使い魔のくせになまいきだ。 ~ マガマガしい使い魔 ~   作:tubuyaki

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STAGE 21 魔王と踊ろう

 無数のろうそくの明かりを受け、煌びやかに輝くシャンデリアの下に、大勢の着飾った生徒たちが集まって来ている。ここ学院のホールでは、皆が待ちわびたフリッグの舞踏会が、今まさに始まりつつあった。今朝方は開催が危ぶまれたこの催しも、フーケの一件が迅速に解決したことで、予定通り執り行われる運びとなったのである。生徒たちは、何時も以上に豪華な食事の置かれたテーブルの周りで、皆との歓談にふけりながらも、早くダンスタイムが始まらないだろうかと、そわそわしていた。

 

 トリステイン魔法学院ではこの種の舞踏会を、生徒たちが社交を学ぶためという名目で開催している。だが、生徒たちにとって重要なのはそんなことよりも、この舞踏会が普段気になっている相手と接点を持つための貴重な機会であるということだった。また既に思いを寄せ合う相手がいる者にとっても、学生の身分でその仲を更に深め合い、確実なものにしていく上で、この舞踏会は欠かせないのだった。このホールに集まった大勢の生徒たち、そして時に教師までもが、思いを寄せる相手との甘い一時を夢見ている。だが一方で、そんなロマンスに満ちた会場のムードの裏には、あの人は自分に振り向いてくれるだろうかという不安や、この大切な機会に相手の前で上手く振る舞えるだろうかという緊張も、隠されているのだった。

 

 お目当ての相手がいつ来るだろうかと待ちわびる者から、恋のライバルが自分より魅力的な姿で現れないかと気を揉む者まで、様々な思惑が入り混じった視線が、新たな入場者には向けられる。その視線に余裕たっぷりの笑みを返す者もいれば、緊張してそそくさと知り合いのいるテーブルに向かう者もいる。そうやって、ホールに一人、また一人と人が満ちていく。

 

 俄かに、会場から騒めきの声が巻き起こった。今日の舞踏会における主役の一人、キュルケの登場だ。真っ赤なパーティ・ドレスに身を包んで現れた彼女は、彼女自身の燃え盛るような赤い髪色と相まって、まるで炎の妖精のようであった。キュルケはその美しく妖艶な姿で、今日も今日とて、大勢の男子生徒の情熱を燃え上がらせようとしていた。普段ならば、それと同時に女子生徒たちの心を嫉妬で滾らせもするのだが、今日は少しばかり様相が違った。フーケを捕まえたという驚くべき功績に、女子生徒たちも皆思うところがあるのか、キュルケは珍しくも嫉妬より羨望の眼差しを多く受け取ることとなった。

 

 一方、キュルケの後ろに続いてホールに入ったタバサもまた、人々の目を大いに引き付けていた。タバサが着て来た黒いドレスは、普段から謎の多い彼女のミステリアスな雰囲気を増すと同時に、その妙に大人っぽい恰好とのコントラストが、逆に彼女の少女らしい可憐さを浮き上がらせもしていた。その姿に胸を打たれた男子生徒たちは彼女をダンスに誘おうと試みたが、生憎タバサは、キュルケの様に声を掛けて来た生徒たちの品定めを始めるようなことはしない。普段からの無口さに加え、色気より食い気が勝っている彼女は、他人が引き止める間もなく、ぐんぐんとテーブルに近付いていった。そして椅子にちょこんと座ると、目の前に置かれた料理の数々を確保し始めた。ダンスを誘い損ねた生徒たちは苦笑すると共に、それでもなかなか彼女を諦め切れず、遠巻きにその姿をちらりと眺めては、密かにチャンスを窺うのだった。

 

