使い魔のくせになまいきだ。 ~ マガマガしい使い魔 ~   作:tubuyaki

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STAGE 4 使い魔ほど過酷な商売はない

 二人が食堂へ向かうべく廊下への扉を開けると、丁度隣の部屋からも赤髪をした少女が

出てきたところだった。

 

「はーい。おはよう、ルイズ」

 

「げっ…… おはよう、キュルケ」

 

「何よ、随分なご挨拶ねえ」

 

 そう言いつつ、彼女は大して気にした様子もない。二人の関係において、もっぱらムキに

なるのはルイズの方であった。

 

「ところで…… あなたの使い魔って、そいつよね?」

 

彼女は興味深げに、ルイズの後ろに佇む魔王へ目をやった。

 

「……そうよ」

 

「あはは。そんなに嫌がることないじゃない。亜人を召喚するなんて、あんたにしちゃ上出来よ」

 

「うぐぐ」

 

 確かに上出来は上出来だったかもしれない。しかし使い魔にするにはあんまりなヤツを

呼んでしまったとの思いから、ルイズは余計に悔しがった。

 

 そんなルイズの反応も織り込み済みだったのか、ちょっぴり満足げな顔をしたキュルケは、

今度は魔王に話し掛けた。

 

「召喚の儀式以来ね、亜人さん。わたしはルイズのクラスメイトのキュルケ。

 人呼んで微熱のキュルケですわ」

 

「これはご挨拶をどうも、セニョリータ。 ワタクシも名乗らせて頂きましょう。

 何を隠そう、このワタクシは光閉ざされた世界を統べる、まお「ああ、急いで

 食堂に向かわないと、食べる暇もなく授業が始まっちゃうわあ!」

 

わざとらしく大声を上げたルイズに対し、キュルケは不快そうに口元を曲げた。

 

「……ちょっとルイズ、今は私が彼と話しているんだけど。

 そんな風に話を遮るなんて、失礼ではなくって?」

 

ルイズは気まずそうに答えた。

 

「うぅ、悪かったわよ。その、こいつがかなりお調子者で、大げさで、その上冗談ばっかり

 言ってる様な奴だから、喋らせた方がむしろ失礼かと思ったのよ」

 

 私にとっても恥だし、と小声で付け加えるルイズだった。

 

「あら、冗談好きだなんて、面白そうで良いじゃない。冗談通じないアンタよりマシよ。

 ま、よろしくね、亜人の使い魔さん。」

 

「な、なんですってえ「ええ、こちらこそ。改めまして我が名は…」

 

「でもやっぱり使い魔にするとしたら、こーんな使い魔が良いわよね。

 さあ、こっちへ来なさい。フレイムー!」

 

「……」

 

 どうやら彼女にとって、名前の方はどうでもよかったらしい。憮然とする魔王を他所に、

キュルケの部屋からはのしのしと、真っ赤な大トカゲが歩いて出てきた。

 

「きゅるきゅる」

 

「良い子ね、フレイム」

 

彼女は慈しむように、そのトカゲの頭を撫でた。

 

「それってサラマンダー?」

 

「そうよ! しかも見て、この尻尾の鮮やかで美しいこと! 間違いなく火竜山脈の

 ブランドものよ。貴重過ぎて、好事家相手に値段が付かないって話よ。

 微熱の私にぴったりでしょ?」

 

「へええええ、あ、あんたの使い魔もまあまあね!」

 

 口では強がってみたものの、片や希少かつ皆の賞賛を集める幻獣、片や背教的な容姿をした

得体の知れない亜人である。しかもひょろひょろして弱そう。サラマンダーを食い入るように

見つめるルイズの眼差しには、羨望の念がありありとしていた。

 

「まあ、あんたの使い魔も珍しさってところでは相当よね。ある意味値段が付かないでしょうね。

 何だかんだで、あんたにはぴったりじゃない?」

 

「それどーいう意味よ!」

 

 ギャーギャーと騒ぐ二人を他所に、魔王は興味深げにフレイムを見つめた。そして彼に

近付くと、

何やらぶつぶつと話しかけ始めた。

 

「ボグジバゾグオバ…… リグリバングセギ」

 

「きゅるきゅる…… きゅきゅきゅ」

 

「バビゴキスフレギ。ジャムエバギボオモ」

 

「きゅる~」

 

 

・・・・・・・

 

・・・・

 

 

「ツェルプストーのバカ! 淫乱! おっぱいおばけえええ~~!」

 

「ルイズったら、ほんっと単純なんだから。そんなんじゃせっかく呼び出した使い魔にも

 愛想尽かされて逃げられるわよ?」

 

