ONE PIECE~重力の魔人~   作:ネコガミ

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本編・原作前
第13話


微睡んでいた意識が少しずつはっきりとしていく

もう少し寝ていたいと思うが、日々を追うごとに覚めていく

抱かれている暖かさに安心を感じながらも目覚めを自覚していく

 

―――あぁ…もう少しだけこのまま…―――

 

彼の目覚めの時は近い

 

 

 

 

「うふふ」

 

わたしの息子、シュウを抱きながら、その寝顔を眺める

…うん、やっぱり可愛いわね!

 

「ちょっとアカリ、顔がだらしないことになってるわよ」

「ほっといてよ、ベルメール」

 

だって、シュウが可愛いんだもの、仕方がないじゃない

 

「しかし、本当に泣かないわね、この子は」

「シュウは良い子だもの、ねぇ~」

 

眠りを誘うように軽く揺らしながら愛する息子に話しかける至福の一時

これを邪魔するのなら、金獅子のシキだってぶっ飛ばす!…無理だけどね

 

「でも、隣村の子供達なんてゲンさんの顔を見ただけで泣き出すのよ?

 それなのにシュウはなんともないんだから、変わってると思っても仕方ないでしょ」

「ベルメール、ゲンさんに失礼よ」

 

駐在のゲンさんは時折、隣村まで顔を出すことがあるんだけど、

その時にゲンさんを初めてみた子供達は決まって泣き出してしまうのよね

 

ゲンさんは強面な顔をしているけど子供好きだから結構ショックみたい

 

「さてと、それじゃ洗濯でもしてこようかしら。アカリはゆっくりしてなさい」

「わたしも手伝うわよ、ベルメール。息子の服ぐらい自分で洗わないとね」

「…Dr.ナコーからあんたの病気のこと聞いたわ」

 

…ばれちゃったか

 

「それで、アカリはどのぐらい…」

「あと1年持てば御の字らしいわね」

「1年…」

 

ベルメールが俯いてしまう…もう、そんな顔は似合わないわよ

 

「大丈夫よ、痛みは能力で抑えてるし、シュウに《ママ》って

 呼んでもらうまでは意地でも生きるからね」

「アカリ、あんたの能力でその病気、治せないの?」

「残念ながら治せないわね。一時的に治せても、また悪化する過程で

 体力を失っちゃうから余計に寿命を縮めちゃうのよね」

 

これはロジャー船長の時にクロッカスさんと確認済みだからね

それでも、ロジャー船長は全力で戦わないといけない時に

わたしの能力で治して戦っていた…文字通りに命を削りながら

 

「ほら、洗濯をしに行くわよ。食っちゃ寝して体力を落としたら

 逆に良くないんだから」

 

シュウをベビーベッドに寝かせながらベルメールに促す

 

それじゃ、ママはお外に行ってくるから良い子にしていてね、シュウ

 

 

 

 

遠くに聞こえる波の音と潮の匂いが五感を刺激する

まるでそれらが目覚めを誘うように

 

微睡みは次第に薄くなり、夢のごとく感じていた日常が

やがてはっきりと現実へとなっていく

 

転生者《シラカワ・シュウ》の意識は今、目覚めの時を迎えた

 

 

 

 

目が覚めると、まず最初に感じたのは潮の匂いだ

続いて体の違和感、少し動かしてみると目に写るのは

小さなプニプニとした手だった

 

うん、小さな子供になっているな

 

寝ている状態なので自然と天井が目に入るが…

お決まりの言葉を言ったほうがいいだろうか?

 

「あうあうあ~(知らない天井だ)」

 

まったく呂律が回らない…今、何歳ぐらいなんだ?

 

少しでも現状を把握しようと体を動かしてみるが

なかなかどうして、思うようにいかない

 

それでも、手足を動かしていると少しずつであるが

感覚のズレはなくなっていく

 

これならいけるかな?

 

少し勢いをつけて体を捻ると寝返りに成功する

 

「あうあ!(おぉ!できた!)」

 

うつ伏せにになり周りを見渡してみると柵が近くにある

…これはベビーベッドの柵なのか?

 

軽く這うようにして柵に近付き掴み、立ってみようとするが

上手くいかない…

 

「あ~う!(バランス悪っ!)」

 

幼児の身体バランスと筋力のなさで掴み立ちの試みは

なかなか成功せずに何度も転がってしまう

 

それでも、前世の経験か、はたまた老人からもらった特典故か

急速にバランス感覚を掴み形になっていく

 

「あうあ~!う~あ~!(ファイト―――!いっ○――つ!)」

 

前世で愛飲していた某製品のCMでお馴染みのセリフを口にしながら

遂に、柵に掴まりながらでも立ち上がることに成功した

 

「う~あ~!(よっしゃあ!)」

 

達成感と心地好い疲労感を感じながら柵に掴まりながら立ち続けていると

部屋の外から声が聞こえてきた

 

「シュウ、ただいま~」

 

波打つ紫色の髪をした美女がそう言いつつ部屋に入ってきた

そして、俺のことを見ると目を見開いて固まってしまった

 

「う?(母さん?)」

 

首を軽く傾げながらそう言葉にする。この女性とは初対面のはずなのに

なぜか自然と彼女が母親なのだと理解してしまう

 

(これは、刷り込み現象みたいなものなのかな?)

