使い魔のくせになまいきだ。 ~ マガマガしい使い魔 ~   作:tubuyaki

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STAGE 23 雪風と共に去りぬ

 衝撃的なフーケの襲撃から一週間も経つと、あれだけの大騒ぎも少しずつ人々の記憶から薄れ、学院は普段の平穏を取り戻していく。

 

「そう考えていた時期がわしにもあったのう」

 

 そう言ってオールド・オスマンは一人、学院長室に篭って頭を抱えていた。オスマンが予想した通り、学院の生徒たちは舞踏会での楽しい一時を経たことで、次の日には怪盗のことなんかすっかり忘れていた。ここまでは良かった。だが2~3日経つと、生徒たちの中にもミス・ロングビルが姿を消したことを気に掛ける者が現れ始めた。不審に思った彼らは教師にそのことを訊ねたが、帰ってきた答えは満足のいくものではなかった。なぜなら教師たちは、彼女は長い休暇を取っているのだとか、やむを得ない事情があって国に帰ったのだとか、皆がバラバラな、それでいて一様に歯切れの悪い答えを返したからだ。これにより生徒たちの不信感は、一層強まっていった。

 

 その内、生徒たちの間でまことしやかな噂が語られ始めた。曰く、ミス・ロングビルはあの舞踏会の日、酔って気分を良くしたオールド・オスマンに一線を越えたセクハラを受けたため、耐え切れずに逃げ出したのだとか。誰が言い出したかも分からぬその噂は、オールド・オスマンの素行から来る信憑性もあり、あっと言う間に学院全体へと広まっていった。斯くして高名なるこの老メイジは、男子生徒からは英雄を見るような尊敬の眼差しを、女子生徒からは汚らわしいものを見るような侮蔑の眼差しを向けられる様になった。

 

 オールド・オスマンは、あんまりな醜聞の広まりに内心叫びたいぐらいだった。だが彼は噂を否定しつつも、積極的に真実を明かそうとはしなかった。名立たる貴族の子弟を預かる学院の長、オールド・オスマンその人にとっては、不名誉とは言えあくまで噂に過ぎない話が広まることよりも、忘れ去られたフーケの一件がぶり返されることを恐れた。

 

 そもそもの問題は、ミス・ロングビルもとい土くれのフーケが、オールド・オスマンの肝いりで雇用した秘書であることだった。魔法学院の学院長ともあろうものが、あろうことかフーケを自らの手で懐に招き入れたという大失態。折角、生徒がフーケを捕まえたことで高まる学院の名声を、こんなことで落としたくはないと、そうオールド・オスマンは考えた。ましてや彼女と出会った場所が街の酒場で、採用を決めたのも彼女のお尻を撫でながらであったことが皆に知られれば、王宮や生徒の保護者たる有力貴族たちから猛烈なお叱りを受けることは間違いなかった。

 

 そんなわけでオールド・オスマンはこの数日間、生徒たちから向けられる様々な視線に耐えながら、必死のポーカーフェイスを心掛け、挙句ボケたふりまでして、噂が収まるのを待っていた。必死に耐えようと、頑張っていた。だがつい先日、彼の涙ぐましい努力は、噂を聞き付けた空気の読めない成り上がりゲルマニア女のせいで、あっさりと水泡に帰した。いやむしろ彼女は、カードを切って場を混乱させる、最高のタイミングを待っていたのかもしれない。

 

 

『ミス・ロングビルがどこへ行ったかですって? 私は知ってるけど、言うのはちょっと……

 あら、そんなに聞きたい? ……そう。そりゃあそうよね。でも私、こういう話が広がる

 のって、あんまり良くないことだと思うのよ。留学生として籍を置かせて貰ってる身としても、

 あんまりこういうことを大っぴらに話したくはないのよね』

 

当然、生徒たちはかの赤毛の少女に食い下がる。

 

『……どうしても? ダメよ、こういうのは誰かに話したら最後で、あっと言う間に皆に広まって

 しまうものなのよ。ダメったらダメ。だけど……うーん。正直、こんな大きなヒミツを抱え

 込んでるっていうのは、結構辛いのよねえ』

 

そして、彼女の周りを取り囲む生徒たちを散々焦らした挙句、こう打ち明けるのだ。

 

『……ねえ、あなたたち、口は固い方かしら? ……本当? 嘘じゃないわよね?

 ……分かったわ。あなたたちを信じるわね。本当、頼むわよ?

 ここだけの話なんだけど、実はミス・ロングビルって……』

 

 彼女は同じようなやり取りを、時と場所を変えては繰り返したため、おかげであっと言う間にミス・ロングビルに関する真実は広まった。オスマンには、待ったを掛ける暇すらない。

 

『あの学院長、僕たちには一言も説明が無かったぞ! どうなってるんだ!』

 

『学院の隠蔽体質には呆れ果てたよ。まさかここまでだったとは……』

 

『本当、酷過ぎるわ。お父様お母様に言いつけてやる!』

 

『私も手紙を書くわ。父上から大臣に話が伝わればいいんだけど……』

 

 使い魔のネズミが伝えるところ、生徒たちの反応はかねがねこのようなものであった。オールド・オスマンは顔色を一層悪くし、今から言い訳の言葉を考えなくてはいけなかった。

 

「うーむ、どんな文句がいいかのう? “この度の一件、わしに全面的な非が……

 一部の非が…… 僅かながらの非が…… ある、いやありそうに見えなくもない。

 正直、スマンかった。反省しておる。しかし思い返せば、キレイな女性というものは

 それだけでイケナイ魔女であるからして……” いや、これはイカン。本当にわしの首が

 飛びかねんわい。うーむ……」

 

 オールド・オスマンは羊皮紙に思い付く言葉を書きなぐっては、使えないと分かるとくしゃくしゃに丸めて机の外に放り投げた。今となっては、もうそれを律儀に片づけてくれる秘書もいない。彼は思い出す。彼女が紙を拾うのにいつ屈むのか、むちむちな足を、ヒップラインを、あるいは運が良ければパンティまでを存分に晒してくれるものかと期待して見ていたら、杖を取り出してヒョイと片付けてしまったときのガッカリ感。そしてこちらの思惑に気が付いた彼女から向けられる、眼鏡越しの軽蔑の眼差し。突き刺さるように冷たい視線を向けられた腹いせにと後ろから胸を揉みしだき、その大きさと手に吸い付くような柔らかさに驚愕を覚え、生の潤いというものをしみじみと感じた直後には、地獄の鬼すら血反吐を吐く様な折檻を受ける羽目となった。だがそれも今となっては良い思い出。オールド・オスマンは、自分にとっての彼女の存在が、思っていた以上に大きくなっていたことを、今さらながらに気付かされた。

 

「ミス・ロングビル、きみがいなくなって部屋ががらんとしてしもうたよ……」

 

 雇った理由が何であれ、彼女は秘書として非常に有能だった。それこそ、多少のいたずらにはお目こぼししてもいいと思えるぐらいには…… もっとも普段いたずらを、それも大人なイタズラを仕掛けていたのはオスマンの方であった。

 

