異世界転生すると美少女になれるって本当ですか!? 作:DENROK
スレイン法国。神都。
神都の中でも身分の高い者達が利用する講堂は、見るも無残に半壊しており、壁と天井が崩れ落ちて青空が見えてしまっている。
そんな講堂の中には多数の神官達と、それに対峙するように異形種達の集団があった。
神官達は完全に萎縮しており、異形種達の一挙手一投足に竦み、慈悲を請うように頭を垂れている。
そんな中で、すぐ傍で車に轢かれたカエルみたいになっている番外席次を尻目に、シュバババッと中抜きの省かれたアニメのように途中動作が見えないほど高速にシャドーボクシングをしているのは、異形種達を束ねる二人のリーダーのうちの一人であるインラン。
「もっとスマートに決めたかったわね。また課題が増えたわ。セバスともっと模擬戦しないと」
「まぁお前が努力家なのだけは認めてやってもいいがな、それ以上強くなってどうするんだ?」
「目標ってのは存在することが重要なのよ。もうエロ漫画描いても読者もいないしお金にも使い道がないし課金もできないし、やりつくせないおっきな目標を作らないとね」
「ふむ、俺も趣味を増やしてみるか」
「普通に100年単位でミッチリ鍛錬すれば、あたしでも格闘戦でたっちゃんに勝てるようになれるんじゃないかしら」
「近接職は夢があっていいな」
二人が暢気に話していると神官達が近くに来て次々に跪く。その中には先ほど部屋からダイナミックエスケープをかました第一席次の姿もあった。
先頭で跪いていた壮年の神官長が代表して謝罪の言葉を述べると、一層深く後ろの神官達も頭を垂れる。
「こ、この度は身内の不始末によってとんだご無礼を! なにとぞ! なにとぞご容赦頂きたい! どうかなにとぞ!」
「そうね、あたしは楽しかったわよ」
「楽しかったで済む話ではないな。こちらは大切なシモベの1体を危うく殺されるところだったのだ。俺は腸が煮えくりかえっているぞ。今にも暴れ出しそうだ。隣にコイツがいなければ間違いなく暴れているな」
「え? なんで暴れないの?」
「止めるついでにツッコミでお前に殺されそうだから」
「あ、なるほどー。いやいや、そんなことはしないわよ」
朗らかな顔をしているが、インランは敵意でも殺意でもないが非常に攻撃的で肌がひりつくような気配を纏い続けていた。番外席次との戦闘で火照った体を持て余している感じである。
「愚か……実に愚か!」
二人のプレイヤーと神官団が声のした方を見れば、ゴリラがいた。
「ゴリラ! どうしてゴリラがここに……逃げたのね? 動物園の檻から自力で脱出を!」
「いや、アルベドだろ」
大口を開けてゴリラと化したアルベドがギラギラ光る金色の瞳で神官団を睨み付けていた。剛毛が股間だけでなく全身に広がっている。
キングコングアルベドの周りでは他のシモベ達も隠すことなく怒気と殺気を振りまいていた。
竜形態のセバスと蛙に退化したデミウルゴスも普段反りの合わないのとは異なり、今は仲良く怒り狂っている。
さらにヤツメウナギもいるので、妖怪の百鬼夜行みたいになっていた。
「もももっ、申し訳ありません!! どうかここは私の命を差し出すことで許して頂きたく!!」
「ふ! ふざけるなぁあああ!! 至高の御方々に牙を剥いた罪が!! 虫ケラの命で贖えるはずがないいい!! 身の程をしれえええ!!」
「ゆ……ゆるさん……絶対に許さんぞ虫ケラども! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!! 一人たりとも逃がさんぞ覚悟しろ!!」
「このゴリラと蛙怖いわ」
「女って怖い」
守護者達の本気の殺意と怒気に当てられて、神官団は震え上がっている。失禁や脱糞はまだ良い方で死にかけの虫みたいに床の上で痙攣している者達も出る始末である。この場に居る漆黒聖典の面々も顔面蒼白でこの世の終わりのような顔で震えている。
「あたしめんどいからパス!」
「はぁ、俺がこれを収拾するのか、もうギルド長やめようかな」
