 

「まぁ、今のあたしの装備はかなり特殊だからね。そうそう相手にすることはないから安心しなさいよ」

 

「クッ! ナラバ!」

 

 コキュートスは目標をインランが纏っているパワードスーツの方に変える。

 

「倶利伽羅剣!!」

 

 コキュートスは、スキルを乗せた斬撃をコキュートスとの取っ組み合いで今も踏ん張っているパワードスーツの脚部に向けて放つ。

 

 倶利伽羅剣は攻撃対象のカルマ値が低いほど威力が上がる特性がある。地味にカルマ値が低いインランに向けて放つにはおあつらえ向きなスキルである。

 

「バリアー!! うぉぉお、危ないわねー!」

 

「ヌゥ!? コレモ効カナイノカ!?」

 

 パワードスーツはインランの思考と同期しているので、別に叫ぶ必要はないのだが、スーツの表面に幾何学模様の発光する半透明な膜が広がり、コキュートスの倶利伽羅剣を弾く。

 

 バリアーはスーツの機能として日に2回だけ使えるスキルで、効果はあらゆる攻撃から一定時間の完全防御である。だが、回数制限について知らないコキュートスはこれでスキルを無駄うち出来なくなった。

 

「いやいやいや、このスーツすんごく高いんだから傷を付けたくないのよ」

 

 足1本もげても修理費用がえげつないことになるので、インランは冷や汗を流していた。火力特化のコキュートスの大技をマトモに受けるのはヤバい。

 

「あ、別に気を使わなくてもいいからね。全力で来なさいよ。むしろあたしやスーツにマトモな傷をつけられたら褒美をあげるわ」

 

「分カッテオリマス!」

 

 取っ組みあいながらなかなか暢気な会話だが。コキュートスは次の手を決めあぐねていた。

 

 掴み合う間合いはコキュートスの得意な剣術の間合いよりもいささか近すぎる。武器に力が乗らずスキルの乗らない攻撃では、インラン本体にも纏うパワードスーツの装甲にも弾かれてしまい決定打にならない。

 

 先ほどの倶利伽羅剣も存分に力が乗っていなかった。他の大技の攻撃スキルである不動明王撃(アチャラナータ)などは完全に間合いが合っていないので、このままではマトモに当たらない。

 

 端的にいってインランは硬すぎた。有効打を与えるにはコキュートスが存分に刀を振るえる間合いに持ち込むしかなさそうだ。

 

 まぁ、そのことをインランが良く理解しているので(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、こうして取っ組み合いになっているのだが。相手の得意な土俵で戦うのはユグドラシルプレイヤーとしては3流以下である。

 

「グヌゥッ」

 

「あら? 不満そうね。まさか近接戦だからって自分の得意な間合いで戦えると思っていたのかしら?」

 

 今もコキュートスの2本の腕をスーツの前腕で力任せに押さえつけながら、インランが見下すように笑う。物理的な目線としては見上げているのだが。

 

 

「可哀想だけど、あんまり手加減はしてあげないわよ」

 

 インランのその言葉がコキュートスの闘志に火を灯した。

 

「ヌゥアアアアアアア!!」

 

 常時発動していたフロストオーラとは異なるスキルを発動し、それまでとは比較にならないほど莫大な冷気がコキュートスから発散され、インランの纏うパワードスーツの表面がピキピキと氷ついていく。

 

 インランのスーツの動きが目に見えて鈍ると、その隙にコキュートスはパワードスーツと握り合っていない2本の手から武器を手放して、パワードスーツを抱えるように力任せに持ち上げると斜め後ろに向かって体を捻る力を加えて投げ飛ばした。

 

 

 

 

 ゴロゴロと地面を転がったインランは二足で立ち上がる。

 

 地面に立った力の抜けた大の字のような姿勢になると、インランをパワードスーツに固定していた部位が音を立てて外れ、インランは直立するパワードスーツから地面に降り立った。

 

「あー、慣れないことはしない方が良さそうね」

 

「!? ヌゥッ」

 

 インランの乗っていないパワードスーツが、直立した姿勢から四足歩行の状態になると動きだし、スーツ自体が自律行動を始める。

 

