まじっく★すぱーく   作:草賀魔裟斗

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今回の番外編はアリスと魔理沙の馴れ初めとハート怪盗団の結成のお話です
実はこれが書きたいが為に美鈴とアリスの戦闘は書きませんでした( ̄∇ ̄*)ゞ


♥番外編 風吹く場所で

屋敷二階廊下

美鈴は満身創痍で膝を付いていた

アリスは大の字になり倒れていた

「お強いんですね…」

美鈴が息を切らしながらニヤリと笑った

「…怪物ね…貴方も私も…」

アリスが半分、獣になった手を見つめ

苦笑いを浮かべた

「…怪物…か…」

美鈴が立ち上がりアリスに手をさしのべた

「ありがとう」

アリスは美鈴に助け起こされる

「お連れさん遅いですね」

「そうね…まぁ待ってたら来るわよ」

暫く二人を沈黙が包む

「それにしても暇ね…あ、そうだ、なんかお話しましょ?このまま突っ立ってても暇でしょう」

「なら!アリスさんと魔理沙さんの関係が知りたいです!」

美鈴は目を輝かせて言った

アリスは暫く渋るが諦めたように笑うと話し始めた

「そうね…じゃ…これは二年前かな…私がまだ、一人だった頃の話」

 

あのときの私は本当に性格が悪かった…

そんな事、自分で言うのもあれだけど…

私としては一人で居たかったし、誰とも関わりたくは無かった

その時の私は怪盗しててね…まぁ怪盗とは名乗れど皆からの認識はコソドロ程度…その日、食べるパンとか食べ物とかを盗んで食べてた

まぁ孤児なんてそんなもんよ

その時はみんな、冷たくてね

誰も手を差しのべてはくれない

それが普通だった…

私は英国生まれなんだけど

当時の英国は異能力者への風当たりが強くてね

異能力者は産まれるとすぐに母親が泣き叫ぼうが喚こうがとある施設に移送されるのよ

異能力者隔離及び観察施設…

通称、孤児院と呼ばれていたわ

私はそこに20まで居たわ

成人まで養うという決まりがあったのよ、正確には成人まで実験し続けるの間違いだけど

成人になった瞬間、捨てられるように野に放たれるわけだし

そこでは異能力者を使って

非人道的な実験を繰り返してたのよ

私はワンダーランド計画という実験のせいで今の3つの異能力があるわ

有名な異能力孤児は孤児院の違法な異能力者への待遇とその後のアフターケアの欠如の為に産まれた言葉ね

異能力孤児は私のように盗みで食い繋ぐ生活が関の山…

ひどい人なら一週間と持たずに死んでしまうわ…

私もきっと彼奴に会えなかったらその例に零れない結果になってたかもね

でも私は彼奴に会った

その時はパンを盗んで路地裏で食べてた時だったと思う

 

路地裏

暗闇が包み水滴が落ちる音がひたすらに響く

虫がそこらじゅうを飛び交い

昼間なのに薄暗かったと思う

空腹は限界に達してて視界がまるでピントのあわないカメラを覗き混んだようにぼんやりと踊る

私はパンを一心不乱に食べて空腹を満たすと沈黙に身を包んだ

その沈黙に私は落ち着き…私を安息へと導いた

目を閉じてみる

私はその時、目を閉じてみる事が好きだった

静かな場所で目を閉じると暗闇に包まれているような気がして何も感じなくなって

少し、安心する

その時も暗闇が包み、一人だと思わせてくれた

それが私の心の安地だった

複数個の足音が私の前で止まった

私は目を開く、大きな男が三人、私の前に立っていた

私がパンを盗んだパンの主人が見えた

警察を呼んだのだろうがその男達は私が異能力者だと分かると罵倒と共に暴力を奮ってきた

私としてはもう聴力もおかしくなってて罵倒も聞こえないし、そのような事は何度も経験していたので慣れてたこともあってあの程度の暴力ではどうにも思わなくなっていた

ただその時いつもと違うことがあった、警察らしき男が手にもっていたのは拳銃だった

ニヤニヤ笑いながら拳銃を私の頭に押し当てる警察らしき男

私は目を閉じてみた

いつも通り暗闇が私を包んでくれた

死んだらこの暗闇がずっと私を包んでくれるのかな?

