まじっく★すぱーく   作:草賀魔裟斗

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クラウドと霊夢の馴れ初めです
本編とはかなりかけ離れているので番外編にしました


♦番外編 雲の切れ間から

クラウドはある日、行きつけの喫茶店にいた

横に見慣れた人影が見えた

「命狙われているのに悠々とランチ後のティータイムか?余裕だな」

妖夢だった

「あぁ…日課でな」

「そうか…横、いいか?」

クラウドは軽く頷いた

「んじゃ遠慮なく」

妖夢は椅子に深く腰掛けると店員に珈琲を頼んだ

「ここの珈琲は旨いだろ、私もとても好きなんだ…何より店主が無口なのがいい…」

「同感だ…静かな空間でゆっくりと茶が飲める…いい場所だよ、ここは」

妖夢が前のめりになった

「前からゆっくり話す機会が欲しいと思ってたんだ…お前とはな」

妖夢がクラウドに微笑みかける

クラウドも答えるように微笑んだ

「どうせ、霊夢との馴れ初めだろ」

妖夢は驚いた様子だった

「お前の異能力は人の内面を探る能力か?」

「違う…そんな能力があれば苦労はしないさ…」

クラウドは珈琲杯≪コーヒーカップ≫の中の液体を飲んだ

「馴れ初めは話そう」

「なんだ、意外にあっさり教えてくれるんだな」

クラウドが天井を見上げた

「別に隠す必要性が無いからな…ただ馴れ初めを語る前に少し、昔話に付き合ってくれ」

クラウドはそのまま昔話を語り始めた

 

争いに意味があるのか…

自問自答を繰り返していた時期があった

頼るべき存在も依存すべき相手も居ない、目の前に広がるのは空虚な現実のみだった

夢なんか見れなかった

暗闇の中で手探りで希望を探している気がしてた

自問自答と絶望の叫びが体から軋みをあげる

そのうち、それらすらも聞こえなく…空虚に飲み込まれていく

 

異能力を持つが故に戦場に駆り立てられ、人を殺し

紅の花を咲かせてはそこに混ざれなかったことを後悔する

戦場とは戦争とは争いとはそう言うもんだ

 

一度、殺した兵士が家族の写真を握っていたことがあった

家族がいることがうらやましかったが

その男が死んだという事実に後頭部を殴られた

家族はこの事をいつ知るのだろうか…

そう思い剣を構え直し

立ち向かってくる奴等を切り捨てていった

 

俺はその時、色んな軍隊や組織で雇われ兵士をしていた

俺と彼女…霊夢が会ったのは約9年前だから欧州で大きな戦争があった頃だ…今から5年前に終戦したが…

終戦宣言の時に異能力の自由宣言がされてな…その前である

大戦中は異能力者への迫害は酷くてな

どこに行ってもひどい職場状況だった

特に酷かったのはフランス軍にいた頃だ、異能力部隊つぅ部隊に配属になったのだがその分類はな

軍の中でも捨て駒に近い部隊で

ほぼ10代前半の少年少女であった

その殆どが死んだ

名誉の戦死…聞こえはいいが捨て駒同然に切り捨てられるように殺された彼らはどんな気持ちだったか…

今では想像すらできない

昔は想像できたのかというとそうでもない

所詮、他人は他人なのか…

俺はその時、誰も信用せずにただひたすら人間を切り裂き

その度に俺の心は擦りきれ縮んでいった、その事実に目はくすんでいった

 

フランス軍は生還すると解雇された

正直、願ったり叶ったりだった

俺は次の組織にすぐに雇われた

異能力解放戦線…最高の職場状況だった…周りに同じ待遇の奴等が多いからだろう

そして異能力者解放戦線に入ってある日俺は輝く光を見つけた

あれは異能力者隔離施設の攻撃をした時だった

 

地下牢

当時、多くの異能力者が捕まり隔離されていた施設だ

当時の異能力者は悪魔だった

なにかは解らないが兎に角、人外で人権なんてなかった

特にフランスのドがつく田舎だ

違いをいやがった住人は違いを徹底に排除したんだ

それによって地下牢に異能力者は…違いの塊は捕まり拘束されていた

そこを襲ったんだ

異能力者解放戦線は異能力者の人権の保証を求めてさまざまな軍から独立した兵士が集まった軍隊だ

当時、便利な駒でしかなかった異能力者の裏切りは欧州での戦争で戦況をひっくり返した

それどころか間接的ながら終戦の立役者となったんだ

解放戦線自体はとある作戦で全滅してしまうんだがな…その作戦がこの

異能力隔離施設夜襲作戦だった

その時、俺は彼女と出会うんだ

…その時の年齢は…たしか…

10歳か1つ上くらいだった

しかし未だに覚えている

逃げ惑う大人たちの中で何をすべきか分からず、オロオロと泣きそうな少女に出会った事を

彼女は大きな赤いリボンを頭に着けていた、今と同じだな

「おい、君」

俺の呼び声に気づくと一気に明るい顔になり俺に抱きついた

年頃の俺はたじたじだったのを覚えている

「い、行くぞ」

彼女は大きなクリクリとした目で俺を見て首を傾げた

「お前は自由だ…外に出るぞ」

「じ…ゆう?」

彼女は目測俺と三才位下だった

でもそれにしては言葉が不自由過ぎる

まさか、こいつは一回も…

と思ったが兎に角、俺は彼女と一緒に外に出ることを優先することにした

 

