使い魔のくせになまいきだ。 ~ マガマガしい使い魔 ~   作:tubuyaki

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STAGE 16 ロングビルですが、馬車内の空気が最悪です

春のうららかな日差しが降り注ぐ。

馬車のゴトゴトという振動も相まって、ルイズ達は思わず眠りそうになっていた。

 

「ああ、もう退屈ねえ!」

 

キュルケが声を張り上げた。

 

「何よもう、いきなり。そんな声出して、はしたないわねえ」

 

「そういうルイズはどうなのよ。あなただって、眠りそうになってるじゃない!」

 

「わ、私は違うわよ。そう、考え事!考え事しようとしてたのよ。

 来るべきフーケとの戦いに備えてね!」

 

「はいはい。そんな子供も騙せないようなウソ付かないの」

 

「嘘じゃないわよ!」

 

そんな調子で少しは元気の出た二人だったが、その内また言葉少なになり・・・

二人の頭は自然と傾いていった。

 

「って、これじゃダメよ!これは大事な任務なのよ?

 眠りこけてるだなんて緊張感が無さすぎるわ!

 ねえタバサ!何か気を紛らわす良い方法はないかしら?」

 

「・・・イメージトレーニング?」

 

「ルイズみたいに眠っちゃうじゃない!」

 

「だから私は寝てないわよ!」

 

「それも時間の問題じゃないの。ねえ、他に何かないの?」

 

「・・・もう少しの辛抱」

 

そう言うとタバサは本のページをめくった。

 

「ああもう、よくそんな分厚い本を読んで起きていられるものね」

 

タバサは少し首を傾げた後、はっきりと言い返した。

 

「貸さない」

 

「いらないわよ!今のはね、私だったらそんな本を読んでたら、

 もっと眠たくなっちゃいそうって言いたかっただけなのよ」

 

「・・・そう」

 

再びタバサは本に目を落とした。ルイズは眠らぬように歯を食いしばっている。それでも頭が傾いてきては直してを繰り返しているあたり、限界に近いのだろう。キュルケは何かないのかと、馬車を見渡した。外の代わり映えしない風景で気を紛らわすのはもう諦めている。ふとキュルケは、今まで特に気にもしていなかった御者台へ引っ掛かりを覚えた。一体何がおかしいんだろう?あまりの退屈のなせる業か、彼女がそれに気付いた時、それはそのまま言葉として出ていた。

 

「なぜ手綱を取ってらっしゃるの、ミス・ロングビル?

 そんな仕事、平民に任せておけば良かったじゃありませんか」

 

「・・・いいのです。私は貴族の名を失っておりますから」

 

ルイズがぴくっと動いた。

彼女の興味を引く話であったらしい。だが、キュルケはそれ以上に驚いていた。

 

「え?でも貴方は学院長の秘書なのでしょ?」

 

「オールド・オスマンは貴族や平民の違いに拘らないお方ですので」

 

私のような者には有り難いことですと、そうロングビルは付け加えた。

確かにオスマンには、平民相手にも多くの友人がいるともっぱらの噂である。生徒にとって身近なところでは、学院の料理長がまさしくそれであった。かつてトリスタニアの市井で名を馳せたコックである彼は、当時、並居る貴族から引く手数多であったにも関わらず、その誘いの全てを断り続け、使いの者をにべもなく追い払う頑固ぶりを発揮していたという。そんな折にオスマンは、権威あるメイジらしからず自ら店へと足を運び、彼を直接口説き落として学院の料理長に据えたというのだ。おかげで学院の料理は非常にレベルが高い。またこれも噂だが、その料理長の彼に出されているお給金は、下手な貴族の収入よりずっと高いという。貴族か平民かに拘らない、そんなオスマンの人柄を示す話を思い出して、なるほどとキュルケは思った。

 

だが彼女の興味はそれだけで尽きることはなかった。

貴族の名を失うということ。

しばしば聞く話である。恐ろしいこととも思う。

しかし彼女の身近では起きたことがないし、当然その実態をよく知っている訳でもなかった。こんな機会でもなければ、話に聞くことは出来ないだろう。キュルケはこの状況を良い巡り合わせだと思い、食い下がった。

 