「む! こんなのはどうじゃろうか?“フーケのごとき穢れた大人がひしめく世の中で、

 子供たちにだけはキレイな夢を見ていて欲しかった。学院の教職員たちが、皆一丸と

 なって真摯に彼らに向き合おうとしているという夢を…… じゃからわしは、迷いながらも、

 生徒たちには黙っているしかなかった。穢れを知らぬ、純粋で真っ直ぐな大人に育って

 欲しかった……” これじゃ! 子供たちをダシにしておけば、保護者らからの追及も

 いくらか弱まろうて!」

 

学院では、いつでも年若く有能な美人秘書を募集中である。

 

「今度はドジッ子とかいいかもしれんのう。泥棒は二度と勘弁じゃが、

 ラッキースケベなトラブルなら大歓迎じゃ!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 生徒たちがいくら騒ごうと、授業はつつがなく行われる。そして退屈な時間を過ごす度に、彼らの中の色んな出来事が過去のものになっていくのだ。今日、ルイズを含む二年生の生徒たちが受けようとしている授業は、中でも特に退屈になりそうなものの一つであった。何分、授業を受け持つ教師、ギトーの評判がすこぶる悪いのだ。自らの得意とする系統、風を殊更に持ち上げ他の系統を扱き下ろすという彼の悪癖は、彼の陰気な容姿と共に生徒たちへと知れ渡っていた。だが彼の教師の座が、そんな悪評で揺らぐことはない。それもそのはず、彼は教師の中でも数えるほどしかいない実力者、風のスクウェアであった。生徒数の四分の一を占める風メイジたちからの熱烈な支持と、残り四分の三からの醒めた視線を伴って、彼の授業は開始された。

 

「時間だ。授業を始める。諸君らも知っての通り、私の二つ名は疾風。疾風のギトーだ」

 

彼の実力を鼻にかけた自己紹介に、生徒たちは早くも鼻白む思いがした。

 

「早速だが、諸君らは最強の系統が何か分かるかね?」

 

 『まあ賢明な諸君ならば当然分かっているものと思うが』と、風メイジ以外の神経を逆なでしつつ、ギトーは教室を見渡した。彼は質問を答えさせる生徒を探し、そしてよく目立つ生徒、キュルケに目を付けた。彼の求めた『目立つ』という特徴は、何も燃えるように赤い髪を持つという見た目の話ではない。クラスメイトたちが一目置かざるを得ない魔法の実力に、皆の注目を集めて止まないその立ち居振る舞い、そういったある種のカリスマを持つ『中心的な』生徒を相手に言葉を交わし、そして反論するようなら打ち負かす。それが彼の授業の進め方であった。当然、こんなことをしていれば生徒には嫌われるが、とかく集中力を欠きがちな彼らの目を、授業に向けさせることは出来る。それに憎めば憎むほど、彼らは学ぶ。そういう考えで、今日も彼は相変わらずな授業を進めるのだった。

 

「ミス・ツェルプストー。君の答えを聞かせたまえ」

 

キュルケはあからさまに面倒臭そうな顔をしつつ、質問に答えた。

 

「虚無じゃないんですか? 先生」

 

 そう来たかと、ギトーは眉を顰めた。誰もが自分の系統を一番と言いたいはずだが、それをこの教師に否定されるのは目に見えている。そこで彼女は、虚無を持ち出すことで、相手の鼻を折りつつ、自らの自尊心を守ろうとしたのだった。なるほど彼女は気が回るようだと、ギトーは唸った。しかし、この厳しい魔法社会において、自分の系統が一番であるなどという幻想を持っていて良いのは幼い頃だけである。なぜなら現実の世界には、四系統の中での優位性、力関係における上下というものが確かに存在するのだから。そう信じている彼は、幾ばくかの使命感とともに彼女の答えを否定した。

 

「それは伝説の話に過ぎない。私は現実での答えを求めているのだ」

 

彼の返事が癪に障ったキュルケは我慢を止め、本音をギトーにぶつけた。

 

「もちろん、火に決まっていますわ。ミスタ・ギトー」

 

「ほほう。理由を聞かせて貰おうか」

 

「全てのものは、炎と情熱を前に燃やし尽くされるのみですもの」

 

 キュルケの口調からは言外にも、『当然でしょ?』という思いが透けて見えるようだった。彼女に同感する火のメイジたちがうんうんと頷く。だがギトーは、彼女の、そして彼女に同意する者たちの抱く幻想を、冷たく切り捨てにかかった。

 

「残念ながらそうではない。そんなものは自らの系統をひいき目に見た傲慢に過ぎない。

 これが火ではなく、土や水だろうと同じことだ」

 

今や、教室内にいる大多数の生徒から敵意の眼差しが向けられる中、彼は自信満々に告げた。

 

「だが、言葉で語って見せても、どうせ諸君らは納得しないであろう。

ならば試してみるがいい。ミス・ツェルプストー、私に君の全力をぶつけてみたまえ。

全てを燃やし尽くすという君自慢の火の魔法を放つのだ」

 

 キュルケは絶句した。一体全体、この先生は何を考えているのだろうか。いくら彼が腕に覚えのある教師だといっても、自分だってトライアングルである。その全力をぶつけて、ほんの僅かでも相手に火が届いたならば、後に待つのはただひたすらに無慈悲な破壊だけである。それをこの先生は分かっていないのだろうかと、彼女が動揺を隠せずにいる中、ギトーは何でもないことのように火の魔法を要求し続けた。

 

「遠慮なぞいらん。相手を憎しみの炎で燃やすがごとく、全力で火の魔法を放ちたまえ。

 自分を殺しに来た敵に向けるがごとく、容赦なく杖を振るうのだ。君はフーケを

 捕らえに行ったのであろう? その時と同じように、本気の炎をぶつけてみたまえ」

 

 大した自信である。本当に、彼は如何なる炎をも跳ね除けるだけの実力を持っているというのか。絶対に自分は安全だと言い切れるだけの技術を持っていて、だからこんなことを言うのだろうか。キュルケはギトーの言葉を聞き、必死に自分を納得させようとしたが、それでもなお、彼女はあと一歩のところで踏み止まっていた。自らの誇る炎の危険さを知るが故の逡巡であった。そんな彼女をあざ笑うがごとく、ギトーは更に口を開いた。

 

「これだけ言ってもやらんのかね。口ほどにもない。

 その有名なツェルプストー家の赤毛は飾りかね?」

 

侮蔑を耳にしたキュルケの顔色がさっと変わった。

 

「火傷じゃ済みませんことよ」

 

 彼女は詠唱を始めると同時にさっと杖を振るい、小さな火の玉を出すと、尚もスペルを唱え続け、その火の玉をみるみると1メイルほどの大きさまで膨らませた。まるで小さな太陽が現れたかのごとき煌めきを目にした生徒たちは、その光に照らされた肌が熱を帯びていくのを感じ、そのあまりの熱量に恐怖した。ルイズの爆発から逃れるときのように、我先にと生徒たちが机の下へ潜り込む中、キュルケはついにギトーに向け火の玉を押し放った。ギトーは、自分を消し炭にしかねない業火が唸りを上げて飛んでくるのを、微動だにせず見守った。そしてあわや、火の玉に飲み込まれるかというところで、彼は腰元に差していた杖を目にも止まらぬ速さで引き抜き、そのまま鋭く振り抜いた。驚くべきことに、たったのそれだけの動作の間に、彼は詠唱を完成させていた。火の玉は穴を穿てられるようにして掻き消え、そこを通り抜けた風は、キュルケを壁まで吹き飛ばした。その後、緩やかに教室を吹き抜けた風には、あの火の玉の熱さが微かに残っていた。生徒たちが息を飲む中、ギトーは堂々と言い放った。