 二人の登場に沸いたホールが落ち着いてしばらくすると、また一人、ホールへと姿を現す者がいた。もう粗方、皆がホールに集まって来た時分、今度来たのは誰だろうと目を向けた者たちは、あっと息を呑み、それを目で追うこととなった。その者は、思わず息を飲むような美貌を備えているわけでも、胸がすくように格好良いわけでもない。だが普段の胡散臭げな様子が嘘に思えるほど、きっちりとしたスーツに身を包んで現れた彼は、生徒たちが望んでも出すことの出来ない、大貴族のような威風ある雰囲気を身に纏って、その姿を皆の前に晒した。その堂々たる有様は、彼がその実、使い魔に過ぎないという事実を、皆に忘れさせる程であった。男子生徒たちは、自分には出来ないその立ち居振る舞いに、亜人相手とはいえしてやられたと、ちょっとしたショックを受け、女子生徒たちの一部は、自分の思い人もこれぐらい貴族然としていてくれればといいのにと、密かに思うのだった。魔王は、黒髪のメイドが差し出したワイングラスを手に取ると、周囲からの視線を満足そうに見返しつつ、ホールをゆったりと歩き回った。貴族としての模範になりそうな威厳を見せつける魔王、それは普段秘められている彼のカリスマ故か? ともかく、偉そうにすることに掛けては右に出る者のいない、そんな魔王の入場は、先の二人に負けず劣らず、大いに皆を沸かせたのであった。

 

 魔王はホール全体を見て回り、生徒たちの引き攣った顔を一頻り楽しむと、今度は月明かりの照らすバルコニーを見つけ、そこに腰を落ち着けた。そして腰元に指していた剣を外して立てかけると、その鍔を少しだけ押し上げた。すると剣の唾と刃の間に設えられた金具がカタカタと揺れ、口のように動いた。

 

「よう相棒、楽しんでるみたいじゃねえか」

 

 魔王はそれに頷く代わりに、手にしたグラスの中のワインを揺らした。

 

「相棒にもそんな立派な恰好が出来たんだな。お前さんは剣士って柄じゃあねえとは思ってたが、

 貴族としてならやっていけそうじゃねえか」

 

「カンチガイしてはいけませんな。私は貴族どころか王なのです。

 何せ私、 魔 王 ですから!」

 

 魔王はそう言って、フフンと笑った。

 

「相棒が魔王とはねえ。まったく、人は見かけによらねえもんだ。それに相棒と来たら、

 あのチビっ娘と一緒にフーケを倒したんだって? てーしたもんじゃねえか」

 

「フッフッフ、もっと我らが偉業をホメ讃えるがいいでしょう!」

 

 調子に乗った魔王は、愉快な笑い声を上げた。普段は胡散臭いばかりのその仕草も、今日は格好も相まって、本当に魔王らしいものとなっている。

 

「ああ、相棒は凄いとも。本当におでれーた。凄腕のメイジを相手取るなんて、

 なかなか出来ることじゃねえよ。おめえさんを呼んだ娘っ子だって、鼻が高いだろうさ。

 ただな、一つだけ気になることがあるとすれば……」

 

「ム? なんですか?」

 

 デルフリンガーは少しばかり言い淀んでから、次の言葉を吐き出した。

 

「俺の出番って、ねえの?」

 

 魔王はハァーッと、深くため息を付いた。

 

「あのですねえ。そんなこと言ったってアナタ、まともに柄を握ったが最後、

 私の力を吸い取ってしまうではないですか!」

 

「違うぜ相棒。確かに相棒の力は抜けるかもしれねえが、それはおめえがただ一人でに

 ルーンの効果で疲れていくだけで、俺にはなんの力も入ってこねえんだぜ?」

 

「知ったことですか! 私にとっちゃドッチでも似たようなもんです!」

 

 デルフリンガーは、怒れる魔王にもめげず、彼へと頼み込んだ。

 

「まあまあ、そう言わず、俺にも活躍の機会をくれたって良いじゃねえか。フーケと戦った

 相棒たちになら、今後もイロイロと剣を使う機会があるかもしれねえだろう?」

 

魔王は、軽くため息をついてから彼に言い返した。

 

「いいですか? そもそも魔王たるもの、平素より敵と直接刃を交えるようなマネは

 しないモノなのです」

 

「でも相棒は、追い詰められたって戦えねえじゃねえか」

 

「それが分かっているなら、ドーしてあなたを使えというのですか!」

 

デルフリンガーは、再びの魔王の憤慨をまあまあとなだめつつ、彼に提案した。

 

「そうは言ってもよ、折角俺を手にしたんだ。これを機に戦えるようになればいいじゃねえか。

 力が抜けるっつってもよ、案外体力付ければどうにかなるかもしれねえぞ?」

 

「カンベンしてください。そりゃあ、まあ? 私がワカワカしいのは否定しませんケド?

