使い魔のくせになまいきだ。 ~ マガマガしい使い魔 ~   作:tubuyaki

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前話おまけ
     /×( ゚Д゚)
     |×( ´∀`)     
    ⊂× ×× × つ   「赤い宮殿(へや)から来ますた。
     | ××× ノ     あなたは好きですか?」
      (_)(_)

<「大っ嫌いよ!」


::' __,;:-‐=''  :iL,..-(::::_;,-==ヾ、
__,,=''‐-、  `ゞ,;/   ヽ' ̄ヽ   ゞ
. /(⌒) )__,,-''/,;=-、 ,-=ヾ),,,),,=-'
-='';'' ̄   .(.( ((ノ !、 ヾ)ヾ      「・・・・・・!」
.l     i'  /,-=---―-ヽ   l
.ll  i  :l . /、__l_|_,l__人  |
:::|  .!  l  .i::::.....___ ) l / ./
::::|    ゞ ヾ-i' ノ l .l .l .l`i=ノ/  l
:::::ヾ     l    ̄''''''' ̄ノノ   ノ


ドォーZ_ _







STAGE 14 ゴーレムでも助走つけて殴るレベル

「好きです好きです好きです好きです私は赤いデーもんが大好きです・・・!?

 私は何を言っているの???」

 

「もう、シッカリしてくださいルイズ様。いくらデーもんが

 プリチーだからって夢中になり過ぎです」

 

「わたしが、デーもんに夢中ですって・・・?」

 

見ればデーもんは相変わらずのそのそ歩いて、キュルケたちを追い掛け回していた。

歩みの遅いデーもんらがキュルケたちに追いつく様子はないが、それでも追われる側の彼女たちには気が気でないことらしい。キュルケの焦燥に満ちた足取りを遠目に眺め、ルイズは胸のすくような思いがした。

 

「キュルケったら口ほどにもないわね!いいザマだわ!」

 

「そうでしょうそうでしょうとも! さあルイズ様、ボーッとしてるヒマはありませんぞ!」

 

「へ?何よ?」

 

「何を言っているんです!ここからが本番じゃあないですか。

 相手が逃げている今こそ、こちらが一方的に攻撃するチャンス。

 彼女らにツイゲキを仕掛けて仕留めてやるのです!」

 

熱く語る魔王に対し、ルイズの反応は薄かった。

 

「何よ、もう逃げてるんだからいいじゃない。私の勝ちでしょ?」

 

「アマい!アマいです、ルイズ様!このままノコノコと逃げ帰られて、

 勝負は付いていないと開き直られたらどうするんですか!

 デーもんのセッカクの特殊攻撃?も次回からは通用しないでしょう。

 勝負を決めたければ今しかないのです!」

 

「そんなことって!」

 

ルイズは青ざめた。正直に言って心当たりがありすぎた。

ルイズにしてみればとんでもないことだが、キュルケという女は貴族の誇りというものに対し、随分と柔軟な考えを持っているようだ。おめおめと敵に背を向けておきながら、負けを認めずリベンジを図ってきても不思議はない。

 

「事によると、あのサラマンダーを外に逃がした後、青髪のコムスメと合流してまたすぐに

 攻めてこないとも限りません。いいんですか?あの二人が一緒になって呪文を放つのですよ。

 どうせ炎と氷の呪文を重ね合わせて、無のエネルギーだとか言って、ダンジョン内を

 ジューリンするんです。そんなのルイズ様の魔法が形無しじゃあないですか!」

 

「折角出した炎と氷を打ち消してどうすんのよ・・・」

 

ルイズは魔王の妄言に呆れたが、それが彼女に冷静さを取り戻させていった。

 

「トモカク、彼女らが体力を消費している今がチャンスです。

 さあ、今の内にトドメを刺すのです!」

 

「でももうマモノが残ってない・・・って、ああ、また掘って補充すればいいのね」

 

「そうです。今までに倒されたマモノの持つ養分は近くの土に染み込んでいます。

 ですから少し掘れば、コケやムシなど出し放題です。

 それに今なら、もっとスゴイものが土にタップリ含まれているハズ。

 ルイズ様、このダンジョンを見渡して、気付くことがありませんか?」

 

ルイズは言われて、キュルケがこれまでに辿って来た道に目を凝らした。

 

「土が、光ってる?」

 

ルイズは首を傾げた。確かキュルケたちが来る前には、こんな奇妙な土は無かったはずだ。

 

「フフフフフ。ルイズ様、思い返してみてください。

 その光ってる土、どういう場所に出来たか分かりますか?

