ONE PIECE~重力の魔人~   作:ネコガミ

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第16話

海の見える岬にアカリママの墓を建ててもらった

 

ベルメールさんの船を見送る時に、ママとよく2人で見送った場所だ

 

簡素な墓だが、将来は俺の手で立派なものにしたいと思う

 

「それじゃ、そろそろ私は行くけど、ちゃんとゲンさんとかを

 頼りなさいよ、シュウ」

「はい、大丈夫ですよ、ベルメールさん」

 

俺が応えると、ベルメールさんは俺の頭を手でクシャクシャと撫でてくる

アカリママと同じ波打つ髪がボサボサになってしまう

 

「いってくるわ、シュウ」

「いってらっしゃい、ベルメールさん」

 

挨拶を終えたベルメールさんは手荷物を持って、出掛けていった

 

…さてと、まだ幼いこの体では掃除などの家事も大変だけど頑張ろう

そして、少しずつでいい…余裕が出来たら走ったりして体を鍛えよう

 

アカリママと約束した、父さんにビーフシチューを食べさせるには

俺自身が海に出て、父さんを探さないといけないだろうからな…

 

俺にママや父さんのように冒険できるのか、海で生きられるのかは

わからないけれど…それでも、ママの昔語りを聞いて憧れた世界を

俺自身の目で見てみたいという思いがあるから…

 

「アカリママ、私も、頑張ります」

 

ママの墓に誓いをたてた俺は、家に向かって走り出した

 

 

 

 

「ゼハハハハ!女ぁ!やるじゃねぇか!」

 

任務で航路を巡回中に近くの村が海賊の襲撃を受けていると連絡があり、

私の船はそこに急行した

 

たどり着いた先では村が燃やされており、一刻の猶予もない状態だった

 

そして私は今、そこにいたこの巨漢の男と戦っている

部下達が村の人達を救出する時間を稼ぐために…

 

「…あんた、何者?」

「ゼハハハハ!俺様は、マーシャル・D・ティーチだ!」

 

その言葉と同時にティーチが踏み込み、殴りかかってくる

 

左半身を前にして踏み込み、右手を振ってくるティーチを

相手の前足の外に踏み込んで避ける

 

避けるために踏み込んだ足を基点として体を回し、武器である

ライフルを振るって攻撃する

 

ティーチは空いている左腕で私の攻撃を受け止める

体格差が大きく、力で圧しきるのは難しいのですぐに次の行動へ移る

 

「ゼハハ!痛ぇじゃねぇか!」

 

受けた左腕でなぎ払うようにしてきた攻撃を掻い潜るようにして避ける

 

下がった上体を起こす勢いを利用してライフルを振り上げる

 

「おっと、危ねぇ!」

 

3メートルを軽く越える長身のティーチの顎を目掛けて振ったために

こちらの体が伸びきってしまうが、仰け反って前に出た

相手の腹を蹴り、反動で距離をとる

 

「エールを戻しちまうかと思ったぜ、ゼハハハハ!」

 

しばらく続く攻防の中で、私はティーチの攻撃の間合いや

タイミングを測っていく

 

そして、機を見て仕掛けた私は首筋辺りにゾワリと寒気を感じた

 

私は反射的にライフルに武装色の覇気を纏わせ盾とした

 

ドガッ!

 

大きな音と共に私は吹き飛ばされる…吹き飛ばされながら目にしたものは

いつの間にか《軸足》が入れ替わっていたティーチの姿だった

 

「ゼハハハハ!惜しい惜しい、後少しで仕留められたんだがなぁ」

 

右半身を前にして左腕を振り切った姿のまま、ティーチは謳う

 

「だが、手応えは悪くなかった。横っ腹に力が入らねぇんじゃねぇか?ゼハハハハ!」

 

確かに直撃は避けることができたけど、武装色の覇気を乗せたティーチの拳は

ライフルでのガードを超えて私の腹にダメージを与えてきた

 

足が重い…

 

私とティーチの体格差を考えれば、足を止めての殴りあいなど自殺行為だ

 

私の顔に冷や汗が流れる…状況は悪いけど、まだ終わってない!

 

「確かに、良いのを貰っちゃったけど、まだいけるわよ」

「ゼハハハハ!気の強ぇ女だ!」

 

それからは回避に専念するものの、足を使えないのでいくつかの攻撃は

受けざるを得ないため、少しずつダメージを重ねられていく

 

このままではじり貧ね…

 

私の覚えたての武装色の覇気ではティーチの覇気を防ぎきれずに

ダメージを重ねられてしまう

 

それに、先程から何度も軸足が入れ替わって間合いが変化するため

予期せぬ形で攻撃を受けてしまうのも大きい

 

くっ、やりにくいわね!