疲労感を滲ませた顔でモモンガが呟くと、この事態をどう収束させようかと知恵を振り絞りだした。
ナザリック地下大墳墓。第六階層。地下大闘技場。
以前の模擬戦による大破壊の後、完全に修復された闘技場内に、一筋の閃光が鋭く走る。
「グハァ!!」
袈裟切りに体を斜めに断たれたコキュートスが、凍てつく体液を撒き散らしながら地に伏した。
地に体がつくよりも先に、インランが投げた薬瓶がコキュートスに命中、割れて中身がかかることで、次の瞬間には切断された体が元通りになっていた。
「はいもう一回」
「グゥ! 来イ!」
立ち上がったコキュートスが構えると、巨大な鎌を構えて対峙している番外席次が、左右で色の異なる髪を振り乱すように首を振って悲鳴を上げた。
「ひぃ! も、もうやだよぉ!」
「るっさいわね。コキュートスが勝つまで終わんないわよ」
コキュートスの手には、ナザリックが所有する
「あたしの籠手を貸して上げたいけど、コキュートスは防具付けられないからそれで頑張ってね」
「オ任セクダサイ!」
「こんなの狂ってるよぉ!」
半泣きになって番外席次が叫ぶが、インランはそれを無視して言葉をつきつけた。
「仕方ないじゃない、あんたのその攻撃スキルが狂ってるんだから」
「やるしか、ないのだろうな、まさかワールドチャンピオンが遺伝するとは、本当にこの世界はどうなっているんだ」
インランの近くで事のなりゆきを眺めていたモモンガも会話に割り込んでくる。
「ワールドチャンピオンの一族が一斉に
「本来各ワールドに一人しかいないクラスなのだが、そこら辺の事情も気になる。これは検証することが山ほどあるぞ」
「最低限、近接職の守護者には対策を身につけさせないといけないわねぇ」
二人の廃人プレイヤーの目には狂気の光が宿っていた。
少し時間を遡った頃。
賠償金代わりに、番外席次がナザリックに身売りされてきた。
ナザリックに連れてこられた番外席次は、もはやナザリック内での模擬戦施設と化した第六階層の地下大闘技場で、守護者達と一緒にモモンガとインランの話を聞かされていた。
「ふっふっふ、あたし達は昔ワールドチャンピオンについて散々研究していたのよ」
「何しろワールドチャンピオンが協力してくれたからな」
「
「
饒舌に二人は語り続け、それをこの場に集った者達が真剣に聞き入る。
それからも廃人プレイヤー二人の講義は続き、講義の内容は実践を交えたモノへと移っていった。
徒手のインランと鎌を構えた番外席次が対峙する。
番外席次の攻撃の予備動作で鎌が僅かに動いた時には、インランがまるで転移したように番外席次の眼前まで踏み込んでいた。
全身の
「な!? は、ぐげぇッッッ!!」
モンクの職業スキルからくり出された容赦ないポンパンチが番外席次の鳩尾に深々とめり込み、圧搾された胃の中の内容物が番外席次の少女の小さな口から噴き出すようにして撒き散らされた。体が衝撃でくの字のようになったあと、地面に撒き散らされた吐瀉物の中に番外席次が崩れるように倒れ込む。
「このようにワールドチャンピオンに対して一番簡単な対策は、とにかく殺られる前に殺ることよ。強力無比な各スキルも使われる前に潰してしまえば意味ないわ」
床に転がり痙攣している番外席次には目もくれずに話が続く。
「ただし、基本的にパーティを組んでいることがほとんどなので、これは実際難しいのが現実だ」
「ワールドチャンピオンを先に倒そうと集中すると、その隙に敵パーティの他のメンツに袋だたきにあうわ」
「まぁ、それを逆手にとって俺達はたっちさんを囮にしたりしていたんだがな?」
「あとはそうね。こうやって」
インランは自身の身長よりも全長が長い大型のライフルを取り出すと、傍に控えていたシモベの治癒魔法で回復してよろよろと立ち上がった番外席次の腕に狙いを付ける。
激痛の余韻に顔を歪めていた番外席次は、自身に向けられた見たこともない長物を見て嫌な予感に総毛立った。嫌々と手を前に伸ばして空気を掻き混ぜるように振りたくり拒絶の意志を懸命に示す。
