異世界転生すると美少女になれるって本当ですか!?   作:DENROK

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グロ注意 原作改変もあるので注意


第4話:ドキ! 水着だらけのエルフの国! ポロリもあるよ!

 

 

 

 執務室の空気は張り詰めていた。

 この場にいる二人の支配者が、気迫を漲らせていることが原因である。

 

 一人は可愛いという要素を極限まで煮詰めたような美少女。

 艶のある長い黒髪はツインテールとして束ねられている。

 服装は全裸の上にたった1枚のパーカーのみ。

 肉感的な体付きでありながら華奢な印象も与える絶妙なプロポーション。

 エメラルドの瞳が輝く顔は、人の美しい部分のみを切り取ったように異常に整っており、溢れるような愛嬌を見る者に感じさせる。

 もう一人は、全ての光を呑み込む漆黒のロープに身を包んだ青年。

 黒髪黒目であり、その闇色の瞳には強い責任感が宿っている。

 今は肉体を得たため、ローブの下には上質で肌触りの良い衣服を着用して肌を隠している。

 

 「おぱい」

 「おぱ? おぱー」

 「お? おっぱ?」

 「おぱおぱぁ」

 「おっぱい!」

 

 二人が本気で気力を漲らせてその言葉を発すると、まるで言葉に命が宿ったかのような躍動感が単語に生まれる。

 二人はしばらくその単語を言い合い、耳を研ぎ澄まして相手が発する言葉にも神経を集中していた。

 

 「ふぅ、おっぱい言語は翻訳されないみたいね」

 「デミウルゴスが調べたところでは、この世界は勝手に話し言葉が翻訳されるらしいんですけどね。おかしいなぁ?」

 「おっぱい! どう? ちゃんと翻訳された?」

 「いえ、おっぱいとしか聞こえませんでした」

 

 真剣な表情でナザリックの二人の支配者が、至高の叡智を持ってこの世界の法則を解き明かそうとしていた。

 

 「あたしはこのまま、現地のエルフにおっぱい言語で話しかけて検証を続けるわ」

 「はい、頑張ってください」

 

 さすがに気を張っていたからだろう、疲れを感じた至高の美の化身は、ソファーに深く座り直すと、近くに控えるメイドに声をかけた。

 

 「あ、おっぱいちょうだい」

 「かしこまりましたわ」

 

 ソリュシャンが服をはだけ乳房を露わにする。

 至高の支配者の一人であるインランは、少女の小さな口を開き無垢な白い歯を覗かせ、味わうようにその先端にむしゃぶりついた。

 人型のスライムであるソリュシャンの大きな乳房から吸い取られた液体が、インランの喉を通りすぎ嚥下音が鳴る。

 

 「ぷひゃあ、スライムって水筒代わりになるのね」

 「何飲んでるんですか?」

 「ホットミルクよ。擬似的に授乳プレイが出来るなんて素敵よね」

 「いいなぁ、母さんを思い出しそうだ」

 「わかる。でもソリュシャンはあげないわよ。アルベドのおっぱいをしゃぶりなさいよ」

 

 メイドの中でも一際胸が大きく、爆乳と言っても差し支えが無いソリュシャンの腰にインランは手を回してソファーに座らせて抱きしめた。

 そこまで所有権を主張されては諦めるほかなく、モモンガはソファーに背を預けながら天井を仰ぎ見る。

 

 「なんだろう、アルベドは母性というか、いや母性たっぷりなんですけど」

 「NPCなら要求すれば赤ちゃんプレイもさせてくれるわよ。すれば?」

 「なるほどー。でも甘えすぎると骨まで溶かされそうで心配なんですよね」

 「いいじゃない、内政はアルベドとデミウルゴスで十分回るし、あたし達は第二の性を謳歌しましょうよ」

 

 ぱふぱふとソリュシャンの深い谷間に顔を押しつけながら語るインランには説得力があった。

 あまりにも性的に満たされすぎた二人は、いやらしさに対して至高の鈍感さを手に入れていた。

 

 

 

 

 「じゃあちょっとエルフの国に遠征いってくるわ。よろしくおっぱい」

 「了解です。よろしくおっぱい。もう無理におっぱい付けるのやめませんか?」

 「おぱっ!? おっぱい教の教義に早くも逆らうのかしら?」

 「いやーおっぱいの偶像崇拝はちょっと……」

 「おっぱい良いじゃないおっぱい、触ってよし見てよし挟んでよしじゃないおっぱい」

 

