ONE PIECE~重力の魔人~   作:ネコガミ

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初めまして、作者のネコガミと申します。読みにくい部分もあるかと思いますが
これからよろしくお願いします



プロローグ

『グラビトロンカノン、発射』

 

いつも通り仕事が終わり、明日は休みだと気分上々にゲームをプレイしていく

そして、ふと独り言をディスプレイに向かって零してしまう

 

「今作は主人公のはずなのに、いつもと変わらずラスボスの貫禄ですねぇ…博士…」

 

ディスプレイに映る蹂躙ともいえる光景に苦笑いが浮かぶが気分は爽快そのもの

そしてあっという間にステージをクリアしてしまい少し拍子抜けするが

「少し休憩するか」と呟き、煙草を手に取ると外へと向かった

 

ふーっと紫煙を吐き出し背伸びを一つ、背中や腰からパキパキと小気味よい音が鳴る

 

「昔は何時間でもぶっ通しでやってられたものだけどなぁ…」

 

ゲームに限らず漫画やアニメ、二次創作小説なども嗜み給料と休みを趣味に費やす

気づけば三十路を超えているが、それがどうしたとばかりに日々を楽しんでいる

 

「さてと…飲み物とかも準備できてるし、今日は徹夜で遊ぶか!」

 

今日も今日とて一日を趣味に費やす変わらない日々…

そして遊び続けていると少しずつ瞼が落ちて意識が遠のいていく

「寝落ちするかも」と呟くがいつものことだと思い遊び続けていく…

だが、気づいた後の光景はいつものものとはまったく違っていたのだった

 

 

 

 

「…あれ?…なにこれ?…どこ?ここ?」

 

寝ぼけた頭に入ってくる情報は只々全てが白いということだけ

そもそもここが部屋なのか外なのかもわからない

 

「え?俺、ゲームしてたよね?で、寝落ちしたんだよね?え?え?」

 

少しずつ目が覚めていくがいまだ混乱は覚めず、答える者もいないのに

独り言を話すのはいつもの癖だが…今回は答える者がいた

 

「うむ、確かにお主は遊戯をしたまま意識を失ったのう」

 

不意に話しかけられ混乱に拍車がかかるが反射的に声の主を探してしまう

辺りを見渡すも姿は見えず、混乱に焦りや恐怖が追加された

 

「いや…意識を失ったというのは正確ではないのぅ…

 魂が世界から切り離された…これが正解かの」

 

本来ならば恐慌ともいえる状態でまともに誰かの言葉など聞こえないものだが

不思議とこの誰かの言葉が耳に入ってくる…いや、頭に響いてくる?

 

そんなことにふと気づいたおかげか、落ち着いてきたのを自覚すると

深呼吸を一つして声の主に話しかけてみた

 

「え~と、あの、どこにい…いるのでしょうか?」

 

心は落ち着くも体はまだなのか、言葉がなかなかでてこない…

一息いれようといつもの癖で煙草を求めるが、ポケットや周囲を探しても見つからない

 

「ふむ…探しているのはこれかの?」

 

今までと違いはっきりと声のした方に振り向くと愛煙している紅白の箱があった

そして、その箱を差し出す手が見えると、少しずつ声の主を認識し始めた

 

足元はサンダル、服装は…たしか映画や何かで見た古代ギリシャの服のように見える…

キトンと…ヒマティオンだったかな?うろ覚えの知識だが…

オタク趣味もなかなか馬鹿にできないものだなと自己満足に浸る

 

目線をそのまま上げていくと、立派と形容できる白いヒゲと

肩甲骨辺りまで伸びる後ろ髪、そして…見事に磨き上げられた頭頂部がある…

 

…見事に磨きあg

 

「…どうやらこれは要らぬようだの」

「あ、いや、失礼しました、いただきます」

 

輝きを放つ老人から受け取った煙草を銜えるが火をつけようにもライターはない

このままでは生殺しだと思っていたら煙草を渡してきた老人が

《手から火を出し》銜えていた煙草に火をつけてくれた…

目礼をして煙を吸い込み、吐き出す…慣れ親しんだ味により余裕が出来てきた

 

「ふ~…申し訳ありませんが一本吸い終わるまでお待ちいただけますか?」

「うむ、構わぬぞ」

 

吐き出した紫煙の行き先を目で追いながら考えを巡らせていく

魂がどうとかこの老人が言っていた気がするが他にも聞きたいことがある

ここはどこなのか、老人は何者なのか、自身のオタク趣味による思考から

ある答えが浮かぶが確信には至らない

 

確信には至らないのに歓喜の感情が心に広がる

―――落ち着け…ぬか喜びの可能性だってあるんだ!―――

心の中で言い聞かせようとするが口角が上がるのを抑えられない

落ち着こうとまた一口煙を吸い込む、うん、大丈夫だ

 

