異世界転生すると美少女になれるって本当ですか!?   作:DENROK

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とりあえずリョナ注意。


第11話:矛盾

 

 

 ナザリック地下大墳墓。第九階層。

 

 インラン専用に用意された私室であるプライベートな空間は、課金という名の空間拡張魔法によって、個人の私室にして巨大な城に匹敵する内部容積を誇る。

 

 そんな私室の中に数多有る部屋のひとつに、二人の少女の姿があった。

 

 「これ、私に?」

 

 「そうそう、あたしのお古だけどれっきとした神器級(ゴッズ)よ! エロ鳥のゲイボウの銃バージョンね。ちゃんと対になってるのよ」

 

 あどけなくも非常に整った容姿の童顔に眼帯をし、迷彩柄が異彩を放つメイド服を纏う、桃色の長髪を背中に流した少女であるシズは、手に持った美しい外見のバトルライフルを様々な角度から眺めている。

 

 「それで、これもあたしのお古だけど、つい先日まで現役だった防具よ。装備クラスが特殊だからシズくらいしか着れないわ。メイド服は外装統一すればそのままだからこれを着るといいわ」

 

 床が長方形に切り出されたようにせり出すと、中は空洞になっており、その中に防具がいくつも収納されていた。長い黒髪を二房左右に結って垂らした神々しい美貌の少女であるインランは、そこからいくつかの防具を取り出していく。

 

 インランが取り出した防具は表面の幾何学紋様が美しい漆黒の人工筋肉に覆われたマッスルスーツである。ゴーグルが付いたヘルメットも頭部にスッポリ被る同じ外見の物だ。一見このスーツはパワードスーツに見えるが、ユグドラシルのゲームシステムでは普通の防具というカテゴリーに位置している。

 

 「博士には悪いけど、ちょっとシズのビルドを組み替えたから、このナノスーツは戦闘スタイルに合ってるはずよ」

 

 といっても、シズの自動人形のパーツを新造したモノに差し替えただけである。文字通り躯体のビルドを組み替えたのだ。

 

 「問題ない。最新が最高。それは博士なら理解している」

 

 電化製品のようなことを言うシズ。

 

 「換装した躯体の機械的な技術レベルはあたしのパワードスーツとほとんど同じだから、あたしのパワードスーツの追加装備はほぼ全て初期設定で動くわよ」

 

 インランが口笛を吹くと天井が開き、ロボットアームが等身大の人間が扱うには大きすぎる各種ガジェットを掴んで目の前まで吊り下がってくる。

 

 「まぁさすがにコジマ兵器は無理だけどね」

 

 その中の一部のガジェットはインランが苦笑しながら指さしてフリップする動きをすると、機械音を響かせながらロボットアームが回収して天井の穴に呑み込まれていった。

 

 「ただ、シズの低いレベルのせいで躯体の出力がもんの凄く制限されてるから、これらの装備はハイパワーすぎて振り回されるわ。会談まで時間がないせいで細かいフィッティングは出来ないから、気合いと根性でなんとかして」

 

 「了解」

 

 「本来はパワードスーツを着なくてもパワードスーツ用の大出力の外部装備を使えることが自動人形の種族的な利点なんだけど、シズはレベルが低すぎてあたし用の装備はちょっとオーバースペックすぎるわね」

 

 ナノスーツを全身に纏い外装統一でいつもの迷彩柄のメイド服に戻ったシズに、ガチャガチャとロボットアームが大型のガジェットを装着していくのを見ながら、インランは呟いた。

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓。地表部。

 

 「おお、来ましたか。……おい」

 

 「何よ」

 

 「なんだあの、なんだ、アレだよアレ。お前は会談の場に戦車で乗り込むのか」

 

 「仕方ないでしょ、シズのリミッターがかかったコジマジェネレーターの余剰出力だと光学迷彩は燃費が悪すぎてマトモに駆動しないのよ。装備は丸出しで行くしかないわ」

 

 剣山のように全身にゴテゴテと刺々しい装備を身につけた今のシズは、その大型の装備で膨れあがったシルエットも相まって非常に威圧的である。

 

 「もうシズは置いて行こうか。そもそもシズを連れて行くのは情報漏洩の観点から反対だと言っただろうが」

 

 「ちょっと!」

 

 ちなみにインランの相棒の獣型のメタトロン製パワードスーツは、用がない平時でも光学迷彩で不可視化して傍を離れずについてきている。

 

 「私、不要品?」

 

 「そんなことないわよ! ほら謝って! いいから謝って!」

 

 「済まなかったな、そういうつもりではなかったのだ。シズはナザリックになくてはならないかけがえのない大切な存在だぞ」

 

