使い魔のくせになまいきだ。 ~ マガマガしい使い魔 ~   作:tubuyaki

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ついにツルハシを手にしたルイズ。
ツルハシは彼女に人知を超えた力を授けたのだった。
だが彼女はまだ、ツルハシが自分にどんな影響をもたらすのか、気付いてはいなかった。


【挿絵表示】


再びうどんこ様から挿絵を頂きました。ついにドットメイジになれたルイズだそうです。
うどんこ様、ありがとうございました!


STAGE 9 あの日した決闘の勝ち方を僕はまだ知らない

「げっ、ついにやってきたようね!」

 

ルイズは掘ってきた穴の入り口に立つ、怒りに満ちた顔つきのギーシュを見つけた。

どうやら時間稼ぎに彼を転ばしたことは、怒りのボルテージを高めることにも一役買ったらしい。今や彼自慢のフリルの付いたシャツには、ワインの赤に加えて、土の茶色までもが染みついていた。そんな姿で険しい顔を浮かべるギーシュに、ルイズは不安を煽られるのだった。

 

「さあルイズ様、せっかくダンジョンを掘っても

 我々がその入り口に突っ立ていては話になりません。

 どこに隠れ・・・いえフンゾリ返って魔王軍の活躍を眺めるかお決めください。

 まあダンジョンの奥が無難ですが。」

 

「なら特に考えることでもないじゃない」

 

「いえいえ、これが大事なのです。分かれ道を何本か掘ってどこにいるか決めたり、

 わざと最奥部を避けて戦力温存を図ったり・・・

 まあ中にはダンジョンの入り口真ん前に私を置くようなハカイシン様もいましたが。」

 

「それって何の意味があるの?」

 

「・・・まあ、ワザと負ける訳です。」

 

「負けてどうなるのよ」

 

「・・・私が簀巻きにされます。そして私が悲哀のコメントを述べながら

 連れていかれるのをニヤニヤしながら楽しむのです・・・

 まさかルイズ様はそんなことしませんよね?」

 

はい/いいえ

 

→はい

 

「フーン。まあそんなの当たり前なんですけどね。いいからさっさと決めてください。」

 

「アンタねえ!」

 

 

→いいえ

 

「え! するんですか!? そんなに負けたいなんて、もしかしてルイズ様って、マゾ?」

 

「誰がマゾよ! あんただけが入り口に立ってスケープゴートになれば、

その隙に私が逃げられるんじゃないかと思っただけよ!」

 

「・・・サドでしたか」

 

「どっちでも無いわよ!」

 

 

「まあいいわ! 無難にダンジョンの一番奥よ!」

 

「良いと思います。では後はマモノたちが彼を血祭りにあげるのを

 ドーンと待って構えてさえいれば・・・」

 

「・・・何よ」

 

「いや、負けそうになったらチマチマとマモノを補充してやる必要があるので

 気を付けてください。まあそんな状況って、焼け石にミズなことが多いですが」

 

「・・・不安になってきたわ」

 

「まあしばらくはマモノ達の活躍を眺めましょう!」

 

 

 

 

STAGE 9-1 抗争(こうそう)死角(しかく)

 

「どこへ逃げた!」

 

ギーシュがダンジョンへと勇ましくその身を投じると、中には緑色のツヤツヤした物体が蠢いており、彼を戦慄させた。

 

「な、なんだこれは!! く、来るんじゃない! あっちへ行け!」

 

一匹が真っすぐ彼へ向けてにじり寄っていく!