「ムッキーーー! 元はといえばあんたが……!」

 

「亜人さんも、ルイズに愛想尽かしたら私のところに……って」

 

「ワバレデモタッギャ…… ラゴググンバラアスジアンギン。ギラバラギモフリビグズキ!」

 

「……キュル!」

 

「フフフ、いい子です。それにしても、グロソギ語が通じてよかったです。

 これがオソドゥル語だったアカツキには、聞き取ることすら出来なかったでしょう……」

 

「ちょっとあんた、何やってるのよ!」

 

「あ、ルイズ様。いやなに、使い魔同士、ちょっとした挨拶を交わしていたのですよ」

 

「あら!あなた、この子の言葉が分かるの?」

 

 自らの使い魔のこととなると、興味津々なキュルケであった。

 

「そりゃあ何と言っても私はまお…ゲフンゲフン。失礼、ワタクシ召喚される前は、

 マモノ社会を盛り上げるべくフントウしておりましたので、一通りのマモノとは

 コミュニケーションを取れる様、ベンキョーしておるのです。」

 

「へぇ、すごいのね! 使い魔の言葉が分かるなんて、ちょっとしたものよ!」

 

 キュルケは素直に感心しているようだった。ルイズも悪い気はせず、ちょっぴり自分の使い魔を

見直した。朝食にはパンとスープだけでなく、肉もつけてやろう。

 

「それでどんなこと話してたの? 良かったら教えてくれないかしら」

 

「ああ、内容ですか? 人生相談ですよ」

 

「「じ、じんせいそうだん?」」

 

 思わずハモって、二人は気まずい思いをした。

 

「ええ、そうです。ムリョー相談なんで5セントは頂きません!」

 

「そ、その、私のフレイムは何か悩みでもあるのかしら?」

 

戸惑いつつ、キュルケは尋ねた。

 

「いえいえ、ご安心を。別に家族にも言えずに長年隠し続けてきた趣味をカミングアウトだとか、

 そういうんじゃありません。彼も火竜山脈からイキナリ呼び出されたワケですし、新しい

 カンキョーへの戸惑い、これからの生活への不安もあることでしょう。そこで私がイロイロと、

 今後の人生設計についてアドバイスしていたのです!」

 

「使い魔人生の何を設計するっていうのよ……」

 

 呆れた風にルイズはため息をついた。

 

「アマい!アマすぎる! 使い魔になったからといって人生チョロイと思ったら

 オオマチガイです! 今まで幾多のマモノの失業問題と向かい合ってきた者として

 ハッキリ申し上げねばなりません! 彼の今後の人生を考えた場合、使い魔ばかりで

 喰っていくというのはヨロシクないのです!」

 

 思わずルイズとキュルケは、顔を見合わせた。

 

「どういうことよ?」

 

「ルイズさま、マモノがニンゲンにヤトワレの身ともなれば、天敵のいない場所で

 衣食住の心配無くラクに暮らして行けるハズ。そんな風に軽く考えていませんか?

 確かにニンゲンに飼われたマモノは、戦闘時も安全面がある程度ホショウされ、

 その他サポートも付いたまま闘争本能を満たすことが出来るかもしれません。

 しかし! 使い魔という仕事は、いつまでも長く続けられるようなモノではないのです!」

 

「そ、そうかしら?」

 

「そうなのです!」

 

 キュルケは疑問の声を上げたが、魔王はすぐさまそれを否定した。しかし納得出来ないという

顔をした彼女を見て、魔王は詳しい説明を始めたのだった。

 

「私、上に立つもののタシナミとして雇用情勢にも気を配っておりますが、世の大きな流れ

 として、従来的なシューシンコヨウセイドは姿を消していっております。ニンゲンどもの

 尊敬をイッシンに集めるハズのユウシャ一味ですら、転職を繰り返しているのですから

 マチガイありません」

 

「しゅ、しゅうしんこよー?」

 

「この流れは、使い魔業界とて例外ではありません。近年では、霜降りお肉やハイパーで

 マスターなボールを使ったマモノの懐柔・捕獲技術が発達し、ニンゲンがマモノを仲間に

 することも難しいことではなくなってきました。つまり今までとは、雇用の需給バランスが

 異なってきているのです」

 

「じゅきゅうばらんす??」

 

「マモノが仲間になり難く、また主のマモノに対する思い入れも強かった……

 そんな古き良き昔ならいざ知らず、旅の途中でジャンジャン仲間が増える今の時代、

 一匹のマモノが主の下で働き続けることは、容易ではありません。

 新しい仲間の加入と同時に、パーティーの黎明期を支えたマモノがそれまでの貢献

 むなしくセンリョクガイツウコクを受けてオサラバ…… 現代では、そんな悲劇が

 日常化してきているのです」

 