 わしわしと自分のおっぱいを自分で揉み揉みしながらインランはモモンガに顔を突きつけた。

 

 「シャルティアとか可愛そうじゃないですか?」

 「シャルティアは貧乳というおっぱいだからいいのよ。おっぱいに貴賤はないわ」

 「まぁ止めませんけど、エルフはナイチチだからおっぱい教は受け入れられないと思いますよ?」

 「貧乳でも美しければ良いのよ。多分乳輪は0.8アルベドくらいだと思うわ」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 インランとシモベ達はエルフ達が住まう国の中の街のひとつにやってきた。

 さっそくエルフが目の前を通ったので、インランは気さくな挨拶を行う。

 

 「よろしくおっぱい」

 「おぱっ!? いったいどうしたんですか?」

 「あんた良いおっぱいね。形が良いわ」

 

 おっぱい教はどんなおっぱいでもポジティブに捉える。ナイチチならばサイズではなくシェイプを褒め称える。

 

 スリングショットのような、横幅のないほとんど紐に近い布で股間と乳輪を隠しただけの凄まじいファッションを着こなすエルフのおっぱいは貧乳だった。ほぼ紐のような衣装では、貧乳でないとおっぱいが零れてしまうだろう。

 スリングショットはエルフにしか着こなせない衣装なのかもしれない。

 

 「あ、ありがとう。ところであなた達人間よね?」

 「そうよ」

 

 全裸の上にパーカー1枚を羽織っただけのインランを超える驚異の肌色面積のエルフは、しっかりと褒められたことに礼を返してから、怪訝な顔つきでインランに質問し、それにインランが答える。

 

 「ところで、あんたの格好なかなかイカしてるわね。どうみても痴女じゃない。正気なの?」

 

 全裸にパーカー1枚の痴女が目の前のエルフの痴女ファッションを指摘した。

 痴女もといエルフは、乳輪が縦に伸びる紐からはみ出した胸元を突き出すようにして膨らみに乏しい胸を張ると、自慢げに語り出す。

 

 「こ、これはエルフの伝統衣装です! 元々は国をお作りになられた今は亡き女王様が着ていた衣装なのですよ」

 「へー、痴女だったのねその女王って。すっっっごくその格好にあたし見覚えあるんだけど」

 「エルフの伝統衣装ですから、どこかで目にしていても不思議ではありませんね」

 「今度からあんた達のことをエロフって呼ぶわね」

 

 

 出会ったエルフに連れられてエルフの街の太い街道までいくと、スリングショットを着こなすエロフ達が行き交っていた。

 

 「許可証が無いと人間達は街に入れないんですよ? 関所でちゃんと受け取ってくださいね」

 「あんた親切ねー、痴女にしておくのが勿体ないわ」

 「エルフは礼儀を重んじますからね。今は戦争中なので、運が悪ければ捕まっていましたよ?」

 

 親切なエロフはインラン達を関所まで連れてきてくれた。

 関所にいる男エルフが事情を聞いてくる。

 

 「ふむ、あなた達は何をしにここまで来られたのですか?」

 「……観光かしら?」

 「観光? こんな森の奥地にですか?」

 「ここは私にお任せください」

 「え? じゃあ任せるわ。よろしくおっぱい」

 

 インランが返答に詰まっていると、一緒に来ていたソリュシャンが身を乗り出してくる。

 ソリュシャンが合図すると、道の奥から幌付きの馬車が現れ関所の入り口に近づいてくる。先に待機していたらしい。

 というか本来はデミウルゴスが気を効かせて、インラン達は商人ということでエルフ側にゴリ押す予定であり準備もしてあったのだが、インランが全て無視しただけである。

 

 「私は商人をしておりますの、こちらの方々は護衛ですわ」

 

 ソリュシャンは上品な仕草で説明を行うと、インランとシモベ達を関所にいる者に示す。

 

 「ほう! なにぶんここは森の奥地なため、交易が行いづらい場所ですから、商人は歓迎しますよ。念のため積み荷を調べても宜しいでしょうか?」

 「勿論ですわ」

 

 数人のエルフが馬車に向かっていき、積み荷を調べて奇っ怪な雄叫びを上げた。

 暫くして関所まで戻ってくると、明らかに先ほどまでとエルフ達の態度が違う。

 

 「どうぞお通りください!」

 「はい。ありがとうございました」

 「ありがとうおっぱい」

 