 マモノがやられてアタフタしている時のルイズ様には

 気付けなかったかもしれませんが・・・」

 

それを聞いたルイズはピンときた。

 

「もしかして、キュルケが魔法を放った場所?」

 

「ご名答です!その光っているモノは、魔力が土に染み込んだ成分、いわゆる魔分なのです。

 スバらしいことに、魔分からは養分とはまた違った特徴的なマモノたちが生まれます。

 セッカクの機会ですし、試してみると良いでしょう!」

 

ルイズはキュルケを先回りした場所でツルハシを振るい、光る岩盤を崩していった。

すると中から、ふよふよと漂う鬼火らしきものが現れ、ルイズを仰天させた。

 

「な、何なのよこれ!!」

 

「出ました!それこそが魔分系の基礎ともいうべきマモノ、エレメントです!」

 

ルイズは一瞬、まさか精霊魔法の精霊(エレメント)かと身を強張らせたが、よくよく考えてみれば、精霊がこんな風に目に見えるなどという話は聞いたことがない。いや、むしろこれは・・・

 

「ねえ、これってまさか・・・墓場とかに現れるっていう『アレ』じゃないわよね?」

 

「はい?アレというと、鬼火とか人魂とかですか?さあ、多分これなんじゃないですか?

 メイジの墓とかがあると、土に染み出した魔分から生まれることもあるのでしょう。」

 

ルイズはそれを聞いて思わず口を噤んでしまった。

 

「ついでに言うと、これがデーもんの大好物です。

 ルイズ様ももう一度あの豪快な捕食シーン、見たくないですか?

 何だか、魂を啜り食らうアクマみたいでコウフンしてしまいますよね!」

 

「よし、養分系でいきましょう」

 

「エ゛エエエエ!ナゼですかっ!」

 

「文句を言いたいのはこっちよ!なんでいちいちマガマガしいものばっかり出てくるのよ!

 こんな人魂みたいなもの連れてたら、死人占い師(ネクロマンサー)になっちゃうじゃない!」

 

ルイズは尚も不満を上げる魔王の声を切り捨て、養分系の溜まった土を掘り始めた。

キュルケの向かう道を先回りして、次々とマモノが生み出されていく。

しかしコケというコケはあらぬ方向へニジリ寄り、ムシというムシはコケを食ってすぐにサナギになる。中々、戦力となるマモノは現れてくれなかった。何とか養分をかき集めて作ったトカゲ男は数を揃えることが出来ず、単騎で突っ込んでいく有様。あともう一息でキュルケたちを倒せそうなところで決め手を欠く今の状況に、ルイズはやきもきした。

 

「もう!キュルケのくせにナマイキよ!

 あともうちょっとで私の勝ちなのに全然攻撃が届かないじゃない!」

 

「時にルイズ様、穴を掘る力はまだ残っていますか」

 

「そうね。大分ツルハシを振るう手が重くなってきたわ。

 でもキュルケの帰り道をマモノで満たしてやるには、まだ十分余裕があるわよ!」

 

それを聞いて、魔王は満足げに頷いた。

 

「そうですか、それはスバらしい。どうせ彼女たちに逃げられるぐらいなら、

 残る力を全て振り絞ってでも倒しに行きたい。ルイズ様もそう思いませんか?」

 

「何よ、何かあいつを倒すいい方法があるわけ?」

 

魔王は二カッと笑った。

 

「ついに、ついにルイズ様にこのワザを伝授する時が来たようですね。」

 

「ワザ?」

 

「ええそうです。今までルイズ様には、ツルハシで穴を掘ってどうするかということを

 お伝えしてきました。しかし実はツルハシには、何と! 穴を掘れるだけでも凄いのに、

 それ以外にも秘められた能力があるのです!」

 

ルイズは白い目で魔王を見返した。

 

「少なくともツルハシで穴が掘れるのは秘められてもいないし、当たり前じゃないの」

 

「・・・ナゲカワしい。ツルハシは掘れて当たり前、そういう思い込みが

 感謝のココロを人々から奪い去ってしまうので「掘れないツルハシは、

 ただのツルハシ以下でしょうが!」

 

ルイズに睨まれた魔王は、しぶしぶ説明を再開した。

 

「ルイズ様のお使いになるツルハシは、穴を掘ってさあ終わりというものではありません。

 デーもんやパララメリカが通常攻撃以外にも、特殊な能力を持っているように、

 ツルハシにだって穴を掘る以外に、とってもベンリな能力が備わっているのです。」

 

「このツルハシに、そんな力があるっていうの?」

 

ルイズは自らの手にしたツルハシをまじまじと見つめた。確かにこのツルハシは平民が使うものとは明らかに違う。真紫色の柄や手に吸い付くようなグリップ等、普通のツルハシとは一線を画す特徴が見て取れる。だが一番に驚くべきは、その刃であった。彼女のツルハシは、今までたくさんの岩盤を砕いてきたというのに、傷一つ付かずピカピカと輝いていた。名工の鍛えた剣は魔性の輝きを放つと言われるが、彼女のツルハシにも何がしかの魔力が宿っているように見えた。

 

「いいですか、これから教えるワザは強力ですが、それだけにルイズ様の力を多く消耗します。

 使い過ぎて、気付けば穴を掘る力が残ってないなんてこともあり得るため、

 十分使いどころに気を付けてください。まあ、相手が逃げ帰ろうとしているこの状況では、

 もはや出し惜しみは無用でしょう!」

 

魔王のもったいぶった説明に、ルイズは思わず唾を飲んだ。

 