「差支えなかったら、事情をお聞かせ下さらないかしら?」

 

だがキュルケの期待に反し、ミス・ロングビルは言葉を返さず微笑みを浮かべるばかりであった。

 

「失礼とは思いますけど、私どうしても知りたいんですの。どうか教えてくださいな」

 

「分かってるならやめなさいよ」

 

途端にキュルケはうんざりした表情をした。

 

「何よ、ヴァリエール。あんたは引っ込んでなさいよ」

 

「昔のことを掘り返すなんて、良い趣味じゃないわ」

 

「掘るのはとてもイイ趣味だと思います!」

 

「とりあえずアンタは黙ってなさい」

 

ルイズは魔王に睨みを利かせてから、キュルケに振り返った。

 

「とにかく、人の聞かれたくない話を聞き出そうなんてするものじゃないわ。

 例えしつこく訊ねた結果、話して貰えたとしても、それは恥ずべき行いというものよ」

 

キュルケは大きくため息をついた。

 

「・・・まったく、カッコつけなんだから。アンタも多少は興味があったくせに」

 

ルイズは言い返すことなしに、ふんっと息を吐いた。キュルケも、もうそれを相手にはしなかった。馬車の上には、再び静けさが舞い戻っていた。車輪のごとごとという音だけが鳴り響いていた。

 

「いやしかし、この場にはセンサクするまでもなくイロイロとバレバレな者もおりますな」

 

ひょんな魔王の一言に、ルイズは眉をひそめた。

 

「は? 誰のこと言ってるのよ?」

 

「それはモチロン、彼女のことです。」

 

そう言って魔王が差し示したのは、ロングビルについての話に加わらず、ずっと本に目を向けていた青髪の少女、タバサであった。指差された彼女はその一瞬、微かに動いたが、すぐにそのまま微動だにしなくなった。ルイズは首を傾げて魔王に尋ねた。

 

「どういうことよ?」

 

「そこのタバサ嬢でしたっけ。何でも彼女はナゾ多き生徒だとウワサされているらしいですな」

 

「まあ、それはそうだけど・・・」

 

ルイズも思わず同意した。何せタバサというのは犬や猫に付けるような名前であり、つまりは明らかな偽名である。そして彼女は喋らない性質であるので、クラスメイトの大部分にとって彼女は謎の存在であった。おまけに唯一仲良くしているキュルケにも話していないことは多いらしい。なんせ、つい先ほどシュバリエであることが判明したばかりだ。学院に通うような年でその称号を持つなどと、謎は一層深まるばかりだった。

 

「それが一体、なんでバレバレだっていうのよ?」

 

「ルイズ様、私をバカにしちゃあいけません。これでも私、魔王ですよ?」

 

「まだそんなこと言う。それで結局何だっていうのよ?」

 

「私は魔王。つまりはソレナリに博識であるということです。

 上に立つ者はジョーホー通でないと務まりませんからな。

 そしてそれはつまり、ルイズ様たちの目には分からぬコトでも、

 私からすればまる分かりなんてコトがあるということです!」

 

そう言って魔王は得意げに胸を張った。

 

「アンタが博識ねぇ・・・」

 

「・・・」

 

タバサは先ほどから無表情を貫いているが、魔王の主であるルイズは胡散臭そうな顔を隠しもしなかった。タバサのことがバレバレと聞いて、親友の秘密の危機に警戒していたキュルケも、自分のことを博識だと抜かすこの亜人には大いに毒気を抜かれたのだった。

 

「フフフ、あなたヨユウそうですね。どうせウソだと思っているのでしょう。

 学院の狭い敷地に押し込められた私なんかに分かるハズがない、と。」

 

魔王は周囲の白けた空気に気付いていないのか無視しているのか、タバサに向かって話し掛けた。

 

「トコロがドッコイ、我ら魔王軍の手は広いのです!ルイズ様が初めてツルハシを

 振るわれたその日から、我が魔王軍のニジリゴケネットワークは日々その範囲を拡大し、

 今では世界中の幅広い最新情報がコケのニジる速度で手に入るのです!」

 

「あんた、私の知らないところで何やってるのよ!」

 

「コケのニジる速度って・・・速いの?それ」

 

タバサは本から目を離さないまま呟いた。

 

「ギーシュとの決闘騒ぎは10日前。あのスライム状の魔物をコケだというのなら、

 休まず動き続けたとしても、辿り着けるのは良くてガリアやゲルマニアの中腹当たり。

 当然、往復は不可能。そもそもあの弱さなら全滅が妥当」

 

「・・・フフフ!わ、私に追い詰められたからと言って、話を逸らそうとしてもムダです!