話を聞く二人は、もはや分からないことだらけで呆然とし始めていたが、魔王は止まらない。

 

「苦しいこと、楽しいこと、そんな大切な思い出を共有した仲間であっても、パーティー候補

 である大量のマモノの中の一人としてカンタンにすげ替えられる。そしてポジション争いに

 敗れた魔物の多くは、窓際族よろしく馬車の入り口から仲間の活躍を延々と眺めたり、

 データ化されパソコン内のボックスに閉じ込められたまま、忘れ去られていくカナシイ余生を

 送るのです……」

 

「ぱ、ぱそこん??」

 

「他にも、出会いの機会が限られることで生じる結婚問題や、怪しい木の実や不可思議なアメでの

 ドーピングを強いられる等のブラックな労働環境が問題となることもあります。使い魔という

 シゴトは華があるようで、その実、闇が深いのです。つまり、フツーに何も考えず使い魔を

 やっていたら、そのマモノのQOLはガタガタになってしまうという訳です!

 アリエン! ヒドすぎる!」

 

「きゅ、きゅーおーえる???」

 

二人の混乱を他所に、魔王は一息つくとまとめに入った。

 

「そういう世知辛い世の中だからこそ、我々マモノはかしこく、たくましく生きていかねば

 なりません。どうもそこらへん、トカゲの彼は危機意識に欠けているようなので、ガツンと

 言ってやりましたよ。例え現在は大丈夫でも、後々ステータスの優れたモンスターが仲間に

 加わればどうなるか分からないんだと。ご主人様が他のマモノに目移りして、

 『サラマンダーよりはやーい』なんて言い出してからでは遅いんです!」

 

「つ、使い魔はメイジ一人につき一匹のはずじゃないの!?」

 

 キュルケが必死の反論を試みるも虚しく……

 

「というかブッチャケそんなの関係なく、私がこの世界を征服する暁にはニンゲンどもも

 息絶えてしまい、そこの彼も雇い主を失って路頭に迷うんですよね」

 

魔王にバッサリと切り捨てられた。

 

「「   」」

 

「そこでおススメしていたのが魔王軍です! 来るもの拒まず、何歳でもOK、しかも住み込みで

 一生働けます。どーせ失業するんだから、今の内に転職して魔王軍に参加して貰い、将来の

 不安を取り除いてあげる。その一方で、ワレワレはワレワレで世界征服を楽に進めちゃおう!

 という訳なのです。失業率増加も抑えられてまさに一石二鳥! しかもそこの彼、ドラゴン

 じゃないのに火が吹けるらしいですよ。トカゲおとこなんて目じゃありません! 是非我が配下に

 収めたい逸材です!」

 

「   」 「   」

 

魔王は二人を前に、ふんぞり返った。

 

「あ、あんたって奴は! 他人の使い魔に何吹き込んでるのよーーー!!!!!」

 

 ルイズは顔を真っ赤にしながら魔王を引っ張り、廊下を走り去っていった。

 

「イタタタタタ! 破壊神さま、引っ張らないで下さい! ヤメテ!」

 

「破壊神じゃないっ!」

 

 二人の騒がしい声は瞬く間に小さくなっていき、やがて静粛が廊下を包み込んだ。

 

 

「 」

 

「   」

 

「    ハッ、いけない! まさかルイズの使い魔ごときに、良いように

 からかわれるなんて、屈辱だわ!」

 

 気を取り直したキュルケは、闘志をメラメラ燃やしながら亜人への復讐を誓った。

 

「さあフレイム! 一緒にいらっしゃい! ……フレイム?」

 

 返事がないのを不審に思った彼女が振り返ると、そこにはこちらをじっと見つめる己の使い魔の

姿があった。つぶらな瞳と目が合う。

 

「……」

「……」

 

「ど、どうしたのかしら~、わたしの可愛いフレイム~♪」

 

「……」

 

「ま、まさかあの亜人に何か吹き込まれたのかしら~? 心配しなくていいのよ~、

あんな戯言なんて……」

 

「……」

 

「……」

 

 

「……キュル」

 

プイッと、フレイムは顔を背けた。

 

「フレイムーーーー!?!!」

 

誰もいなくなった廊下に、彼女の叫びがこだました。

 




「こういう地道な勧誘活動が積み重なって、大きな成果が上がるのです。
 ホラ、選挙とかでよく言うでしょう。 たしか、えーーーと、
 ……そうそう! コケの根運動ってやつです」

「コケに根は無いわよ!」

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