 スーツ自体がロボット兵器としてAIによる単独行動が可能なのだ。ギルドの国庫からモモンガが禿げ上がるほどの、───マトモなギルドなら個人での使用を絶対に許さないレベルで───ありえないほどの超々希少素材をふんだんに使ったスーツは単独でもスペックはレベル100に届く。

 

 相手が2体に増えたが、コキュートスは4本の腕を巧みに操りそれぞれを相手取ろうとする。

 

「餅は餅屋ってね。近接はやっぱりAIに任せるわ」

 

「キュルルルルル!!」

 

 スーツが威嚇音を発しながら、インランとコキュートスの間に壁として立ち塞がり、インランにコキュートスが近づくことを阻止しようとした。

 

「あら、可愛いわねコレ」

 

 健気なスーツにインランは思わず感想を述べる。

 

 その間にも、インランはアイテムボックスから抱えるほどの大型ライフルを取り出している。

 

「ここからはあたしは中距離戦でいくわよ。頑張ってね」

 

 スーツとコキュートスが睨み合っている中で、インランは気楽に言葉を発して大きく後ろに跳躍した。

 

「グッ。望ムトコロデス!!」

 

 単独行動しているパワードスーツは、猫科の獣のように前傾姿勢で四つん這いになったままインランとコキュートスの間の位置から動かない。

 

 これを好機と捉えたコキュートスは、ここぞとばかりに自身が持つ最大の大技コンボを繰り出す。

 

不動明王撃(アチャラナータ)!! ッッッ俱利伽羅剣!!」

 

「ッッキュルル!!」

 

集団転移(マス・テレポーテーション)

 

 パワードスーツは不動明王撃(アチャラナータ)をあと1回だけ使えるバリアーで防ぐ。

 

 その後、バリアーが消えるのに合わせて、コキュートスが俱利伽羅剣を叩き込んだ。

 

 だが、インランは魔法の転移(テレポーテーション)を使って自身とパワードスーツを攻撃の当たらない位置に瞬間移動させ、コキュートスの俱利伽羅剣を回避する。

 

「ちょっとテレフォンが過ぎるわよ。まぁ実戦経験の乏しい近接職ひとりじゃこうなるわよね」

 

「ヌゥ!! ココマデヤリ辛イトハ!!」

 

 当たるのであれば、コキュートスの攻撃は十分通用するのだ。だが、インランは攻撃をマトモに当てさせない。

 

「あたしと戦うのはめんどくさいだろうけど、ギルド長はもっとめんどくさいわよ。今のうちに慣れておくことね」

 

 彼我の戦力を徹底的に研究し尽くして、得意技を封じ込めることにかけてはモモンガは卓越していた。

 

 戦っていてストレスが溜まる相手としてはモモンガはユグドラシルでもトッププレイヤーである。モモンガだけでなく、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーは一部を除いて、どれもいやらしい戦い方をするので、それがヘイトを集めてDQNギルドと罵られる理由のひとつになっていたのかもしれない。

 

「せいぜい、仲間と連携する重要性を身に染みて理解できるようになるまで、ほどほどに痛めつけてあげるわ」

 

 優秀な前衛と後衛が揃えば出来ることは一気に増えるのだ。コキュートスも仲間と連携出来れば、シナジーが生まれて非常に優秀な前衛となるだろう。

 

 まぁインランは後衛というよりも、後衛も少しこなせる中衛よりの前衛という中途半端なビルドなのだが。強豪ギルドの国庫を利用して無理やりこのビルドを成り立たせていた。モモンガは泣いていい。

 

「……胸ヲオ借カリ致シマス」

 

 さすがにコキュートスも自身の置かれた立場がほんの僅かだが理解出来てきた。前衛の自分だけでは実戦では大して役に立たないということが。

 

「存分にあたしの美乳を借りるといいわ!」

 

 仕切り直しとばかりに、コキュートスとパワードスーツが相対し、パワードスーツの後ろに隠れるようにインランが踏ん反り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 闘技場の観客席には、2人と1機の戦いを眺める面々が居た。

 

 モモンガと幹部クラスのシモベ達である。

 

 戦いを眺めるシモベ達の表情はとても暗いものだった。

 

「ここまでとは……」

 