 ソリュシャン達は礼をすると、関所を通っていった。

 

 

 

 

 インランはことある毎に現地のエルフ達におっぱい語で語りかけていたが、イマイチ良い感触を得られずにいた。

 

 「よろしくおっぱい!」

 「おぱっ!?」

 

 エルフが驚いた顔でこちらを見る。おっぱい語で話かけても、何か会話が成立した感じがしないのである。

 宇宙一可愛い少女に突然おっぱい語を話しかけられて緊張しているのかと、インランは最初推測していたが、何か手応えが違う気がする。

 おっぱい語は翻訳されていないのかもしれないとインランは考えだしていた。

 

 「ねぇ、ちゃんとおっぱい語って通じてるのかしら?」

 「え? ど、どうなんでしょうか」

 

 旅の共に連れてきたアウラはさっきから顔を赤らめて上の空であり返答にも気がのっていない。

 

 「まぁいいわ。ねぇソリュシャン、あんなに荷物持ってきて全部捌けるの?」

 「大丈夫ですわ」

 

 インランが後ろの馬車を指さして問えば、返って来たソリュシャンの返答は余裕が感じられるものだった。

 今は馬車も通れるエルフの広い街道を皆で進んでいる。

 商店がいくつかある通りはエルフ達の数も多く、様々な視線がインラン達に向けられていた。

 

 「しかしエルフって痴女ね! ダークエルフとしてはあの格好はどう思うの?」

 「えぇ、そうですねぇ。見てて恥ずかしいと思っちゃいますねぇ」

 「それでさっきから顔が赤いんだ?」

 

 隣を歩く、股間に直撃する可愛さのダークエルフに話を振ったりしながら、インランは街道を進んで行く。

 

 商店の前を通る度に、ソリュシャンが店主と交渉して商いを行っていた。

 着々と馬車の積み荷が減っていき。それと交換するようにインランも見たことが無い硬貨が積まれていく。

 

 見慣れぬ小さな金貨を指で摘まみ上げると、ソリュシャンに聞いてみた。

 

 「コレ、何?」

 「この世界の金貨ですわ。どうも国ごとに発行されていてそれぞれ金貨の価値が異なるらしいのです」

 「へぇ、ユグドラシルの金貨は使えないの?」

 「試して見てはいかがでしょうか?」

 「それもそうね」

 

 ニコニコ微笑むソリュシャンに勧められるままに、インランは目に付いた商店でユグドラシルの金貨で買い物をしてみることにした。

 

 「エッチな格好をしたお姉さん。この果物?が欲しいわ」

 「はいはい、籠1つ分で銅貨2枚だよ」

 「銅貨? じゃあコレ1枚で足りるかしら?」

 「えぇ…… 金貨かい、しかし大きいね」

 

 測りのような物を取り出したりしながら、店主のエルフが金貨と格闘を始めた。

 

 「これ、凄く重いんだけど、何で出来てるんだい?」

 「え? 金じゃないの?」

 「えぇ?」

 

 それから凄く揉めた、なかなか話が終わらないのでソリュシャンにインランが泣きつくと、テキパキと話を纏めてしまった。

 

 「持つべきものは優秀な部下ね」

 「光栄ですわ」

 

 瑞々しい果物に歯を立て、新鮮な味わいにインランが感動しながらも、出来るシモベを褒め称える。ソリュシャンは甘い匂いが漂ってきそうないやらしい顔で笑っていた。

 

 

 馬車の積み荷は数を減らしたが、元の量が多かったため、まだまだ残っている。

 

 「あんなガラクタが売れたの?」

 「はい、皆さん喜んで買い取ってくださいましたわ」

 「ふーん、あたしの絵も売れるかな?」

 「!? そ、それは下等生物には勿体なさ過ぎますわ!!」

 

 

 ◆

 

 「ふぉおぉおおぉおぉお!?!?!? こ、これはぁあああ!?!?」

 「むふー! エロ本よ! 古い言葉では春画っていうんだっけ?」

 「いぃい! いくらで売って頂けるんですか!?」

 「貨幣価値とか良く知らないんだけど、金貨1000枚でどう?」

 

 万屋っぽい店にインランは立ち寄ると、自信の胸の谷間に手を突っ込んで、薄い冊子を取り出した。インランの設定資料集である。

 エロ漫画仕様の漫画部分を男エルフの店主に見せた瞬間、まるで精通を迎えたばかりの男子の如く食いついた。

 