「この技によって、今、新しい伝説が生まれようとしています。魔界の伝説が再びよみがえる。

 悪霊の神々にも増してマガマガしき破壊神様の究極奥義に触れたが最後、

 魔界全土がハルマゲドン! ダンジョンを揺るがすキューキョクの衝撃、

 それがダンジョンクエイクなのです!」

 

略してDQとお呼びくださいという魔王の言葉に、ルイズは何となく不穏な気配を感じた。

 

「ダンジョンクエイク?それって、まさか地震を起こせるの!?」

 

「その通りです。DQとはダンジョンを揺らし、ニンゲンどもの足を竦ませ

 行動不能にする技なのです。その威力ゆえに、DQの衝撃が走り抜けるとシゴトの手が

 止まってしまうプロのハンターもいるんだとか。いや、あくまでウワサですが。」

 

「とにかく大きな揺れを起こせるのね。それって、なかなかすごい魔法じゃない!

 どうやってやるのか早く教えなさいよ!」

 

ルイズは、自分に泥臭い労働ばかりを強いると思っていたツルハシに意外な機能があることを知って、早くもそちらに意識を奪われていた。

 

「ダンジョンクエイクを使うにはツルハシにありったけの力を流し込んで下さい。

 途中、力が漏れ出てダンジョンが揺れますが、そこで慌てずグッと力を入れます。

 するとダンジョンが更に大きく揺れ、上手くいけば侵入者たちを行動不能に

 追い込むことが出来るでしょう!」

 

早速ダンジョンクエイクを試そうとしたルイズは、ふとある疑問が頭を過った。

 

「揺れで相手の足を止めるのはいいけど、マモノ達も動けなくなったりしないのかしら?」

 

「フフフ、マモノ達を舐めてはいけません。野生の感を持っている彼らはニンゲンと違って、

 大きな揺れが来た時にどう動けばいいのか、身体が知っているのです。

 ダンジョンクエイクを発動したところで、何の問題も無くマモノ達は動き回ることが

 出来るでしょう。」

 

「じゃあ、上手くキュルケを足止め出来れば、

 その間は一方的にマモノたちが攻撃できるのかしら?」

 

「その通りです。普段は一撃でやられてしまうようなマモノが、何度も相手をグサグサ、

 ガジガジする様はミモノですよ!『マモノを作る』、『ダンジョンも揺らす』、

 両方やらなくっちゃあならないのが破壊神様のつらいところですが、もうルイズ様の

 覚悟は出来てますよね?・・・ルイズ様?」

 

ルイズは逡巡した。確かにキュルケは自分にとってにっくき存在である。

しかしこの状況、手負いの彼女らを無防備な状態でマモノに晒し、

骨の髄までしゃぶり尽され兼ねない危険な状況に追い込んでよいものだろうか?

もしデスガジガジに身体を齧られたり、トカゲ男に刺し貫かれては、無事に生きて帰ることすら怪しくなるだろう。ルイズは自分の選ぶべき道を見定めるため、トリステイン魔法学院への入学以来、共に1年間過ごしてきたキュルケとの日々を追想した。

 

初めて出会ったときは、ヴァリエール家代々の仇敵だということで睨んでやったものだ。

そしたらこちらに気付いたあいつにフンッと鼻で笑われた。心底、小馬鹿にしたような目線を向けられた。ツェルプストー一族が敵だということを、頭ではなく心で理解した瞬間だった。その後、私が魔法の実技で失敗し黒焦げの姿になったのを見て、キュルケは腹をよじって笑い続けた。誰よりも早く笑い始め、誰よりも遅くまで笑い続けていた。

バスタイムの時間がたまたま重なったときに、胸をジロジロ見ながら真顔で

『あなた本当に16歳?』と言われた屈辱は忘れられない。

それ以来、他の女生徒までもが私の胸を可哀想な目で見るようになった。 ・・・くそう。

まだまだある。私がマナーのなっていないクラスメイト達を相手に、貴族かくあるべしと説教をかましたとき、『言ってることは立派だけど、魔法が駄目じゃ形無しよねえ』と口を挟まれ、皆の爆笑を買う羽目になった。後になって、神妙な顔で話し掛けてくるから何かと思えば、『あんなことになっちゃったけど、立派だと思ったのは本当よ?まあ後の言葉も本気だったんだけど』等という、有り難くて涙が出そうな言葉を貰った。殺してやろうかと思った。 ・・・もう、いいよね?

 

「フフフフフ!あいつに別れを告げるには良い機会ね!」

 

「おおルイズ様、見違えるようにマガマガしくなりましたぞ! 