 デミウルゴスは手で額を抑えていた。実質2対1とも言えるが、まさか実戦で1体1での戦いを望めるなどとは、ナザリックの軍師を担うデミウルゴスは当然考えていない。ナザリックを文字通り守護する大役を担っている守護者が、敵がひとり増えた程度で歯が立たなくなるのは論外である。

 

 それに召喚系モンスターを壁役にする者はユグドラシルでは珍しくもないのだ。

 

「いや、まぁ、うん。コキュートスは実戦経験も少ないしな。初戦はこんなものだろう」

 

 ”初戦は”が”所詮は”に聞こえてしまい、モモンガの周りにいたシモベ達は胸がスッと冷える思いである。

 

「至高の御方が相手なので当然ともいえますが、それでも守護者がこうも手玉に取られるようでは、存在意義がありませんわ」

 

 コキュートスとインランの模擬戦を観戦していたこの場に集った守護者達のうち、守護者統括としてシモベを纏めあげる立場であるアルベドが忌々しいとばかりに吐き捨てる。

 

「守護者統括殿の仰る通り。これは由々しき事態です」

 

 キリッとした顔で、デミウルゴスも後に続いた。

 

「まぁな。経験のないレベル100なんて、プレイヤーにとっては何の驚異にもならないことがこれで分かったわけだ」

 

 肉のついた顎に手をやり、モモンガは考え込むように唸る。

 

「これは定期的に模擬戦が必要かもしれないな。同レベル帯の相手をする経験が必要だろう。幸い。ここには熟練のプレイヤーが二人もいるんだ。暇を見て俺も模擬戦を行おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓第10階層。

 

 ナザリック執務室の中央に置かれたテーブルを囲むように置かれたソファーに、支配者2人の姿があった。

 

「いやー、うん、弱いわ!」

 

「ですねぇ」

 

 ソファーに座って寛ぎならインランが発した言葉に、同じく対面のソファーに腰掛けたモモンガが追従する。

 

 給仕として侍るメイド達は、その言葉を聞いて卒倒しそうな心境だった。

 

「火力はあるけど、それだけじゃ意味ないわよ」

 

「まぁ、知識がないとまず勝てないのがユグドラシルですからね」

 

 実際コキュートスの最大火力ならば、インランを倒すことは不可能ではない。はずである。

 

 まぁ全身世界級(ワールド)アイテム装備のインランを殺しきれるかというと、モモンガもちょっと、いやかなり自信がないが。

 

 それでもコキュートスならば、十分な手傷を負わせることは可能なレベルだ。レベル100の火力特化のステータスは侮れるものではない。

 

 しかし、よく切れる刀剣も達人が使ってこそ意味があるわけで、プレイヤーとの戦闘経験が皆無で、相手の装備に関する知識もほぼ皆無なコキュートスは、そのせいで限りなく勝率が低くなっている。

 

「あたし100回やっても100回勝てる自信があるわ」

 

「それは俺も同感ですね」

 

 経験の差はそう簡単に補えるものではない、例え前回とは装備を全く変えて挑んでも、インランは勝ち続けるだろう。それはモモンガも同じである。

 

 サービス終了まで10年以上遊び続けた廃人プレイヤーの技量も経験も半端なものではないのだ。

 

「逆に考えましょう。どうやったら勝たせられるかしら?」

 

「う、うーん。ひたすら経験を積むしかないんじゃないですか?」

 

「現状だと、よっっっぽど貧弱な装備をこちらが選択しない限りは、守護者達が勝つのは無理じゃない?」

 

「そうですねぇ、シャルティアあたりは俺は相性最悪ですから、装備次第では負けそうですね」

 

「あぁ、モモンガキラーねそういえば。でもシャルティアも戦闘経験が全くないから、舐めプでもしない限りはギルド長が勝つでしょ」

 

「ですねぇ。いやー、どうしたものか」

 

「やっぱり地道に模擬戦かしら」

 

 支配者達は頭を捻る。

 

 

 紅茶の香りを楽しみながら、インランが何の気なしに言葉を発した。

 

「逆に考えてもいいんじゃないかしら、守護者が弱くてもいいやと」

 

「いやいや全然良くないですよ」

 

