ONE PIECE~重力の魔人~   作:ネコガミ

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本日2話目の投稿です


第23話

「それで、先程ゲンさんが言っていた仕事の件ですが

 どうするのですか?ベルメールさん」

 

あの後、飲み物を取ってきてから一息入れて、ナミとノジコを

寝かせてから話し合いを再開した

 

まだ子供の2人は船旅で疲れが溜まっていたみたいね

 

そして、シュウとゲンさん、私の3人で話の続きをする事になった

 

「そうね、ミカンを育てようと思うわ」

「ミカン…ですか?」

 

ナミの笑顔に救われた私は、あの子を育てると決めた時に

あの子の髪色と同じミカンを育てようと思い立ったのよね

 

「ゲンさん、ココヤシ村と近隣の村などのミカン農家の数はどのぐらいでしょうか?」

「詳しくは知らないが…少なくはないはずだな」

「そうですか…そうなるとミカンの供給に不足はなく

 単価にはあまり期待できそうにないですね」

 

シュウのその言葉に私とゲンさんは目を見開いて驚く

 

今までも賢いと何度も思ってきたけどここまでとは思っていなかった

 

「畑の管理に採取したミカンの販路、商人へミカンを売る際の相場…

 やることは多いですね」

 

顎に手を当て、考えこむその仕草は経験豊富な大人を思わせるものだった

 

「まずは近くのミカン農家の方に相談してみるのが良いでしょうね。

 どの程度の期間で生活が成り立つようになるのか、初期投資にどのぐらい

 必要になるのかなどの目処がほしいですからね」

 

驚愕を通り越して呆れるようにため息が出てしまう

 

アカリ…あんた、どんな教育をしたのよ

 

少し室内を見渡せば、明らかに私の知らない本が幾つも増えている

 

「ゲンさん、あそこら辺にある本って…アカリが買ったの?」

「…そうだな」

 

チラッと本の背表紙を見ると、《大海賊時代前後の海賊と経済の変化》や

《有名海賊列伝》とか《東の海における海域と海流》等々

明らかに子供に読ませるような本じゃないものが多数あるのよね

 

「…ゲンさん、もしかして?」

「アカリがしっかり読み聞かせたからなのか、シュウは理解したみたいだな…」

 

アカリ…あんた、シュウを学者にでもするつもりだったの?

 

「供給が十分ということは…私達が新たにミカン畑を作るのを歓迎しないでしょうか?

 商売敵、ライバルになることになりますからね…そうすると、なにかしら手土産を?」

 

シュウの考察はまだ続いている…もう、凄いとしか言えないわね

 

「畑にする土地のこともありますね…そこら辺はアカリママに教えてもらってないので

 わかりませんが…と、どうしましたか?ベルメールさん、ゲンさん?」

「なんでもないわよ」

 

そう言ってシュウの頭をガシガシと撫で回す

 

…まったく、私達大人がしっかりとしないとね

 

「ゲンさん、近所のミカン農家への挨拶回り、お願いするわね」

「あぁ、任せてくれ」

「私はノジコとナミの当面の着替えを買ってくるわ」

 

そう言って私は席を立つ

 

「あの…私はどうすれば?」

 

シュウの問いかけに、私とゲンさんは顔を見合わせて笑った後に答える

 

「子供が変な気を回すんじゃないわよ、大人に甘えておきなさい」

「ですが…」

 

「私達は一緒に暮らしていく家族なんでしょう?遠慮するんじゃないの」

「そうだぞシュウ、ここはベルメールと私に任せておきなさい」

 

私とゲンさんの言葉にシュウは目を瞑り、少し考えた後に応えた

 

「…わかりました。それでは昼寝でもすることにします」

「そうそう、それでいいのよ。私が海軍本部に行くときには家の事を

 お願いするから、それまではゆっくりしてなさい」

 

少し照れたように笑ったシュウは椅子を飛び下り、部屋に歩いていった

 

「…これでいいわよね、ゲンさん?」

「あぁ、シュウのおかげでやるべきことも見えたからな。後は大人の私達の仕事だ」

 

ゲンさんの言う通りね。さてと、頑張ろうかしら

 

出掛けようと準備をしていると、なぜかシュウが戻ってきた

 

「どうしたのよ、シュウ?」

 

少し困ったような顔をしながらシュウが答えた

 

「私のベッドがノジコに占領されているのですが…」

「あ~…一緒に寝たら?」

「私はともかく、ノジコがベッドから落ちたら危ないのではないでしょうか」

 

シュウの言葉に、私は買い物リストにベッドを加えることにした

 

 

 

 

駐在であるゲンさんは顔が広く、ココヤシ村だけでなく近隣の村の

ミカン農家にも挨拶をしていったようだ

 

ただ、相手方もわかっているのか、新たにミカン畑を作るのは構わないが

協力に関しては否定的だと、戻ってきたゲンさんが項垂れながら言っていた

 

そこで俺は、農家の次男、三男の独立する際の予行練習としてみてはと提案した

 

搾り出した知識の中に家を継ぐのは長男といったものがあった気がしたからだ

 

その線でゲンさんが話をしたらトントン拍子に話が進んだ

 

そして、村社会だからとでも言うのだろうか、その噂は広まり、多くの人が

我が家の庭に集まった…何故か、次男、三男だけでなく農家の娘さん達まで…

 

要するに畑を継ぐ男がいない農家が婿を見繕いにきたということだ

 

男衆により開墾されていく我が家の庭で、熾烈な婿取り戦を繰り広げる女衆

 

若者達の恋模様に暖かい目を向けるゲンさんとベルメールさん

そして、拳を握り見守る農家の方々

 

前世に比べて娯楽の少ないこの世界では

こういったことも祭りのようになってしまうようだ

 