そう思うと寧ろ死にたくなった

引き金が引かれようとした刹那

「おいおい、警察がか弱い少女を虐めてんのか?」

声に惹かれ目を開けると

私より年下と見える少女が不穏な笑みを含みこっちに近づいてきた

「Who are you!」

「あぁ?なんだって?こっちとら生粋のジャパニーズなんだよ、もう少しゆっくり話せよな、もあすろーりーぷりーず」

魔理沙だった

彼女の手入れされてない金髪が暗闇を照らす

そして魔理沙は懐中電灯を付ける

「とまぁ、HEROになる第一歩として助けてやんよ、美人さん」

「…」

魔理沙は光剣を展開した

「Is this a mutant! Is it?」

「あぁ?ミュータント?お前らAM論者かよ、はっ!ふりぃ考え方だな、異能力先進国なんじゃねぇのかよ、ここは」

魔理沙は嘲笑するように嗤った

「Licking Ya wants!」

男達は一斉に魔理沙に発砲した

魔理沙は光剣を横に振ると銃弾は溶けて消える

「鉄ごとき、溶かすなんて訳ねぇぜ…もちろん、人間もな…さぁ続けるかい?」

魔理沙の異能力にビビった男達は逃げていった

魔理沙は呆れたように肩を竦めると光剣を消した

「あらら…ったく…どこも一緒だな…あいつの理想とした国家なんて何処にもねぇのかもな」

魔理沙は一瞬の闇を含んだ表情を見せたあと、砕けた笑みを浮かべた

「怪我ぁないかい?美人さん、顔を傷つけられなくて本当に良かった」

会話したいけど、私は日本語を喋れなかった

「…日本語じゃなくてもいいぜ?さっきのはほんのジョークだったんだからさ」

「…」

私は英語で話しかけてみた

「貴方は…何者…なの?」

「私かい?私は…元HEROさ」

元という言葉に疑問を持つ

「元?」

「あぁ大切な人、一人も守れねぇ哀れなHEROの成れの果て…日本では治安維持をする組織の一員でな…一応、HEROだったんだぜ…ただ」

魔理沙は空を眺めた

「暴力での正義の実行は恨みしか産まねぇ、恨みの先にあるのは不幸なんだ…そんな事、大切な奴に言われてよ…解んなくなったんだぜ、正義つぅーのは…幸福つぅーのはなんなのかってことがな…私にとっての幸福は悪を倒すこと…でも悪は何をなして悪なのか…パン盗んで路地裏でひっそりと食べている奴が悪なのか、そいつを正義を捌け口にストレス解消するのが正義なのか…盗みはいけねぇことだがひっそりと生きることの何が悪いのか…やっぱ私にはわかんねぇ…わかんねぇ間は私はHEROじゃねぇ」