 そんなオドシには屈しません!」

 

「なんでアンタが狼狽えてんのよ・・・」

 

ルイズは呆れてため息をついた。しかし魔王の往生際は悪かった。

 

「私を誤魔化そうとしてもムダだということです!

 魔王の手から簡単に逃れられるとは思わないことです!」

 

「あなたもいい加減しつこいわねえ。それならこの子のこと、何か言い当ててみなさいよ。

 当たるとは思えないけど」

 

魔王はそれを聞いてニヤッと笑った。

 

「言いましたね!それでは私のフカイ洞察力にオソレおののくがいいでしょう!」

 

「早く言う!」

 

急かされてやっと魔王は考えを述べ始めた。

 

「先ずはその大きな杖です!ズバァリ、それは父親から譲り受けたものですね?」

 

「・・・」

 

思ったよりまともな予想で、ルイズとキュルケは思わず顔を見合わせた。

 

「どうなのよ?タバサ」

 

タバサが相変わらず本に目を落としているのを見かねて、キュルケが尋ねた。

 

「・・・この杖は古風の大振りな杖。私の背丈とのバランスを考えても、予想は簡単」

 

「・・・つまり当たってるのね?」

 

おお、とルイズとキュルケは感嘆の声を上げた。

 

「それで? まさかアンタのいうイロイロっていうのは、それだけじゃあないでしょうね」

 

「モチロンです、ルイズ様」

 

魔王は不敵な笑みを浮かべた。

 

「次に言い当てるのはもっとスゴイですよ!

 ズバリあなた、マモノとコトバを交わしていますね?」

 

「・・・」

 

タバサはまたも沈黙を守った。ルイズの目には、心なしか先ほどよりもタバサが硬い表情をしているように見えた。

 

「具体的に言うと、使い魔とよく話しているのではないでしょうか?」

 

「あの風竜と?」

 

キュルケは再びタバサに問いかけた。

 

「で、タバサ。どうなのよ?」

 

「・・・飛竜は喋らない」

 

「そりゃそうよね。喋るのは韻竜だけよ」

 

「そうよ、それに韻竜はもうとっくに絶滅してるはずだし」

 

だが彼女らの反論を聞くも、魔王は動じなかった。

 

「まあ、言いたくないのであれば、この件はあまり掘り下げないでおきましょう。

 私も紳士ですから、マモノにはやさしいのです。

 真相は私のムネの内にしまっておきましょう」

 

「・・・」

 

何よ外れたくせにと、外野の二人は騒ぎ立てた。

 

「その代わり!もっとヤバい事実をアバいてしまいましょう!」

 

「・・・」

 

タバサはパタリと本を閉じ、ゆっくりと顔を上げた。

彼女は無表情を貫きつつも、その眼差しだけは魔王を射抜くようであった。

 

「これは結構デリケートな問題ではありますが、私、ダンジョンに攻め入る勇者どもには

 ヨウシャしないと決めているのです!ズバリ、あなたの両親はケッコウ大変な、というか

 フコウな目に遭っているのではないでしょうか?」

 

「・・・・・」

 

「ちょっとあんた!」

 

ルイズが非難の声を上げる中、キュルケもすかさず話に割って入った。

 

「そうよ、この子が悲しむようなこと言うなら許さないわ!」

 

その目は、親友を守る決意に満ちていた。

しかし彼女のその高潔な意思は、思わぬところから遮られるのだった。

 

「別にいい」

 

「タバサ!?」

 

心配そうにキュルケが見つめる中、タバサはか細い声ながらも堂々と魔王に答えた。

 

「私が出自を秘密にしている以上、両親に何かあると噂されても不思議はない。

 それにみんな、多かれ少なかれ不幸を背負って生きている。

 この手の言葉は、占い師や詐欺師がよく使う手」

 