 

「諸君、これこそが風が最強たる所以だ。なるほど火は全てを燃やし尽くす。

 水は全てを飲み込み、土は何よりも硬き盾や矛になろう。だがそこまでだ。

 風を前にして、それらは立ち上がることすら許されん。

 まさしく風は、四系統の中の王者であるのだ」

 

 キュルケは身体を痛そうにさすりながらも立ち上がり、降参というように手を上げた。

しかしギトーは、もうお前は用済みだと言わんばかりに、彼女には目もくれない。

 

「風は目に見えずとも諸君らを守る盾となり、同時に矛となるだろう。

 そしてもう一つ、風の最強たる所以が……」

 

 そこでギトーは、くぐもった声を口に押し止め、そのまま黙り込んでしまった。生徒たちが、眉間に皺を寄せた彼の視線の先を追うと、そこには真っ直ぐ上へと伸びた細腕があった。肌は青白く、指の先には長く伸びて尖った爪。ルイズの呼び出したマガマガしき使い魔の姿がそこにはあった。今や彼はこの学院でも有名人である。魔法も碌に成功しないはずのゼロのルイズが、土くれのフーケをもやり込める恐怖の破壊神と化した影には、使い魔の存在があったというのが、生徒たちの間でのもっぱらの噂である。彼が手を挙げていることに生徒たちは興味を募らせたが、主であるルイズはそれどころではないらしく、慌てふためきながらも魔王の手を下ろさせようとした。だが一足早く、ギトーが魔王に返事を返した。もっともギトーにしても、最近目立ちがちな彼へ、仕方なく言葉を返したのだった。

 

「なんだね使い魔君。何か言いたいことでもあるのかね?」

 

ギトーは深い疑いの眼差しを隠しもせずに、彼へ問いかけた。

 

「はい。風が強いのはトモカク、伝説の虚無を相手にしても、風は勝てるんでしょうか?」

 

 ふざけた質問だ。だが嫌な話がぶり返されたと、ギトーは渋い顔を作った。虚無は伝説としては有名であるが、その実、どんな魔法だったのかはまるで伝わっていないため、実在を疑う声すらある。そんなお話の中だけの魔法と現代魔法最強の風、どちらが強いかなど本来何も言えるはずは無かった。

 

 ギトーは一瞬、彼は生徒ではないのだから無視してしまおうかと考えた。だが彼にとっては面白くないことに、今の亜人の発言で生徒たちはまた、風以外の最強に意識を囚われ始めたようでもある。しかも厄介なことに、虚無は始祖の系統であるとされることから、理屈抜きに神格化して捉える者が多い。何も分からずとも、虚無こそが最強というわけだ。するとそれに乗じて、風も大したことないよねと、その真価を理解することなく貶める者が必ず出てくる。だからこそ、今このまま風を舐められる訳にはいかない。例え授業の進行を遅らせてでも、彼は風の価値を説かなければいけない。なぜなら、彼には揺るぎなき信仰があるからだ。風の他に最強は無し、ギトーはその信徒である。彼は己の信念を貫くべく、珍妙な亜人相手に真っ向から風の優位性を説く道を選んだ。

 

「本来この授業は生徒のためのものであり、使い魔のためにはやっておらんのだが、

 まあ、いいだろう。特別に答えてやろうではないか。先ほども言った通り、風は全てを

 吹き飛ばす。虚無は伝説ゆえ、残念ながら試すことはできないが、きっと風によって

 薙ぎ払われることであろう」

 

 ギトーは一旦教室を見回し、今の答えだけではやはり生徒たちが納得しないのを見て取ると、更に付け加えた。

 

「よしんば虚無が風で薙ぎ払えぬものだとしても、風の優位に違いはない。繰り返しになるが、

 風は目に見えぬ。それはつまり、風を相手取る者はどこに迫り来るかも分からぬ風の刃から

 身を守らねばならぬということだ。また風から逃れることも容易ではない。風の強さに

 耐え兼ねた者が、何か物陰にその身を隠したところで、風はその横から回り込み、容赦なく

 その者へと吹き付ける。更に言えば、風メイジ相手に先んじて杖を振るえば勝てると

 思うのも、甘い考えと言えよう。風は他の何ものよりも速きものゆえ、同時に杖を振っても、

 先に魔法が届くのは風系統である。生半可な杖捌きでは、その差を埋めることなど出来ない」

 

 魔王は意外にも素直に、ナルホドと頷きながら話を聞いていた。生徒たちも、一時は風が否定されるかもしれないことに浮足立っていたが、話を聞く内に暗い表情へと戻りつつあった。

 

「しかし虚無が、エー! そんなんアリ!? と思うほど強かった場合は、

 流石にツラいのではないですか?」

 

「もしそうだとしても、やはり風の優位性に揺るぎはない。なぜなら、風の力で虚無を

 押し留められぬというのなら、自ら風になってしまえばよいからだ」

 

 お前は何を言っているんだという生徒たちの声を代弁するがごとく、魔王は疑問の声を上げた。

 

「風になる、ですか?」

 

「分からんかね? つまりは自らに風をまとわせて戦えば良いのだ。風の力を借りて

 動き回れば、あまりの速さに相手は付いてこれず、杖をこちらに向けることすら

 難しくなる。そうやって誰にも掴めぬ風になってしまえば、もはや恐れるものは

 何もない」

 

「つまりは、当たらなければどうということはない、ということですね!」

 

「その通り。素早き風の力を借りて虚無を避け続け、動きの劣る相手に向け

 素早き風の刃を浴びせ続ける。相手が始祖ならばともかく、こんなものは

 負ける方が難しいというものであろう」

 

どうだねとギトーが魔王を見やると、彼は随分と従順な反応を返した。

 

「なるほど、確かにゴモットモです。風になってしまえば負け難くなる。いえそれどころか、

 先に千の風になってしまえばそれ以上負けるハズがありません!」

 

「亜人にしては、なかなか詩的な表現ではないか。ともかく、理解して貰えたようで何よりだ」

 

 ギトーが教室を見回すと、同胞たる風メイジ以外の生徒は、いい感じに打ちのめされてきた様子であった。だが彼の経験からすると、生徒たちを今年一年間、思い上がらせないようにするには、まだ押しが足りない。彼はそろそろ頃合いだろうと、風が最強である決定的な証拠について話をしようと考えた。しかしそこで彼の頭に、ある不安が過った。

 

あの亜人の使い魔は、いささか自分の見解に従順過ぎるのではないだろうか?

