マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった 作:あんだるしあ(活動終了)
「我々と共闘したい? はっはっは。これは異なことを。我々は日々生き延びることで精一杯な難民ですぞ? そんな我々が、獅子王の軍勢と戦うとでも思っているのですかな?」
言われてみればその通りだった――――!!
「えっと、じゃあハサンさんは……山の民は聖都とは戦わない方針ってこと、でしょうか? 先輩、ベディヴィエールさん、どうしましょう……?」
「……失礼。悪ふざけが過ぎたようだ。確かに我々は獅子王への反撃の機を狙っている」
よっし! ならまだ交渉の余地ありだ!
「そのために戦力が欲しいのは事実。だが、貴殿たちを容易く迎え入れるわけにはいかぬ。叛逆者といえど、円卓が二人もいるのなら尚更よ」
「せ、先輩が円卓の騎士って、気づいて?」
「フッ、当然よ。我らほどの歴戦のサーヴァントとなれば。そうであろう? アーラシュ殿」
「え、マジか!? マシュも円卓だったのかよ!」
「アーラシュどの―――――っっ!!」
……何かが色々と台無しになった。
「あ、いや、悪い。俺としちゃあこいつらが村に来た時から仲間になったんだとてっきり」
「ともかく!! どうあっても貴殿らを仲間とは認められぬ! これは信仰上の問題である! だが! 頼らざるをえないほどの実力者であれば話は別なり! 今それを証明していただく! 行くぞ、アーラシュ殿!」
「いいぜ、その段取りに付き合った!」
そういうことなら戦闘準備だ。わたしたちの力を証明して、ハサンさんに堂々と仲間と認めていただこうじゃないの。
「リカ、魔力回して!」
「はい先輩っ。
「ありがとっ。だりゃああああああ!!!!」
スキル・魔力防御、発動。盾の表面を魔力でコーティングして、真正面からハサンさんにボディアタックを仕掛けた。
ハサンさんは防御で構えたものの、わたしの勢いに負けて軽々と後退していく。
ベディヴィエール卿は細剣を抜くなりアーラシュさんに肉迫した。距離を詰めて戦うことで、弓使いの本分を発揮させる前にケリをつけようとしている。
「さらに概念礼装『イマジナリ・アラウンド』『スプリンター』を消費し、加速と弱体耐性を両サーヴァントに付与します!」
櫻色と黄昏色の魔力がわたしとベディヴィエール卿を吹き抜けた。
体が軽い。まるで自身が駿馬か風になったかのよう。今ならどんな早業だってできそうだ。だから。
「ふ――っ」
「ぬ!?」
わたしはあえて大きくしゃがんで、ハサンさんの斜め下に移動し、ハサンさんの脇腹を下から狙って。
「これで、倒します!!」
一瞬のみスキル・魔力防御に費やす魔力を増加。ハサンさんを盾で殴って宙へと吹っ飛ばしてみせた。
「ぬおおおおおおお!?!?」
「あちゃー」
「よそ見厳禁ですよ、アーラシュ殿! 私だって!」
ベディヴィエール卿は細剣で乱れ突きをアーラシュさんに見舞う。アーラシュさんも巧みに躱してはいるものの、いくらか躱せず弓を防具代わりにし始めた。
ついに、突きが眉間にくり出された瞬間、アーラシュさんは大きく仰け反って避けることでバランスを崩してその場に尻餅を突いた。
そのアーラシュさんに、ベディヴィエール卿は息を切らして細剣の切っ先を突きつけた。
「ははは。こりゃ返す手がない。降参だ」
地べたに落ちて動かなかったハサンさんが起き上がった。
