あの後、わたしとシャンクスは赤鼻くんを仲間に誘ったのだけど、
手を繋いでいるわたし達を見て『派手に爆発しろ!』とか言って、
泣きながら走って行ってしまったわ…どうしたのかしらね?
それからは、副船長としてベックマン、狙撃手としてヤソップ等を
仲間にしたわたし達は順調に赤髪海賊団として進んでいった
シャンクスが15歳になる頃には、《赤髪のシャンクス》なんて
二つ名で呼ばれて、一味の名が広まり始めてみんなで喜んだ
そして、シャンクスが15歳になって大人になったから…その…
こ、恋人として、そういう行為も、その…するようになったわね…うん
初めての後、目が合うたびに顔を赤くしていたわたし達を、
故郷のシロップ村に恋人がいるヤソップと年長者のベックマンに
思いっきりからかわれたわ…
まぁ、その後はお祝いとして宴になったんだけどね
そして、この頃にわたしの身体に異変が起きた…
違うわね、元々あった異変が悪化したが正解かしら
ロジャー海賊団が解散してワノ国に戻った頃からわたしは
咳をするようになった…
最近はその咳に血が混じるようになった
わたしは急いで自分の病気を調べた結果、
ロジャー船長と同じウイルスによる心臓病だとわかった
病気が死病だと知り落ち込んだけど、安堵もした
この病気はウイルスが原因だけど人から人への感染性がないからだ
まだ、しばらくはシャンクスと恋人として一緒にいられることに
わたしは涙を流して喜んだ
でも、この病気のことは副船長のベックマンにしか伝えていない…
わたしの我儘だ
それから1年、シャンクスとの冒険を始めてから2年ほどたった頃、
病気がさらに悪化してきたことで、わたしは1つの決断をする
わたしは船を降りることを決めた
◆
「はい、シャンクス。これ飲んでね」
わたしとシャンクスは今、お互いに一糸纏わぬ状態でいる
…まぁ、恋人だからそういったことをしていたわけで…
「ん?アカリ、なんだそれ」
「まぁ、薬ってとこかしらね」
「薬?そんなもの無くてもしたいなら…」
「そっちの薬じゃないわよ!エッチ!」
これが最後だからと、その、かなり求めたけど…そうじゃないのよ!
「いいから、飲みなさい!」
「アカリが言うなら飲むが…マズッ!!」
「良薬口に苦しってところかしら」
舌を出して肩を竦めているシャンクスだけど…
これで憂いはなくなったわ
「なんだ、その言葉は?」
「さぁ?なんとなく出てきたのよね」
「そうか、やっぱりアカリは頭良いな」
「ベックマンほどじゃないけどね」
そう言って、わたしは苦笑いをする
ベックマンはレイ養父さんぐらい頭が良いんじゃないかしら?
「で、結局飲んだ薬って何の薬なんだ?」
「う~ん、予防薬ってところかしらね」
「予防薬?」
「そう、転ばぬ先のなんとやらってね」
わたしがシャンクスに残せる数少ないモノがこれだったのよね
「念の為だから気にしないでいいわよ」
「そうか、じゃあ寝るか」
「うん、おやすみシャンクス」
おやすみシャンクス、わたしの愛しい人…
◆
夜が明けて辺りが白み始めた頃、わたしは最低限の荷物を持ち
船を降りようとした
その時、メインマストに寄りかかり煙草を吸うベックマンを見つけた
「行くのか?」
「うん」
本当にベックマンは察しが良いわね、降りることは誰にも言ってないのに
「シャンクスのことお願いね、ベックマン」
「あぁ…だが、いいのか?その病は移らないのだろう?」
「あいつの夢の邪魔になりたくないからね」
「そうか…」
ベックマンは俯くようにして煙草を吸い込む…
強面だけど情に厚いのよね
「帰る宛はあるのか?」
「情報では明日、近くの島に海軍がくるんでしょ?」
「あぁ」
「その船は親友の船みたいだから頼ってみるわ」
「おいおい、海軍の船に乗るのか?とんでもない度胸だな」
頭を掻きながら苦笑いしてベックマンが言う
「赤髪海賊団らしいでしょ?」
「俺はそこまで無理はしない」
「確かにね」
別れを惜しむように会話が続く…さて、行かなくちゃ
「それじゃ、元気でねベックマン」
「あぁ…なにかシャンクスに言っておくことはあるか?」
「う~ん…愛してるとかは昨日、散々言ったからなぁ…」
「おいおい、惚気は勘弁してくれ」
そしてお互いに笑い合う、海に生きる者は笑顔で別れるのが礼儀だから
「じゃあね、ベックマン」
「あぁ、またなアカリ」
そして、わたしは船を降りた…頑張ってね、シャンクス
◆
赤髪海賊団の船長であるシャンクスの恋人、アカリが船を去った
夢を邪魔したくないか…いい女だ
甲板で煙草を吸っていると、まだ寝惚けた様子のシャンクスが出てきた。
アカリが去ったことの説明をしなければならないだろうな…世話が焼ける
「あ~…ベックマン、アカリを見なかったか?」
「…アカリなら船を降りた」
