「おう、お前がアカリかよろしくな!」
ロジャー船長が満面の笑顔でわたしを歓迎してくれる…でも、いいのかしら?
「レイリーが認めたのなら俺は文句ねぇさ。歓迎するぜアカリ!」
どうもそういうことらしい。レイリーさんへの信頼が凄いわね
「いいときに来たなアカリ!これから数年、退屈させねぇぜ!」
「なにをするんですか?」
「俺の夢!世界一周!グランドラインの制覇だ!」
世界一周…まだ誰も成し遂げたことのない偉業…
「その前に仲間を勧誘しなければならないけどね」
「レイリーさん」
「おう、レイリー!情報はどうだった!」
「医者の方は問題ないだろう。だが《読める者》は現在、白ヒゲの所に
身を寄せているらしく少々厄介だな」
「そうか、まぁなんとかなるさ!」
ロジャー船長は笑ってるけど、それって白ヒゲ一味から引き抜くってことよね?
「ふふふ、こんなことで顔を青くしていたら身が持たないぞアカリ。
ロジャーの無理はいつものことだからね」
「文句一つ言わねぇで付き合うお前はどうなんだレイリー?」
「何年の付き合いだと思っている、とうの昔に慣れてしまったさ」
そう言って笑いあう2人の姿はすごく自然で格好良かった。これが海賊なんだ
「おめぇら!出航準備だ!酒はたんまり積んでおけよ!」
「「「おぉ―――!!!」」」
ロジャー船長の号令で一斉に動き出す船員達、その動きは訓練された海兵と遜色ない…
いえ、もしかしたら海兵よりも凄いかもしれない。これがロジャー海賊団の船員達なのね
「さて、アカリがどこまで出来るかわからねぇからな。とりあえず見習いってことで、
レイリーに預けるぜ!シャンクス、バギー共々面倒をみてやってくれ!」
「あぁ、私が迎え入れたのだから責任は持つさ」
「ししし、それじゃアカリの歓迎ってことで宴だ!おめぇら!出航準備が終わったら飲むぞ!」
「「「宴だ―――!!!」」」
こうしてわたしの海賊としての日々が始まる。自由で楽しくて、ワクワクする冒険の日々が!
ロジャー船長!レイリーさん!シャンクス!一味のみんな!これからよろしくね!
◆
麻酔の名医であるクロッカスさんと、ワノ国九里大名である光月おでん様を仲間に加えた
ロジャー海賊団はいよいよ、《この世界》の人類で初めての世界一周を目指して旅立った
道中ではシャンクス、バギーの2人とわたしはレイリーさんに指導を受けて
日々、成長をしていく。シャンクスはベルメールと同じく天才みたいね
右利きと左利きの差はあるけれど、年下の彼との手合わせで何度も負けそうになったわ。
まだ、覇気を使えないのにとんでもない才能ね
バギーもとい、赤鼻くんはなんというか…あまり戦いは得意じゃないのかしら?
少なくとも剣士としては凡庸というのがレイリーさんの彼への評価ね
それよりも赤鼻くんの鼻が自前だというほうがわたしは吃驚したわ
思わず、赤鼻くんって呼んじゃったのだけど、彼は怒りながらもわたしが
そう呼ぶのを認めてくれたのよね…所謂ツンデレなのかしら?
もちろんわたしもレイリーさんに剣の指導を受けている。
覇気も使って挑んでいるのだけど、正直なところ簡単にあしらわれているわね
お母様以上の力の差を感じるわ…海って本当に広いのね
旅の途中で赤鼻くんが能力者になったり、シャンクスとの手合わせで負けて凹んだりと
退屈しない、楽しい毎日を過ごしていった
そして2年が経ち、ロジャー海賊団の旅路も半ばを越えて少しした頃、
わたしは15歳になり大人の仲間入りとなった
そんなわたしを祝うために、ロジャー海賊団のみんなが宴を開いてくれた
◆
「改めて、成人おめでとうアカリ。これで君もロジャー海賊団の正規乗組員だ」
「ありがとうレイリーさん」
「しかし、今更だが男所帯のロジャー海賊団でなにか不便なことはないかな?」
「大丈夫よレイリーさん、楽しく過ごせているわ。まぁたまにシャンクスや赤鼻くんが
着替えを覗いてこようとしてくるけどね」
2人も年頃の男の子だからねぇ~…仕方ないわよね
「そうか、後で2人と話し合いをしなければいけないね…たっぷりと」
レイリーさんが眼鏡を光らせながら笑顔で言う…ご愁傷様、2人とも
「他にも何かあれば遠慮なく言ってくれ、師として責任があるからね」
なにかと世話を焼いてくれるレイリーさんが故郷のお父さんの姿と被る…
今生で初めてのエールを飲んで少し酔いが回っていたわたしは、意識せずに
言葉を漏らしてしまっていた
「ありがとう、レイ養父さん」
わたしの言葉に宴で騒がしかったみんなが静まる…え?わたし、なにかやっちゃった?
