シャボンディ諸島に赴任してから1ヵ月が経ち、
わたしは海軍本部のあるマリンフォードに戻ってきた。
「…はぁ」
「どうしたのよアカリ?溜息なんてついて」
行きつけの店で飲み物を頼み少し…いや、かなり悩んでいたところ
ベルメールがわたしを見つけて話しかけてきた
「シャボンディ諸島でちょっとね…」
「…私もマックスから聞いているけど、あまり気にしすぎたらダメよ」
シャボンディ諸島では天竜人が一般人や奴隷を虐げていても
わたし達海兵は見ていないふりをしなければならない…
「守るべき人達を守ることができないのに…海兵をやっている意味があるの?」
「アカリ…」
ワノ国の外が知りたかったからガープさんについてきたわたしだけど、
2年ほどここで暮らしてきて海軍にそれなりに愛着もわいてきていた。
でも、今は自分の在り方に疑問ができてしまっている
「マックスは組織として形を保つためには色々と必要だから、不満があっても
飲み込まなければいけないこともあるって言っていたわ」
「さすがにマックスは大人ね…わたしはそうやって自分を納得させられないわ…」
あの場にいた海兵の中には悔しさで手を握り締め過ぎて、手から血を出している人もいた。
わたしは女の子だからとなるべく沿岸の警備に回してくれていたのだけど、
それでもあの光景が目に焼き付いて離れない
「アカリ、来月にはまた海に出るんでしょう?吹っ切れとはいわないけど、
それでも今みたいにぼやっとしていると命取りになるわよ」
「わかっているわよベルメール」
「よし!なら今日は私がおごるから気晴らしにパーっとやりましょう!」
本当にこの親友は優しいと思う。ここは甘えさせてもらおうかしら
「それに、そんな辛気臭い顔をしていたら恋人はできないわよ」
「よけいなお世話よ!ぜったいに素敵な恋人をつくってみせるんだから!」
悩みが無くなったわけではないけれど、それでもベルメールとのじゃれあいで
心が晴れた気がする。そして1ヵ月後、ガープさん率いる船に乗り巡回していたわたしは
初めて大物の海賊一味《ロジャー海賊団》と遭遇したのだった
◆
わたしの目に写る光景は本当に同じ人間がやっていることなのかしら?
ガープさんと海賊のゴール・D・ロジャーが戦っているのだけど、
お互いの拳が合わさる度に衝撃で双方の船が大きく揺れている…
「ぶわっはっはっは!今日こそ年貢の納め時じゃロジャー!」
「いい加減に引退したらどうだガープ!後は若いのに任せてな!」
「お前だけは儂が捕まえてやるわい!」
ロジャー海賊団の一味は2人の戦いを見て笑っている、所謂略奪主義であるモーガニアは
なんというか厭らしい笑いかたをするように思うのだけど彼らは楽しそうに笑っている。
大悪人と言われているロジャーの元でなんでそんな風に笑うことができるの?
あれ?確かロジャーの罪状には天竜人を殴ったとかも…
あの天竜人を殴った?海兵のみんなが歯噛みをしていたあの天竜人を…
それで大悪人なの?なんで?虐げられた人達を助けただけじゃないの?