 「ありがとう」

 

 「はぁ、仕方ないな。シズも連れて行くとしよう。……ただし」

 

 「装備は外さないわよ」

 

 「何故だ」

 

 「格好良いからに決まってるでしょーがッッッ」

 

 あまりにも真っ直ぐな言葉に、モモンガは二の句を継げなかった。

 

 シズはほんのり頬を赤らめ、躯体温度がじんわり上昇した。

 

 

 

 

 

 ナザリック第一階層に緊急時の足止め用にビクティムを配置して、残りのナザリックが誇る精鋭のシモベから厳選した戦闘力に秀でた者達と戦闘メイドを引き連れて、二人の支配者が地上から沸き立つ黒い靄のような転移門(ゲート)に入っていく。

 

 黒い靄を抜けると視界がナザリック地表部から、青空の下で見慣れない石造りの高い壁が見回す限り広がった場所の前に出る。

 

 どこまでも広がるように思えた壁の中で、丁度目の前の位置の壁に巨大な金属の扉がついた場所があり、そこにモモンガとインランには見慣れた、現地民からすれば奇抜といえる統一感のない装いをした者達が整列していた。

 

 整列していた者達の先頭に立っていた黒い長髪の少年が、転移門(ゲート)から現れたモモンガ達一行を見ると笑顔で前に出てくる。

 

 「ようこそおいでくださいました! インラン様! モモンガ様! 従属神の方々!」

 

 「おお! まさにあの!」

 

 「聖典に記されしお姿! なんとお美しい!」

 

 「従属神の方々も記されたままのお姿だ!」

 

 「死の神はお姿を変えられているのか? 我々にお気を使って頂かれているのだろうか」

 

 少年の後ろに整列していた神官風の格好をした者達が、口々に叫び、中には号泣している者もいた。

 

 他には、セーラー服を纏った女が、現れたモモンガ達を見た瞬間に雷に打たれたように痙攣しぶっ倒れて泡を吹いていた。

 

 

 

 モモンガは非常に渋い美声で、少年に向かって口を開く。

 

 「それで、会談場所まで案内を頼めるだろうか?」

 

 「ははぁ! こちらへどうぞ!」

 

 重厚な分厚く高い壁に覆われた神都の、壁に填め込まれた大きな金属の扉が開かれた。

 

 「しかし、我々を中に入れて良いのか?」

 

 「お気になさらず、国の心臓部に迎え入れることは、我々の誠意と受け取って頂きたい」

 

 ブチリッ。そんな血管が引きちぎれたような擬音が聞こえそうなほど、モモンガとインランに付き従っている守護者達の額に血管が浮かびあがる。

 

 ナザリックの中で善性の際立っているセバスとユリもほんのりと怒気を漏らし、普段冷静沈着なデミウルゴスとアルベドも、表面上は笑顔だがよく見れば表情が普段よりも硬く、表情筋がひくひくと動いている。

 

 シャルティアに至っては、なんかもう創造したペロロンチーノが泣きだしそうなほど顔が怒りに歪みきっていた。

 

 「せ、誠意ですってぇっ、至高の御方々を不遜にも呼びつけておいて、誠意っ」

 

 「シャルティア、至高の御方々の思惑をふいにするつもりなの?」

 

 「わかっているでありんす、笑顔笑顔……、いひ、いひひひっ」

 

 怒りながら笑うことでシャルティアの極めて整った顔のパーツが福笑いのように激しく乖離している。

 

 その顔を見たアウラが呆れたと口を開いた。

 

 「あんた、そんな顔で会談に出たら喧嘩売ってるようなもんじゃないの」

 

 「し、仕方ないでありんしょうっ」

 

 「じゃあ僕が、えいっ」

 

 「ぶぎょッッッ」

 

 マーレが念力の魔法でシャルティアの顔を無理やり整形する。

 

 一瞬でシャルティアの顔が引き延ばされ、えぐい悲鳴が木霊した。

 

 

 

 

 

 「ここが神都か、なかなか繁栄してるじゃないか」

 

 強力な結界によって神都内部を魔法で細かく見ることは叶わなかったため、モモンガが神都の中を至近距離で見るのは初めてだった。

 

 「エルフの町に比べると雲泥の差ね」

 

 広い街道にはくまなく石畳が敷き詰められ、建ち並ぶ建物も石造りながら全体として洗練された印象を受ける。モモンガとインランとしては普通に観光として訪れたいほど雰囲気が良い場所だった。

 

 「下等生物、おほん、人間が作った都市にしては、中々良く出来ていますわね」

 

 「アルベド、本音が漏れていますよ。本当に洒落にならないので自重してください」

 