 ダンジョンクエイクは発動までチョット時間がかかります。ですから、彼女らの歩く速さ

 を見極め、マモノと出くわす丁度その時にダンジョンを揺らせるよう、

 タイミングを見計らうと良いでしょう。もし相手が揺れに耐えるようなら、

 そんな時は2度3度と揺らしてみてください」

 

「分かったわ。先ずは一発目よ!」

 

ルイズが恨めしい思いをツルハシに込めていくと、ダンジョン全体がグラグラと揺れ始めた。キュルケたちは突然の不穏な揺れに戸惑った表情を見せているが、マモノ達は一向に気にした様子もなく動き回っていた。行ける!と思ってルイズが更に力を込めた瞬間、ダンジョンを強い衝撃が襲った。

 

「キャアアアア!」

 

ルイズの目に映る“つーでぃー視点”とやらで、キュルケが思わず屈み込んだ挙句、尻餅を付いて転げたのが分かった。キュルケの使い魔も、体がすくみ上がっているようだ。その間に、マモノ達は彼女らへ果敢に近付いていった。デスガジガジたちがサラマンダーへ噛みつき、パララメリカたちはキュルケ目掛けて全身でぶつかっていった。

 

「痛っ!何よ雑魚モンスターのくせにペチペチぺチ叩いてきて!

 このスライムが!!!!・・・!・・!!!」

 

パララメリカに群がられたキュルケが、唐突に身体を震えさせ始めた。

 

「おや?コケのマヒ攻撃が上手く決まったのではないですか?これは大チャンスです!

 さあルイズ様、どうにかしてトカゲ男を送り込んでやりましょう!」

 

「やってやるわ!」

 

ルイズは急いでキュルケのすぐそばの土壁にツルハシを振り下ろし、あっという間にコの字型の穴を掘って、高栄養の土を作り上げた。

 

「積年の恨みを晴らすときよ!行け、トカゲ男!!」

 

「クワァアアアアーーー!!」

 

トカゲ男はキュルケに気付くと、一心不乱に駆け出した。

 

「ぎゅる゛る゛る゛るーーーーっ!!!」

 

「何ですって!!」

 

いつの間にかムシたちを粉砕していたフレイムが、トカゲ男の前に立ちはだかった。

 

「まったく、キュルケったら何て悪運の強いやつなのかしら!!

 でもそのサラマンダーも手負いよ!トカゲ男、やっておしまいなさい!!」

 

「クァアアアア!」

 

トカゲ男は剣先を真っ直ぐにフレイムへと向け、何度も突きを繰り広げ始めた。

 

「きゅるううううう!!」

 

フレイムは必死に動き回り、トカゲ男が懐に入り込むのを何とか防いでいるが、その自慢の赤い肌には、幾つもの浅い切り傷が刻まれつつあった。ルイズは彼らを見る内に白熱し、思わず大きな声を上げていた。

 

「行け!そこを突くのよ!」

 

「クァワァアア!」

 

「きゅるるるるる!!」

 

二匹の戦いがいよいよ活況を迎えようとしたその時、無粋な声がそれに割り込んだ。

 

「ファイアボールッ!!」

 

かの死闘は結局、特大の火の玉によって終着を見た。

 

「大丈夫だった!?フレイム!」

 

「きゅる・・・」

 

「助けてくれてありがと、でもゆっくりしてる暇はないわ。

 さあフレイム、もうひと頑張りするわよ!」

 

フレイムは息を荒くして、疲れを隠せない様子である。キュルケは、そんな彼女の使い魔を元気付かせながら、また一歩、また一歩とダンジョンの出口に向けて歩き出した。

 

 

「ああ惜しい、あともう一息でしたのに!」

 

「・・・・・」

 

逃がした魚は大きいとばかり、ルイズは苦い顔をした。

 

「ここで勝負を決められなかったのはイタイです。大分、彼女らも出口に近付いてきた

 ようですね。ですがルイズ様、全ては過去、終わったことです。

 キモチを切り替えていきましょう!過ぎ去りし時を求めても、ここでの勝利は

 掴めません!さあ、早急に次なるダンジョンクエイクを準備するのです!」

 

「言われずともやってやるわよ!今度こそトドメだわ!」

 

そう言ってルイズは二回目のダンジョンクエイクを試みた。

ツルハシに力を込めると同時に、ダンジョンが微かに揺れ始める。

魔王もついに決着の時が訪れるのかという期待に、わくわくそわそわし始めた。

 

 

ぐらりと、体の芯から揺れるような衝撃が、ルイズたちを襲った。

 

「きゃあああ!?」

 

ぐらりぐらり、ぐらりぐらりと、揺れは一向に収まらない。

 

「ちょ、ちょっとルイズ様!力込めすぎです!