 

「行け、ワルキューレ!」

 

彼自慢のゴーレムが槍を突き立てると、ブシュウと音を立ててコケはちぎれとんだ。

 

「あれ? なんか弱いぞ」

 

どこか遠くで少女の悲鳴が聞こえた気がした。

いやしかし、本当に拍子抜けするぐらいに弱かった。

 

「なんだったんだこの生物は・・・」

 

今度は彼を無視する様に、目の前を緑色のソレらがのしのしと横切って行った。

どうやらそれらは何かにぶつかるまで真っすぐ進むことしか頭にない、

単純な生き物であるらしいことをギーシュは悟った。

 

「ああ、何てことだ!」

 

早くも彼は嘆きの声を上げた。

 

「土メイジともあろう僕が、地中にこんなたくさんヒシめいてる

生物のことを知らなかったなんて!」

 

・・・・・・・・・・・・・

 

「・・・いやいやいや! 普通いる訳ないでしょ、こんな生物!

こんなのがハルケギニア中の地下にいたらたまんないわよ!」

 

「本当ですか?」

 

「へ?」

 

「ルイズ様はジッサイに地下を掘って確かめてみたことがあるんですか?」

 

「え、・・・ま、まさか、え、私が知らないだけで普通にいるの!?」

 

「・・・」

 

「なんとか言いなさいよ!」

 

・・・・・・・・・・・・・

 

「う! な、なんだこの巨大なムシたちは!」

 

彼が緑色のうごめく物体をつぶしながらダンジョンを進むと、今度は巨大な白いムシがブンブン飛び回ったり、カサカサ歩き回っている開けた場所に出た。またも地中にこんな特徴的な虫たちを見つけたことに、ギーシュは土メイジとしてショックを受けるのだった。あえてこちらに向ってくる様子はないが、きっと近づけば攻撃してくるんだろうなあと、ギーシュは不安な気持ちでそれらの大きすぎるムシたちを見つめた。そしてそんな心に呼び寄せられたかのように、ムシの一匹が地を這ってギーシュに近付いた。

 

「い、行け、ワルキューレ!」

 

だがガジガジムシのかみ砕く攻撃の方が早かった。

本来ならそんなもの、気にするまでもないことであった。

しかしギーシュは見てしまった。

ムシが取りついて離れた箇所に、何かを抉り込んだような二つの陥没・・・歯形が付いていた。

 

「何――! 僕のワルキューレは青銅なんだぞ!」

 

先手を取られたワルキューレだったが、今度はこちらから槍で薙ぎ払うと、

ムシはバラバラに砕け散った。

またどこかで少女の嘆き叫ぶ声が響いた気がした。

なぜかギーシュの脳裏に、それをなだめるマガマガしいあの使い魔の姿が思い浮かんだ。

また一撃じゃない!

落ち着いて下さい。戦いは数だということをご覧に入れましょう!

ギーシュはブンブンと頭を振って、余計な考えを振り払った。

いや、こんな臆病ではいけない。

確かに前に進めばムシだらけだが、僕のワルキューレは今度も簡単に相手を倒したはずだ。

 

「ムシにやられるワルキューレではないぞ!」

 

ギーシュは意を決してワルキューレを突撃させた。

3匹のガジガジムシがワルキューレを取り囲み攻撃を始める。

ワルキューレは一匹ずつムシを仕留めていったが、

その都度、ふらふらと近付いてきた別のムシが攻撃に加わった。

ムシにまとわりつかれたままの自慢のゴーレムの姿を見ていられなくなった彼は、

もう一体ワルキューレを召還し、虫たちを着実にバラバラにしていった。

その場所のムシを倒しきった頃には、ワルキューレの美しい鎧は

幾度となくその巨大なアゴで噛みつかれ、傷だらけになっていた。

探せばなんと、穴が空いている箇所すらあった。

 

「ぼ、僕のワルキューレがこんなざまになるなんて!」

 

ワルキューレはしばらくニジリゴケをつぶしてつき進んだが、

またもガジガジムシの群れと遭遇すると、その幾多の噛み付きを受け、崩れ去った。

 

「こんな攻撃、生身の僕が食らったら・・・」

 