 「1000枚!? う、うぐぅ! うぅぅううぅううう!! 買ったぁあああ!!!」

 「ありがとうおっぱい!」

 

 唇を血が出るほど噛みしめて店主は悩んでいたが、吹っ切れたように雄叫びをあげた。

 

 「むふー、じゃあサービスで新作も付けちゃうわ」

 

 店主の手に別の冊子を数冊握らせる。

 冊子のページを捲っていくと店主が壊れた。

 

 「ひぎぃっ!?!? あばばばば!!」

 

 心臓発作を起こしたように痙攣しながら悲鳴を上げたあと、店主がソリュシャンとインランを交互にギラついた目で見る。

 

 「そうよ! ソリュシャンとあたしのプレイを新しく描いたのよ! ノンフィクションなのよ、凄くない!?」

 

 店主の視線がソリュシャンの爆乳に吸い寄せられていき、ソリュシャンが凄まじい怒気を店主にぶつけて素面に戻した。

 

 

 

 ◆

 

 「ちんちん!」

 「へぁ?」

 「あれ? 通じないのかしら? もしもーし。ちんちんもしもーし」

 

 訝しげなエルフを見て、ちんちん語もダメなのかと落胆するインラン。

 

 「デミウルゴスの調査もアテになんないわね……」

 

 見た目だけは尋常でないほど愛らしいインランが悲しそうに顔を伏せて失望を言葉にすると、胸を締め付ける切なさがシモベ達を打ちのめした。

 悶えるシモベ達を引き連れてインランはエルフの街を観光する。

 

 

 

 ◆

 

 得た大量のお金で街一番の宿を取ると、インラン達は部屋の中で寛ぐ。

 大樹の内側をくり抜いて家具が置かれた部屋を見回しながら、インランは今日の出来事を頭の中で整理する。

 

 「アレね、エルフは痴女ね」

 「あの格好は破廉恥ですわ」

 「あたしもあの格好はちょっと…… 着ていて恥ずかしくないんでしょうか?」

 

 シモベと話してみれば、やはりエロフの服装が気になるらしい。スリングショットを着こなすエルフは良いものだ。

 

 「うーん、あの服は凄く昔にユグドラシルで流行ったことがあったのよ。とある変態プレイヤーが着たのが最初なんだけどね」

 「変態ってドコにでもいるんですねー」

 「うん、間違いなく変態だったわ」

 

 頷くとインランはソリュシャンを使って水分補給を行う。もう慣れたものである。

 

 「ぷはぁ、でもあの服は幼児のような小さな体じゃないと倫理コードに引っかかって着れないはずなのよ。この世界に転移して倫理コードの束縛から解き放されたプレイヤーが世に広めたのかしら?」

 「エルフの国を建国した女王が着ていたらしいですわね。それがプレイヤーなのでは?」

 「ぶっちゃけプレイヤーの誰なのかまで予想が付いてるけどね」

 「まぁ! さすがはインラン様ですわ!」

 「さすがです!」

 「わははは! もっと褒め称えなさい!」

 

 わっしょいわっしょい。インランは煽てられるとユグドラシルの大樹にも登りそうである。

 

 

 

 

 日が落ちて窓から差し込む光が無くなり、代わりに暖色系の間接照明に照らし出された室内にはゆったりとした時間が流れていた。

 ナザリックから取り寄せたソファーに腰掛け、縁が切れそうなほど薄いクリスタル製のグラスで酒を呷りながら、インランは語り出す。

 他のシモベ達も椅子に座るよう促され、余った椅子にそれぞれ腰掛けていた。インランが振る舞った酒が入ったグラスをそれぞれ手に持ち、ありがたそうにチビチビと飲んでいる。

 

 「いやまぁ、エルフでスリングショットとか、古参のプレイヤーならすぐ分かるわよ」

 

 カラカラと氷の音が鳴るグラスを顔の前に掲げて、インランがシモベ達に言い聞かせていく。

 

 「昔、幼女の見た目のアバターしか入れないギルドがあったのよ。名前も幼女戦記とかいう凄まじいギルドだったわ」

 

 「で、そこのギルドマスターがエルフで、服装が件のスリングショットだったわけ。大人と子供の体型の違いが理由なのか、幼女に限りスリングショットを着ても倫理コードが反応しないことを発見したのがそのエルフよ」

 

 「そのエルフの名前は」

 