 これではワレワレまで行動不能になるではないですか!」

 

「し、知らないわよこんなの! 私、もう力なんて込めてないわよ!」

 

揺れは段々と、がくがく身体を揺らすようなものに変わっていき、その内ダンジョン中の壁という壁にヒビが入り、崩れ始めた。

 

「嘘でしょ!?」

 

「ところがどっこい、これがげんじつ・・・!?!!」

 

魔王の頭上に、ぱらぱらと土が落ちてきた。ついに、ルイズ達のいる場所も崩れ始めた。彼女らの頭上の壁にできた小さなひび割れがどんどん大きくなるにつれ、落下してくる土はその量をどんどん増していった。

 

「いやいやいや、こんな現実ウソでしょ!現実なんてクソゲー、ゲハァッ・・・!」

 

一際大きな揺れの後に、ダンジョンの最下層も完全に崩れ去り、ルイズたちは土の中に埋もれていった。尚も揺れは収まらない。ルイズたちは成すがままに土の奔流に流された。ルイズは必死に口元を手で押さえ、土砂が口から入り込むのを防ぎ続けた。周りの土は次第に重さを増していき、肺の中の空気を全て吐き出させるような圧力が、彼女の全身から襲い掛かった。ルイズはこのまま死ぬのだろうかと強烈な不安を抱きながらも、必死に耐え続けた。彼女にとって、ただひたすらに長く感じる悪夢だった。急に、ルイズは押し上げられるような力を受けると共に体が軽くなり、当たりが明るくなるのを感じた。やっと解放されたのかと思ったルイズは、あることに気が付いて再び身を強張らせた。体が軽くなった(・・・・・・・)のではない。今、自分は落ちているのだ!

 

「きゃああああ!!!!・・・グヘェッ!」

 

悲鳴は最後まで上げられることなく途絶えた。ルイズの身体を何かが締め付けていた。

 

「きゅいきゅいーーーっ!」

 

頭上で聞こえた大きな鳴き声に思わず耳を手で押さえながら、ルイズはその声の正体に気が付いた。聞き違えようのないその鳴き声が意味するもの、それは怨敵キュルケの親友、タバサの使い魔だった。

 

「ちょっと!離しなさいよ!」

 

ルイズはじたばた暴れようとしたが、風竜の爪にしっかりと捕まれた身体はピクリとも動かなかった。

 

「動くと危険」

 

今度は頭上からか細い声が聞こえてきた。

 

「あなた、タバサね! 何だってこんなことすんのよ!正々堂々と戦いなさい!」

 

ルイズは大声で叫んだ。

 

「そんな場合じゃない」

 

「何でよ!」

 

ルイズはすぐさま食ってかかった。しかしタバサが返答する前に、ルイズの耳には意外な声が入り込んできた。

 

「何なのよ、あれは・・・」

 

これまた聞き間違いようのない、キュルケの声であった。その驚き呆けたような声音に異常を感じ取ったルイズは、土まみれの顔でなかなか開けられなかった目をゆっくりと開いていった。

 

そしてルイズは見た。

タバサの使い魔が風を切って飛ぶその眼下で、学院の塔に並ぶほどの高さの巨大なゴーレムが、その拳を大きく振り抜いていた。学院の壁に叩き付けられた拳の衝撃が、空気をびりびりと鳴らしてルイズの全身を通り抜けていった。

 

「な、な、  !」

 

ルイズの心で、再びうねるように不安が高まった。よく見れば、ゴーレムの足元には潰れたコケやムシらしき残骸も見える。ルイズは、自分が巨大ゴーレムの召喚に巻き込まれたことに、ようやく気が付いた。

 

「私たちをこんな目に合わせたのは誰よ!」

 

思わず感情的になるルイズに、タバサが短く答えた。

 

「あれ」

 

彼女が指さした先は、ゴーレムの肩であった。暗い夜空の下で、ルイズがよくよく目を凝らしてみると、そこにフードを被り一段と濃い闇に包まれた人影が見えた。

 

「多分、フーケ」

 

「フーケ!?あの怪盗フーケですって!メイジの大勢いるこの学院相手に泥棒!?」

 

ルイズは信じられない気持ちで一杯だった。確かに大胆不敵だという怪盗フーケの噂を信じるならば、このぐらいのことは十分あり得る。だが彼女は今まで、怪盗なんてものは自分とはほど遠い世界のものだと、心のどこかで思っていた。

ゴーレムの拳を受け凹んだ壁から、バラバラと重そうな積み石が落下していく。難攻不落、この国で一番を競うほどに安全なはずの宝物庫が目の前で破られたのを見て、ルイズは早鐘のように打ち付ける己の鼓動を抑えることが出来なかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

その夜、学院の外を動き回っているのは、ルイズたちだけではなかった。

夜の闇を、猫のように音も無く駆け抜けていく女が一人。その女の被ったフードからそっと覗く美しい緑色の髪と理知的な顔つきは、学院長付きの秘書ミス・ロングビルのものに相違なかった。しかし、今の彼女は昼間とは全く異なる空気をまとっている。日が沈み外を出歩く人もまばらになったその時から、既に彼女の中で『ミス・ロングビル』の時間は終わりを告げていた。辺りを照らす光の源が太陽から月に変わったその時にこそ、誰もがその存在を知っていて、誰もがその正体を知らない大怪盗『フーケ』が目を覚ますのだった。

フーケは塔の上から、ゼロとして有名な少女が穴を掘って騒ぎ回っているのを眺めていた。

 

「全く呑気なもんだねえ、学生っていうのはさ!私がこんなに悩んでるって時に・・・」

 