いや、そうならないための魔法であり、ワルキューレであるはずだ。

何より、あのゼロのルイズに辿りつくまでもなく、恐れをなして引き返すなど、皆に笑われてしまうではないか。彼は、ともするとこみ上げてくる不安を必死に抑え込みながら、足を前へ前へと進めた。

 

「まだだ、まだ魔法力に余裕はある。今以上に強い奴が出て来さえしなければ、

 こんなムシはオソルルに足らず! ・・・ん? なんだこれは?」

 

ギーシュは丁度彼の傍らの、目立たぬ穴の隅っこに、細長くてブヨッとした、

白く大きな塊を見つけた。

 

「この色どこかで見たような・・・」

 

遠くからムシが近づいて来るのが見えた

 

「ああ、あのムシの色とそっくりじゃ な い か」

 

塊がバリバリと音を立てて裂けた。

 

「うわああああああ!」

 

中から這いずり出てきたのは、羽こそ付いてはいるが、見間違いようの無いあのムシだった。

ギーシュの気が動転している間にもガジフライはワルキューレへ猛烈に噛みついた。それは地を這う何匹ものガジガジムシとて一緒のことだった。

 

「こうなったら2体追加だ! 行けワルキューレ! そしてその力を見せつけるんだ!」

 

3体がかりになったワルキューレは流石に強く、ムシたちを次々と蹴散らしていった。

しかし先に出していたワルキューレの傷は深く、その戦いの最中、土にその身を横たえることとなった。その後、ギーシュが再びワルキューレを追加し、傷の浅い3体を使って用心深く進むようになると、落ち着きを取り戻した彼の的確なコントロールもあり、ガジガジムシ・ガジフライは見る見る内に蹴散らされていった。

 

「僕のワルキューレに不可能はない!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ど、どうするのよ!?」

 

「所詮はムシけらか・・・。いくら集まっても烏合の衆では意味がないということですな。」

 

「数の力はどうなったのよ!」

 

「まあまあルイズ様。良いカードはここぞという時に切るものです。

 いでよ! トカゲ軍団!」

 

「「「クワァーー!」」」

 

「魔王軍の誇る精鋭! ダンジョン戦闘の華であるトカゲおとこたちよ!

 その力を木っ端メイジに思い知らせてやるのです!」

 

「「「クワワァーー!!!」」」

 

トカゲおとこは、見ているルイズが惚れ惚れとするような勇ましい鳴き声を上げた。

 

「ついに見れるのね、その雄姿を! さあ行くのよ!」

 

「クァ?」

 

「あ、ちょっとどこ行くのよ! ギーシュはそっちじゃないわよ!?」

 

「クァワーー!!」

 

「言うこと聞きなさいよ!」

 

「「「クァワァーーー!!」」」

 

「ルイズ様、知っていますか?」

 

「何よ! 今私はこいつらの指揮で忙しいの!」

 

「キホン、爬虫類というものは、飼い主に懐かないものだそうです」

 

「そんなどうでもいいこと・・・え?」

 

「つまり何が言いたいかというとですね、例えルイズ様の手によって生まれた

 可愛いトカゲおとこ達であろうと、一度生まれたら彼らは彼らなりの本能に従って

 生きていく、そういうものなのです。あれやこれとルイズ様が命令しようとしても、

 言うことを聞いてくれはしないでしょう。」

 

「何ですって!それじゃあどうやって戦えっていうのよ!」

 

「そこはルイズ様の裁量次第というものです。

 少なくともトカゲおとこは縄張りに侵入した者に目がけて突っ込んでいきますから、

 上手く彼らの住む場所に勇者を誘導し、戦いの場を用意してやるのです。

 ルイズ様はただ地中を掘って魔物を出しまくるだけでなく、そういうマネジメントを

 意識して襲撃者を迎撃できるダンジョンを構築せねばならないということですな」

 

「そんな! ・・・いや、ちょっと待ちなさい。

 さっきアンタ、トカゲおとこに向けて掛け声かけてたじゃない!