 ───アグネスよ。

 

 

 

 

 「ちなみにペロロンがよくそのギルドに遊びに行ってたわ」

 「なるほどー」

 「結構アイテムとか貢いでたみたいだけど、アグネス達があたしと同じなの知って血反吐吹き出してもがき苦しんでたわね」

 「えぇ……」

 「幼女アバターを選ぶプレイヤーの中身なんて簡単に想像つくでしょうに、マジウケルー!」

 

 目尻に涙を浮かべて爆笑するインランにシモベ達は追従するか迷う。

 

 「さて、じゃあ夜の部を始めましょうか。あたしはさっき見つけた夜のお店で遊んでくるから、皆適当に寛いでてちょうだい」

 「お待ちください! 夜こそ我々を護衛にお使いください!」

 

 ここはなかなか大きな街で、夜だというのに完全には寝静まらずにいくつかの店が開いていた。

 

 「うぇー、あんた達がいると気楽に遊べないじゃない」

 「至高の御身の安全は何よりも優先されます!」

 

 ガツガツ食い下がってくるシモベに、インランもちょっと気圧される。

 

 「ん、じゃあ視界に入らないようにコッソリついてきてね」

 

 コクコクと頷くシモベ達を一瞥すると、インランは宿屋から夜の街にくり出した。

 

 

 

 

 

 

 「何コレ?」

 「蜂蜜酒です」

 

 スナックなのかバーなのかよく分からない建物にインランは入ると、取りあえず店員がいるカウンターの前に置かれた椅子に腰掛ける。

 酒を注文すれば琥珀色の美しい液体が入った木のコップが出てきた。

 くぴくぴと飲んでみれば、甘い後味が口の中に残る。

 

 「おいしいわね、ボトルでちょうだい」

 

 飲み歩き用とおみあげに数本ボトルのまま買う。ヒョイヒョイとボトルをアイテムボックスに繋がる虚空に空いた穴に放り込むと店員が目を見開いて固まっていた。

 

 「他には何かないの?」

 

 ガリガリと出された酒の肴を囓りながら、店員に別の酒なり何か面白いものを催促する。

 淡い照明に照らされたインランの顔は火照り、既に酔いで出来上がっていた。わざわざ酔いの状態異常耐性を外している。

 

 蜂蜜酒も銘柄で甘みが違うらしく、さっきとは別の蜂蜜の甘みが強い蜂蜜酒をぺろぺろしながら店員と世間話をする。

 その後、よくわからない銘柄のワインが出てきたが、高級品だとかで蜂蜜酒より遥かに値が張った。

 

 「あたしワインって何がおいしいのかよくわからないのよね……」

 

 ブツブツ言いながら木のコップを豪快に傾けていく。甘い蜂蜜酒の方がおいしい。

 

 店員と話してみると、どうやら宿屋で料理や酒を出してくれるものらしい。

 それを知ったインランはチップを置いて千鳥足で宿屋に帰っていった。

 

 

 

 

 

 「宿屋で飲むわよぉ!」

 

 周囲に潜んでいたシモベ達を呼び集め、皆で宿屋に併設された店に入る。

 ゾロゾロと押しかけるインラン達を店員が案内する。

 街一番の宿屋だけあって、併設された店の店員の対応もナイスだった。

 まぁこの街の宿屋ってそもそも数が少ないけど。

 

 「下等生物な点を多めに見たとしても、良くて及第点ですわ」

 「そう……」

 

 シモベ的にはイマイチの対応らしい。言葉とは裏腹に凄くウキウキした雰囲気を醸し出してるけど。

 さすがに酔いで頭が回らなくなってきた。頭がフラフラと揺れる。

 

 「一番高い酒を頼むわ」

 

 店員にドヤ顔で決めてみせるが、眠くて気絶しそうだ。

 なんとか隣に座るソリュシャンの爆乳を枕にして意識を保っている。

 良く訓練された店員はソレを見ても眉一つ動かさずに料理や酒を出してくれた。

 

 おっぱい枕に頭を埋めていると、シモベ達が口に料理や酒を放り込んでくれる。

 もぐもぐと口だけを動かす機械になってしまった。

 

 酔った頭でもエキゾチックな料理は美味しく感じられる。エキゾチックってどういう意味だっけ?