「なっ!?」
目を見開きシャンクスは俺を見てくる…ようやく目が覚めたようだ
「なぜ止めなかった!」
「アカリが望んだからだ」
「まだ近くにいるんだろ?なら!」
俺はシャンクスの肩を掴み止める
「行くな」
「なぜだベックマン!」
「アカリは病を患っている」
シャンクスはこちらに向き直り掴みかかってくる
「病!?なんの病だ!」
「ウイルス性の心臓病…ゴール・D・ロジャーと同じ死病だ」
シャンクスが胸ぐらを掴み、俺を引き寄せて叫ぶ
「なぜ知らせなかった!!」
「アカリがそう望んだからだ。シャンクス…お前の夢を邪魔しないためにな」
シャンクスの手から力が抜けていく…シャンクスが
ここまで落ち込むのは初めて見たな
「アカリは、いい女だった」
「あぁ」
「一目惚れだった」
「何度も聞かされた」
「ベックマン…」
「…なんだ?」
こちらを見据えるシャンクスの目は先程までとは変わっていた
「でかくなるぞ…俺達はでかくなって、アカリが世界のどこにいても
俺達の名前が聞こえるようにしてやる!」
また1つ、シャンクスは成長した…いや、アカリが成長させたんだ
「…それでいい、俺はお前についていくだけさ」
これで、赤髪海賊団は大きくなる…俺の予想を超えて大きくなるだろう。
まったく…アカリ、お前は俺の想定以上にいい女だったみたいだな
◆
「久しぶりね、アカリ」
先程、部下が手紙を持ってきたのだけど、その差出人がなんとアカリだった
内容は海賊をやめたから船で送って欲しいって書いてあったのだけど…
手配書は無効になっていないから捕まる可能性は十分にあるのに
アカリは相変わらずみたいね
しかも、獲物である剣を赤髪の所に置いてきたらしい
無手でくるなんて、信頼されているのか、怖いもの知らずなのか…
「うん、久しぶりベルメール」
「海軍を足にしようだなんて、変わらないわね」
「お互い様でしょ?」
そして笑い合う私達、懐かしいわね、この感じ
「…うぇっ!」
「ちょっと、大丈夫アカリ?」
「う~ん、陸酔いでもしたのかしら?」
「送っていくのは了解したから、出発前に船医に見てもらいなさい」
「は~い」
アカリを見送って少し経ったとき、部下が慌てて私のところにきた
「ベルメール大尉!」
「どうしたのよ?そんなに慌てて」
「はっ!ご友人のアカリさんの事なのですが!」
「アカリになにかあったの!?」
部下の言葉に私に緊張が走る
「おめでたであります!」
「…は?」
…今、なんていったの?
「ですから、アカリさんは妊娠しております!」
その言葉と同時に私はアカリの元に走り出した
◆
「アカリ!」
わたしの親友、ベルメールが血相を変えて部屋に入ってきた
「あはは…ベルメール、わたし妊娠してたみたい」
「このこと、相手は知ってるの?」
「えっと…わたしも今知ったばかりだから…」
わたしの言葉聞いたベルメールが頭を抱える…仕方がないじゃない!
「アカリ、あんたの故郷ってどこだったかしら?」
「ワノ国よ」
「遠すぎるわね…船医?」
「アカリさんの状態を考えると、そこまでの船旅は危険過ぎます」
危険なんだ…わたしの赤ちゃん…
「ベルメール、どうしよう?」
ベルメールが航海図を広げて考えだす
「船医、東の海はどう?」
「…この船の耐波性能では不安がありますね」
「そう…」
「あの…ベルメール、安定期に入るまでこの島に…」
「…ごめんなさい、食料がもたないわ」
そんな…どうしよう…
「アカリ、連れて行くのは私の故郷でもいいかしら?」
「え?別にいいけど」
「よし!誰か!電伝虫を準備して!」
「どうするのよベルメール?」
わたしがそう言うと、ベルメールは笑顔で答えてくれた
「助っ人を呼ぶのよ。それも、とびっきりの人をね」
◆
「まさかあの時、ガープさんを呼ぶとは思わなかったわね」
あの後、わたしはガープさんの艦隊に丁重に護送されて
ココヤシ村にやってきて、無事に出産することができた
ベルメールに聞いた話だと、ガープさんはベルメールの一報を聞いた後、
手続きなどをすっ飛ばしてすぐに艦隊を率いて来てくれたらしい
そのせいなのか、《英雄ガープ、白ヒゲとの決戦か!?》なんて
噂が流れて、海賊達はてんやわんやの大騒ぎになったようだ
その噂を受けてセンゴクさんがあくまで海軍の示威行為の巡回として
色々と根回しをして噂の鎮静化をしてくれたみたい
…お手数をお掛けしました
「シュウ、ガープさんにお礼を言わなくちゃね…コホッ!コホッ!」
口を押えた手に血が付く
「…もう少し持ってよね、わたしの身体」
海に出て色々な人達と出会い、お世話になって今のわたしがある
残された時間はあまり多くないかもしれないけれど…精一杯生き抜こう
「わたし…まだ、《ママ》って呼んでもらってないんだから」
次回からようやく本編が始まります