あれから1年経ち、俺とノジコは10歳、ナミは8歳になった
畑の収穫、漁の成果も順調で少しずつ貯えはできている
そして、あの一件から俺達は家族として更に仲が良くなった
ナミも本を読み、海図を描く練習をするだけでなく、畑の手伝いもするようになった
服に関しては誕生日にプレゼントしたものを大事にしているが
お下がりの服を着合わせたりして、ノジコと一緒にオシャレを楽しんでいる
今日は畑の世話や漁も終わり、時間があったので走り込みでもしようかと思ったが
ベルメールさんに呼ばれ、裏庭に顔を出したのだった
◆
「お待たせしました、ベルメールさん」
裏庭に行ってみると、ベルメールさんがいつもの畑の世話をするときの格好ではなく
8年前に着ていた海軍の服で俺を待っていた
「女を待たせるものじゃないわよ、シュウ」
「申し訳ありません、ですが、その格好は?」
予想はできるが確実ではないので、あまり期待はしないでおく
「シュウに幾つか私の技を見せようと思ってね、気合いを入れる為に着替えたのよ」
「教えてくれるのではなく、見せる…ですか?」
「そうよ」
残念に思っていると、ナミとノジコも裏庭にやってきた
「シュウに教えてあげたいのだけど、私自身が誰かに教わった訳じゃなくて
見て覚えたからね。感覚的なことしか教えられないのよ」
昔、アカリママがベルメールさんの事を天才と言っていたけど
どうやら本当のことらしい
「それに、8年もブランクがあるからね…どこまで出来るかわからないのよ」
なるほど、確かにそれは仕方ないな
「それじゃ、向こうでナミ、ノジコと一緒に見ていなさい
母さんの格好良いところをみせてあげるから」
ベルメールさんがウインクをしながらそう告げてきた
「頑張れ、ベルメールさん!」
「無理しないでね、ベルメールさん!」
「期待していますよ、ベルメールさん」
ナミ、ノジコ、俺の順番でベルメールさんを応援する
「ちょっと、誰か1人ぐらい母さんって呼んでくれてもいいんじゃない?」
苦笑いしながら言ってくるが、屈伸運動などをして準備をしている
「それじゃ、いくわよ!《剃(ソル)》!」
その言葉と共にベルメールさんの姿が消えた
「後ろよ、後ろ♪」
なんと、いつの間にかベルメールさんが俺達の後ろに回り込んでいた
「「すご~い!」」
異口同音にナミとノジコが、ベルメールさんを賞賛する
「凄いですね…《剃》と言っていましたが、どういった技なのですか?」
「そうね、簡単に言えば、一瞬で何度も地面を踏んで加速する移動方法ってところかしら」
…はい?
「…よくわからないのですが」
「う~ん…走ったりする時も地面を蹴るでしょう?だから、それを一瞬で何度も
するのがこの《六式(ろくしき)》と呼ばれる超人的体術の《剃》よ」
もうほとんど無い前世の記憶から《脳筋》の言葉が頭に浮かんだ
「そうですか…」
「海軍本部には六式を使える人が結構いるわよ。それに、グランドラインにいる海賊なら
見様見真似で六式を使えるようになる天才や化物もいるでしょうね」
…とんでもない世界だな
「だから、焦らずにじっくりと鍛えなさい。シュウが海に出るつもりならね」
「はい」
ベルメールさんの注告に素直に頷く
「よし!それじゃ、もう少しいいところを見せようかしら!」
その後は、空中を一歩踏みしめて、文字通りに空中を駆ける《月歩(ゲッポウ)》と
武装色の覇気を見せてもらった
ベルメールさん曰く、月歩は不完全で利き足で一歩が限界で、本来なら
自在に空中を駆けるものらしい
武装色の覇気を纏ったベルメールさんの拳が黒く変色したことに驚いたが
今はそれが精一杯のようだ
これらを自在に扱う天才や化物がウジャウジャしているのがグランドラインなのか…
改めて思うがとんでもない世界に転生したものだ…