 

 「なんか味薄い? 薄くない?」

 「恐らく香辛料の類いが希少なのでは?」

 「詳しいのね」

 「メイドですから」

 

 「ソリュシャン、ミルクをコレに〜」

 「はい」

 

 酒とミルクをカクテルするとまろやかな口あたりになっておいしい。

 ちなみにソリュシャンは指先からミルクを出した。空気が読める良いメイドなのら。

 

 「えうえう……もぉらめ……」

 

 体に力が入らない、視界が暗転する。目を瞑れば楽しい時間が終わってしまうような気がするが、もう眠気に抗えない。

 

 

 

 

 

 

 「寝てしまいましたわね」

 「だねー」

 

 ぐったりとソリュシャンの爆乳に突っ伏した主をシモベ達は見つめている。

 

 「せっかくだし、あたし達はもう少しこうしてようか」

 

 アウラがそう言うと、シモベ達が同意を示すように頷く。

 

 インランの一行は、店の複数のテーブルを占拠していた。

 インランと同じテーブルの席にどのシモベも座りたがったが、ナザリック内での地位が高いものが同じテーブルにつき、残りは別のテーブルについている。

 

 異形のシモベも席につけるのは、インランがマジックアイテムで人間に化けさせているからだ。元々はユグドラシルで人間しか入れない街に異形種でも入れるようにするためのアイテムである。

 

 さすがに護衛が酒に酔うわけにはいかないので、シモベ達は状態異常耐性を無効化したりはしていない。

 だが、主と一緒に酒を飲む雰囲気をシモベ達は楽しんでいた。主と場を共有することはシモベにとって至上の喜びであるから、別に酒に酔えなくても問題ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「oh……」

 

 部屋は真っ暗で窓から見える景色も漆黒。だがこの目は闇でも問題なく見通せる。目覚めればベッドの上で、そして隣には全裸のアウラ。

 

 「ヤっちゃったわ……」

 

 インランは思わず頭を抱える。

 

 「全然記憶にないんだけど……」

 

 酒に酔って状態異常で行動不能になった先の記憶がなかった。

 

 「うーん」

 

 とりあえずアウラのふくらみかけに手を伸ばす。記憶がないのならこれから作ればいいのだ。

 

 「はひ!? いんらんひゃみゃ!?」

 「おはようおっぱい」

 「んひゃっ」

 

 ちょうどアウラが起きた。言葉とボディランゲージの両方でアウラに挨拶。

 

 「ところで、なんでアウラが裸で寝てるのかしら?」

 「えっと、この方が喜んで頂けるかなとおもいまして。というのは半分冗談で、一番近くで護衛するためです」

 「oh……やっぱり寝たフリだったのね」

 「護衛ですからねー」

 

 話していると、突然アウラの目つきが鋭くなり、一拍遅れて地響きがした。室内の家具がけたたましい音を立てる。

 

 「───森の中に30ほど、敵意を持って潜んでいます」

 「そう……」

 

 寝室の窓からも夜の闇の中に黒煙が漂っているのが見えた。

 

 

 

 

 

 ベランダに出ると、アイテムボックスから小型の無人マルチコプターのドローンを取り出して飛ばす。

 攻撃力は皆無だが、魔力を一切使用していないので探査魔法に引っかかりづらい優れものである。

 若干シモベ達が寂しそうな顔をしているが、こっちの方が慣れてるし便利なんだから仕方ない。

 

 板状のタブレット端末にドローンのカメラ映像が表示される。各種センサーが捉えた情報が統合され、一つの映像になった中では、森の藪に潜む人影達が太い線で縁取られ強調されていた。

 

 「これ、どう思う?」

 「下等生物同士の争いでしょうか?」

 

 画面上では潜んでいる人影の種族名までばっちりタグ付けされて表示されている。人類(推定)とタグ付けされていた。

 

 「うーん、下手に介入するのも拙そうだけど、エロフ達を傷つけられるのも困るし、直接話をしてみましょうか」

 

 

 

 

 ◆

 

 曇り空の下の夜の森はほとんど完全な闇だ。

 輪郭が闇に溶け込んだ藪の中で、複数の人影がじっと息を潜めていた。

 

 藪に潜む人影の正体は、特殊な訓練を受けた精鋭部隊、火滅聖典の隊員達。

 法国という人間の国の特殊部隊である。法国の数ある特殊部隊の中でも火滅聖典はゲリラ戦に特化した部隊であり、今も敵対しているエルフ国に対する作戦行動中であった。

 エルフ達の生活圏の外周に位置する街の一つに破壊工作などのゲリラ戦を仕掛けるのが、今回の作戦である。

 火滅聖典が行っている破壊工作や少人数によるヒット&アウェーは地味なやり方だが、ボディブローのようにエルフ達を苦しめ確実に消耗させていた。

 