「ふー……いやあ、これは参った。参ったな実に。これほどの戦力、見逃してはそれこそ初代様に首を落とされよう。マシュ殿、リカ殿、そしてベディヴィエール卿。こちらからお願いしたい。どうか我々と共に戦ってはもらえぬか。報酬は何も約束できぬが、“山の翁”の名に懸けて、必ずや貴殿らを獅子王のもとに送り届けよう」
「それこそが値千金の報酬です、ハサンさん。わたしたちこそ、改めてよろしくお願いします」
「感謝します、ハサン殿。私のような者を信用していただいて」
「いや、私こそ意固地でした。ベディヴィエール卿は聖都正門にて我らの民のために立ち上がってくれた。獅子王に肉薄するという己の目的を捨ててまで。その徳を信じずして何を信じましょう」
「――ありがとう、ハサン・サッバーハ。義に篤い山の翁よ。私にはあまりにもったいない言葉です」
ハサンさんは彼らの作戦本部にわたしたちを案内すると言ってくださった。聖都奪還には数が足りないものの、少数精鋭だという。ベディヴィエール卿は彼我の戦力差を案じたが、わたしからすれば、あの強大な聖都に立ち向かおうという闘志がある人々というだけで心強い味方に思える。
と、そこで切羽詰まった感じにハサンさんを呼ぶ声があった。走ってくるのは、物見の村人だ。
「頭目! 呪腕の頭目! 大変だ! 西の村から狼煙が上がっている!」
アーラシュさんが目を眇めて西の方角を見据えた。
「……ちっ、敵襲だぜありゃあ! 西の村が敵に見つかっちまったらしい!」
「敵の旗は見えぬか、アーラシュ殿!」
「赤い竜と、その首を断ち斬る赤い稲妻。この紋章に覚えはあるか、呪腕殿」
「おお、おおおお――まずい、皆殺しにされるぞ! 王の首を狙うと公言する旗はただ一つ! 円卓の騎士、遊撃騎士モードレッド……!」
――モードレッド卿? ロンドンであんなにも頼もしくわたしたちを引っ張ってくれた彼女が、敵?
酷い巡り会わせにめまいがして、一拍。
気づけばわたしの肩をベディヴィエール卿が支えていた。
「大丈夫ですか? マシュ」
「すい、ません。ちょっと、ショックで……一度、味方として戦ったことが、あったから……」
情けない体たらくを見せてしまった。
「あのあのっ、遊撃騎士って何ですか?」
「ああ。円卓の騎士の中でも、都詰めじゃなく外の砦に領地を与えられた連中だ」
「ええと、聖都の中におうちがない?」
「そんな感じだ。円卓としちゃあ聖都から追い出されるのは罰以外の何でもない。何らかの理由で獅子王に嫌われたんだろ。あちこちを走り回っては敵対勢力を潰す猟犬さ」
「モードレッドさんが、その遊撃騎士……? え? でもモードレッドさんって、アーサー王の実の子なのに?」
―――目から鱗。リカが今言ったのはものすごく「普通のこと」だ。
《しかし放ってもおけない。キミたちの仲間ということは、貴重な戦力じゃないのかい?》
「無論。しかし、ここから西の村までは、どう急ごうと二日はかかる」
「じゃ、じゃあ逆に、助けに行くんじゃなくて、こっちに避難してもらうのはどうでしょう?」
「……それが今できる限界でしょうな」
だけどその案は、ベディヴィエール卿が快刀乱麻に否定した。
「それでは行き詰まりです。この村には備蓄がない。これ以上、人を増やしては共倒れになるでしょう。西の村は守りきるしかないのでは?」
「ぁぅ……ち、近道とか、秘密の抜け穴的なのとか――あ! アーラシュさん、ここから西の村が視えるんですよね!? 狙撃できませんか、狙撃! あたしと契約して令呪でバックアップしたら届く、かも」
ふと、アーラシュさんが何かに気づいて、考え込むようなそぶりを見せた。ほ、本当にリカの言ったやり方で狙撃できる、とか!?
「――間に合うかもしれん」
はい?