 

 悲しいことに、普段風メイジ以外の生徒から反抗的な態度ばかり取られている彼には、自分の話に素直に頷く魔王の態度をそのまま信じることが出来なかった。

 

……実はあの使い魔は表面上、納得したふりをしているだけで、後から話を蒸し返して来るのではないだろうか? そもそも先ほどは、彼の質問が切っ掛けでこんな長話をする羽目になったのだ。風の素晴らしさを語ること自体に不満はないが、とっておきの『最強魔法』を実演した後で、また同じように授業をかき乱されるようでは困る……

 

そう思ったギトーはまず、魔王の真意を確かめておくことに決めた。

 

「それで使い魔君。今の話で風が最強であることにちゃんと納得はしたかね?

 流石の私も、虚無を無条件に神格化する輩を説得出来るとは考えておらん。

 しかし最低でも、現実にある四系統の中で何が最強かぐらいは理解しておいて

 貰いたいところなのだが?」

 

魔王はしばらく考え込んでから、彼に再び質問を投げ返した。

 

「確か、冷気を起こす魔法も風なのでしたよね?」

 

「如何にも。冷気どころか、雷すら引き起こすのが風である」

 

魔王はそれを聞いて納得したように頷くと、自らの答えを告げた。

 

「やはり話を聞く限り、風が最強だと言わざるを得ません」

 

すると、教室中の土メイジたちが途端に嘆きの声を上げ始めた。

 

「使い魔君! 君はまさか土を裏切るというのかね!?」

 

 一際大きく嘆いているのは、彼とその主にやり込められたことがあるギーシュだった。

また彼は嘆くと同時に、魔王に対して怒りすら感じている様であった。

 

「確かに僕と君との間には、あのヴェストリの広場での確執がある。

 だがそれでも僕は君のことを、土の力を信じ、土に寄り添う者として尊敬していたんだ!

 それなのに君は、僕たち土メイジを、いや何より土を裏切るというのかね!?」

 

「いえいえ、裏切るとか、決してそのようなことでは無くてですね、ただ別の視点から

 モノを見るのもダイジなことでありまして、えー、そういう捉え方をされるのは

 不本意と言いますか……」

 

「あのシュヴルーズ先生の授業で語った言葉は嘘だったのかね!」

 

「確かに土は超サイコーかもしれませんが、ザンネンながら、純粋な効果で見ると、

 どうしても、その、他に見劣りする、そういう印象を受ける側面が無きにしも非ず

 でして……」

 

「僕に勝った君がそれを言うなんて見損なったぞ!

 君、まさか先ほどの実技を見て億したんじゃああるまいね!」

 

「いやまさか、勇者の風魔法にズタズタにされるのはもうコリゴリとか、そういう

 弱腰な態度ではなくて、もっとこうしなやかというか、したたかというか、

 柳腰な態度でですね、えー、その……」

 

「君には土に対する愛情というものがないのかぁー!!」

 

 魔王は政治家のごとき玉虫色の弁舌で、宥めるように返事を返すが、当のギーシュはそれを聞いてヒートアップしていくばかりである。また他の土メイジもギーシュに同調して、引っ切り無しに魔王へ野次を飛ばしている。魔王の隣に座っているルイズは、耳を塞ぎながら興味なさげにその応酬を眺めていた。

 

「何でこんなことに熱くなれるのかしら?」

 

 まだ己の系統もよく分からないルイズにとっては、自らの系統に固執する彼らの熱き思いがなかなか理解できないのだった。

 

 

 

「黙りたまえ」

 

 暗い声で呟かれた一言に、教室は途端にしんとなった。ギトーはぐるりと教室を見回して生徒たちに睨みを利かせると、最後に魔王へと視線を戻した。

 

「ふむ、私はてっきり君が土を推すものかと思っていたが、それは思い過ごしであったらしい。

 いやなに、君は土に造詣が深いとミセス・シュヴルーズが話していたものでな。

 だがどうやら君は、物事を判断するに十分な理性と見識を持った人物であるようだ」

 

魔王は褒められて満更でもないのか、『スバラシイ魔人物でございます!』と陽気に返事を返した。

 

「残念なことに最近の学生は、すぐ自分の系統こそが最強だと思いたがるから困る。

 生徒諸君にも、君の柔軟な態度を見習って貰いたいものだ」

 

 そう嘆くギトーに対し、風メイジを除く全ての生徒たちは内心、それはギャグで言っているのかと突っ込み、いら立ちを隠せずにいた。一方、ギトーは彼らから向けられる恨みがましい視線を目にも留めず、一人浮足立っていた。何せ、風メイジでもないのに風の真価を素直に認める者というのは、彼の経験上大変少ないものであったからだ。新たなる同胞を迎えたことに喜んだ彼は、もう授業に戻っても良いというのに、魔王との会話をついつい続けてしまうのだった。

 

「これは興味本位で聞くのだが、君はどんな理由で風を最強だと思うのかね?

 先ほどは冷気系の魔法を気に掛けていたようだが?」

 

「ハイ。風の最強を証明するには、やはり冷気魔法が一番です!」

 

教室の端っこで、青髪の少女がぴくりと眉を動かした。

 

「魔界でも多くのマモノたちから冷気魔法の強さが信頼され、用いられています。

 やっぱり、戦闘では冷気系を使えるか否かで雲泥の差が出ますからね。

 魔界で超人気な伝統あるドラゴン狩猟クエストを受注する魔王には、

 一般教養として凍てつくワザの修得が求められるほどなのです!」

 

「マカイ? そのマカイとやらの地方では、そんなに冷気魔法が有り難がられているのかね?」

 

「ええ、そうです。それにヤッパリ、使うと爽快感がありますからね。勇者が必死こいて

 補助魔法を重ね掛けしたところに、凍てつく波動拳だとか、凍てつく波動砲やらを叩き込むと、

 ゲンナリしたあやつらの顔が見れて、魔王としてもテンション上がっちゃいます!」

 

 ギトーは、魔王の言わんとするところがよく理解出来なかったが、話が噛合わないなりにも、どうしてもぶつけておきたい自分の考えがあった。風系統に入れ込み過ぎた風メイジとしての、(さが)のようなものであった。

 

「どうにも解せんな。確かに冷気魔法は弱くはない。ウィンディ・アイシクル等、

 使い勝手の良い魔法もある。だが風には、冷気の他にも幅広い応用範囲があるはずだ。

 君はライトニング・クラウドを知っているかね? これは何者にも代え難き速さと

 貫通力を誇る、強力な雷系の魔法だ。そう、上手く風を操れば、雷ですら起こせるのだ。

 この魔法は詠唱の手間こそあるが、ひとたび放てば相手に吸い込まれるように

 稲妻が走ってき、どんな防具で身を固めた相手も一瞬で焦がし貫くことが出来る。

 これぞ攻撃魔法における、一つ極致と言えよう。だが、それでも君は、冷気の方が

 大事と思うのかね?」

 

 彼の疑問は、彼を信奉する風メイジの生徒たちの疑問でもあった。彼らの注目を浴びながらも、魔王は彼自身のユニークな見解を翻すことはなかった。

 

「雷魔法は、確かに見栄えもするし、強力でしょう。かく言う私も、勇者の放つ雷系呪文に

 悩まされたことは数知れずです。……何だか、思い出すだけでビリッと来そうです。

 ですが、それでもやはり、冷気こそ真に恐るべきものなのです」

 