 

人は利き腕、利き足、利き目などからある程度は構えが決まってくる

 

そして、構えは備えでもある。攻撃、防御をするための備えだ

 

剣術では上段、中段などの構えの変化はあるが左右の入れ替えというのは少ない

 

左右が入れ替われば足捌きも変わってしまうからだ

 

足元が覚束なければ簡単にやられてしまうだろう…なのに、ティーチは

それを当たり前のようにやっている

 

なんとか時間を稼ぎ、足に力は入るようになったけど、代わりに

上半身は内出血で所々に痣ができてしまった

 

そして、横腹はズキズキと痛みがある…肋骨をやっちゃったかしら?

 

どちらにしろ、もう余裕はないわね…

 

私は動くようになった足で六式の《剃》を使い、一度距離をとる

 

「お?動けるようになったか。でも、もうボロボロみたいだな」

「そうね、身体中痛いところだらけだわ」

 

「てめぇは女だ、命乞いをすれば助かるかもしれないぜ?」

「冗談でしょう。村の惨状を見てそう考えられるほど、私は楽天家じゃないわ」

「ゼハハハハ!」

 

怪我や体力を考えて、チャンスは一度ってところかしら

 

失敗すれば私はティーチに殺されるでしょうね…

 

背中に冷たい汗が流れる…恐怖が体を包む

 

―――いってらっしゃい、ベルメールさん―――

 

シュウの言葉が頭に響く

 

「…そうね、帰らないと、アカリに怒られるわよね」

 

意を決して前を見据える

 

「お?くるか」

 

こちらの意図を察したティーチが言う

 

「えぇ、悪いけど、待たせている男がいるのよね、

 早く終わらせて帰らせてもらうわ」

「ゼハハハハ!連れねぇじゃねぇか!」

 

ティーチは左右どちらを前にすることもなく、腰を落として構える

どう仕掛けても対応できるような備えだろう

 

…本当に面倒な相手ね

 

勝負は私がライフルの弾を眉間か心臓に撃ち込めるかだ

 

正面から狙って当たるような相手ではない…なら、裏をかかないと

 

持ってよね、私の体…ココヤシ村に帰るんだから

 

「「勝負!!」」

 

その言葉と共に踏み込む私と、迎え撃つティーチ

 

万全の状態ではないけど、私は生き残るために全力でティーチに挑んだ

 

 

 

 

「買い物を手伝っていただき、ありがとうございます。ゲンさん」

「まだ2歳の子供にこんな多くの荷物を持たせる訳にはいかんからな」

 

今、俺は食材の買い出しに来ている。前世と違い気軽にコンビニとはいかない

それに、食べることは身体作りに欠かせないことだから気をつける必要がある

 

前世は好き嫌いが激しく、不摂生に生きていたので反省しなければならない…

 

目標は高身長!夢の180cm以上だ!

 

「それで、この材料で何を作るんだ?シュウ」

「予定では来月にベルメールさんが帰ってくるようですので、その時に

 ビーフシチューを振る舞いたいと思ったのです。その練習といったところですね」

 

アカリママが亡くなったことで一人身になってしまったが、そんな俺を

ベルメールさんは一緒に暮らそうと話してくれた

 

父親の顔を知らず、祖父母の居住地も遠いとなれば

今の幼い身体ではどうしようもない

 

そんな時に、ベルメールさんの一言はとても助かった

それに、意識が目覚めてからは彼女を家族のように思っていたから

これからも一緒にいられるのは素直に嬉しい

 

「そういう訳なので、ビーフシチューの味見をお願いしますよ。ゲンさん」

「はっはっは!これは役得だな!」

 

そうして話しながら歩いていた時、不意にサンダルの紐が切れてしまった

 

「おっと…サンダルが壊れてしまいましたね」

「ふむ、シュウは最近、走り回るようなったからな。それで傷んでいたんだろう」

 

そう言いつつ、ゲンさんは俺の前で背を向けて膝をつく

 

「荷物を持っていただいているのですから、家まで裸足で歩きますよ」

「子供が遠慮するんじゃない。大人ならまだしも、子供の柔らかい足裏では

 怪我をするかしれんからな。もし、怪我をしたことがバレたら

 ベルメールにどやされてしまうだろう?」

 

やれやれ、相変わらず顔に似合わず優しいことで

 

「では、お願いしますゲンさん」

 

ゲンさんの背で揺られながら家路につくが、俺の心は何故か不安にかられていた

 

そう都合よく何かの予兆でサンダルが壊れるとは思わないが…

 

「どうかご無事で、ベルメールさん…」

 

俺の呟いた言葉はココヤシ村の潮風に持っていかれる

 

俺はベルメールさんの無事を祈りながら、ゲンさんと共に家に入っていった




今回は、昼、夕方の合わせて3話投稿します

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