「一度だけ、かつ片道でいいのなら、西の村まで俺が届けてやれる! それなりのリスクはあるし、即西の村とは行かないが、それでもいいか?」
わたしはリカと顔を見合わせた。
「「お願いします!!」」
強襲するメンバーを決める。わたしとリカ(とフォウさん)は当然として、送り届ける役のアーラシュさんと、道案内のハサンさん。……ベディヴィエール卿は。
「お気遣いは無用です。私は、獅子王の騎士ではありません」
――わたしたちはアーラシュさんの誘導に従って移動した。
アーラシュさんがわたしたちを連れて来たのは、山麓を見晴らす高い丘だった。
潰れた家の屋根を粘土で補強したらしき土台がある。担架、にしては補強する意味が分からない。それにこの取っ手と、踵まで入る穴の用途も分からなかった。
アーラシュさんは取っ手を両手で掴んで、穴に足を入れて四つん這いみたいな態勢になるように言ったので、言われた通りにした。
「しっかり掴んでろ。リカはマシュの隣だ。マシュ、リカを離すなよ。時速300キロ以上は出るからな」
「え……あの、アーラシュ・カマンガー。何を、しているのですか?」
わたしには、土台に縄を張って固定、そのまま特大の矢に繋いでいるように見えるのですが。
「よし、準備できた。角度はこんなとこか。今日は追い風だ。西の村の手前までは飛ばせるぞ」
「まさか、そんな……」
「ええ、そうですよね。笑い話ではありませんし。そんな、まさか」
「阿呆、笑い話ですまされるか! 命懸けの、酒盛りの時の定番ネタだぞ! 真面目にやれ、舌を噛むぞ!」
信じられない! このアーチャー、本気で特大の矢で土台ごとわたしたちを西の村まで発射する気でいる!
とにかくわたしはリカを確保。天地がひっくり返ろうとリカだけは落とさない。万が一にでもリカが落ちたらわたしも追いかけて、この体をクッションにしてでも護るんだから。
アーラシュ・カマンガー、ついに砲台から矢を放つ。
「ひっ――きゃああああああ!」
「きゃああああああああーーーー!!」
わたしとリカのW悲鳴。
「だだだだだだだだいじょうぶですか、マママママママシュ!」
ベディヴィエールさん、気流でほっぺたぶるぶる状態なのにわたしたちを気遣ってくださるなんて……!
「そろそろか。総員、着地の衝撃に備えろ! 各々いい感じで受け身を取れ! マシュ、リカは俺が面倒を見る! お前さんは自分の面倒を見るだけでいい!」
ううっ、わたしにもっと敏捷スキルがあれば、自分でリカを抱えて華麗に着地するのに!
「ぶーつーかーりーまーすー! に、いち、ぜろーーーー!」
「ひぃやああああああ!」
墜落した瞬間に土台は木っ端微塵になった。
反動で投げ出される体をどうにかひねって、背中から地面に落ちた。受け身、これで正しかったかしら……?
「ベディヴィエール卿は――!」
「無事ですとも! まだ若干頬はぶるぶるしてますが!」
よ、よかった。本当によかった。
アーラシュさんの腕の中には、目を回したリカががっちりと抱えられている。ちょっとばかり、むっ。
「おーし、下ろすぞリカ」
「は、はひぃぃ……ふゃ!?」
未だ震えるリカがまっすぐ立てるはずもなく、リカはやっぱり足をもつれさせて傾いた。わたしは急いでリカに駆け寄って、傾いたリカをキャッチ。
「せんぱぁい」
「よしよし。よく頑張ったね」
リカの頭をなでなで。
「ところで、何でこれが一度きりかと言うとだな。大抵の奴は一度これをやると――」
「「二度と御免です!」」
「――と、嫌がるからなんだ」
上手いこと言ったとか言わせませんからね、カマンガー殿?(怒)
更新けっこう頑張ってるつもりだから反応が欲しいんだぜ…(´・ω・`)