 でも流石に、魔剣片手にスタイリッシュなカンジでレッツ・パーリィ出来るような

 トシではないのです」

 

「かぁー! つれないねえ、相棒も! だが許す、相棒だかんね」

 

「やっと分かってくれましたか」

 

 だがしかしデルフリンガーは、まだまだ自分の売り込みを諦める気は無かった。

 

「確かに、相棒自身が俺をブンブン振り回すのは無理なんだろうさ。

 でもよ、なんかあんだろ? だってほら、相棒って魔王を名乗るぐらいなんだもの」

 

「フム…… つまり誉れ高くもマガマガしき、この崇高なる私に、ナンカ使い道を考えろと?」

 

「おうよ、そういうこった」

 

 魔王は額に指を当て、しばらく考え込んだ末に言った。

 

「こういうのはどうでしょうか? 取りあえずあなたを宝箱にでも入れておくのです。」

 

「宝箱! 伝説の俺には相応しい待遇だな。でもそれで、どうやって活躍しろってんだ?」

 

 魔王はやれやれといった様子で、彼に言った。

 

「分かりませんか? 困難極まるダンジョンの中に置かれた宝箱なのですよ?」

 

「剣の俺には、相棒の考えるこたぁよく分からねえな」

 

「なら想像してみてください。先ずルイズ様がダンジョンを掘ったら、

 そこにあなたを入れた宝箱を置きます」

 

「おうよ」

 

「勇者が来ます」

 

「それで?」

 

「勇者はマモノとの激闘を続け、その果てに一つの宝箱を見つけます」

 

「胸が高鳴るってもんだろうな」

 

「トラップかな? いやでも、もしかしたらレアアイテムかも!

 そんなことを期待しながら、勇者は宝箱を開けます」

 

「いやあ、そんな期待されちゃ照れちまうな」

 

「なんと出てきたのは、二束三文でしか売れないボロい剣!」

 

「おい!」

 

「うるさく騒ぐので、下手したら買取拒否すらあるかもしれません」

 

「否定出来ないのが悔しいぜ!」

 

「何だよ、このしょぼい剣は…… とモチベーションがガタ落ちした勇者は、

 動きに精彩を欠いて、魔物の攻撃する隙が増える。そんなことあったらいいな、

 出来たらいいなというモーソーにふけることが出来るというワケです」

 

「相棒が真面目に考えてないってことだけは、よーく分かったぜ」

 

「他にどう使えと言うんですか!」

 

「武器として使えよ!」

 

 それを言われた魔王は、ぐっと口ごもってから、その胸の内を明かした。

 

「いや、それは芸がないと言うか…… 何というか、マジメに使ったら負けかなって

 思うんですよね」

 

「なんの負けだよ!」

 

 魔王とデルフリンガーがそんなしょうもないことを言い合う内に、ホールへと訪れる者がまた

一人現れた。門に控えた呼び出しの騎士は彼女の姿を認めると高らかに声を張り上げて、今晩の

舞踏会における3人目の主役の登場を告げた。

 

「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢の

おなーーりーー!!!」

 

 宝石のように輝く可憐な少女の登場とともに、そっと音楽が奏でられ始めた。

ダンスの時間の始まりだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ルイズの美しさに中てられた生徒たちが、彼女の元へと近寄っていく。ルイズは、自分がからかわれるのではなく、本気で熱のこもった視線を向けられ、ダンスに誘われていることに戸惑いを覚えつつも、自分が今、確かにこの場の主役になっているのだということを強く自覚した。辺りを見回すと、キュルケはすでに一人目のお相手を決めたらしく、情熱的なダンスを踊り始めていた。その姿を遠巻きに見る大勢の男子生徒たちの姿から、今夜のキュルケはいったい何人と踊り、男の子たちを一喜一憂させていくのだろうかと、ルイズは思いを巡らした。一方、タバサはどうしているだろうかとルイズが目を向けると、タバサはテーブルの上の食事に夢中の様子であった。彼女には、テーブルのそばで何時話しかけようかとそわそわしている男子生徒たちの姿は目にも入らないらしく、豪勢な食事を前にその健啖ぶりを発揮している。ルイズはその姿を見て、タバサらしいわねと、思わず頬を綻ばせた。キュルケとタバサの彼女ららしい振る舞いを見て、ルイズは普段の落ち着きを取り戻すと、皆からのダンスの誘いを断りながらも、誰かを探すようにホールの中を歩き回った。そしてついに探していた相手を見つけると、バルコニーに向けその足を進めた。

 

 

「いよっ! 娘っ子じゃねえか!」

 