「なぜかね? それはもしや、雷は小さな氷の粒がぶつかり合う摩擦から生じる故、

 雷魔法も冷気系に内包されるという、そのような理屈で言っているのかね?」

 

「いえいえ、そうではありません。何もコムズカシイ理屈があるわけではないのです。

 冷気魔法が風の最強を証明するたった一つのシンプルな答え、それはこの世で最強の魔法が、

 冷気魔法の一つであるからです」

 

 魔王の言い放った言葉に、教室中の生徒が騒めいた。今まで最強の系統を論じていた教室で、今度は最強の魔法は何かと来た。今まで白け気味だった風メイジ以外の生徒たちも、最強の魔法と聞くと気にせずにはいられない様子であった。

 

「ほう? 君は最強の魔法について意見があるというのかね? 面白いではないか。

 私に言わせれば風における最強とは、風があまねく存在することを利用した……

 いや、これは後で話そう。まずは君の考える最強とやらを教えて貰おうではないか」

 

 授業が長き脱線を続ける中、ギトーはここに来てようやく、彼が元々考えていた授業内容に戻る道筋を思い描き始めていた。亜人の使い魔がいくら風を認めているとはいえ、彼は所詮素人。風の知識に劣る彼の話をダシに、プロフェッショナルである自分が語る『最強』を実技とともに披露すれば、生徒たちも大いに風の偉大さを学び取るであろうと、そんなことをギトーは考えていた。

 

「ショージキ、この魔法が放たれるところは見たくもないですし、口に出すのすら

 大変オソロシイ。ですが、これもルイズ様のキョーイクのため。いい機会ですから、

 お教えしておきましょう」

 

魔王は、普段の不遜な態度が嘘であるかのように身震いし、彼の考える最強の魔法を告げた。

 

「この世で最も強力で、マガマガしい魔法。一度発動すれば、どんな歴戦の勇者だろうが、

 あるいは魔王であろうとも、回避はおろか、耐えることすら叶いません。

 その恐るべき魔法の名は……!」

 

 

 

 

「フリーズです!」

 

 教室が凍り付いたように静かになる中、ギトーは冷や汗を掻いた。風魔法の教師ともあろう彼が、聞いたこともない魔法であった。相手がどこからやってきたかも分からぬ亜人であることを失念していた、彼の失策であった。これで生徒の皆が知らなければ良いが、もし一人でも知っている者がいれば、ギトーにとって、教師としての沽券に関わる。彼は冷や汗を掻きながら、自身の動揺を押し殺して言った。

 

「えー、諸君。今の見解に対して、自由に意見を述べ合ってみたまえ」

 

 途端に、生徒たちから疑問の声が上がった。知らない魔法が出てきたとなれば、素直にそれを聞くことが出来るのが、子供の特権というものである。

 

「聞くからに冷気って感じだな」

 

「でもそんな名前の魔法、本当にあったか?」

 

「何にしても、どうせ凍らせるだけだろう? 一体どこが最強なんだ?」

 

 否定がちな意見を口にする生徒たちに向け、魔王は嘆かわしいと言わんばかりに首を振りながら答えた。

 

「どうやらワカッておらんようですな。この魔法は名前こそ単純ですが、『ウィンド』のような

 ちゃちな魔法とはワケが違うのです。『フリーズ』は確かにモノを凍らせます。

 しかし、カンペキ(・・・・)にモノを凍り付かせるからこそ、サイキョーでサイアクなのです。

 『フリーズ』を食らったが最後、その者は時の流れを止め、ブツッという音と共に

 闇の世界へと旅立つのです!」

 

魔王の説明に、教室中は騒然とした。

 

「何だね、その無茶苦茶な効果は!」

 

「冷気魔法じゃなかったのか!?」

 

 余計に訳が分からないと、生徒たちは一斉に非難の声を上げた。しかし魔王は、至って真剣な表情で、さらに詳しくこの魔法のことを語り始めた。

 

「確かに『フリーズ』は、ものを凍らせる魔法です。でも皆さん、『凍る』ということの

 ホンシツを考えてみて下さい。単に『冷たい』なんてことよりも、もっと重要なコトが

 あります。それは、あらゆる動きや変化が『止まる』というコトです」

 

「確かに凍ったならば、流れ移ろう水とて動かぬ氷と化すが……」

 

ギトーが戸惑いながらも口を挟んだのに魔王は頷きを返し、話を続けた。

 

「思い浮かべてみてください。激しい寒さの冬に、流れ落ちる滝の水が、落下しながら氷と化す

 様を。あるいは遥か北方の凍えるような寒さの海で、うねるような大波がソックリそのままの

 形で凍りつき、動かなくなる様を。そこにあるのは、まさしく時の止まった世界です」

 

生徒たちは魔王の語る風景を思い浮かべ、常とは異なる極寒の世界に思いを馳せた。

 

「そしてモチロン、凍ってしまうのは無機物だけではありません。永久凍土に埋もれた哀れな

 生き物たちは、腐ることもなく何千年も、何万年も、元の姿を保ち続けるのだと言います。

 『凍る』とはキューキョク的に、ものの動きや変化を奪い去り、その時すらも止めてしまう

 というコトなのです。では、改めて『フリーズ』の効果を思い出してみてください。

 この魔法は凍らせるのです。カンペキに!」

 

生徒たちはそれを聞いて、ぞっと身を竦ませた。

 

「この魔法を食らった者は、その場で完全に凍り固まってしまいます。もはや何かを感じたり、

 考えることすら出来ません。動けもせず、かといって朽ち果てもせず、世界の時の流れから

 取り残されてしまうのです!」

 

 生徒たちは、そのあまりに強力な魔法の存在にショックを受け、茫然とした表情を作っていた。顔色の変化に乏しい青髪の少女ですら、この時ばかりは手にした本を落としていた。そんな中、風メイジの一人であるマリコルヌは、恐怖に耐えきれず、思わず席を蹴って立ち上がり、声を荒らげた。

 

「あり得ない! いくらなんでも、そんなの反則すぎる!」

 

「言っておきますが、別にフリーズだけではありません。冷気魔法には、他にも似たような

 効果を持つ、ある意味もっと恐ろしくてキョーアクな魔法があるのです!」

 

「嘘だろ!? そんなのデタラメだ!」

 

今度は、別の風メイジであるヴィリエが悲鳴を上げた。

 

「信じたくなくなるのも無理はありません。私だって、これが冗談ならどれだけ

 良かったことか! しかしジッサイ、私はいくつも見てきました。この魔法によって

 凍り付き、永遠に時を止めた世界の数々を……」

 

教室中の人間が、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「その災厄極まる魔法の名は……!」

 

 

 

 

「エターナル・フォース・ブリザードです!」

 

 生徒たちはそれを聞いて、先ほどよりも余計に顔を青ざめさせた。なんせ、ただのブリザードではない。エターナル・フォースなのである。意味はよく分からなくとも、字面だけで強そうである。察しの良い生徒たちは、そうやってこの魔法のとてつもなさを感じ取ったのだった。

 

「そ、それは、一体どういう魔法なんだ?」

 

「一瞬で相手を周囲の大気ごと氷結させます。相手は死にます」

 

聞かなければ良かったと、マリコルヌは体をぶるぶる震わせながら席に着いた。

 