賑やかになった我が家の庭であるが、俺はナミのオシメを換えたり

ノジコに簡単な本を読んであげたりして平和に過ごしている

 

カップルが成立するたびに歓声があがり、どの品種のミカンを育てるかの

議論で大声が飛び交う毎日だが、とても充実しているように感じている

 

そして日々は過ぎ、畑が完成して、休暇を終えたベルメールさんが

海軍本部に戻る時がきた

 

 

 

 

「それじゃ、行ってくるわね。ナミとノジコの事をよろしく、シュウ」

「えぇ、いってらっしゃい、ベルメールさん」

 

いつものように軍服を着たベルメールさんが、荷物を肩に言葉をかけてくる

 

「ビーフシチュー、美味しかったわよ。帰ってきたら、また作ってよね」

「まだ収入が安定したわけではないので、そうそう作るわけにはいかないのでは?」

 

ビーフシチューの要であるデミグラスソースを作るには、相応の材料が

必要になるので少々…いや、この世界ではかなり金がかかる

 

「それもそうね…じゃあ、行き掛けの駄賃に賞金首を2、3人捕まえて

 小遣い稼ぎでもしようかしら」

 

アカリママ直伝のビーフシチューを気に入ってくれたのは嬉しいが

我が家の家長たる自覚をもってほしいものである

 

「本当に気をつけてくださいね、ベルメールさん」

「大丈夫よ、東の海の海賊に負けるほど海軍本部の佐官は柔じゃないから」

 

ウインクをしてそういい放つ様は素直に格好いいと思う

 

「そうだ、言い忘れてたわ」

 

ベルメールさんは屈んで俺と目線を合わせてきた…なんだろう?

 

「シュウ、あんたの父親、シャンクスがあんたを探しに東の海に来ているはずよ」

 

…え?

 

ベルメールさんの言葉に呆然としてしまう

 

「その様子だと全く考えてなかったみたいね」

「えぇ…そうですね」

 

父さんが俺を…?

 

「実はね、今回ココヤシ村に帰ってくる前に一度会っているのよ」

 

続けられるベルメールさんの言葉に思考を重ねていくが言葉が出てこない

 

「その時にアカリの遺言を伝えたから、東の海に来ているはずよ」

 

遺言…

 

「アカリママは、父さんにどう言い残したのですか?」

「『ヒントはあげたんだから、後は海賊らしく《宝》は自分で見つけなさい』ね」

 

なんともアカリママらしい物言いに笑みが溢れる

 

「シュウ、シャンクスがいつあんたを迎えにくるかはわからないわ

 でもね、シュウがどんな答えを選ぼうとも私は応援するわ」

 

家族としてココヤシ村で暮らすのも、海賊として離れるのも…ということか

 

「だから、よく考えて、自分の意思で決めなさい。後悔しないようにね」

 

そう言って、ベルメールさんはぐしゃぐしゃと俺の頭を撫でてきた

 

「…わかりました」

「まぁ、そう言っても海は広いからねぇ。いつになることやら…ってね」

「そうですね」

 

そして2人の笑い声が辺りに響く

 

「それじゃ、行ってくるわ。後はよろしくね、シュウ」

「はい、いってらっしゃい。ベルメールさん」

 

踵を返し、手を振りながらベルメールさんは出かけていった

 

父さんが俺を探しにか…全く考えてなかったな

 

俺の方から探しにいくものと決めつけていたんだな、気をつけよう

 

父さんか…どんな人だろう?

 

ベルメールさんに言われたことで会いたいという気持ちが出てきたが

2歳の俺には待つことしかできない

 

…うん、家に帰ろう!

 

今の俺のやるべきことはベルメールさんがいない間、家族を守ることだ

考えるのはそれをやってからにしよう

 

その後、アカリママの墓に挨拶をしてから、俺は家族の待つ家に走って帰った

 

 

 

 

「ようやく東の海に入ったか…時間がかかっちまったな」

 

ベルメールと別れてから俺達、赤髪海賊団は東の海を目指したが

シャボンディ諸島でレイリーさんに会ったりと、少し寄り道をしていた

 

「それでベックマン、シュウを探すとして、どこを東の海の拠点にしたらいい?」

「噂では最近、海軍中将の《英雄ガープ》がよく休暇を過ごす場所があるらしい」

 

以前は《拳骨のガープ》と呼ばれていた男は、ロジャー船長を捕まえた功績で

《英雄ガープ》と呼ばれるようになっている

 

本当はロジャー船長が自分から出頭したんだが、海軍が色々と情報操作をして

世間ではそういうことになっている

 

面白くないところはあるが、ロジャー船長の偉業が消されているわけではないので

レイリーさんを始めとして元ロジャー海賊団のみんなは静観している

 

「そうすると、そこは避けるべきか?」

「いや、そこを拠点にするべきだ」

 

…ガープの縄張りを拠点に?

 

「どういうことだ、ベックマン?」

「どうやらそこは、近海の海賊や貴族なんかも干渉しない中立地帯になっているらしい

 ゆっくりと《宝探し》をするには丁度いいだろう」

 

中立地帯か…

 

「なるほどな」

「あぁ、俺達も《偉大なる航路(グランドライン)》で名が売れてきている。

 最弱の海と呼ばれる東の海を荒らさないようにするにはそこを拠点にするほうがいい」

 

「わかった、で…そこは何処だ?」

「フーシャ村だ」

 

俺はロジャー船長から譲り受けた麦わら帽子をかぶり直し、声をあげる

 

「よし、目指すはフーシャ村だ!」

「あいよ、船長」

 

こうして俺達は船をフーシャ村に向ける

 

そして、そこが東の海での赤髪海賊団の長年の拠点になるのだった




17:00にもう1話投稿します

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