 人間の国と友好関係を築きに至高の存在直々に足を運んできているのに、それをぶち壊すような発言をされるのは困るとデミウルゴスが釘を刺す。

 

 「分かってるわよっ、うふふふ……」

 

 

 

 

 

 

 スレイン法国、神都。

 

 その中でも一際荘厳で巨大な建造物の中に、モモンガ達は迎え入れられていた。

 

 天井が高く広い空間の中央に、木目の美しい巨大な長方形のテーブルと、その周囲にぐるりと派手さはないが上等な品質の椅子が置かれており、モモンガ達とインランがテーブルの片側の椅子に座ると、向かい側の椅子には法国の神官達が座る。

 

 シモベ達はモモンガ達の後ろの壁際に寄るようにして立ったまま侍っていた。

 

 部屋にあるいくつかの扉の向こう側から、モモンガ達の優れた聴覚には話し声というかとある叫び声?が聞こえてくる。

 

 「カミ!」

 

 「カミィィィィィ!」

 

 「カミ! カミ!」

 

 カミという鳴き声なのだな。そうインランは思った。思ったことをそのまま口に出す。

 

 「変わった鳴き声の人間種ね。さすが異世界だわ」

 

 「いや、神なんだろう、俺達は。……彼らにとってはな」

 

 外向きの口調と低く渋い声音で、モモンガがそれに答えた。

 

 「なんというか、良くわからないわ」

 

 「面白いな、実に面白い。現地民からすると俺達はそう映るのだな」

 

 くつくつと、不敵にモモンガは笑う。

 

 そうしていると、陶器が擦れる音を立て紅茶が入ったティーカップが給仕されていく。しかしナザリックのメイド達に傅かれている二人には給仕に粗さが見て取れた。

 

 紅茶を口にしてみるが、イマイチパッとしない味と香りである。

 

 モモンガ達の後ろから一連の給仕を見ていたセバスとプレアデスはもの凄く何か言いたそうな顔をしている。

 

 「すみません。我が国では嗜好品の流通は盛んではないのです」

 

 モモンガ達の顔を見た神官がテーブルの向こう側から申し訳なさそうに喋った。

 

 そのまま緊張した面持ちで対面に座った神官が続けて言葉を紡ぐ。

 

 「この度は遠路遙々お越し頂き、誠に感謝いたします」

 

 「何、気にすることはない。転移門(ゲート)を使えば距離は我々には何の障害にもならないからな」

 

 神官達とモモンガ達による会談が始まる。

 

 二三言葉を交わしあうと、モモンガは神官達を睥睨しながら、一際低い声で強い意志を乗せた言葉を発した。

 

 「俺達は、俺達と仲間達が遺したものを護りたいと、そう考えている。ハッキリ言っておくが、それ以外はどうでもいい」

 

 「そ、それは!」

 

 「ああ、お前達人間の考えは分かるとも、俺達の庇護下に入りたいのだろう? どうでもいいおべっかは不要だ。本音を言うといい」

 

 「っはい! あなた様方ぷれいやーとえぬぴーしーによって! 神々と従属神によって! 我ら人間種を守護り導いて頂きたいのです!」

 

 モモンガの真っ直ぐな言葉を受けて、思い切って神官は言葉を飾らずに要求を述べると頭を机に叩きつけるように下げた。他の椅子に座った神官達も同じように頭を下げ、後ろに控えた者達もその場に跪き頭を垂れる。

 

 「くくく、どうするインラン?」

 

 酷薄な笑みを浮かべドス黒く禍々しいオーラを漂わせながら、モモンガは隣の椅子に座る大切な友人に声をかけた。

 

 「は? あたしに振るの?」

 

 「いいじゃないか、お前も何か言ってやるといい。どうやら、プレイヤーはいないようだしな(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 神官達は顔を上げると、何かを強く期待するような目でインランの神の美貌を見つめ、その口から紡ぎ出される言葉を待つ。

 

 インランは無垢な笑顔を浮かべると、隣のモモンガに合わせて神気である金色の粒子を全身から間欠泉のように噴き出す。

 

 モモンガの絶望のオーラを受けて萎縮していた面々は、インランの神気開放に当てられて幾分か顔色が良くなった。

 

 「まぁ、いいんじゃないの? あたしはドーブツよりは人間の方が好きよ?」

 

 笑顔で、とてもいい笑顔で、インランはさらりと述べた。

 

 

 

 表情が凍り付いている神官達を見ながら、モモンガは口を開く。

 

 「と、いうことだ」

 

 「と、いいますと?」

 