「でもこの魔法、本当に恐ろしいのは、実はその後だったりするんですよね」

 

「まだ終わりじゃないのかね!」

 

生徒たちが更なる悲鳴を上げる中、魔王はこの魔法がもたらす、本当に恐ろしい結末を語り始めた。

 

「エターナル・フォース・ブリザードはその名が示す通りエターナル、つまりは永続魔法です。

 要するに相手を凍らせた後も、どんどん周囲を冷やし続けていってしまうのです」

 

「なんだそれは! 世界中が冬になってしまうじゃないか!」

 

「その程度で済めばヨカッタんですけどね」

 

「な、なんだね。それじゃ、まるでその先があるみたいじゃないか」

 

乾いた笑いを浮かべるギーシュに、魔王は沈痛な面持ちで告げた。

 

「先ず始め、事は世界的な気温の低下から始まります。魔法を使ったその日の内に、

 急激な気温低下による気象変動で大雨や雹・霰が降り始め、次の日には海水の塩分濃度が

 大きく変化します。これにより大規模な海洋変動が引き起こされ、深層の冷たい海水が

 海の表面近くまで押し上げられることで、余計に寒冷化が進んでいきます。そして更に翌日、

 魔法が唱えられた日から見て明後日には、極度の寒冷化によりスーパーフリーズ現象が発生し、

 世界全てが凍て付きます」

 

 魔王の語る情景は、まるで黙示録にて語られるこの世の終わりのようであったため、皆は恐れ戦きつつも、彼の言葉から耳を離せなくなった。

 

「トーゼン、そうなったが最後、二度とその世界は明日を迎えません。どれだけ皆が

 新たに紡がれるニンゲンどもの物語に期待を寄せていても、カンケーないのです。

 待ち続けて1か月が過ぎ、それから半年が経ち、半年が1年、1年が2年、更には

 もっと長い年月が流れていく。しかしそれでも世界は一向に変化せず、遠いあの日の

 思い出のままに取り残されてしまう……。エターナル・フォース・ブリザードは

 そうやって、永遠(エター)なる世界を作り出してしまう恐るべき魔法なのです!」

 

 魔王の話があまりに壮絶であったため、生徒たちは皆、重く苦しい気持ちを抱き、それと向き合わねばならなかった。

 

「ま、安心してください。この魔法はあまりのキケンさゆえ、普段は黒歴史として

 封印されています。イロイロと拗らせた魔法使いが現れない限り、そんなことには

 ならないでしょう! ……たぶん」

 

 あまりに重たくなった空気を軽くしようとしてか、魔王はより愉快な、猛吹雪により敵の集団を遭難させ、狂おしい寒さにより相手をふんどし一丁でハッスルさせる魔法“Hack Colder Sun”について語った。しかしそれを聞いて笑う者は、誰一人としていなかった。

 

「「「     」」」

 

 あまりにエゲツナイ冷気魔法の数々を聞いた生徒たちは、もはやドン引きしていた。風魔法の信奉者、ギトーですら死んだような目をして、張り付いたように動こうとしなかった。重い沈黙が流れた。静寂を破ったのは、一人の生徒の、震えるような声であった。

 

「い、今の話! 本当ですか、先生!」

 

 ヴィリエは狼狽えながら、すがるようにギトーへ問い掛けた。だがそんなことを聞かれても、困るのはギトーである。普段自分を取り繕ってばかりいる彼が、やっとの思いで口から出したのは、彼の心のままを語る、正直な言葉だった。

 

「そ、そんな魔法は知らない。私の知ってる風魔法じゃない……」

 

 それっきり、教室は再び沈黙に包まれた。どんよりとした、重苦しい空気の漂う静けさであった。ギトーは、風一つ吹かないじっとりとした空気に耐えかねて、焦るように言葉を吐き出した。

 

「と、とにかく! ヘンピな亜人が住む、どこだか分らぬような僻地の魔法はさておき、

諸君らも風が最強であることに疑いはなかろう!」

 

 今は、教室中の誰もがモヤモヤした気持ちを抱えて、集中出来なくなっていたが、ギトーはその空気を必死に入れ替えるべく、強引な風を吹かせ続けた。

 

「さて、既に風の優れた性質について、私は多くを語ってきたと思う。だが風にはもう一つ、

 決して忘れてはならぬ重要な特徴があるのだ。おそらく風メイジ以外の諸君らであっても、

 一度は聞いたことがある言い回しであろう……『風は遍在する』」

 

 生徒たちは直前に聞いた嫌な話を忘れようと、集中出来ないなりにも必死にギトーの言葉へ耳を傾けた。

 

「これは、風が至るところにさまよい現れることを意味している。そしてこの性質を

 最大限に利用した風魔法の極致、それこそが『遍在』だ。この魔法はスクウェアにしか

 唱えられぬ」

 

ギトーは体の前に腕を伸ばし、杖を立てて、生徒に聞かせるように呪文をゆっくりと唱え始めた。

 

「ユビキタス……」

 

 彼がそう唱えた途端、教室内の空気の何かが変わった。目に見える何かが起きた訳ではない。しかしよく勉強している風メイジの生徒であれば、それは気圧が変化しているのだと気付いたことであろう。 

 

「デル……」

 

 生徒たちは、風と呼べるか呼べないかぐらいの空気の流れが、絶えずギトーの立つ教壇に向け流れていくのを肌で感じた。何か、とんでもないことが起こる。生徒たちは、術者が嫌味なギトーであることも忘れ、机から身を乗り出して魔法が完成するのを待った。ギトーは口元にふっと笑みを浮かべ、最後の一節を唱えた。

 

「ウィンd……「中止! 授業は中止ですぞ!」

 

 急に教室へやってきて大声を上げたコルベールを、ギトーは唖然として見つめた。彼自慢の魔法を遮られたからではない。彼の禿げ上がっているはずの頭に、見事なロールのかかった金髪がふぁっさりと乗っかっていたからだ。貴族社会においてかつらを被ること、それ自体は珍しくない。しかし冴えない中年を体現するかのような彼の頭に、突如として髪が不自然にこんもりと生い茂った様を見ると、さしものギトーも唸ってしまうのだった。生徒たちも彼の明らかに作られた頭を見て、妙な雰囲気になっている。

 

「む、実技の途中でしたかな。先ずは杖を降ろして下され」

 

「どういうことか、しっかり説明して頂きますぞ」

 

 ギトーは不承不承といった様子で、構えていた杖を下した。その時、不幸なことが起こった。ギトーが遍在を作るためにかき集めていた風は、杖の制御を離れて周囲に散らばっていく。その時に吹いた一陣の風が、コルベールの頭上にあるものを捉え、ひらりと舞い上がらせた。風はすぐに止み、一瞬だけ浮いたかつらはぽとりと床に落ちた。コルベールは周囲の唖然とした表情を無視し、黙って落ちたカツラを拾おうと身を屈めた。そこでまた不幸なことが起こった。遮る物を失った彼の頭頂部に、窓から差し込んだ日の光が反射した。

 

「うおっ! マブシッ!」

 