 何でアンタはそんなこと出来るのよ?」

 

魔王はふっと、得意げに息を吐いて答えた。

 

「天才ですかr「ぶっ飛ばされたいようね!」いやヤメテ!

 私だって伊達にマモノしてないのです。魔王なのです。

 演説でバーンと聴衆を沸かせて地上侵攻するぐらい訳はないのです。

 諸君! 私はダンジョンが好きだ! とか言って鼓舞すると大変効き目があります。

 でもルイズ様。今はその時ではないですし、彼らには彼らの生活があるのです。

 何から何まで従わせることはどちらにせよ不可能なのです」

 

「そうは言っても、苦労して生み出した人間の私より、

 眺めてただけのアンタの話を聞いてくれるって訳ね。はぁ・・・」

 

「まぁそう落ち込まないでください。彼らとて必死に戦い、それが結果的に

 ルイズ様のためとなることに変わりはないのです。ルイズ様はルイズ様で

 彼らを戦力として利用し、彼らは彼らで一族の繁栄のために破壊神様を利用する。

 こうしてマモノとルイズ様との間にマガマガしきWIN-WIN関係が築かれるのです」

 

「使い魔主従の信頼関係とは程遠いってことがよーく分かったわ。」

 

「えっ?しんらい、かんけいですか?」

 

魔王は自分とルイズを交互に指さしながら頭を傾げた。

 

「・・・」

 

ルイズは養豚場の豚を見るような冷たい目で魔王を見つめた。

たじろいだ魔王は、慌てて弁解を始めた。

 

「ちょっとルイズ様にはきつ過ぎるジョークだったようです。ルイズ様の私を見る目は

 ともかく、こう見えても私、ルイズ様のことは立派な主様だと思っているのです。」

 

「なによ急に! そんないきなりおだてるような真似しても無駄なんだからね!」

 

そう言いつつもルイズの顔は少し満足げだった。

 

「いえいえ、ルイズ様は本当に立派だと思います。

 将来素晴らしいお方になられるに違いありません。

 主に破壊神的な意味で。」

 

「どーいうイミよそれ!!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ギーシュが開けた場所に出ると、その方々で野太い咆哮が一斉に上がった。

 

「「「 ク ワ ァ ー ー !!!」」」

 

「な、な、トカゲ亜人の群れだとおおお!!!」

 

トカゲおとこ達はその目をキラリと輝かせると、一斉にギーシュに向かって突進していった。

鈍く光る剣と丸い盾を手にした、一目でわかる武装スタイルがギーシュを恐怖のどん底に陥れた。

 

「こっちへ来るなぁあああ!! ワルキューレ! 全機突撃ぃいいい!!!」

 

ギーシュは咄嗟の判断で、残された魔法力の限りを尽くしてワルキューレを追加し、戦列に加えさせた。そうして隊列を組んだワルキューレに、トカゲおとこの群れは勢いよくぶつかっていった。

 

「「「クワァーー!! クワァーー!!!」」」

 

「「「・・・」」」

 

亜人の鳴き声に交じって、剣同士のぶつかり合うガチャガチャとした音が響き渡る。

ゴーレムは喋ることを知らないため、しきりに鳴くトカゲおとこの声ばかりがダンジョンに響き渡った。

 

「うわあああああ!!! 踏ん張れ! 負けるんじゃない!!」

 

ギーシュはワルキューレの隊列がトカゲおとこたちに押されるたびに、小さな悲鳴を上げた。

ワルキューレは全身青銅で出来たゴーレムであり、複数を操れば一個小隊すら相手取れる高い戦闘能力を誇る。そのワルキューレが隊列を組んだ今、“彼女ら”の力は最大限に振るわれようとしていた。これこそが軍人家系の出ならではのギーシュの自慢である。しかし今回は相手が悪かった。相手は野生の力を剣の技に注ぎ込んで生きる種族。型にはまらず、それでいて鮮やかな彼らの剣技が、教練のお手本のようにきれいに武器を振るおうとするワルキューレ達の動きを翻弄した。そうして両者が切り結ぶ内に、ワルキューレはいたるところへ剣を受け、凹んでいった。戦乙女の身体には少しずつひびが入り、手の先から砕け散り、崩れ落ちていった。だがワルキューレも全力を尽くした。トカゲおとこの方も、一匹、また一匹と数を減らしていったのだ。ギーシュが恐怖に打ち震えつつ見守る中、最後に立っていたのは・・・