 「なんだ。分からなかったのか? ナザリックの庇護下に入れてやると言っているんだ。困っているのだろう?」

 

 「ああ! ありがとうございます!」

 

 感極まったように顔を弛緩させた神官が再び机に頭突きする勢いで頭を下げた。先ほどの繰り返しのように周囲の者達もそれに倣う。

 

 「まぁ、お前達人間にも相応に協力して貰うことになるが、かまわんだろう?」

 

 「はい! 全力でご協力させて頂きます!」

 

 

 

 

 「では、お前達の手の内を見せて貰おうか。まさか後ろに控えている者達が最大戦力というわけではないのだろう?」

 

 モモンガは、椅子に座った神官達の後ろで壁際に控えるように直立している槍を持った少年を見ながら喋る。

 

 再び話し合いが始まるなか、インランが座る椅子の後ろの位置で光学迷彩で不可視化していた獣方のパワードスーツが、光学迷彩を切って姿を現す。

 

 突如現れた金属の異形に神官達が驚くなか、パワードスーツは椅子に座ったインランに後ろから組み付くと、骨格が変形してガチャガチャとインランに装着された。

 

 「え? 何?」

 

 装着中に椅子が破壊され、パワードスーツを纏ったインランは空気椅子に座ったようになったまま困惑する。

 

 インランの視界一杯にパワードスーツのUI画面が表示され、視界の端のレーダー画像に光点が無数に表示されるなかで、ひとつが強調表示されていた。

 

 「あら、レベル100だわ。しかも敵意ビンビンじゃないの。これは転移か今まで隠蔽装置に隠れてたかのどちらかね」

 

 インランの冷静な言葉を受けて、モモンガが椅子を粉砕する勢いで立ち上がると叫ぶ。

 

 「インラン!」

 

 「分かってるわよ。シズ、さっそく出番よ。良かったわね」

 

 「な、まさか! お待ち下さい!」

 

 モモンガと主に話をしていた神官が後ろを振り向き、焦った様子で槍を持った少年と互いに目配せすると正面に向き直り立ち上がって大声で制止した。

 

 「黙れ! 俺達は自分の身は自分で守らせてもらうぞ!」

 

 シモベ達はパワードスーツが動き出すのと同じくらいのタイミングでモモンガ達の方に近づき護衛についている。皆顔には怒気が滲みまくっていた。セバスでさえマジギレして凄い顔をしている。

 

 「第一席次! 死んでも止めろ!」

 

 「は! お任せ下さい!」

 

 神官が槍を持った少年に怒鳴ると、少年も力強く返事を返す。

 

 インランの視界の中では、レーダーに表示された件の光点がドンドンこの場に近づいていた。

 

 

 

 

 

 シモベ達に囲まれるように護衛されながら、インランは口を開く。

 

 「ねぇ、これどういうこと?」

 

 「俺に聞くなよ」

 

 「お下がりください!」

 

 「邪魔よ! 通しなさい!」

 

 黒い長髪の槍を持った少年が、会談の場である部屋の奥にある扉で、現れた奇抜な髪色の少女と押し問答を繰り広げていた。

 

 「ディーフェンス! ディーフェンス!」

 

 「遊んでる場合ではないぞインラン」

 

 命がけの押し問答を囃し立てるインランをモモンガが諫める。今もなお少女の持つ鎌の刃先が少年の首にかかる寸前で、少年が持つ槍に受け止められ鍔迫り合いのような形になっていた。

 

 「いやほら、なんか楽しそうだし。気が抜けちゃったわ」

 

 「しかし、なんだ。あの、何してるのだあれは?」

 

 激しくイチャイチャしている二人を尻目に、モモンガはテーブルの向こう側に自分と同じく立ちあがっていた神官に問いかけると、神官は今にも死にそうな悲壮な顔でペコペコ頭を下げながら説明する。

 

 「申し訳ありません! アレは我が国最高の戦力でして! 人類の守護者なのですが何分暴走しがちで! も、申し訳ありませんぅううう!!」

 

 もはや号泣しながら神官が土下座して謝った。

 

 「ひぇ! パワハラ! パワハラだわ! ギルド長が遂にパワハラを!」

 

 「人聞きの悪いことを言うな! あー、まぁ、うん。こちらに被害が出ないなら大目に見るぞ」

 

 「ああ! ありがとうございますぅうううう!!!!」

 

 「ぐはぁ!!」

 

 「「あっ」」

 

 神官が顔をクシャクシャにして感謝の言葉を述べた次の瞬間、鍔迫り合いの姿勢から蹴りを腹に食らった少年がもの凄い速度で吹っ飛んできた。

 