紫煙を吐き出し心を落ち着かせたらふと気づいてしまった

それはとても大事なことだ、だからだろうか、いつものように独り言を零した

 

「…灰皿どうしよう」

 

他にするべきこともあるのだろうがこの時の自分は

愛煙家としてのエチケットに心を割くのだった

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

あの後、灰皿は老人が用意してくれたので事なきを得た

そして一服を終えたのでこうして老人に話しかけたのだ

 

「うむ、落ち着いたようでなによりだの」

 

髭を手で撫でながら老人が話しだす

先ほども感じたことだがこの老人の言葉は

すっと、内側に入り込んで来る…

 

「色々と聞きたいことがあるのですが、お待たせしてしまったこともありますし

 まずは貴方の話しを聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

「では、そうしようかの」

 

一服している時に考えたうちの一つ、この老人が誰なのか…

 

確証は無いものの非礼とならないように話したつもりだが…

こんな感じの言葉遣いでよかったのだろうか?

 

「なに、それほど畏まる必要はない」

 

…どうやらお見通しのようだ

思わず苦笑いをしてしまう

 

「ありがとうございます」

「うむ、儂の話しを聞くうちに色々と問いたきことも出てこようが、まずは聞くことよ」

 

首を縦に振ることで老人に続きを促す

 

「まず理解して貰いたいことは…お主は死んだということだ」

 

…考えていたことの一つであったのだが…はっきりと告げられるときついものがある…

 

老人の話しの続きを聞くためにも落ち着こうと考え

また煙草を銜えると老人が火をつけてくれる…

 

―――…!!非礼とか考えたのになんでいきなり煙草吸ってるんだよ!―――

 

「し、失礼しました!一言の断りも入れずに!」

「ほっほっほ…よいよい、先にも言うたがそれほど畏まらずともよいて」

 

老人が手でこちらを制しながら言葉を続ける

 

「今のお主はちと自制が効かぬ状態となっていてな、それにも理由はあるのだが…

 まぁ、煙草を飲みながらでよいのでゆるりと構え聞くことよ」

 

自制が効かない?理由がある?…とりあえずこのままでいいと許しはもらった

なら遠慮せずに煙草を吸いながら話を聞かせてもらうことにしよう…

 

「ありがとうございます。話の続きを聞かせていただけますか?」

「うむ、まずはお主自身の死を理解、受け入れることはできたかな?」

 

受け入れられたかは正直なところ微妙だ…遊んでいて寝落ちした…

つまり死んだという実感がないのだから…正直に答えたほうがいいかな?

まずは聞くことと言われたのだが…

そんなことを考えていたら不意に言葉を漏らしていた

 

「正直なところ…死んだという実感がないですね…」

 

独り言が癖になっている自分だがこれには驚愕した

そしてこれが自制が効かなくなっているということかと恐怖した

震える手にある煙草を口に持っていこうとするがなかなか銜えられない…

 

「ほっほっほ…焦らずともよい…なれば儂もゆるりとしようかの」

 

老人はそう言うと、見事な装飾が施された銀煙管のようなものを銜え煙を吹かし始めた

それを見て呆然としていると

 

「ほっほっほ、儂が煙草を飲むのは可笑しいか?」

 

慌てて首を横に振る、そして震えの止まった手で

煙草を口に持っていき同じように煙を吹かす

 

「いえ、私の周りは所謂、紙巻き煙草が主流だったものでして…煙管が珍しかったのですよ」

「なるほどのう、今の世は紙巻きが主流か」

「あ、いえ、私の周りはでして…」

「ほっほっほ!」

 

少数派だと貶めてしまったかと慌てて言葉を続けたが、老人は軽快に笑い飛ばす

 

「よいよい、こうして仕事以外の話をするのも楽しきことよ」

「おや、仕事をサボるとは…どうやら中々の不良老人のようで…」

「ほっほっほ!どうやらお主の調子もあがってきたようだの?」

「おかげさまで」

 

調子が上がったというよりは、上げてもらったが正しいと思う

幾度も混乱する自分を何度も宥めてもらったのだから…

 

「ふ~…とりあえず私が死んだというのは理解したつもりです

 納得したとは言いきれませんが…」

「うむ、それでよい。では、続きを話すぞ?」

「お願いします」

 

煙を吸い込みつつ続きを待つ

 

「お主には儂の試しを受ける形で、異なる世界に転生をして貰いたいのだ」

 

試し…転生…これらの言葉に頬が緩む

考えていたことであり、期待していたことだ

 

「お答えする前に、幾つか質問してもよろしいでしょうか?」

「うむ、よいぞ」

 

「では…試しを受けなかった場合、私は生き返れますか?」

「お主にとっては残念な事と思うが生き返れぬ。記憶、経験、人格と

 お主を構成する全てが消え去り元の輪廻に還り転生の機会を待つ事となる」

 

「異なる世界とはどういうところか、教えていただくことはできますか?」

「否。試しを受けると決めた者のみ教えることを認められている」

 