「え? ちょ、まって! ぐぁッッッ!!」
爆音と共に射出された弾丸が番外席次の振られていた腕の肘から先を粉砕した。
「ほい、もう一発」
「がああああ!!!」
再び発砲音が響き、反対の腕の肘から先も吹き飛ばされた番外席次が悶絶する。
「こうして後衛の狙撃で武器を装備する部位を使用不能にしちゃえば、
「昔ギルド抗争時にたっちさんが設置型の石弩に腕をやられてな。乱戦状態だったからそこからパーティを立て直すのが大変だったんだぞ」
「あくまで一時的な無力化よ、パーティ組んでる場合はすぐに後衛の治癒魔法やポーションで回復されちゃうわ」
インランがひぃひぃ言ってる番外席次にポーションを投げると、千切れた腕が元通りになった。
「だからまぁ、連携がしっかりしてるパーティにとってはワールドチャンピオンも無敵ってわけじゃないのよ? ほぼタンクが無意味になるから最強の近接職なのは間違いないけどね」
この場にいるシモベ達はモモンガとインランの話に聞き入るばかりである。実験動物のように扱われる番外席次に苦言を呈すものは誰もいなかった。
創造主と同じく極めて善に傾いている性根を持つセバスでさえ、一連の行為に眉一つ動かしていない。
それもこれも、番外席次が神都で行われた会談に乱入してコキュートスを倒し、何よりもモモンガとインランに向かって牙を剥いたことが原因だった。至高の存在に向かって
一歩間違えば、その牙は至高の存在にさえ届いていたのかもしれないのだから。
現に今もシモベ達が番外席次に向けるのは、向けられた側が質量を感じるほどの強い怒気と殺気であり、心を許している者は皆無である。完全に針のむしろの中で番外席次は絶望感と心臓をえぐり出されるような言葉に表せないほどの恐怖に苛まれていた。
そして現在。
「グハァ!!」
「はいもう1回」
「ちょ! ちょっと待って! 神様これはあんまりだよ!」
「うだうだ言わないの、あんたはスキルのクールタイムを短縮させるために食事よ」
「むぐぅ! ふぉお! 何これウマー!」
番外席次の口にドーナッツが突っ込まれる。そのまま空いた手でインランがポーションを地面に倒れたコキュートスに投げると、コキュートスの切断された体が元に戻った。
ガバリと起き上がるとコキュートスが構え、気合いを入れて叫ぶ。
「モ、モウ一回ダ!」
それを受け、整った顔を盛大に引きつらせて番外席次は鎌を抱きかかえるようにして怯えていた。
「もうやだぁ! おうちかえる!」
ついに番外席次は泣き出してしまう。
「帰ってもいいけど、とりあえず近接職の守護者全員の相手が終わってからね」
さらりとインランに言われ。番外席次は考えることをやめた。
スレイン法国。神都。
ナザリックから一時的に戻ってきた番外席次は、神都にあるとある建物の一室で椅子に座りぐったりしていた。手足が無造作に投げ出され虚脱感を感じさせる顔で背もたれに頭を乗せて天井をボーッと眺めている。
部屋の扉からまだ年端もいかない童顔に黒い長髪の少年が入って来た。若くして神の血を覚醒させた。法国の特殊部隊である漆黒聖典の隊長を務める第一席次である。
外見年齢は第一席次も番外席次も大差ないのであるが、実年齢は10倍くらいの開きがあった。
第一席次は部屋の中にいた番外席次に目を止めると声をかける。
「こちらにいらっしゃったのですね」
「ああ……ただいま? なのかしらね……」
「大分お疲れのようですね。神の地に召喚されていた感想をお聞かせ願いたかったのですが……」
その言葉を受けて、番外席次の顔色が目に見えて悪くなる。
「やめて……思い出させないで……」
ぷるぷる震え出した番外席次に、第一席次は困惑した顔を浮かべるしかなかった。
あれ? これギャグ小説じゃなくて、バトル小説じゃね?
と見せかけてやっぱりギャグ。
コキュートスが試し切りされる巻き藁状態。
★次元切断と世界級アイテムの関係(捏造)
・次元切断の破格の効果は世界級所持者にも有効。ただし世界級アイテムで”物理的に”次元切断を受け止めることは可能。