「ししし、レイリーが親父か!これはいいな!」
「ロジャー飲み過ぎなんじゃないか?」
「ししし、照れるな照れるな!」
大声でロジャー船長が笑うのだけど、レイリーさんのこめかみに青筋が…
「酔っ払った船長を諌めるのも副船長の役目か」
「お?やるかレイリー!」
そして唐突にロジャー船長とレイリーさんのケンカが始まった
病魔に侵されているのに衰えを見せないロジャー船長と3種の覇気を自在に扱う
レイリーさんのケンカは凄まじいの言葉しか出てこない
既に50歳を超えた2人だけど、この2年の冒険でさらに成長をしている。
まぁ…ロジャー船長を追っているガープさんもなぜか強くなっているんだけどね…
さてと、とにかく2人の喧嘩を止めないとね。
わたしはレイリーさんに教わり、この2年で成長した覇王色の覇気を使って
ロジャー船長とレイリーさんの喧嘩を止めた
「いい加減にしなさい!」
◆
「ししし、アカリも成長したもんだな!俺とレイリーの喧嘩を止めるんだからよ!」
「間違っても実力行使で止めることはできませんけどね」
「なに、ああいった覇気の使い方をできるのもアカリの実力のうちだよ」
先ほどまで喧嘩をしていたとは思えない様子でエールを酌み交わす2人に
褒められて照れてしまう…本当に実力行使とか無理なんだけどね
「さて、アカリに頼みがある」
そう言ったロジャー船長がわたしに頭を下げる…ちょっ、いきなりどうしたの!?
「レイリーを親父って呼んでやってくれねぇか」
「え?」
「おいロジャー!」
宴を楽しんでいた時と違って至極真面目な顔つきになったロジャー船長がわたしに話す
「俺がレイリーを誘った時からこいつは俺を船長として支えてくれている。
俺が何度無理をしようともそれをフォローしてくれてきたからこそ今があるんだ」
「俺には惚れた女がいるが、レイリーはそういった奴を作らずに、
ずっと1人だ…俺の冒険に、夢にずっと付き合ってきてな」
ロジャー船長の言葉が響く、仲間への、友達への思いに溢れた暖かい言葉だ
「だからレイリーのことを…親父って呼んでやってくれねぇか?」
「ロジャーよせ、私はお前の夢に自分の夢を重ねて生きてきたことを後悔していない」
故郷のお父さんが泣いて悔しがる光景が目に浮かぶけど…
「いいですよ」
「なっ!?」
「ししし、それじゃ後は頼んだぜアカリ。俺は先に寝る」
手をヒラヒラと振り離れていくロジャー船長が不意に口を手で押さえて咳き込む。
押さえた手には赤が滲んで見えるが、それに気づいたクロッカスさんが付き添ってくれた
「船長…大丈夫かしら?」
「クロッカスは名医だからね。それに、ロジャーなら意地でも夢を遂げるさ」
「そうですね…それじゃ、改めてよろしくねレイ養父さん♪」
「やれやれ…本当にそう呼ぶのか?」
困ったように頭を掻き出すレイ養父さんの様子がおかしくて笑ってしまう
バツが悪そうにジョッキを煽るも、それはカラで手酌でエールを注ぎだす
わたしも倣ってエールを注ぎ、2人で改めて乾杯をする
夜空に浮かぶ三日月がとても綺麗な夜だった
◆
あれから1年、ロジャー海賊団が世界一周の旅に出て3年、
遂にロジャー海賊団は偉業を成し遂げた
その後、ロジャー船長の一味解散の号令により、ロジャー海賊団が解散した後、
わたしは故郷のワノ国に帰ってきて1年が経った
「それでそれで、その後どうなったですかアカリお姉ちゃん!」
しばらく見ない間に大きくなっていた妹のヒカリだけど…まだまだ子供ね
「ロジャー船長が歴史の本文(ポーネグリフ)に自分の名前を刻んじゃったのよ…
歴史的な…考古学上重要な物だったのに当たり前のようにね」
この1年、わたしは毎日のようにヒカリに世界一周の話しをしている。
語っても語っても尽きない、本当に夢のような楽しい日々だったわ
そんなわたしのところにシャボンディ諸島でコーティング屋を始めた
レイ養父さんが訪ねてきた
「久しぶりだね、アカリ」
「うん、久しぶりレイ養父さん」
お互いに笑顔で握手をするわたし達、そう言えばシャンクスは元気にやっているかしら?
「出かける準備をしてくれないかアカリ」
「どうしたのよレイ養父さん?」
レイ養父さんが神妙な顔をする…え?本当に何があったの?
「1ヵ月後、ロジャーが処刑される」
その言葉にわたしは固まってしまう…今、なんて言ったの?
人類史上初の世界一周を成し遂げた《海賊王》ゴール・D・ロジャー
彼の処刑の報が世界に駆け巡る…世界は時代の変革を迎えようとしていた