魔理沙は私に手を差しのべた

今の貴方みたいにね

「ただ、お前を助けた事は…そんだけは間違いだとは思いたくねぇ…私はお前にとってのHEROでありてぇ」

一瞬、新しい風が吹いたような気がした

その風は私と魔理沙…孤児と元HEROを包み、踊る

手入れの行き届いていない金髪は風に乗りキラキラと光を放ってたわ

「新手のナンパかしら」

「ジョーク言える程度には元気で助かったぜ」

私は魔理沙の手を取り立ち上がる

「HERO…か…ねぇ、貴方にとって誰がHERO?」

何気なく聞いてみた

魔理沙は空を見上げにこりと笑った

「この青い空を飛び回る自由な風…かな…」

「風がHEROなの?…変な人」

「あぁ…変だな、でもよ…あながち間違いでもねぇんだよ」

「どういうこと?」

魔理沙は私をみて微笑んだ

「風に言われてここまで来たらお前がいた」

その顔は今でも鮮明に覚えてる

儚く…いや、世界の先まで見透かした後の…まるで悟りを開いたような笑顔

また、新しい風が吹いたような気がした

今度は強く魔理沙の帽子が吹き飛ぶ

「あっ…」

私は気付くと帽子に手を伸ばしていた

本人よりも早くほぼ反射的に

「!…な、HEROだろ?」

手には収まらず何らかの力が働いたように魔理沙の帽子は私の頭に乗った

奇跡が起こった

そして目の前で笑う人物にさっき出会った事も名前も知らない事も忘れて

微笑みかけたような気がする

…生まれて初めて心から笑った

心から嬉しいと思えた

この人と出会えて良かったと思えた

「ねぇ、貴方の名前を教えて」

「魔理沙だ、霧雨魔理沙、お前は?」

「私、アリス、アリス・マーガトロイド…貴方をHEROと呼ぶ人間、第一号よ」

それを聞いた魔理沙は暫く驚いたように目を見開いて

そのあと、微笑んだ

「そうか…ありがとよ、アリス」

「…私も手伝いたい…貴方の正義と幸福探し」

「有難いんだが…その前に日本に行こうか、会わせたい奴が居るんだ」

魔理沙の言葉に私は首をかしげた

「それからさ…手伝ってもらうぜ」

それから私は魔理沙と一緒に暮らすことになった

 

三日後に私達は日本に行った

英国から出たことなかった私にはいろんな事が新鮮だった

飛行機を見たときは度肝抜かれたわね

だってあんな鉄の塊が空を飛ぶのよ

それに空を飛ぶってのは気持ちいいものでね…

魔理沙のHEROを近くに感じれるのよ

風は何も変わらないなと思った

 

日本に着くまで魔理沙は随分と暗い顔をしていた

飄々とした笑顔が無くなって少し焦ったけど

私が話しかけるといつもの魔理沙に戻るんだ

ズルいよね…ずっとそうやって私に隠して…

って言ったってこの頃、私達は三日の付き合いなんだけどね

 