 

 

 

 

「クワァアアアアア!!!!」

 

「いやだあああ!! 死にたくない! 死にたくないいいいい!!」

 

満身創痍のトカゲおとこがよろよろとギーシュに近づく。

それを目にして、彼は自らの死を悟った。

彼は自分の今までの愚かな行いを激しく悔いた。

ああ、何で僕はモンモランシーの愛情を裏切り、

そしてケティの純情を踏みにじる不誠実な真似をしてしまったのだろう。

そしてああ、君もだ。君には何にも主らしいことをしてやれなかったね。

こんな不甲斐ない主で本当に済まない。

僕はもうダメだが、君は元気でやっておくれよ。

 

「ああ、愛しのヴェルダンデ!」

 

「モグ?」

 

「ああ、こんなときに幻聴まで聞こえてくるだなんて。

 だが幸せだよ。君の声を聴きながら眠りにつけるというのは・・・」

 

「クワァアアアア!」

 

ヴェルダンデはトカゲおとこの野太い鳴き声にビクッとしつつも、

主の危機を悟ると瞬時に穴を掘り、その爪に主の身を引っ掛けて逃げ出した。

彼はギーシュの使い魔。

彼はジャイアントモール。

巨大土竜の手にかかれば、道無き土中に穴を空け、

縦横無尽に地中を駆け抜けることなどたわいもないことだった。

つまりそれは、破壊神の絶対的優位、破壊神の、破壊神による、破壊神だけの穴掘り、

もといダンジョン作成という常識が崩れた瞬間だった。

古来、騎兵が銃兵に敗れ、塹壕が戦車に突破され、軍艦が航空機に沈められていった様に、

最強の神話が終わろうとしていた。

ユーテーも、カズヲも、ああああや****すら倒してきたダンジョン戦略の根底が今、覆る。

新たな時代の幕開けだ。

 

「な、な、なんたるチート!! これがゲームと現実との違いという訳ですか!?」

 

「ちょ、ちょっと、もしかしてこっちに近づいてきてない!?」

 

ヴェルダンデは鼻が利く。やぼったいマモノひしめく通路を上手く避け、

新たにトンネルを掘り進めて悪の親玉に近づくのであった。

 

「どうすればいいの!? ねえ! どうすればいいの!?」

 

「ははは・・・掘っていいのは、掘られる覚悟のある奴だけだったというわけですか・・・

 勇なまの時代も、これでおしまいです・・・」

 

「しっかりしなさいよー!!!」

 

ボコっというような音とともに、突如として通路に穴が開いた。

鼻をひくひくさせながら、巨大モグラ悠々の登場である。

 

「「あばばばば」」

 

「モグモグ?」

 

ギーシュは、しばし何が起こったのか分からないような呆けた顔をしていた。

しかし慌てふためくルイズたちを目にし、やっと事態を把握した彼の顔には

不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「ゼロのルイズ! 君たちの負けだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギーシュはぎょっとした。

ドヤ顔で勝利宣言した途端、ルイズの使い魔がアッという顔をすると、何事かルイズに囁いた。

そしてルイズの雰囲気はガラリと変わったのだ。

主に、マガマガしい意味で。

 

「・・・ギーシュ」

 

「な、なんだね! 君たちのダンジョンは突破されたんだぞ! 潔く負けを認めたまえ!」

 

「まああんたも落ち着きなさいよ」

 