思わず彼女の口からぼやきが飛び出た。いくら天下を騒がす大怪盗といえども上手くいかない時だってある。昼に夜に、あらゆる仕事のストレスが、こうして誰もいない場所での彼女に口を割らせていた。

 

「教師も教師だ、あのハゲの蘊蓄なんてロクに使えやしない」

 

フーケはそう言いつつ、険しい顔で学院の壁を見つめた。

彼女の狙いは、この学院の宝物庫の中にあった。

破壊の杖という、ワイバーンすら倒すと言われる強力なマジックアイテムが、そこには眠っている。しかし問題は、宝物庫に掛けられた強力な守りの魔法の数々であった。

錠前の付いた扉は、アンロックを掛けようとびくともしない。錬金の魔法も、スクウェア・クラスのメイジが数人がかりで掛けたという固定化の前には無力だった。フーケの二つ名通り、壁を土くれにして侵入するという手段は使えない。手詰まりを感じつつ調査を続けていた彼女が、ひょんなことから学院の教師に聞き出した宝物庫の弱点とは、『物理攻撃に弱い』ことであった。フーケはその時のことを思い出すと、今になっても腹が立ってしょうがない。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「私が思うに、あの宝物庫には一つだけ弱点がありましてな」

 

「まあ、それは何ですの?」

 

昼間、宝物庫の扉の前を調べ回っていたロングビルは、偶然通りがかったコルベールに見咎められると、咄嗟に宝物庫の目録作りを学院長から頼まれたのだという嘘をついた。特に疑うそぶりを見せなかったコルベールは、やがてこのうら若き女性と少しでもお近づきになりたい一心から雑談を始めた。本来ならこの手の輩との会話を体よく打ち切るのがミス・ロングビルという女だったが、彼女はコルベールが変わり者であると同時に、その彼の持つ知識は人一倍のものがあることを知っていた。ロングビルは巧みな誘導を繰り返しながら会話を続け、ついにコルベールの口からは、宝物庫の決定的な弱点が聞き出されようとしていた。

 

「確かにここの宝物庫は、魔法での守りは強力なものです。

 しかし意外にも、魔法のまの字もない単なる物理的な衝撃には弱いのではないかと

 思うのですよ。この学院の壁は、岩から切り出した石のブロックを積み重ねたものに

 過ぎません。別に厚さ数十サントからなる鋼鉄で出来ているわけではないのです。

 そうであるならば、大砲の斉射を何遍も繰り返せば必ずや・・・「ミスタ・コルベール」

 何ですかな、ミス・ロングビル?」

 

ロングビルは呆れ果てて言った。

 

「軍隊をそんな風に動かせるお金持ちなら、盗みを働くような必要はありませんわ」

 

「ははは、これは一本取られましたな!」

 

「(笑ってんじゃないよハゲ!)」

 

彼女の内心を知らぬコルベールは、ひとしきり笑い終えると話を続けた。

 

「しかし、お金は無くとも腕に覚えのあるメイジ相手には危ないでしょうな。

 例えば今、トリスタニアの市井を騒がせている怪盗フーケとか!」

 

ミス・ロングビルはきらりと目を光らせた。

 

「まあ、それは大変ですわ。理由をお聞かせ頂いてもよろしくて?」

 

もちろんですと、コルベールは頷いた。

 

「かのフーケは錬金の腕だけでなく、ゴーレムの扱いにも長けているという話ですからな。

 巨大なゴーレムに宝物庫の壁を殴り付けられれば、それだけで中々危ないのではないかと、

 そう思うのですよ」

 

ミス・ロングビルは嘆かわしそうに首を横に振った。

 

「ミスタ・コルベールもお人が悪いですわ。

 それでもやっぱりあの壁を壊せるとは思えませんもの」

 

「何ですと?私の推論に何か誤りが?」

 

美人秘書の思わぬ反論に狼狽えるコルベールへ、ミス・ロングビルは彼女の考えを説明した。

 

「だってこの前、ミスタ・コルベールご自身がおっしゃっていたではないですか。

 この学院はいざという時、お城としても使えるよう頑丈に作られたのでしょう?

 簡単に壊せるはずがありませんわ。トリスタニアの新聞によると、フーケは

 30メイルもある大きなゴーレムを操るそうですが、それでもここの分厚い壁を

 壊せるとは思えませんわ」

 

するとコルベールは得意そうな顔になって言った。

 

「ふっふっふ、ミス・ロングビルも案外頭が固いですな。ああいえ、けなしているのでは

 ありませんぞ。そんなところも・・・可愛いなぁと、思っちゃったり?」

 

ミス・ロングビルは中年男性から発せられたおぞましき言葉に鳥肌を立てながら、努めて平静を装ってコルベールに問い返した。

 

「一体どういうことですの?」

 

「壁を壊せないとあっても、盗人とはそう簡単に諦める連中ではありません。

 絶対無理だと思われること以外なら、どうにかして目的を達成しようと

 彼らなりの努力や工夫を重ねるものなのです。全く、嘆かわしいばかりですな。

 正しい方向に向かって生きていれば、十分堅実な人生を送れるというのに!」

 