 近付いてくるルイズに、一番に気が付いたデルフリンガーが声を上げた。ルイズは、魔王が貴族らしい華やかな刺繍の施された立派なシャツとコートに身を包み、どこへ出しても恥ずかしくない装いをしていることを見て取ると、目を見開いて驚いた。

 

「びっくりしたわ。あんたのその恰好、随分似合ってるじゃない」

 

「フフフ、魔王だって王です。必要とあらばご覧の通りですとも。

そう言うルイズ様も、よくお似合いですよ」

 

「あら、ありがとう」

 

「おうとも、相棒の言う通り似合ってるぜ!」

 

デルフリンガーも魔王に同意し、ルイズに陽気な声を掛けた。

 

「剣に褒められるなんて、変な気分ね。まあ、ありがと」

 

「こういうの何て言うんだったか…… そだ! 思い出した! 馬子にも衣装ってやつだ!」

 

「喧嘩売ってんじゃないでしょうねえ!」

 

 ルイズと魔王と一振りの剣は、そうやってしばらくの間、賑やかに話を続けた。

 

「それにしてもあんたの着てるそれ、一体どこから持って来たのよ? 舞踏会に着て来れるような

服なんて、簡単に貸し借り出来る様なものじゃないと思うけど」

 

「ああ、これですか。ホラ、私たちは宝物庫のお宝を一つ取り戻したワケでしょう?

ですからそのゴホウビに、宝物庫からお宝を一つ借りさせて貰ったというワケです」

 

「ええ! じゃあその服って、相当由緒正しいものなんじゃ……」

 

「みたいですね。まあ? 魔王に似合う服は、王族のもの以外アリエマセンけどね?

根気よく頼んだ甲斐あって、コルベーザ殿がウボァーという悲鳴を上げながら

貸してくれましたとも!」

 

 ルイズは口をあんぐりさせながら、後でコルベール先生に謝っておかないと、と頭を抱えた。

 

 ホールの音楽は、いつの間にか止んでいた。次の曲で踊ろうとする生徒たちはパートナーと手を重ねて、ホールの中央まで進んでいく。魔王はその様子をちらりと見てから、ルイズに言った。

 

シャル・ウィ・ダンス (私と踊りませんか)?」

 

「しっかりエスコートしなさいよね?」

 

 ルイズはいたずらっぽく目を光らせた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ルイズと魔王のダンスは、ホールに集った者たちの目を自然と引き付けた。初めはあの奇妙な使い魔がと、好奇の視線を向けていた者たちも、次第に二人の、美しくもどこか怪しさを感じさせる優雅な踊りに目を奪われていた。可憐な美しい少女とマガマガしくも風格ある使い魔のワルツは、正に舞踏会での主役と言うに相応しいものであった。

 

 優雅にステップを踏みながら、ルイズはポツリと言った。

 

「ねえ、信じてあげてもいいわ」

 

「何をです?」

 

「あんたが、魔王だっていうこと」

 

「何と! まだ信じていなかったのですか!?」

 

 魔王は心外だという口ぶりをしながらも、どこかお道化た様子であった。

 

「今まで半信半疑だったけど…… でもあのツルハシ…… あんなに強いマモノを

作り出せるだなんて分かったら、信じるしかないじゃない」

 

 それを聞いて、魔王は感極まったような顔を見せた。

 

「私、ルイズ様がそう言って下さる日をどれだけ待ち望んだことか!」

 

「そんなに感動しなくてもいいじゃない」

 

「そうはいきません! だって、それはつまりですよ?」

 

 魔王はルイズと共にくるりと回りながら言った。

 

「つまりその理屈で言うと、ルイズ様は破壊神様であることをも

お認めになったということが、確定的に明らか……」

 

 ガスッとルイズのヒールが魔王のつま先に突き刺さった。魔王は声にならない悲鳴を

上げながらも、今晩威厳を保ち続けてきた意地があるのか、冷や汗を垂らしながら次の

ステップを踏み出した。

 

「何か言ったかしら?」

 

「な、なんでもゴザイマセン……」

 

「感謝はしているけれど、それとこれとは話が別よ!」

 

 二人はまたしばらく、黙って手を取り合い、ゆったりとした音楽に合わせて舞った。

そうして少し時間を置いてから、ルイズは再び魔王に語り掛けた。

 

「こうなるのは、アンタにだって分かっていたことでしょう? なのに、どうして私のこと

助けてくれたのよ。アンタを呼び出してから、割と冷たい態度ばかり取っていたと思うけど」

 

 魔王は穏やかな微笑みをルイズに向けた。

 

「私は何もしていませんよ。全て、ルイズ様が、ルイズ様自身のお力で、

 道を切り開いてきたのです。」

 

「そんなこと……」

 

 ルイズはそう言ったまま、黙り込んでしまった。

 

「ルイズ様…… ツルハシを使ってみて、どうでした?