 強い光に目を傷め、魔王は思わず叫んでいた。コルベールはその言葉を聞きつけ、ギロリとした眼光で、かの使い魔を睨み付けた。隣に座っていたルイズが身を竦ませ、他の生徒たちが緊張に包まれる中、教室の端っこに座っていたタバサがポツリと呟いた。

 

「月は二つ。太陽も二つ」

 

一瞬の静粛の後、教室は爆笑に包まれた。

キュルケも大笑いしながらタバサの肩を何度も強く叩き、身悶えている。

 

「あなた、それは反則よ!」

 

コルベールは肩をぷるぷる震わせ、額に青筋を立てながら怒鳴った。

 

「黙らっしゃい、この小童どもが! 私だって、私だって好きで禿げているわけでは

 ないのですぞ!」

 

「あなたの頭の事情など、どうでもよろしい」

 

 ギトーによってぴしゃりと叩き付けられた冷たい言葉に、コルベールは一瞬でしゅんとなってしまった。

 

「そんなことよりも、授業が中止ですと? それにそのめかし込んだ恰好……

 まさかこの学院に?」

 

コルベールは、『おお!そうでした』と、慌てて生徒たちに事の次第を告げた。

 

「えー、急な話ではありますが、今日の授業は全て中止となります。しかし皆さん、

 呑気に休んでる暇はありませんぞ。本日はトリステイン魔法学院にとってこの上なく

 名誉な、めでたき日となるのですから」

 

何事だろうかと生徒たちが首を傾げる中、コルベールは皆にとっての一大事を告げた。

 

「恐れ多くも先の陛下の忘れ形見、アンリエッタ姫殿下がこの魔法学院に行幸なさることと

 相成りました」

 

教室は、生徒たちのどよめきと歓声で、一瞬にして沸きあがった。

 

「静粛に、静粛に! 非常に喜ばしいことなのは分かりますが、皆さんは貴族らしく

 節度ある態度を心掛けねばなりませんぞ。先ほどのように、何かあったとき下品に

 大声で笑い立てるなどはもってのほかです! そのようなことでは、王室に教育の成果が

 疑われますぞ!」

 

そう言ってコルベールは一旦息を付くと、改めて生徒たちに向き直り、彼らにすべきことを告げた。

 

「妃殿下の御一行に対し、粗相があってはいけません。直ちに学院の全力を挙げて、

 歓迎式典の準備を行います。そのための授業の中止ですぞ。正午までに、生徒諸君は正装の上、

 門に整列すること。此度の行幸は、諸君らの成長を妃殿下にお見せする絶好の機会と

 なります。お目見えがよろしくなるように、しっかり杖を磨いておきなさい! 以上!」

 

 そう告げるなり、コルベールは急いで教室を立ち去ろうとした。ギトーも急いで教書を抱え、彼に続こうとした。しかしコルベールはふと立ち止まると、教室の片隅へと目を向けた。そこには手にした本を静かに見下ろす、小柄な青髪の少女の姿があった。

 

「そうそう、忘れるところでした。ミス・タバサはこのまま職員室まで来なさい」

 

 力のこもった怖い声に、タバサは無反応を貫いている。しかし隣に座っているキュルケは、彼女の本を持つ手が少しだけ震えたのを見過ごしはしなかった。無口な友人に代わり、キュルケは、恐る恐るコルベールに問い掛けた。

 

「その、ミスタ。本日はお忙しいのではなくって?」

 

「忙しくてもやらねばならぬことはやるのです! なんですか、さっきの貴方のふざけた言葉は!

 妃殿下がお見えになるまでに、キッチリと反省して頂きますぞ!」

 

 コルベールは再び顔を赤くしていた。どうやら先ほどのことを思い出して、怒りがぶり返してきたらしい。これは不味いことになったなとキュルケが焦る間にも、コルベールに急かされたタバサは、ぎこちない動きで荷物をまとめ、今にも席を立とうとしていた。

 

「そうですわ、ミスタ・コルベール! 私、先生にお聞きしたいことがあったんです!」

 

突如、大声を上げたキュルケに、コルベールは目を丸くした。

 

「一体、何なんだね、ミス・ツェルプストー? 先ほどから言っているように、私どもは

 これから大変忙しい。質問は後日にして頂きたい」

 

キュルケはコルベールの険しい剣幕にうっと口詰まるも、そのまま言葉を続けた。

 

「大事なことなんです! どうしても今確認しておきたいんです。私だけじゃありませんわ。

 他のクラスメイトだって、気になっていることだと思うんです。決してお時間は

 取らせませんわ!」

 

「そんな暇はありません。さあ、ミス・タバサ! だらだらしていないで

 早く荷物をまとめるのです!」

 

「聞いてください先生! 私たちは普段から魔法の腕を必死に磨いていて、

 今日はその誇りを胸にこのトリステイン王国の妃殿下をお迎えすることになります。

 ですが私たちの心は今、大きく揺らいでいますわ。私たちが必死に学び、成長した姿を

 お見せしようという時に、私たちの誇りに対して自信が持てずにいるのです!

 ですからどうしても一言、先生のお答えが欲しいんです!」

 

 キュルケの深刻そうな言葉に真剣さを感じ取ってか、コルベールは態度を改めてキュルケに向き直った。

 

「本当に大事なことのようですな。そこまで言うのならばよいでしょう。

 何が聞きたいのか言ってみなさい」

 

 キュルケは彼が耳を貸してくれたことに胸をなでおろすも、すぐにキリッとした表情をするとコルベールに質問を投げ掛けた。

 

「ミスタ・コルベール、最強の系統とは何ですか?」

 

それを聞いた途端、コルベールはあからさまに面白くないことを聞いたという顔をした。

 

「下らない! 下らないですぞ! まだ青いメイジたちがその手の話題に夢中になるのは

 知っていますが、そんなもの取るにも足らぬ下らない話です! 全く嘆かわしい!」

 

コルベールは、『ですが』と続けて、生徒たちを見回した。

 

「これだけを言っても分からぬ者がいるといけないので説明しますが、そもそも何が最強か

 なぞは、その時々の状況や術者の力量次第で変わるものです。それに例え、火なり水なり

 土なり風なり、果ては虚無まで、どれかが最強であったとして、それが何だというのです!

 諸君らがどの系統に秀でたメイジであれ、それら一つ一つの系統は、他のどの系統にも

 取って代わることの出来ない、特別な役割を担っているのではないのですか?」

 

 コルベールは一旦言葉を止めると、ゆっくりと息を吸い込んだ。

そして先ほどよりは少し落ち着いた口調で、生徒たちに語り聞かせた。

 

「もし君たちが不便を感じることがあろうとも、自らの系統というものは望んで変えられる

 ものではありません。しかし嘆く必要は全くありませんぞ。そもそも系統魔法には、

 その全ての属性に思いも寄らないような力や可能性が秘められているものなのです。

 私は火のメイジではありますが、世間で言われるように火が破壊だけを司るものとは

 考えておりません。そもそも火とは、人類に高度な文明をもたらした偉大な存在であり、

 それは今も変わらないはずなのです。嘘だと思うなら、火系統の授業で私の発明品を

 披露致しましょうぞ。とにかく、一見ものを破壊し尽くすしか能が無さそうな火にだって、

 色々な使い道が考えられるのです。それは当然、他の系統でも変わりありません」

 