俺の心は不安が半分、そして期待が半分というところだ
ベルメールさんの言う通りに焦らずに鍛えよう
アカリママとの約束を果すために、世界を俺自身の目で見るために…
◆
「シャンクス!…腕がっ!」
「なに、安いものさ。友達を助けるためならな」
山賊に連れ去られ、フーシャ村の近海の主である海王類に食われかけていた
ルフィを助けたのだが、その代償として利き腕である左腕を食われた
事の経緯としては、今年、シュウを迎えにいくために一度、東の海の
拠点であるフーシャ村で休んでいたところ、付近を根城にしている山賊に
絡まれたのが発端だ
奴らは何度も俺達に喧嘩を売ってきたが、長年世話になっているフーシャ村に
迷惑をかけるわけにもいかないので笑って済ませていた
もっとも、グランドラインで動いている俺達にしてみれば、少しはしゃいでいる小者なので
喧嘩を売ってきても微笑ましい程度のものだった
だが、奴らは俺の友達であるルフィに手をあげた
ロジャー船長の麦わら帽子と共に継いだ俺の信念として見過ごすことはできなかった
それからは一方的だった、何だかんだでルフィのことを気に入っていたベックマンが
山賊を一蹴してしまい、あっという間に決着だ
だが、山賊の頭領がしぶとく、ルフィを人質に小舟で海に逃げた
海賊相手に海に逃げてどうするんだと思ったが、ルフィが能力者だと考えれば
悪くない選択だったかもしれない
だが、山賊の頭領の悪運はそこで尽きた
近海の主に小舟ごと食われたのだ
そして、俺はルフィをかばい、近海の主を覇王色の覇気で威嚇して撃退し今に至る
「泣くなルフィ、助かってよかったじゃねぇか」
俺は足で泳ぎ、陸に寄っていきながらルフィに話しかけるが泣き止む気配は無い
「シャンクス!」
どうしたものかと悩んでいたところ、どうやらベックマンが来てくれたようだ
「お~、ベックマン!ルフィを引き上げてくれ!」
俺の状態を見て目を見開いたが、そのことを声に出さずにベックマンは
ルフィを引き上げてくれた
◆
「大丈夫か、シャンクス」
引き上げたルフィを酒場の店主であるマキノに預けた後にベックマンが問いかけてきた
「とりあえずはな」
「そうか…船医が今、針と糸を準備している。それまではそのまま止血をしておけ」
騒動と共に俺の気も落ち着いたからなのか、失った左腕の傷がズキズキと痛む
だが、その痛みはすぐに暖かさに包まれ無くなった
「おい、シャンクス!」
ベックマンの目線を追い左腕を見ると、淡く黄金色に輝いていた
「…アカリ」
アカリの名を呟き呆然としていると光が収まり、左腕が元に戻っていた
「なぁ、ベックマン」
俺は空を見上げ言葉を続ける
「アカリは…本当に、いい女だな」
左腕を使い、麦わら帽子で顔を隠す…少しの間、誰にも顔を見られないように…
◆
「また会おうな!シャンクス―――!」
悪魔の実を食い、ゴム人間になっていたルフィの怪我は軽く、心配がなかったので
俺達はすぐに出航準備に取り掛かった
そして、ロジャー船長から継いだ麦わら帽子をルフィに預け、俺達はフーシャ村を出航した
「ルフィは大物になるぞ、シャンクス」
「あぁ、そうだな」
ルフィはどこか昔の俺に似たところがあるように感じる
だからというわけではないが、ルフィは大きな男になるような気がする
「さぁ行くぞお前ら!目指すはココヤシ村だ!」
東の海の海原を船は進んで行く
シュウ、待たせたな!今行くからな!
◆
ココヤシ村の沖合に複数の人影が在る
その泳ぎの速さは魚をも超えるものだ
人影はどんどん近づき、勢いのままに水面から陸へと飛び上がった
「シャハハハハ!」
平和なココヤシ村に危機が迫っていた
これで本日の投稿は終わりになります
また来週お会いしましょう^^