マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった 作:あんだるしあ(活動終了)
いつになれば、誰が、あたしのために、あたしに優しくしてくれるの――?
――――遠い夢を、見ていたようだ。
白くて四角い部屋。ベッド。白いシーツ。
見慣れた風景。カルデアの医務室だ。
ベッドから下りて、自身の体を見下ろした。
手足、どこも、何ともない。あんな――戦いの、あとなのに。
ようやく意識が明瞭になった。
リカは? あの時わたしが伸ばした手は、ちゃんとあの子に届いたの?
わたしはベッド脇に掛けてあったパーカーを着て、医務室を飛び出した。
廊下を走る。走る。今この事態で、あの子がいる場所なんて、一つしかない。
中央管制室。
爆発で無残に吹き飛んだ、瓦礫まみれの大きな青い空間。
くすんだカルデアスを見上げる位置に、長い髪の後ろ姿を見つけた。
「リカ」
名前を呼ぶと、リカはふり返って、わたしを見て瞳を輝かせた。
「先輩――」
わたしは瓦礫を避けながらリカへと歩み寄って、わたしと同じくらいの大きさしかないリカを、抱き寄せた。
――この子が無事で、本当によかった。この子を護り通せて、本当に嬉しい。それが嘘偽りない今のわたしの気持ちだ。
わたしの一人きりの後輩。わたしの、「後輩」。
「――オホン」
!!!! ド、ドクター・ロマン、いつの間にそちらに!? というか気づかずわたしは後輩と堂々と
わたしが小さなパニックを起こしている内に、ドクターは立ち上がった――わたしが見たこともない、険しい表情で。
「まずは生還おめでとう。キミたち二人のおかげで、カルデアは救われた」
「ドクター。オルガマリー所長は……」
ドクターは痛ましげに首を横に振った。
「冬木の特異点は消滅した。しかし、新たに七つの特異点が発見された。冬木とは比べ物にならない時空の乱れだ」
わたしはリカと顔を見合わせてから、カルデアスを見上げた。
くすんだカルデアスには、大粒の光点が七つ灯っていた。
「結論を言おう。この七つの特異点にレイシフトし、歴史を正しいカタチに戻す。それが人類を救う唯一の手段だ」
「人類を――」
「救う――」
「けれどボクらにはあまりにも力がない。マスター適性者はリカ君を除いて凍結。所持するサーヴァントはマシュだけだ。この状況で話すのは強制に近いと理解している。それでもボクはこう言うしかない。――マスター適性者ナンバー2、藤丸立香。キミにカルデアの、人類の未来を背負う覚悟はあるか?」
リカがわたしを窺った。わたしは微笑んで頷いた。もうわたしはリカのサーヴァントだ。リカが決めたなら、わたしは従う。そうでなくたって、がんばる後輩を先輩が放っておくものですか。
「やります。先輩が、一緒なら」
「――ありがとう。その言葉でボクたちの運命は決定した」
無事なコンソールに座っていたスタッフたちが一斉に立ち上がった。
ドクター・ロマンがスタッフたちの前に立った。
「これよりカルデアは、前所長オルガマリー・アニムスフィアが予定した通り、人理継続の尊命を全うする。作戦名はファーストオーダーから改める。これはカルデア最後にして原初の使命。人理守護指定、グランドオーダー。魔術世界における最高位の使命を以て、我々は未来を取り戻す!」
わたしたちの旅の始まり。
わたしたちの、長い長い探索のスタート。