 ぶんぶんと手を顔の前で振りながらモモンガがインランの言葉を否定する。

 

 それに対してインランは胸元が開いたパーカーの上からむにむにと自身のおっぱいを下から両手で掬い上げて口を開いた。

 

「いや、あたしセックス出来ればそれでいいし。満足だし」

 

「ぶっちゃけましたね。しかし外部からナザリックへの攻撃があったときに、防衛戦力が機能しないのは困りますよ」

 

「でも外部というか、この世界は雑魚しかいないんでしょ? 別にこのままでもいいんじゃないかしら?」

 

「いや、ドラゴンとか、プレイヤーっぽい影とか、強者も色々いるみたいですよ。デミウルゴスの報告書に載ってました。というかエルフ国の始祖はプレイヤーってインランさんが調べたんでしょ?」

 

「そっかー、プレイヤーが来たらめんどいわね」

 

「めんどいというか場合によっては破滅しますよ。もう全盛期のギルドじゃないんですから」

 

「せめてたっちゃんとウルちゃんが残ってればねー。ギルドの戦力は安泰だったのにねー」

 

「はぁ、なんで皆辞めちゃったんだろう……」

 

 ずもももと暗黒のオーラを背後にモモンガが背負い出す。オーラに押されて侍っていたメイド達がくらくらし始めた。

 

「ちょっと、オーラ切りなさいよ。危ないでしょ」

 

「おっと、ついつい絶望してしまいました。ははは……」

 

 暗い顔のモモンガを見て、インランはメイド達にお菓子を持ってくるように伝える。

 

 給仕されてきた巨大なホールケーキに舌鼓を打ちながら、支配者二人の会話が再び始まった。

 

 しかし、余りにも美味い食べ物を口に含むと自然と体が反応して頬が緩んでしまう。2人ともリアルでは懐事情は異なるがこのケーキに比べれば散々なものしか口にしたことがないのだ。

 

「あふぁ…… ひたが蕩けりゅ…… まぁね、リアルで逞しく生きているならギルメン達のことはそれでいいじゃない」

 

「うまひゅぎりゅ…… ウルベルトさんは元気でやってるかなぁ」

 

「大丈夫よ、仕事斡旋してあげたし、強かな人だから元気に生きてるわよ」

 

 紅茶を何杯も飲み終えた頃。脱線していた話が戻ってくる。

 

「んじゃあまぁ、対プレイヤー用の模擬戦を今後もあたし達がやってあげるしかないわね」

 

「そうですね」

 

「あと、新しい装備を作りたいんだけどいいわよね?」

 

「うへぁ。またですか、ギルドの国庫に手を付けすぎですよ」

 

「いいじゃない、41人で集めた資源を2人で食いつぶしたって減りゃしないわよ。それに今は多少は資源確保のアテもあるし?」

 

「それがなかったらまず許可なんて出さないですよ。当たり前じゃないですか」

 

 苦々しげに苦言を呈しながらも、モモンガはテーブルの上に用意されていた砂糖の塊のキャラメルを口に含んで、口の中の苦みを中和した。

 

 

 

 

 それから暫く時間が経った頃。

 

 モモンガがインランに呼ばれたので顔を出せば、そこには今モモンガが最も顔を会わせたくない存在が居た。 

 

「パンドラ! なぜパンドラがここに……逃げたのか? 宝物殿から自力で脱出を!」

 

「モッモォオオオンガ様! ご機嫌麗しゅう!」

 

「麗しくねーよ!」

 

「むふー! 宝物殿から出られないのは可哀想でしょう?」

 

 ドヤ顔インランちゃんがウザイ笑顔で隣の埴輪顔の肩を叩く。

 

「ファッ!? やっぱりあんたが原因かー!」

 

「いや、素材を取りに行くついでに出してあげたのよ」

 

「その海よりも深い母の如き慈愛に感激するばかりです! 母上と呼ばせていただきたい!」

 

「むふー! あたしがママよ!」

 

 目の前で繰り広げられる三文芝居に、モモンガは頭痛が痛いと意味不明な叫びを上げた。

 

 

 




メカ書きたい
メカ出したい

ヴェルキュリアの失墜という合法的にメカ要素を出せるアップデートマジ神アプデ

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