日本に着くと東京をから少し離れた海辺の墓地に連れてこられたわ

そこのひとつの墓の前に魔理沙が立ち止まる

「ここだぜ」

「誰のお墓?」

「私の…大切な奴だぜ」

私は魔理沙に何かを言おうとしたけど何も言葉がでなかった

「…魔理沙?」

男の声が響いた

「クラウドか?」

魔理沙が立ち上がった

「今までどこにいた…霊夢が大変な時期にどっかいきやがって」

「…忘れたかったのさ…きっとな」

魔理沙は自嘲ぎみに笑った

クラウドはため息をつく

「本当はもっとキレたかったんだが…変わってないようだから良いさ」

「霊夢に何が?」

クラウドの表情が暗くなった

「いちごが死んでから…誰とも話さなくなった…俺とも…例外じゃなくな」

「…あいつ、いちごの事、めちゃくちゃ好きだったからな…仕方ねぇのかもな」

クラウドは私に気付くと近づいてきた

「魔理沙の連れか?…てか日本語大丈夫かな?」

「アリスだぜ、イギリス出身だからよ英語で頼むよ」

クラウドが頷くと英語で話しかけてきた

「俺はあいつの友人のクラウドだ…あいつ、いいやつだから末永く一緒にいてやってくれや…多分、お前が思っている以上に淋しがり屋だ」

「余計な事を言うな」

魔理沙の鋭いツッコミが入りクラウドが苦笑いを浮かべた

私は気になった事を聞いてみた

「霊夢さん…かな…大丈夫なんですか?」

クラウドは深くため息をついた

そのあと、自嘲気味に笑った

「初対面の人に気を遣われるとはな…大丈夫だよ、あいつは大丈夫だ…復活するまで俺が命に変えても守る…それが今の俺にできるあいつへの愛情だと思うからな」

「愛情…」

「あぁ…アリスだっけか?魔理沙を頼むよ…あいつも傷心ぎみだしな」

当たり前だ、魔理沙は私を救ってくれたHEROなんだから

そんな魔理沙が辛い思いをしてるなら…

詳しい事は解んないけどとにかく力になりたい

そう思いながら私は頷いた

するとクラウドはホッとしたように表情を微妙に緩めた

「クラウド、私のアリスを口説くなよな」

魔理沙がいつもの笑顔で帰って来た

なぜだかホッとした

「口説いてはいない、俺には霊夢がいるしな」

「…変わらんねぇお前は」

「お前だけには言われたくない」

クラウドは花束を墓の前に置いてきすびをかえした

「おい、もういくのか?」

「あぁ駅前のトイレに携帯を忘れたもんでな」

クラウドは手をぶらぶらさせながら去っていった

「携帯ねえ…」

魔理沙がニコニコ笑う

私は思わず手を握った

「どうした?」

「魔理沙…隠さないで」

魔理沙は首をかしげた

「辛いなら…苦しいなら言ってよ、私は…私だって!魔理沙のHEROになりたい!」

本音が零れ落ちていった

魔理沙はずっと黙っている

「私は…正直さ…もうHEROにはなれないと思ってた…そんな資格ないと思ってた…いちごは…私の大切な人は…私のせいで死んだ…初めは苦しくて考えれば考えるほど、死にたくなった…いちごは死に際、私に暴力からは恨みしか産まない…それは正義じゃないって言った…でも本当にわかんねぇんだ…暴力での制裁しかしたことのねぇ私には…それ以外の正義が…」

まるで仕切りを取ったように魔理沙の流れ出す本音

魔理沙の表情も段々、不安げになっていく

私はひとつひとつ、丁寧に聞いた

「なぁ…アリス、教えてくれ…私は…どうすればいい?私はどうすれば正義のHEROになれるんだ?」

「…怪盗…」

「へ?」

「私にはよく解んないけど…正義とは真逆の方向に行けばいいと思うの…見方を180°変えてみる…そしたら何か…いちごさんの事も分かるんじゃないかなって…ただ殺人だと暴力になっちゃうし…怪盗で誰も傷つかないように物を盗むのはどう?」

自分でも笑っちゃうくらい支離滅裂な事を言っているけど意外にも魔理沙の反応は上々だった

「180°見方を変えてみる…か…なるほど…いい考えかもしんねぇな…怪盗か…」

魔理沙はニヤリと笑った

本音を言っていた時の不安げな表情は消えてなくなっていた

いつものどこか謎の自信に満ちた表情へと変わる

「ありがとう、アリス…お前も私に取ってのHEROだな」

「…!」

その言葉がすごく嬉しかった

「うし!なら…これからも手伝って貰うぜ、アリス!」

「無論よ」

それから程なくして日本中に名を轟かすハート怪盗団が産まれたわ

 

アリスが語り終わると階段を駆け上がる音が聞こえた

早苗が美鈴達に近づく

「早苗さん?どうしたんですか?…すみませんこの体では決闘は無理っぽいです」

息を切らしながら早苗は首を横に振ると

「美鈴さん!妹さんが逃げ出したらしいです!」

「なんですって!…本当ですか!?どっちですか!?」

美鈴はアリスの方を向いた

「ありがとうございます!アリスさんの話、面白かったです!いずれ続きを聞かせてもらってもいいですか?」

「もちろんよ」

早苗に連れられ美鈴は去っていった

「…!」

光と共に魔理沙とパチュリーが現れた

魔理沙は肩に大きな穴が空いていた

「大丈夫!?」

「あぁ大した事はねぇ…それよりずらかるぜ、お目当てのもんは戴いた」

「?…あ、パチュリーの…」

パチュリーが頷いた

「そう…それじゃ帰って夕飯でも作ろうかしら…魔理沙お願いね」

「あいよ」

魔理沙達は光と共に姿を消した




5550文字でした
おしい!あと5文字多ければ!
アリスと魔理沙の馴れ初めはなんかはっきりとしない話でしたね
でも今回の話には後々大切になってくる用語とかもあったりなかったりしますよ(  ̄▽ ̄)

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