外は密林であり

抜ける途中にほぼ全員の異能力者は銃殺された

表沙汰にはなっていないが小規模な部隊ながら三桁は人が死んだ

俺と彼女は無事に荷台の荷物に紛れ込むことができ安全地帯まで到着し

協力者に運んでもらっていた

「なぁ…お前、これから行くとこあるか?」

俺は何気なしに聞いた

彼女はそのクリクリとした大きな目で俺を見て首を傾げるだけだ

「無いよな…俺もだ…」

俺は空を見上げた

夜襲のため、夜空だったが星は見えなかった

「…どうすっかな…」

命を守るために連れてきたはいいが

俺も俺一人守るのに精一杯だ

とても彼女まで気は配れそうにもない

ただ放って置くこともできなかった

頼るべき異能力者解放戦線は恐らく全滅したことは幼心にもわかっていた

 

「…すぺ…ど…お姉さ…ん」

彼女が意味のある言葉を発した

「すぺーど?…トランプでもしたいのか?」

「あーあんちゃん、多分嬢ちゃんが言いたいのは日本の組織の事だよ」

協力者がトラックを運転しながら話しかけた

「すぺーどがか?」

「あぁ国家秘密治安維持警察隊つーのが正式名称らしいが長いんでspadeと呼んでいるらしい…そこのリーダーが徳のある人物でねぇ、あっしとも交流があるんでさ…その人物のとこまで運んであげよう」

「おいおい、極東までトラックで行くのか?そいつは無茶な話だろ」

「そうじゃねぇよ、その人が今、フランスのパリに居るんだ、パリまで運ぶからそこからは見つけてくれ」

「パリか…広いな…」

そう言いながら彼女の顔を見た

何も考えて無さそうな目でただ、俺のあげたパンを貪り食べていた

俺は彼女の頭を撫でてみた

なんか落ち着くような、そんな気がした

「この子のためだ…わかった、なんとかしよう」

そのあとは沈黙のみ生まれるだけだった

しかしはじめに異変に気づいたのは俺だった

周囲に殺気の塊が五ついることに気付いた

更に漂うは服にこびりついた火薬の匂い

「…囲まれている…どうする?」

そんな思考をする間もなく銃は発射された

その音に驚いたのか彼女は耳を塞いだ

「!?」

驚いた…銃弾が全部、鎖に変わり銃を撃った奴等の腹部を貫いたのだ

「…お前の異能力なのか…?」

彼女は銃声を怖がりガタガタ細かく震えていたが、その異能力によって襲撃軍隊は次から次へと倒れていく

「…」

俺はもう一度、彼女の顔を撫でた

すると落ち着いたように砕けた笑顔を見せてくれた

異能力は止まり奴等の残党は命からがら…いや命惜しさに逃げていった

「…凄いな…お前の能力…」

協力者がぼそりと呟いた

「あんちゃん、結構ヤバい能力者を解放させちまったみたいだが…?」

「こいつにそんな邪気があるとは思えないが…?」

協力者は彼女の顔を見るとバカらしくなったらしく肩を竦めて笑った

「確かにその顔は…異能力を悪用しようとしても出来なさそうな顔だ」

 