 先ほど、エルフの街に忍び込んだ工作員が、街の一角を爆破した。これから火滅聖典の作戦は第二段階に移行する。

 茂みに潜む隊員達が、無言で次の行動を起こそうとしたとき、索敵を担当する隊員が接近する人影を探知し仲間達に知らせた。

 

 隊員達がいるのは森と街の間であり、すぐ目の前には森が切れて見晴らしが良くなり、人が通れる道が通っていた。道の向こうにはエルフ達が住む街が広がっている。

 やがて、手にランタンを持った少女が部隊員達が潜む藪の手前の道に現れた。隊員達には魔法や所持しているマジックアイテムの効果で藪の先が良く見通せる。

 

 少女は耳が短いので人間のようだが、その異常に整った容姿と、エルフほどではないが扇状的な服装は明らかに堅気の者ではない。

 隊員達はいつでも攻撃できるようにして少女の動きに注視する。

 

 「あんたら何者?」

 「!?」

 

 悲鳴を上げなかったのはよく訓練された証だろうか。

 突然後ろから声をかけられ隊員達が振り向けば件の少女が居た。だが藪の先の道にも全く同じ姿格好の少女が立っている。少女はランタンまで持っているのに何故接近に気づかなかったのだろうか。

 探知に特化した隊員が調べてみても気配は道に居る少女のみで、隊員達の後ろに居る少女からは一切の気配を感じ取れなかった。

 

 「ちょっと、答えなさいよ。あんたらこんなところで何してるの?」

 「……お前は何者だ」

 

 部隊の隊長が少女に問いかけると、少女は隊長の方向にランタンを翳す。

 

 「あんたがリーダーなの?」

 「質問に答えろ。さもなければお前を排除する」

 「こっちの質問に答えてくれたら教えてあげるわ」

 「……そうだ」

 

 少女が微笑む、ランタンの淡い照明に照らされた少女の顔はおとぎ話に出てくる妖精のように愛らしいものだった。

 

 「ふぅん。あたしは森の妖精よ」

 

 瞬間、少女の姿が消えた。

 同時に隊員達の視界が暗転する。

 

 

 ◆

 

 火滅聖典の隊長は、鼓膜を振るわす悲鳴で目を覚ました。

 

 「あ、やっと起きたのね?」

 

 声のする方を見れば、あの少女がいた。

 

 「……ここはどこだ」

 

 隊長は短い時間で自分の置かれた状況を確認していく。

 椅子に座らされ、後ろの背もたれに両手を回すようにして両手を縛られている。

 今も鼓膜を振るわす音と、嗅ぎなれた匂いが場に充満していることから、隊長は自分の運命を悟った。

 

 「お前は誰だ? 帝国の者か?」

 「何ソレ? 聞きたいのはコッチよ」

 

 隊長の前まで少女は椅子を引きずってきて、それに腰掛けた。目線の高さが合うと、少女の異常な美しさがよく分かる。

 火滅聖典隊長は精神作用を無効化する希少なマジックアイテムなどを法国から与えられている。そのせいで中途半端に冷静だった。

 

 「あんたが正直に話してくれれば、慈悲を与えてあげるわよ」

 「ふざけたことを、お前も人間ならばこんなバカな真似はよせ、人類に内輪揉めをしている余裕はないのだ」

 

 臓物が飛び散る音や骨が砕ける音、噎せ返る血の臭い、仲間の凄まじい絶叫で満ちたこの場において、狂うことが出来ない。

 こんな地獄を見るために挺身したわけではないのだが───

 隊長は冷静に考えてしまう。

 

 「自分が人間なのか、もうわかんないわよ」

 

 少女は手に中が透けて見える美しいグラスを持っていた。グラスの中には琥珀色の液体とソレに沈んだ目玉が見える。

 隊長の目の前で少女がグラスを呷る。

 

 「美味しいわ。血がおいしいんだけど、これって人間なのかしらね?」

 「なるほど、お前達は吸血鬼か」

 

 吸血鬼の勢力に部隊は壊滅させられたらしい、隊長はそう思った。

 それならばこの地獄絵図も納得出来る。なんとかこのことを本国に伝えなければならない。

 もしかすると部隊の生き残りが逃げおおせているかもしれないが。

 