「・・・まあ、いいでしょう。私から言わせれば、どう考えても大きめの

 フコウだと思いますがね」

 

タバサはそれには答えなかった。

 

「ねえ、もうやめましょうよ」

 

キュルケが不安げな声で言った。

 

「私が暇潰ししようとしたのが悪かったわ。だから、ね?」

 

「そうよ。こんな下らないお話はもうお終いよ」

 

ルイズも一緒になってやめさせようとする。

だが、それは張本人の言葉で遮られた。

 

「構わない」

 

「タバサ!?」

 

「この使い魔とはここで決着を付ける。

 あなたの言っていることがペテンだと、ここで証明する」

 

「無理しちゃダメよ!タバサ!」

 

「・・・・・」

 

タバサはキュルケに声を掛けられても、振り返りはしなかった。

その目はじっと、魔王を睨み付けていた。

 

「どうやら、ホンキのようですね。

 ヨロシイ!ならば私もゼンリョクで叩き潰して上げましょう!」

 

「あんた!」

 

もはや、誰にも二人を止めることは出来なかった。

何よりも、タバサと魔王が彼ら自身の対峙を望んでいた。

 

「あなたの最大のヒミツをアバきます!一気に畳み掛けてやりましょうとも!」

 

「・・・・・」

 

ルイズとキュルケは、二人の間に火花が飛び散るような空気を感じた。

魔王はくらえ!というようにタバサを指さし、とんでもないことを口走った。

 

「あなたは王家の血を引いていますね!それも直系です!」

 

ルイズもキュルケも、顔を真っ青にした。内容にも驚きだが、そもそもこの予想には当たっているかいないか以前の問題があった。王家の血筋を騙るということ、それ自体が大問題だった。誰かがふざけて、アイツは王家の血を引いていると言ったとしよう。国は、それを単なるお遊びでは済まさない。その軽々しい発言は、王家の名誉に泥を塗る行いであり、万死に値するものだと判断される。そこに、一切の言い訳、如何なる事情も通じはしない。その累は家族から友人に至るまで及び、下手をすれば皆々死刑になってもおかしくないのである。

 

キュルケは青ざめた顔でタバサの様子を伺い、そして余計に心を締め付けられることとなった。

タバサの顔も真っ青だった。相変わらず魔王に目を向けたまま微動だにしないが、もうその目からは対抗しようという力強さが感じられなくなっていた。それどころか彼女の眼には、恐れさえ浮かんでいるように見えた。

 

「(まさか本当に王族だというの!?タバサ、あなた一体・・・!?)」

 

キュルケの心の内の疑問に答える者はいなかった。

ただこの場に響くのは・・・ 魔王の更なる追及の声だけだった。

 

「どうですか!ズボシでしょう!ヒテイできないでしょう!

 だがまだ終わりません!今度こそトドメです!

 二度と我ら魔王軍に立ち向かえなくなる程のショックを与えてやりましょう!」

 

衝撃を受けたルイズやキュルケには、魔王の口を止めることが出来なかった。

 

「あなたの母親の名、それは!」

 

「やめて!」

 

タバサがその無表情をかなぐり捨て、声を張り上げた。

 

 

 

 

 

 

「フローラです!」

 

 

「     」

 

 

「フローラです!」

 

「・・・・・」

 

「フフフフフ、声も出ないでしょう。当然ですよね。

 あなたの父親という奴は、結婚するとき幼馴染のムスメを取らずに金持ちのムスメを、

 それもアイテム欲しさになびいて選んだのでしょう?知ってます。こういうの、

 ニンゲンどもはヒトでなしと言うんでしょう。出自を明かせなくてトウゼンです!」

 

「・・・・・」

 

「その大きな杖は伝説のマモノ使いにして、グランバニア王である父親から

 受け継いだのでしょう?なんせ彼のトレードマークですからね。一目で分かりましたとも!

 そしてそんなマモノ使いの才能を受け継いだムスメ、それがあなたという訳です。

 あなた、マモノとココロを通わせ、言葉を交わすことが出来ますね?