ロングビルは取り繕った笑みを顔に張り付けて同意した。

 

「まったくミスタの言う通りですわ。それで、壁を破る方法とは?」

 

「ああ、そうでした。つまりですな、レベルを上げて物理で殴ればいいのです!」

 

「・・・ハァ?」

 

ロングビルは思わず、学院長付き秘書としては、はしたない声を上げてしまった。

 

「レベルを上げて?」

 

「ええそうです」

 

「物理で殴れと?つまり努力をしてメイジとしての実力を身に付けろということですの?」

 

「はい、その通りです。フーケめが30メイルのゴーレムを操るというのなら、

 もう少しだけ努力して、その分大きなゴーレムを作れるようになればよいのです。

 物理的な衝撃は高さではなく体積に比例しますからな、例えあともう2~3割

 大きなゴーレムを作り出せば、それだけで威力は1.2~1.3の3乗、即ち約2倍もの

 大きな破壊力を生み出せるようになるのですよ!」

 

ロングビルは若干キレながらコルベールに反論した。

 

「それはトライアングルからスクウェアになれと言っているようなものですわ!」

 

「いえいえ、言うほど大きな壁ではありませんぞ。何でも怪盗フーケとやらは、

 恐らくトライアングル・レベルの土メイジではあるものの、その実力は

 スクウェアレベルにも届きそうな程だとか。当然、本人の才能は必要ですが、

 少しの修練だけでコロッとスクウェアメイジになっても可笑しくありませんぞ。

 例えそこまでは行かずとも、工夫すれば破壊のレベルを高める方法は幾らでもあります。

 単に拳を振り下ろすだけでなく、しっかりと腰を入れて体重を込めるだとか、

 殴るときに拳に当たる面積を小さくして、局所的に大きな負荷を掛けるだとか、

 後はそうですね、助走を付けて殴りつけるとか!」

 

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彼の話は、理知的でクールと思われているはずのミス・ロングビルでも助走を付けて殴るレベルだったが、フーケとしての矜持が彼女に行動を留まらせた。こんなくだらないことで怒って正体がばれるなど、馬鹿げている。

 

「そう簡単に成長出来たら苦労しないんだよ、あのハゲー!」

 

フーケは改めて学院の壁を見上げた。悔しいことに、コルベールの発言の一部は理に適っている。全力で助走をつけたゴーレムが一点を突けば、確かに壁の一部ぐらいは壊せそうな気がしないでもない。土系統への才能溢れる彼女は、なまじ大きなゴーレムを作れるばかりに、今までそういった力の限界を試す真似をしてこなかった。しかしそれだけで本当に壁を壊せるのか?確かにハゲへの怒りを魔法に込めれば少しは大きな力が出るかもしれないが、それで宝物庫を破れると思うのは自分が冷静さを欠いているだけではないのか?・・・この念入りな姿勢こそがただの盗人どもと怪盗フーケとを隔て、度重なる犯行にも関わらず彼女が自由でいられる理由だった。

そんな彼女に今、決断が求められている。備えが大事な盗みの家業とはいえ、一つの獲物に何時までも時間を掛けてはおけない。その点、既に彼女は長く学院に居過ぎていた。確かに、このまま長く学院に残っても『ミス・ロングビル』としてのお金は手に入るだろう。だが、それでは足りない。もっと多くのお金を、手っ取り早く手に入れる必要があるからこそ、彼女は『フーケ』という顔を持っているのだった。フーケはもう、宝物庫のことは粗方調べ尽していた。このまま学院に居座っても、学院長にお尻を撫でられ続けるだけである。失敗を承知で盗みを決行するか、それともセクハラに辛抱強く耐え続け、あるかも分からぬ機会を伺うのか。それとも、いっそもっと手頃に盗める獲物を求めて、学院には見切りを付けるべきなのか。少しでも大きな獲物が欲しいが、絶対に捕まる訳にもいかない彼女には、常にリスクとリターンを天秤にかけることが求められていた。決定的な決め手を欠く状況において、迷いに答えを与えられるのは自分しかいない。さあ、どうするべきか?

 

「私にもう少し力があればねえ」

 

思わずぼやきが漏れ出た。フーケは、やさぐれた気持ちで中庭の様子を眺めた。

いつの間にか、騒いでいた少女たちは姿を消していた。きっと掘られた穴の中で遊んでいるのだろう。

 

「学生にもなって土遊びとはね」

 

フーケはそう言って馬鹿にしたものの、今まで才能が無いことで有名だった少女が、いきなりジャイアントモールのごとく穴を掘れるようになったらしいことについては、少し気になっていた。

 

「あいつも何かマジックアイテムを使っているのかねえ?」

 

ゼロの少女が実際に穴を掘っているところを彼女はまだ目撃していなかったが、騒ぎの現場であるヴェストリの広場に残された穴は、結構な深さがあるようだった。

 

「でも名も無いマジックアイテムじゃ、買い叩かれるのがオチだよ」

 

 

そう言って、彼女はハァ・・・とため息をついた。

ふと、彼女は足元が微かに揺れているのを感じた。

 

「気のせい・・・じゃないね。まさか地震かい?