 

そう思うと同時に俺はバランスを崩し転がってしまう。

身体バランスの悪さと幼い体の体力のなさでもう限界だったのだ

 

「大丈夫!?シュウ!どこも怪我してない?」

 

いつの間に近付いてきていたのか、転がったと同時に母親に抱き上げられてしまう

体力の限界による疲労と彼女から与えられる安心感で抗えない眠気がくる

 

「あ~…(おやすみ、母さん…)」

 

回らない呂律で言葉にならないが、それでも母親におやすみの挨拶をして

俺はゆっくりと瞼を閉じて眠りについた

 

 

 

 

洗濯物を外に干して部屋に戻ってみると、わたしの息子シュウがなんと

掴まり立ちをしていた…まさか…

 

息子の歴史的瞬間を見逃すだなんて!!

 

そして、シュウがわたしの方を向いて『う?』と首を傾げる姿を見て

わたしは口から吐血という名の愛が漏れそうになってしまった

 

…だって、可愛すぎるんだもの

 

わたしは映像伝電虫を持っていなかったことを凄く後悔したわ

…近くの海軍支部から奪っ…いえ、借りてこようかしら?

 

そんな事を本気で葛藤していたら、シュウがバランスを崩して転がってしまった

 

わたしは瞬時に足に武装色の覇気を纏い、床板を踏み抜かないギリギリの力で

床を蹴って近付き、シュウを優しく抱き止めて助けた

 

シュウは安心したように『あ~』って言いながら笑顔をわたしにくれた

天使よ!ここに天使がいるわ!

 

そのまま、わたしの腕の中でシュウは眠ってしまったのだけど、

わたしはシュウが無事なのか確認するために見聞色の覇気を使った

 

そして、シュウに感じたのは…

 

「これって…武装色の覇気?」

 

そう、シュウの身体に僅かに残っていた武装色の覇気の気配を感じたのよ

 

…もしかしてシュウは…

 

そんな事を考えながらも、安らかな寝顔のシュウを見て頬を緩めていたら

ベルメールが呆れたような声で話しかけてきた

 

 

 

 

「アカリ、ま~ただらしない顔になってるわよ」

 

部屋に戻ってみると、アカリがシュウを抱き上げながら

いつもの様に満面の笑みを浮かべていた

 

「あ、ベルメール!ちょっと聞いてよ!」

 

シュウを抱き上げている時のアカリはいつも機嫌がいいのだけど、

今回はいつも以上にいいみたいね…なにかあったのかしら?

 

「どうしたのよアカリ?」

「あのね、シュウが立っていたの!」

「…は?」

 

まだ、赤ん坊のシュウが立っていた?

 

「だから、シュウがベビーベッドの柵に掴まり立ちしていたの!」

「ちょっと待ってアカリ、シュウってまだ生後6ヶ月ぐらいよね?」

「そうよ!凄いでしょ!」

 

私は子育てしたことないけれど…そんなことありえるの?

 

「えっと、凄いことなんでしょうけど…それって、ありえるの?」

「本当に立っていたんだから!」

「いや、疑っているわけじゃないわよ」

 

えっと、普通はハイハイをしてからよね…?どういうことかしら?

 

「それに、シュウは武装色の覇気を使っていたみたいなのよ」

「…え?」

 

ちょっと、理解が追いつかないんだけど!

 

「それって、生まれつき武装色の覇気を使っているってこと?」

「そうよ、だからシュウは…」

 

そう言うと、アカリは俯くようにして真剣な顔つきになる

…なにか、シュウに重大な問題があるの?

 

生まれつき覇気を使える者がいるというのは聞いたことがあるけれど

実際に目にしたことは一度もない

 

だから、どんな問題が起こるのか想像がつかない

時に強すぎる力は自らを傷つけたりするものだけど…

 

どのような問題があるのか…私は緊張しながらアカリの言葉を待った

 

「だから、シュウは天才なのよ!」

 

ただの親馬鹿だった

 

「…はぁ」

「なによベルメール、そのため息は、凄いでしょ?」

 

自慢するように腕に抱いているシュウをアカリが見せてくる

 

心配して損した気分だわ…

 

「あ、この感動をゲンさんにも伝えなくちゃ!」

「はいはい、ゲンさんは私が呼んでくるから、アカリは大人しくしてなさい」

 

ぶーぶーと子供っぽく不満を口にするアカリに手を振り、ゲンさんを呼びにいく

半年ぶりの帰郷でも変わらぬ親友の姿に安心した私は、気分良く走り出した




今回の話を書くにあたって主人公がどういったキャラだったか
忘れていたのでプロローグを見直す羽目になりましたw

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