その顔は魔王含めニヤニヤと笑っていた。

 

「な、何を余裕ぶっているんだ。」

 

「なにか忘れてないかしら?」

 

「何だと?」

 

ギーシュは不安になり、今までのことを思い起こしたが、心当たりはなかった。

 

「負けを誤魔化そうとしても無駄だぞ!」

 

「貴族の決闘は!」

 

ルイズが声を張り上げた。

 

「杖を落とした方が負け、よね?」

 

「これを決闘と見なして良いならな! それに僕の杖はこの通りだ!」

 

「でもね。私思うのよ。たとえ杖を落としてなくて、あんたがピンピンしていたとしてもね」

 

するとルイズを遮って魔王が声を張り上げた。

 

「今、本当のゼロになっている相手に負けるはずがないのです!」

 

「ゼ、ゼロだと? ふん、僕は君の主と違ってドットだ!

 そりゃあラインやトライアングルには見劣りするだろうが、ゼロの敵ではない!」

 

「それでもよ。だって、今言ったのはそっちの方のゼロじゃないもの。」

 

「何だと?」

 

怪訝な顔をするギーシュにルイズは冷酷な事実を突きつけた。

 

「あんた今、魔法力は残ってるのかしら?」

 

「うっ!」

 

そうだった。魔力は全てワルキューレに使い果たしたのだった。

 

「ふふふ、普段はアンタが私のことさんざんバカにしてるけど、

 今やアンタの方がゼロって訳」

 

ギーシュはルイズから立ち込めるマガマガしい気配にたじろいだ。

 

「だ、だが僕だって男だ! 魔法がなくても君に負けたりなんかしない!

 それに使い魔がついている!」

 

「そのジャイアントモール? あまり戦いに向いてるようには見えないわよ?

 さっきだって満身創痍のトカゲおとこからすら逃げ出してたじゃない」

 

「それは君のヒョロッとした使い魔君にだって言えることだ!」

 

「まあ使い魔は戦力外としてもね?

 あんたが魔力切れな以上、その手にしている杖は今やただの棒切れなわけ。」

 

「な! メイジの誇りたる杖になんということを!

 それに君の手にしている杖だって、魔法を使えないならただの棒切れ、・・・」

 

ギーシュは気付いた。彼女が持っているのは杖ではない。

確かに棒状で持ち手があるが、その先には鈍く光る尖った金属がついていた。

 

「メイジの誇り、ね。これを持ったことで何か自分の大事にしてきたものが

 台無しにされたような気がしてたんだけど、そういうことだったのね・・・

 でもこれにも良いところはあるのよ?」

 

ルイズは穏やかに語り続けた。

 

「実際、魔力なんか使わなくてもね」

 

そう言うと彼女は重そうなツルハシを軽々と上段に構え・・・

 

「あんたの頭をカチ割ることぐらい訳はないってわけ」

 

にっこりと笑った。

 

「覚悟はいいかしら?」

 

 

 

「ヴェルダンデーーーー!!!」

 

「待ちなさい! このナルシスト勘違いバカ!! よくも追い掛け回してくれたわね!!!」

 

ヴェルダンデは主の求めに応じ、物凄い勢いで逃げ道を掘り進めた。

だがギーシュには信じがたいことに、ルイズのツルハシは彼女の手を離れ、彼らをつつき殺すように高速で震えながら彼らに追従していくのだった。

 

「うおおおおおお、そんなバカなあああああ!!」

 

「まちなさいいい!!!」

 

ギーシュが命からがら地上に辿りついたとき、すでに彼は息も絶え絶えになり、そのまま白目をむいてぶっ倒れた。普段の優雅な印象はなく、身に着けたシャツはワインの赤いシミが付いていることなど分からないほど、土まみれのボロボロになっていた。一方ルイズとその使い魔は、やはり土まみれではあったが、堂々とした態度で踏ん反り返りながら広場に姿を現した。野次馬の学生達はみな騒然とした。もはや誰の目にも、勝利者が誰であるかは明らかだった。

