マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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冬木7

 いつになれば、誰が、あたしのために、あたしに優しくしてくれるの――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――遠い夢を、見ていたようだ。

 

 白くて四角い部屋。ベッド。白いシーツ。

 見慣れた風景。カルデアの医務室だ。

 

 ベッドから下りて、自身の体を見下ろした。

 手足、どこも、何ともない。あんな――戦いの、あとなのに。

 

 ようやく意識が明瞭になった。

 

 リカは? あの時わたしが伸ばした手は、ちゃんとあの子に届いたの?

 

 わたしはベッド脇に掛けてあったパーカーを着て、医務室を飛び出した。

 廊下を走る。走る。今この事態で、あの子がいる場所なんて、一つしかない。

 

 中央管制室。

 

 爆発で無残に吹き飛んだ、瓦礫まみれの大きな青い空間。

 くすんだカルデアスを見上げる位置に、長い髪の後ろ姿を見つけた。

 

「リカ」

 

 名前を呼ぶと、リカはふり返って、わたしを見て瞳を輝かせた。

 

「先輩――」

 

 わたしは瓦礫を避けながらリカへと歩み寄って、わたしと同じくらいの大きさしかないリカを、抱き寄せた。

 

 ――この子が無事で、本当によかった。この子を護り通せて、本当に嬉しい。それが嘘偽りない今のわたしの気持ちだ。

 わたしの一人きりの後輩。わたしの、「後輩」。

 

「――オホン」

 

 !!!! ド、ドクター・ロマン、いつの間にそちらに!? というか気づかずわたしは後輩と堂々と絆確認(ハグ)なんて行っていたの!?

 

 わたしが小さなパニックを起こしている内に、ドクターは立ち上がった――わたしが見たこともない、険しい表情で。

 

「まずは生還おめでとう。キミたち二人のおかげで、カルデアは救われた」

「ドクター。オルガマリー所長は……」

 

 ドクターは痛ましげに首を横に振った。

 

「冬木の特異点は消滅した。しかし、新たに七つの特異点が発見された。冬木とは比べ物にならない時空の乱れだ」

 

 わたしはリカと顔を見合わせてから、カルデアスを見上げた。

 くすんだカルデアスには、大粒の光点が七つ灯っていた。

 

「結論を言おう。この七つの特異点にレイシフトし、歴史を正しいカタチに戻す。それが人類を救う唯一の手段だ」

「人類を――」

「救う――」

「けれどボクらにはあまりにも力がない。マスター適性者はリカ君を除いて凍結。所持するサーヴァントはマシュだけだ。この状況で話すのは強制に近いと理解している。それでもボクはこう言うしかない。――マスター適性者ナンバー2、藤丸立香。キミにカルデアの、人類の未来を背負う覚悟はあるか?」

 

 リカがわたしを窺った。わたしは微笑んで頷いた。もうわたしはリカのサーヴァントだ。リカが決めたなら、わたしは従う。そうでなくたって、がんばる後輩を先輩が放っておくものですか。

 

「やります。先輩が、一緒なら」

「――ありがとう。その言葉でボクたちの運命は決定した」

 

 無事なコンソールに座っていたスタッフたちが一斉に立ち上がった。

 ドクター・ロマンがスタッフたちの前に立った。

 

「これよりカルデアは、前所長オルガマリー・アニムスフィアが予定した通り、人理継続の尊命を全うする。作戦名はファーストオーダーから改める。これはカルデア最後にして原初の使命。人理守護指定、グランドオーダー。魔術世界における最高位の使命を以て、我々は未来を取り戻す!」

 

 

 

 

 わたしたちの旅の始まり。

 わたしたちの、長い長い探索のスタート。


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