 少しは自分のチカラ、信じてみる気になれたでしょうか?

 私も、チョットは頼りに思える存在になれたでしょうか?」

 

 ルイズははっと魔王の顔を見た。二人は言葉を交わしつつも、その足先は互いに導かれて、

自然と次の場所へと向かっていく。

 

「私、召喚後の経緯はどうあれ、ルイズ様とは信頼関係を築いていきたいと思っております。」

 

 二人はゆらゆらと漂う波のようにステップを踏んでは立ち止まり、また動いては立ち止まりを

繰り返した。

 

「そりゃ確かに、ルイズ様のお力が借りられなくても、世界征服の野望は抱けるでしょう。

 この世界は既に、地上にもマモノが豊富みたいですしね。彼らを率いて暴れ回るというのも、

 一つの手なのかもしれません。当然、苦労はすることでしょうが、何たってジブンのユメのため

 ですからね。勝算がいくら低かろうと諦めず、何度だって挑戦するつもりでもいます。」

 

 ルイズはそれを聞いて何とはなしに、失敗するであろうと分かっていつつも、魔法の

練習を繰り返した日々を思い出した。

 

「でもそんなのって、なんだか味気ないじゃあないですか。むなしいじゃあないですか。

 ここに呼ばれる前だって、その時その時の破壊神様と、二人三脚で進んできたからこその

 世界征服だったと思うのです。」

 

 二人はくるり、くるりと体の向きを変えながら、次の場所へと足を踏み出していく。

 

「それに、私もルイズ様に『これは!』と思われるようなスゴイところを見せて

 みたかったのです。もっとも、実際に働くのはマモノなんですけどね」

 

 締まらないわね、とルイズは微笑んだ。魔王も笑い返して、言葉を続けた。

 

「まあ、私としてはですね。ルイズ様には、魔法が上手くいかないからといって落ち込んでばかり

 いるのではなく、目の前に立ちはだかる限界とか、常識とか、そんな壁をツルハシでもって、

 打ち破っていって欲しいのです。そんでもって、ルイズ様には笑顔になって頂きたいのです。

 やっぱり世界征服する以上は、楽しくやっていきたいですしね」

 

「あんたってば、本当に相変わらずね。……でも、今日だけは許してあげる」

 

 ルイズはにっこりと微笑んで言った。

 

「ありがとう、魔王」

 

 楽師の奏でる音楽は、少しずつテンポの良い曲に替わっていった。

二人は、傍から見ても楽しく思えてくるような、そんな見事な踊りを披露し続けた。

 

 

「おでれーた!」

 

 バルコニーから、ひっそりと様子を眺めていたデルフリンガーは呟いた。

 

「てーしたもんだ! 主人のダンスの相手をつとめる使い魔なんて、初めて見たぜ!」

 

デルフリンガーは思う。確かに、相棒が自分を振るうことが出来ないなんて、ホント惜しい。

そのことを思うと、しがない一振りの剣としては、ちょっと落ち込んでしまう。

 

 だが彼は、無数のロウソクの明かりに照らされた幻想的なホールの中、妖しくも優雅に舞い踊る二人を見て、また思い直すのだった。確かに魔王は変わってるし、剣士としての見込みにも欠けている。だがデルフリンガーは、自分の思いもしないことをやってのける彼に、ちょっぴり心を震わされた気がした。

 

「ま、たまにはこんな相棒もいいか!」

 

 デルフリンガーは、バルコニーに置かれたワイングラスごしに、二つの月が浮かぶ夜空を

眺めた。グラスを通して見る空は、残されたワインの赤紫色に染められ、マガマガしい姿を

浮かび上がらせていた。

 

「相棒が世界征服を成し遂げた暁には、こんな空でも広がるのかねえ?

 何にしても、娘っ子の手綱次第だな!」

 

 彼はそんなことを呟きながら、今後の使い魔主従の行く末に思いを馳せるのだった。




クロスはロマン

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