 そのままモモンガ達と神官達を隔てている巨大なテーブルを粉々に粉砕して反対側の扉を突き破り部屋からフェードアウトする。

 

 それを受けて、土下座していた神官は真っ白に燃え尽きて嗚咽していた。

 

 「おいインラン出番だぞ」

 

 「えーいいわよ。たかがカンストでしょ? 見たところ近接職だしコキュートス頑張ってね」

 

 「ハハァ! 必ズヤ御方々ニ勝利ヲ!!」

 

 スッゴく張りきった様子でコキュートスは扉からコチラに向かって突っ込んでくる鎌を持った少女の正面に回ると武器を構えた。

 

 少女は立ち止まると、コキュートスに話しかける。

 

 「あなたが神様なの?」

 

 「違ウ。私ハ御方々ノ刀ダ」

 

 「ああ、従属神ね。あなた強いの?」

 

 「勿論ダ!」

 

 その言葉を聞くやいなや、少女が鎌を振りかぶった。

 

 振るわれた鎌をコキュートスは腕の一本に握った刀で弾く。

 

 「不動明王撃(アチャラナータ)!! 俱利伽羅剣!!」

 

 さらに残った腕に握る武器に攻撃スキルを乗せて少女に向けて連撃を放つ

 

 斬撃が連続して走り、振るわれた武器の軌跡に合わせて建物が切り裂かれる。余波で部屋の中のコキュートスの正面側にある壁と天井が轟音を立てて崩れ落ちた。

 

 「うん、舐めプよくない。初手に全力が正しいわ」

 

 「まぁ、そこがスタートラインなのがPvPだがな」

 

 モクモクと粉塵で視界が遮られるなか、一筋の閃光が水平に走った。

 

 「グハァ!!」

 

 コキュートスの胴体がスライドするように水平にズレると、次の瞬間には胴体が寸断されてボトボトと床に転がる。

 

 粉塵に体を溶け混ませながら、コキュートスの凍てつく体液を鎌に纏わせて少女は妖しく笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 「……次元切断(ワールドブレイク)?」

 

 「嘘だろ」

 

 モモンガ達の言葉を聞いたシモベ達が色めきだす。

 

 「モモンガ様! インラン様! お逃げ下さい!」

 

 「ちぃっ、あたしが出るわ!」

 

 インランはパワードスーツを脱ぐと、シモベの間を通り抜けて鎌を持つ少女に突進するように近づき、両手に出現させた大型の2丁拳銃の銃口を向けて発砲する。

 

 「ぎぃ! がぁ!」

 

 少女は腹部に受けた凄まじく重い衝撃に苦悶の声を浮かべながらも、手に持った鎌を振るう。

 

 再び一筋の閃光が水平に走り、インランの体に到達したところで、金属が激しくぶつかる轟音と共にピタリと止まった。

 

 「あ、これ次元切断(ワールドブレイク)だわ」

 

 「マジかよ。本物なのか」

 

 拳銃を手放したインランの手が、チョップするようにして鎌の刃先を受け止めていた。インランの手にノイズが走るように漆黒の籠手が現れて消える。

 

 払うようにして鎌をどかすともう片方の手を握り締めてインランは呆然としている少女の腹に流れるようにポンパンチをくりだした。

 

 空気の震える音を響かせて拳がめり込み、少女の体がくの字に折れ曲がる。もの凄い悲鳴を上げて少女は口から勢いよく吐瀉物を噴き出した。

 

 「ぐげぇッッッ!!」

 

 「ギルド長、コキュートスを」

 

 「了解」

 

 インランはさらに少女にたたみかけるように一撃一撃が極めて重い格闘を全て急所にくり出しながら、後ろのモモンガに声をかける。

 

 モモンガがエリクサーの瓶を床に倒れたコキュートスに投げると瓶が当たり割れることで中身がかかり、動画を巻き戻すように切断されていた胴体と千切れた腕がくっつく。

 

 コキュートスの再生が完了するのと時を同じくして、顎が砕けて顔面が崩壊した少女が崩れ落ちるように床にぶっ倒れた。

 

 さらにインランは倒れた少女の手足の関節を床を陥没させながら丹念に踏み抜いていく。

 

 「終わったわよ。危なかったわね」

 

 「さすがに俺もひやひやしたぞ」

 

 「危うく5億金貨を消費するところだったわ」

 

 「えっ?」

 

 「え?」

 

 

 

 




 インランは全身に世界級(ワールド)アイテムという最強の鈍器を纏っているので、普通に殴った方が下手に銃を撃つよりも威力があります。

 それとモンクのクラスも持っています。ガン=カタを扱えるクラリックのクラスの前提クラスのひとつなので。

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