そう思ってしまったわたしはロジャー海賊団の人達の笑顔が眩しく見えた。
そして、その笑顔に誘われるようにフラフラと船の端に歩いていったその時、
波のうねりとガープさん達の戦いの衝撃が合わさり一際大きく船が揺れた。
気づけばわたしは海に投げ出されていた
◆
「おぉ~やっぱロジャー船長はすげぇな」
海に憧れた俺は見習いとしてロジャー海賊団に入れてもらった。
そして、海で生きる術を副船長であるレイリーさんに教えてもらっている
「てめぇシャンクス!なにをのんきに顔を出してやがる!俺達見習いは
まだ戦闘を許可されてねぇんだぞ!俺まで巻き込まれて副船長に怒られたら
どうしやがるんだ!派手に死ねぇ!」
大きな赤鼻が特徴のこいつは俺と同じ見習いで、名前はバギーという。
口が悪い奴だがなんだかんだ同じ見習いの俺を心配してくれるいい奴だ。
「ゲンコツのガープとロジャー船長の勝負を見ないなんてもったいないだろ?」
「ガープと船長の戦いは派手になるから船内に引っ込んでろって副船長に言われただろうが!」
「はっはっは!ばれなきゃ大丈夫さ」
ふと気になり目を海軍の船にやると、紫の髪の女の子がフラフラと船の端に向かっていた
「おいおい、危ねぇぞ」
「てめぇも危ねぇんだよ!派手に引っ込めぇ!」
ロジャー船長とガープの一撃で船が一際大きく揺れた時、あの女の子が海に投げ出された
そして、その事に気づいたのかゲンコツのガープの声が大きく響いた
「む?いかん!ロジャー!一時休戦じゃ!」
「どうしたガープ!バテたのか!」
「儂の部下が海に落ちた!そいつは能力者で泳げんのだ!」
その声が聞こえた俺は考える前に走り出していた
「なにやってんだシャンクス!派手に戻れぇ!」
バギーの制止も聞かずに、俺は彼女を助けるために海に飛び込んでいた
◆
体に力が入らない…知っていたことなのだけど、わたしはどんどん海に沈んでいく
本来なら肺の中の空気と身体の脂肪である程度の浮力を得られるはずなのだけど…
これが能力者が海に嫌われるってことなのね…
ベルメールに散々注意されていたのになと思い返すもどうにもならない…
わたし、このまま溺れちゃうのかな?
そんな事を思っていたら何かに手を掴まれる感覚がして体が浮かび始める。
水面まで出たわたしは咳き込みながらも思い切り息を吸い込むと、
わたしを引き上げてくれた人を見る。
そこには綺麗な赤毛をした、まだ小さな海賊の少年がいた
◆
「大丈夫か!?」
「ケホッケホッ!…う、うん、大丈夫よ」
「そうか、おぉーい!バギー!ロープを投げてくれ―――!」
俺の声が聞こえたのだろう、バギーがバタバタと動き始める
「てめぇ!ゲンコツのガープがこっちに来たらどうしやがる!派手に死ねぇ!」
そう言いながらもあいつはしっかりと引き上げる準備をしてくれる。
やっぱりバギーはいい奴だ
「海軍のあんたには悪いと思うが、うちの船に引き上げさせてもらうぞ。
それと、今は力が入らないんだろ?引き上げてもらうのにちょっと強く抱えて
痛いかもしれないけど、我慢してくれよな」
「贅沢は言えないわね、よろしく頼むわ。それと、助けてくれてありがとう」
そうお礼を言って微笑んだ彼女に俺は見惚れてしまう
「おらぁロープいくぞシャンクス!派手に掴めぇ!」
バギーの言葉で気を取り戻した俺はロープを掴み、彼女を抱き抱える。
女の子特有の柔らかさが身体に伝わってくる…こんな時に何を考えているんだ俺は!
顔が熱くなってしまい思わず彼女から顔を背ける。そんな俺を見て彼女はクスクスと
笑っている。おいバギー!早く引き上げてくれ!
◆
わたしを抱えてくれている赤毛の少年が真っ赤になった顔を背けている。
なんかその様子が可愛くて思わず笑ってしまう。
よく見ると非常に整った顔立ちをしている。将来は立派なイケメンに成長しそうね。
先程まで落ち込み、溺れて死にかけたのに我ながら現金だなと思うけど、
乙女としてはこういうシチュエーションは有りだと思うわけで…
こんなに楽しい気持ちになったのは久し振りだなぁ…ベルメールに自慢しないとね♪
そして引き上げられたわたしと赤毛の少年を待っていたのは、大きな赤鼻をした少年と
眼鏡の奥に理知的な光を灯した瞳をしている壮年の男性だった
なるべく早く過去編を終わりにしたいと思っていたのですが…
諦めて自分のペースで書かせていただきたいと思います