 こんな場所で珍しい・・・いや、もしかして地下で色々掘ってるからかしら?」

 

ルイズ・フランソワーズというあの娘がどれだけ地下を掘り進められるのか、フーケは知らない。だが彼女は、地下道を掘っていての地崩れは珍しいものではないし、地下を掘り過ぎて地響きと共に地盤が沈下したというような話をよく知っていた。そこでふと、フーケの頭に閃くものがあった。一流の怪盗にとっては、何気ないことから機転を利かすことが大事である。

 

「あの辺りは地盤が弱くなってそうだね・・・掘り起こし易そうじゃないか」

 

フーケはかの穴の傍でゴーレムを召喚することを思い付いた。そもそもゴーレムの魔法の何が大変かといえば、それは土人形の身体を作り上げる時である。ゴーレムを操ったり修復したりするのは、既に形の出来たものへ少しずつ魔力を注いでいけばよい。しかし初めに形を作るときだけは、重く積み重なった地盤を掘り起こして固め直すのに大きな魔力が必要となる。これが大きなゴーレムを作る上での一番の障害になるのだった。

 

「折角おあつらえ向きの状況が出来てるんだ。やってやろうじゃないか」

 

半ば諦めようとしていた盗みである。このまま指を加えて待っていてもそうそう良い機会は訪れないであろうし、それならばダメでもともと、今あるチャンスを生かしてみてもいいのではないか?

いつ盗るか、今でしょ!

そうと決まればフーケの行動は早かった。

彼女がスラスラとよどみなく長い呪文を唱えて杖を振るうと、穴のある辺りの土がみるみると盛り上がっていった。そして十数秒後には、見事35メイルぐらいはあろうかという巨大なゴーレムが出現した。試してみるもんだと、フーケは小さくガッツポーズした。

 

「私もやるもんだね!」

 

フーケは自信を持って、ゴーレムの拳を学院の外壁に叩き付けた。

壁はびくともしない。

 

「癪だけど・・・しょうがない」

 

フーケはゴーレムを大きく後退させ、走る構えを取らせた。

 

「全力の一撃を食らいな!」

 

ゴーレムはその重厚な足を振り上げ、地面を大きく揺らしつつ加速していった。

そしてもう間もなく壁に激突するというところで、ゴーレムは身体の勢いをそのままに、腰を入れた正拳を繰り出した。直後に錬金が唱えられ、鋼鉄となった拳が塔の壁を打ち付けた。

石を積み重ねて出来た壁は、ぐしゃりと内側に沈み込んだ。

フーケは流れる様な動作でゴーレムの肩から腕へと降りていき、その先にある壊れた壁から宝物庫の中に侵入した。そして部屋の壁に並びかけられた幾多の杖の中から、“破壊の杖”と書かれたプレートのあるものを、必死になって探した。破壊の杖は、さして時間を掛けずに見つかった。

 

「これが杖なのかい?」

 

フーケはその奇妙な形に眉を顰めるも、マジックアイテムにはよくあることだと思い直し、

破壊の杖が目立たぬよう袋に包み込んだ。

 

「おっといけない、忘れるところだった」

 

そう言って彼女が杖を振るうと、壁に文字が刻まれた。

 

『破壊の杖、確かに領収致しました。土くれのフーケ』

 

そしてフーケはお宝を大事に抱えて外に持ち出し、再びゴーレムの肩に戻っていった。

彼女が空を見上げると、穴に潜っていたはずの少女たちを乗せた風竜が、空高く舞っていた。

 

「生き埋めになってないとは運の良いやつらだね」

 

少女たちは何事が起きているのかと、必死にこちらを眺めているようだった。

しかしそんなこと、フーケにとって障害にはならない。彼女にとって、夜闇に紛れて消え去ることなど造作もないことだった。風竜が飛ぶ向きを変え、騒がしい彼女たちの視線が外れるその隙に、フーケは自身と同じ姿の土像を一瞬で作り上げた。そうして自分はゴーレムから滑り降りていき、地面に降り立った。彼女は植え込みに身を隠すと、今度はゴーレムを学院の外へ向けて歩かせた。彼女の狙い通り、風竜はゴーレムの方を追って飛んでいった。

フーケは杖を下した。後は彼女自身が学院から逃げ出すだけだ。ゴーレムは込められた魔力が切れ次第、独りでに崩れ去るだろう。馬を拝借し、空から目立ちにくい森を伝って隠れ家まで戻る。そしたら後は、彼女自身のルートでお宝を売り捌いて終了だ。

この学院での『仕事』は、彼女にとっても特に準備期間が長く、我慢することも多かった。

しかし何だかんだ言って、結局は今回も簡単な仕事だったなと、そうフーケは余韻に浸りつつ、馬屋への道を急ぐのだった。




ダンジョンクエイク・・・Dungeon Quake略してDQ。ちなみに海外では名前が変わり、略してDW(Dungeon Worrier)となる・・・そんな時代もありました。

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