 コルベールの真摯さが伝わったのか、生徒たちは普段片手間にしか聞かない彼の話に、深く耳を傾けていた。

 

「それに世の中、魔法だけが全てではないのです。格下のメイジが、ちょっとした工夫で

 格上のメイジを打ち破った話など、戦場ではいくらでもあります。宮廷で杖を振るう

 方々だって、皆々トライアングルかスクウェアだなんてことはないでしょう? 確かに

 この学院は魔法を学ぶための場ではありますが、君らはそれだけに囚われず、広い視野を

 手に入れるべきなのです。もし今、あなたたちが自分の魔法のことで悩んでいるのだとしたら、

 先ず一番にすべきは、自らの系統が持つ可能性を信じることです。その上で、自らの

 置かれた状況や自身の実力を鑑み、どう工夫して、あるいは努力して苦しい局面を

 切り抜けるか考えること、これが大事なのです。これは学院を卒業してからも変わらぬ

 一生の真理ですぞ。もし最強の系統などというものがあるとして、そんなものに

 かまけていては、いつか足元をすくわれますぞ!」

 

 教室は一度しーんと静まり返った後、爆発的な拍手の音に包まれた。普段の授業で、ここまでの好反応を得ることがないコルベールは、戸惑いを隠せない様子でしどろもどろに返事した。

 

「……? ……??? 何か分かりませんが、君たちの助けになれたなら何よりです」

 

 生徒のほとんどが万来の拍手を惜しまぬ中、キュルケだけは一人、ムスッとした表情で不貞腐れていた。

 

「火を最強とは言って下さらないのね。火系統の教師だと言うのに……」

 

 だがここに、もっと大きな不満を抱えた人物がいた。

コルベールは尋常ならざる気配を感じ、慌てて後ろを振り返った。

 

「ミスタ・コルベール。私とあなたとでは、教育方針に大きな開きがあるようですな」

 

「? はて、ミスタ・ギトーは何をそんなに…… ああっ!! そういう……!」

 

 対人関係の機微に疎いコルベールも、ギトーに関する噂を思い出して、ついに自分が何を仕出かしたか察した。彼の呑気そうな顔が、みるみる内に苦虫を噛み潰したような表情へと変わっていった。彼はギトーから顔を反らすと、生徒に向け、驚くような早口で話を締め括った。

 

「ま、まあ、今言ったことはあくまで個人的な見解ということで、この手の質問は

 正解のあるものではありません。皆さんは皆さんで、自分なりの答えを見つけ出す

 ことこそが 重要なのではないでしょうか? それでは忙しいのでこれにて!!」

 

「お待ち頂きたい! ミスタ・コルベール!!」

 

 慌てて教室を後にしたコルベールを、ギトーは疾風のような速さで追い掛けた。

 

 

 

「……何とかごまかせたみたいね」

 

キュルケが胸をなでおろす中、タバサはポツリと呟いた。

 

「ミスタ・コルベールは良いハゲ」

 

 皆がうんうんと頷く中、キュルケの目に一人きょろきょろと辺りを見回しているルイズの姿が目に入った。

 

「ねえルイズ、あなた何してるのよ」

 

「私の使い魔が消えたわ! 気付いたら、どこにもいないのよ!」

 

「ええ? ……確かにどこにも居なさそうね。あんなに目立ってたのに……

 ホント、相変わらず、あなたの使い魔って突飛よね」

 

 いつの間に彼は教室を出たのかと、彼女たちが首を傾げていると、突然に教室の外から大声が響いた。奇妙に高く、それでいてしわがれた声は、間違いなく話題の人物のものであった。

 

「そこの方、教室にワスレモノですよ!」

 

間も無くして、教室の扉がバタンと開かれた。

そこには立ち去ったはずのミスタ・コルベールが、鼻息も荒く立っていた。

 

「ミス・タバサ! 何をしているんだ、早く来たまえ!!」

 

「    」

 

 コルベールは渋るタバサの手を引いて、強引に彼女を教室の外へ連れ出した。生徒たちはそこで、廊下に待ち構えていたギトーがコルベールの後ろから絶えず嫌味な文句を投げ掛ける姿を見た。教師たちはまたも、疾風のような速さで教室から離れていった。ルイズがふと気づくと、いつの間に戻ってきたのか、魔王は何食わぬ顔で彼女の隣の席に座っていた。

 

「今日もまた一つ、イイことをしてしまいました。私としたことが、コレじゃいけませんよね。

 魔王のコケンに関わります。何かワルいことで、埋め合わせを考えないといけません!」

 

「……帰るわよ」

 

 かくして、生徒たちは皆、教室からぞろぞろと立ち去り始めた。

誰一人いなくなった後の教室はしんと静まり返り、もはや風一つ吹かない。

 




補足

フリーズ・・・世界を一瞬で凍てつかせ、時の流れを止める冷気系の魔法。
       時の流れが長く止まり続けると、いつかブツッという音と共に
       世界は闇に包まれ、アカシックレコードにセーブされていなかった
       歴史は無かったことにされる。しかし魔カデミーには、フリーズと
       時を同じくして異常な発熱を感じた、或いは発煙・発火が起きたという
       報告も多数寄せられており(※1)、実は火系統の現象なのではないかと
       疑う声も根強い。真相が何であれ、答えは風が知っている。

    ※1 冷気系の信奉者に言わせれば、これはモノが凍ると同時に水が氷と化し、
       身体から液体状態の水分が奪われ火傷することによる錯覚であるか、
       あるいは余りにも下がりすぎた体温によって細胞が異常な代謝を起こし、
       自らの体温を灼熱に感じるのであろうという理論的な説明が成されて
       いる。他にも大気中の凍てついた氷の粒をぶつけ合うと、その摩擦から
       雷が発生するため、通電によって熱を感じるのではないかという意見も
       あるが、やっぱりどうであれ、答えは風だけが知っている。

エターナル・フォース・ブリザード・・・SS界隈にも吹き荒れる、止むこと無き永遠の暴風雪。
  これに巻き込まれた作品は、終わりがないのが終わりとなるが、別に黄金な体験ではない。
  発生したブリザードに向け、そばに近寄るなと叫んでみても、無駄無駄無駄!

Hack Colder Sun・・・『ブリミルは我々を見放した』 凶悪魔法その③。
           舐めてかかると、一個連隊ですら全滅する。
           ロバ・アル・カリイエのとある島国に、この魔法と
           よく似た名前の山があるらしい。

リアルガ・・・凶悪魔法その④(作中未登場)。相手に世間の風を送り込み、現実社会の冷たさで
       相手を凍て付かせる。場合によっては、これ一発でファンタジーもファイナル。

おまけ

「冷気魔法ではありませんが、凶悪な魔法といえばこれも重要ですね。
 ラナノレータ、昼と夜が逆転する魔法です」
「凄いわ! それって、伝説になってもおかしくない大魔法じゃない!」
「フフフ、そうですか? なら試しに唱えてみましょう!」

「……何も起きないわよ?」
「いえ、これでルイズ様の生活リズムは昼夜逆転しました。
 昼は睡眠不足、夜は退屈に苛まれるという、すばらしくキョーアクな魔法です!」
「なんてことしてくれるのよ!」

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