 「ああ、この世界には吸血鬼もいるのね。あたしは違うわよ?」

 

 聞き捨てならないことを言われてその意味を考える、だがさらなる少女の発言が考える暇を与えない。

 

 「───ところで、あんた達には尋問されると死ぬ魔法が掛かってるらしいわね?」

 「なに?」

 「あんたの前に遊んでた奴がそれで死んじゃったのよ。詳しく調べたら理由が分かったわ」

 「……」

 

 少女がグラスの中の目玉を指さして微笑む。意味を理解して隊長は狂えない自分に絶望した。

 

 「だから、あんたへの尋問はないわよ。別に質問に答えなくていいから、精々楽しませてちょうだい」 

 「……殺してくれ」

 「むふー、あんた面白いマジックアイテム持ってるじゃない。恐怖や恐慌を無効化して錯乱できないとか、長く苦しむためのアイテムよね。今後の参考にさせて貰うわ」

 

 少女は近くにいる巨漢を呼ぶ。

 顔を穴の開いていない皮のマスクでスッポリ覆ったその大男は、腰に下げていた錆びだらけのノコギリなどの道具を少女に手渡した。

 

 

 

 ◆

 

 「御手を患わせて申し訳ありません」

 「遊びだからいいのよ。でも尋問はあたしよりもデミウルゴスの方がずっと上手そうね」

 「お褒めに預かり大変光栄です」

 

 ナザリック地下大墳墓の牢獄に、火滅聖典達は拉致されていた。

 最初は普通に尋問する予定だったのだが、1人目が尋問中に憤死したため、調べたところ情報漏洩を防ぐために、特定の状況で質問に特定の数答えると死ぬ魔法が隊員達全てに施されていた。

 まぁ魔法ならばディスペルすればいいので大した問題にはならなかったが、このような魔法はユグドラシルになかったという点で大変興味深い。

 

 隊長も既にディスペル済みで最初から尋問しても良かったのだが、インランの遊び心でたっぷり拷問してから尋問ということになったのである。

 

 「いやー、拷問って楽しいわね! またやりたいわ! 次はむさい男じゃなくて美少女がいいわね!」

 「インラン様を楽しませられる獲物を見繕っておきます」

 

 椅子の上の隊長のなれの果てを見て、インラン達は笑う。エロ漫画家として解剖学の知識がそこそこあったインランは、結構綺麗に解体出来た自信があった。

 

 「あたしの解剖学の知識ガバガバだから、内臓とか知識と実際のズレが酷いわね。お腹を開いてビックリしたわ」

 

 腹から知らない臓器が出てきたりと、インランは自分の知識不足を痛感していた。

 

 

 

 ◆

 

 インランがナザリックに作られたバーで酒を飲んでその味に感動していると、バーの入り口からモモンガが入ってきた。

 

 「帰って来てたんですね」

 「ん、すぐ出ていくわよ。まだ見たいもの沢山あるし。あ、これおみあげね」

 

 ボトルをモモンガが受け取る。

 

 「これはお酒ですか?」

 「甘くておいしいわよ」

 「次は俺も一緒に行きたいんですけど」

 「んー、また今度ね」

 

 ボリボリと酒の肴を囓りながら、インランは掌をひらひらとモモンガに振る。

 

 「ところで、人間達を拉致したらしいですね?」

 「したわよ。なんかエルフ達を攻撃してたからね」

 「その人間達が属する勢力が強大だった場合、かなり拙いことになるんじゃないですか?」

 「ふふん、バレなきゃいいのよ。それでも心配なら蘇生と回復して逃がしてやってもいいんじゃないかしら。ギルド長って記憶弄る魔法使えたでしょ?」

 「そうしますか」

 

 インランはグビグビと酒を呷っていく。

 

 「ナザリックの酒ってメチャクチャ美味しいわね。これ現地と取り引きすればかなり儲かるんじゃないかしら?」

 「おお、それいいかもしれませんね。マジックアイテムは外に出したくないですけど、酒や食料ならアリかもしれません」

 

 モモンガも笑顔で返答する。

 だが、次のインランの言葉で表情が凍り付いた。

 

 「あとエルフの国はプレイヤーが作ったみたいよ」

 「えっ?」

 

 

 




 スリングショットを着たエルフ達が平然と歩く街並

 まるで常識変換モノのエロ漫画みたいだぁ……(直喩)

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