 今は丁度馬車に乗っていることですし、どうせマモノが飛び出て来たらボコボコにした挙句、

 仲間に出来てしまうのでしょう」

 

「・・・・・」

 

「父親は幼少期に片親を殺された上、青年期までずっと奴隷に身を落とし、

 過酷な労働に耐えてきたのですよね。そして脱出後、都合の良いヒトと結婚し・・・

 ああ、誰を運命の人として選んだかは、あなたの髪の色ですぐに分かりました。

 とにかく結婚して子供が生まれ、順風満タン・・・と思ったら妻と一緒にマモノに捕まり、

 石にされ、年月が過ぎるのを何も出来ぬまま眺め続ける・・・私も簀巻きにされたら

 何も出来ないのでチョッピリ共感してみたり・・・いえいえ何でもないです。魔王たるもの

 勇者一味に共感などとアリエナイです、ええ。それから何やカンヤあって、

 どっかの魔王を倒して、今は王宮暮らしでもしているのでしょう?そんでもって、

 家族水入らずのピクニックでは、パパ、地獄の帝王倒しちゃうぞーとか言ってるんです。」

 

「・・・・・」

 

「ま、そんな訳であなたのことは全部まるっとお見通しなのです!」

 

「違う」

 

「え?」

 

「全然違う」

 

「またまたご冗談を!」

 

魔王はまるで気にもしていない風にふてぶてしく答えた。

しかしタバサは凍り付くような沈黙でそれに答えた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「え?いや、まさか・・・フローラじゃ、ない?」

 

「全く違う」

 

タバサは無表情ながらも、その身から怒りが吹き出ているようであった。

それは凍てつく寒さを伴いつつも、激しさに満ち溢れた吹雪のようであった。

 

「う、ウソです!私のシックスセンスだって間違っていないと言っています!

 だってアナタ、どうせ双子なんでしょう?そんでもって片割れの方が、

 あなたには無い伝説的なチカラを受け継いでるんですよね?」

 

「双子も、兄妹も、いない」

 

タバサはきっぱりと言い切った。

 

「・・・もしかして、実は知らないだけで双子だった、とか」

 

「ない」

 

「ないでしょ」

 

「あり得ないわよ」

 

タバサの否定にキュルケとルイズも加わり、魔王は完全に立つ瀬を失った。

 

「そ、そんなまさか・・・私のカンペキなハズの観察眼と推理力が通用しないとは・・・or2」

 

魔王はそう言って崩れ落ちた。手狭な馬車の上で全身を使って項垂れる様は、

非常に滑稽であった。

 

「はあ・・・結局、こいつはこいつって訳ね」

 

思わずついて出たルイズの言葉にキュルケ、タバサの二人もうんうんと頷いた。

 

「結局、本当に暇潰しでしかなかったわね。・・・むしろ気疲れしたというか」

 

「逆効果」

 

「うん、もう十分目は覚めたし、後は大人しく待ちましょ?」

 

 

そうして3人は黙り込んだ。話し声が消えると、再び馬車のゴトゴトという音が、彼女らの耳によく聞こえるようになった。

 

「こ、このままでは引き下がれません!」

 

「あんた、まだそんなこと言ってるの?」

 

魔王の往生際は悪かった。あれほど落ち込んでいたのに、もう元気を取り戻したらしい。

 

「あんたこれ以上喋って、私の顔に泥を塗る気?」

 

「いーえ、今度こそ、今度こそは自信があるのです!

 いや、むしろ先ほどの推理が外れた時点で、

 残るコタエはこれしか無かったと言っていいでしょう!」

 

ルイズはどうする?といった表情で、キュルケとタバサに顔を向けた。

 

「いいんじゃない?黙ったままでも逆に気になるわよ」

 

「変なことを言ったら、返り討ち」

 

その返事にひよったのか、魔王は不安げな声で最後の推理を語った。

 

「タバサという珍しい名前から導かれる答えは、もはや一つしかありません。

 あなたのお父様の・・・奥様は魔女?」

 

「「当り前よ!」」

 

ルイズとキュルケがすぐさま非難の声を上げる傍ら、タバサはさっさと本に目を下していた。

そうやって彼女たちが騒ぐ間にも、馬車は森に近づきつつあった。フーケのアジトは、ようやく見えてきた鬱蒼と茂る森を抜けた先にあるという。長かった馬車での道のりも、ようやく終わりを告げようとしていた。

 


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