「試しとは何でしょうか?」

「それも受けると決めた者のみ教えることができる」

 

「私が何故死んだのか教えていただけますか?」

「世界の自浄作用により無作為に選ばれ、魂が世界から切り離された為よの」

 

「世界の自浄作用?」

「世界とは例えるならば本のようなものでな…お主が生きていた世界を

 一頁目とすると二頁目となる並行世界が存在する…」

「それら数多の頁を束ね《一つの世界》となるのだが…その頁ごとに

 存在する魂の数に偏り無きよう調整するために時折、天命とは関係なく

 世界が自浄作用として魂を切り離すのだ」

 

「私の自制が効かない理由とは何でしょうか?」

「それも世界の自浄作用が関係しているの。死ぬ者が在れば、生まれる者も在る

 自浄作用として生まれる者を抑制するために無意識下で本能が抑え込まれる」

「それによって生前に結婚願望や現実の異性に対する興味が希薄になる者が出てくる

 そういった者達が死後に抑制されていた本能が解放される反動で

 自制が効かなくなってしまうのだ」

 

短くなった煙草を火種として新しい煙草に火を点ける

紫煙を吐き出しつつ、火種として使った煙草を灰皿でもみ消していると

老人が煙管を吹かしつつ声をかけてくる

 

「質問は終わりかの?」

「あ、いえ、お聞きしたいことはまだあるのですが、

 お答えいただいたことについて少し考えさせていただきたくて…」

「ほっほっほ。よいよい、納得のいくまで考えるがよいて

 答えたことについても、己が死についてもの」

 

老人の言葉に安心して考えを巡らせていく…

自浄作用と抑制、そして老人は転生するのは異なる世界と言った…

並行世界との違いは?

 

まずは自浄作用と抑制について考えよう。自制が効かないのはこれが原因らしい…

しかし…結婚願望?異性への興味?正直なところ自覚がない…

学生時代はクールで硬派な俺格好いいとか思っていた

そして、次第にオタク趣味に目覚めて二次元の異性に惹かれるようになったのだが…

 

ちょっと待て…確かに結婚願望なんてなかったし、現実の女性に興味がなかったが…

何でだ?今考えるとおかしい…今は凄く現実の女性に興味があるぞ…あれ?

結婚願望はとりあえず置いておくとして、何で現実の女性に興味がなくなった?

二次元の女性に惹かれたから?現実の女性に興味をなくす必要はないよな?

 

え?本当にいつから現実の女性に対して興味がなくなったんだ?

なんか嫌なこと…トラウマになるようなことあったっけ?

…ない…思い当たることはない…

 

――これか?これが、自浄作用による本能の抑制なのか!――

 

自分の意思で行動してきたと思っていた

情況に流されることも多々あったが決めたのは自分だと割りきってきた

でも、それが無意識の内に誘導されていた可能性が出てきた

もしかしてオタク趣味も?楽しかったあの時間も全部、抑制による結果?

 

困惑、後悔、怒りと様々な感情が入り乱れる

過去の光景がフラッシュバックするたびに疑念が噴き出す

あの頃は若かった、子供だったと思っていたものがもしかしてと…

 

今の生活に不満は無い、落ち着いた、大人になった、成長した

そう思っていたこれまでの自分が、これまでの人生が全部否定された気がした

 

そんなことはないと、その考えを否定するが過去の自分の感情の一部が

偽りのものだったと自覚してしまったため否定しきれない

 

「熱っ!!」

 

気づけば煙草の火が根元まできていた。一時的ではあるが混乱から

脱することができ、思考に余裕が出来たので落ち着くためにも一服しようと

また、短くなった煙草を火種として使い新しい煙草に火を点ける

「…雨?」

 

煙草に火を点けるとポタッと新しい煙草に水滴が落ちてきて上を見上げる

全てが白く雨雲らしきものは見当たらない…

短くなった煙草の火を揉み消そうと灰皿に手を伸ばすと手の甲にも水滴が落ちてくる

 

消そうとした煙草が水滴で湿気る、視界が滲んでいるのを自覚する

気づけば、涙を流していた

 

「え?あれ?何で泣いて…三十路過ぎたいい大人が…」

 

静かに待っていた老人が声を発する

 

「うむ、よいよい。自制の効かぬ今のお主では激流の如く流れる感情を抑えきれまいて」

「なれば泣いて感情を治めるのも一つの手よ…」

「大人だからと己が心を縛る必要はない…今はただ在るがままに在ればよい」

「儂はゆるりと待とう…お主が落ち着くまでゆるりとな」

 

泣いてはいけないといつ考えたのだろうか?俺は子供のころのように声を出して泣いた

老人は煙管から立ち昇る紫煙を目で追っていた

俺を急かさぬように、俺が落ち着くのをゆっくりと待つために…

 

 




ご一読いただき、ありがとうございます

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