トラックはそのままパリへ向かったらしい

俺もそして彼女も疲れはてて寝ていた

気づけば昼でパリのとある小屋の屋根裏部屋にいた

俺は気は引けたがぐっすり眠る彼女を一人残してspadeの大将を探す事にした

…今考えてみればどうやって見つけようとしたのか

とても大変だったのを覚えている

雨のパリを走り回り大人に聞いて回った

その時のパリは皆自分の事で精一杯…

誰も何もしてはくれなかった

途方に暮れた俺はエッフェル塔の膝元に座りこんだ

すると出会ったんだ

「…ここがエッフェル塔…驚いたかなり大きいな」

「…貴方は?」

珍しい外套に身を包んだ東洋風の女が近づいてきた

「む?孤児かい?…しかも異能力者とみた…」

俺は思わず身構えた

女は手を大袈裟に降る

「まてまて、私は異能力者を迫害するような分からず屋ではない…今は君達の居場所を作っているんだ」

「居場所…?」

「あぁ、戦場以外の居場所さ、君達がバカみたいに笑って暮らせるような明るくて暖かい居場所」

女は傘を畳んで俺の横に座った

「…私は春音だ、君は?」

「…クラウド…名字はない」

「雲…か…良い名だ、ただ名字は無いなは戴けないな」

霊音がニヤリと笑った

「ストライフという姓は要らないか?」

「姓?…なぜそんなものがいる?」

「つれねないねぇ、そんな堅物では結婚できないぞ、少年」

「…しなくても生きていける」

「はっはー恋人を妬むタイプの人間だなー?少年…リア充爆破かい?」

「そんなのでもない、何故、妬む必要がある?俺はな!」

俺の視野に彼女が映った

半分涙目になりながら立っていた

「…君…」

「一人…に…しない…で…」

はっきりと言った

彼女が彼女の意思を自分の口で言葉で

ホッと安堵をしたのを覚えている

そしてじとーと笑顔で見つめる春音の視線も鮮明に覚えている

「ほっほーすでに彼女持ちでしたか…その年で…隅におけませんなぁー色男」

「なっ!ばっ!そんなんじゃ!」

「春ねぇ…さん…?」

そしてここで俺は口を開けたのを覚えている

「ねぇさん!?」

「おや?君は…道理で見た顔だと思った…クラウドくんだっけ」

今まで少年とか色男とかふざけた呼称ばかりしていた春音が普通に聞いてきた

「なんだよ」

「彼女を救ってくれたんだね…お礼を言うよ…ありがとう…私の力や地位では彼女を救えなかったんだ…誰よりも真っ直ぐで輝く目をした少女…私は彼女に会うためにここまで来たんだ」

春音が彼女の頭を撫でた

「名は何て言うんだい?」

「名前…」

俺は口ごもってしまった

そういえば、俺は彼女の名前さえも知らない

「無…い…必要無い…って…おじさんが…」

「わかった…それ以上は思い出さなくてもいいよ」

春音は彼女の言葉を切った

「…にしても名前がないのは不便だ…よし霊夢なんてどうだろう博麗霊夢だ!博は広く麗は麗しい…そして君の鋭い勘や純粋に世の中を見れる目から霊夢!我ながら完璧なネーミングセンス!私は自分で自分を誉めてあげたいよ!」

最後の自画自賛は退けても

霊夢は良い名前だと思った

「霊夢…私の…名前…」

霊夢も気に入った様子だった

「…これからよろしく、クラウドくん、霊夢くん」

「なんで俺まで、行くことになってんだ…俺はいい、霊夢だけ連れていけ、俺は霊夢が生きてるだけで十分だ」

俺はその場を去ろうとした

が誰かが俺の袖を掴んだ

春音なら払いのけていただろう

が引き留めたのは霊夢だった

「…ここ…まで…一緒に…きて…一人に…しないで…」

「お前はもう一人じゃない…それに俺の手は汚れすぎてる…今更バカらしく笑えないさ…」

「笑えなくても良いじゃないか」

春音の声だ

「誰かが生きていて欲しいと願ってくれるのは素晴らしい事だよ?…しかもそれが年下の少女と来ている、君には彼女の要望を叶える義務がある…違うかい?」

春音は俺に手を差し出した

俺はまだ、渋っていた

「…ふん」

霊夢が俺と春音の手を無理やり握らせた

「…なら…作ってくれ、俺と霊夢が笑える世界を」

「あぁ約束しよう…From the New World…新世界を作るさ」

春音を追いかけたのだろう女性が二人エッフェル塔前に来た

「あんたねぇ…急にエッフェル塔がみたいな、とかいってどっか行くんじゃないわよ!結構探したのよ!?」

金髪で紫の服を着た女性と

「あらら…可愛子ちゃんがお二人さん…うふふ…本当にあなたってショタコンよね」

ピンクの髪の女性が一人

「ロリコンよりはましだよ…あ、紫、拾った」

春音は俺と霊夢の腕を上げた

「あ、拾ったじゃないわよ!お陰様で私の計画は全て台無しよ!これ以上、厄介事を増やさないでよ…」

「あらあら良いじゃない」

「…もういいわ…」

紫はため息をついた

「と言うことだ、よろしくね家族」

春音の一言に驚いた

俺にも家族と呼べる存在ができたんだと思った

しばらく呆然としていると霊夢が手を握ってきた

「…」

霊夢はただ黙ってにこりと笑った

俺も微笑んだのを覚えている

そこから、俺は新たな世界へと踏み出したんだ

 

「それが俺と霊夢の馴れ初めだ」

妖夢は珈琲杯の中の液体を飲み干した

「そうか…大変だったんだな」

「その分、俺と霊夢の絆は深いぞ…そう簡単には揺らぎはしない」

妖夢が人差し指を立てた

「もう一つ聞いて良いか?クラウドは霊夢と喧嘩したこと、あるのか?」

「変なこと聞くんだな…一度もないぞ」

妖夢は口を半開きにして驚いた

「産まれてこのかた、霊夢と喧嘩したことは一度もない…?」

クラウドの携帯に着信があった

「紅の幽霊が動きをみせたらしい、俺は行くぞ」

クラウドが席を立って出ていった

「…一度も…ない…嘘だろ、そこにびっくりしたぞ…」

妖夢は少し微笑んだ

霊夢がクラウドを好きな理由を少しだけ理解した

「本当に仲かが良いな…あいつらは」

妖夢は立って喫茶店を出た




5308文字もつらつらと書けましたね…
これも結構書きたかったストーリーなんですね
他にも書きたいストーリーが多くて困ります

次回、ついに紅の幽霊の首領と鎖の少女が動き出す!?

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