 

「まさか、ギーシュが敗れるなんて!」

 

「あの噂、もしかして本当だったのか?!」

 

「なんだあの噂って?」

 

「ああ、実はこの学院の使用人が話しているのを小耳に挟んだんだ。

 あのゼロのルイズは・・・実はホンモノの破壊神だったんだよ!」

 

「「「な、なんだってえええ!!!」」」

 

「普段、魔法を爆発させているのはワザとなんだ。

 あいつの抑えきれない破壊衝動をあの爆発で紛らわしているらしい!」

 

「う、嘘だろ! おいそこの平民!」

 

「は、はい、何でしょう!」

 

乱暴に呼びつけられ、黒髪の少女は急いで彼らのもとに駆け付けた。

 

「お前たちの間で、あのゼロのルイズが破壊神だといううわさが広まっているのは本当か!?」

 

シエスタはガタガタと震えて答えた。

 

「あの恐ろしくマガマガしい使い魔が自慢げに語っていました!

 自分はあの方と一緒に世界征服をするために呼ばれた魔王なんだと!!」

 

「何だと! まさか本当だったのか!?」

 

平民たちの噂は、ゼロのルイズが勝利したという意外なニュースとともに、

あっという間に学院の生徒たちへも広まっていくのだった。

 

 

 

「ふう、なんとか負けずに済んだようです。」

 

「もう、本当にギリギリだったじゃない!」

 

口では文句を言うルイズだったが、彼女は皆の驚くような視線を身に受けて、

大変満足そうであった。

 

「・・・ですが、ルイズ様。本当はギリギリ以下だったのですよ?」

 

「へ? どういうことよ?」

 

ルイズはこの使い魔ならもっと浮かれるものだと思っていただけに、

意外に思いながら言葉を返した。

 

「今回は相手が勝手にビビッて逃げてくれましたが、ここだけの話、ツルハシで仲間のマモノをつつくことは出来ますが、敵だとつつき殺すことは出来ないのです。それは召喚されたゴーレムや使い魔でも同じことです」

 

何でもオトナのジジョウとかいうやつがそれをジャマしているらしいです、

と魔王は悲しそうに告げた。

ところがルイズはそれを聞いてもああそんなこと、とでもいうような顔をした。

 

「ならやっぱり、勝ってたんじゃない」

 

訝しむ魔王に彼女は天使のような微笑みを浮かべて、こう言った。

 

「だってギーシュはクラスメイト。お友だちでしょ?」

 

魔王はルイズの心の広さにいたく感じ入り、より一層 彼女に尽くしていくことを

心に誓ったのだった。




                                    tubuyaki
この度は作者の力量が至らず、勇なま初心者のルイズに対して複数のワルキューレという
圧倒的に有利な戦力を保持していたはずのギーシュを勝たせることが出来ずに申し訳あり
ません。ギーシュメインでないSSにおいて、ギーシュが決闘イベントにて勝利するという
展開は寡聞にして聞かず、またあったとしても相当希少なものであると愚考する次第で
あります。そのような中、折角の勝利の機会がありながらこのような展開になったこと、
ギーシュファンの皆様には改めて謝罪申し上げまくぁwせdrftgyふじこ

しかしながらギーシュ氏の使い魔であるジャイアントモールのヴェルダンデ殿が行った行為は、
作品内のチツジョをイチジルしく損なうモノとして断じてミトメられないものであるという
ことをワレワレ魔王軍は断固主張致します。ホネにしなかっただけ有り難く思え、という
破壊神様のカンダイなお心に免じて、お怒りを沈められますよう謹んでお願い申し上げる所存で
ゴザいます。今後とも、魔王軍のゴヒイキとゴアイコウの程、ヨロシクお願い申し上げます。 
地下帝国 魔王

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