マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった 作:あんだるしあ(活動終了)
今回は久々の戦闘回です。
ケルト兵と怪物の混成兵団を、わたしは真っ先に突破した。
露払いにはラーマさんとエリザベートさんが徹してくれている。
よってわたし、加えてナイチンゲールさんが相手取るのはこの場の首魁たち。すなわち、フィン・マックールとディルムッド・オディナ――!
「捉えました! 今度は撤退を許しません!」
「いいとも。いよいよ決戦だ。君のマスターを娶るか否か、戦いが始まるぞ!」
娶らせませんし、あげません!
「フィオナ騎士団が一番槍、ディルム――」
ディルムッドの名乗り口上を遮る形で、ナイチンゲールさんが拳銃を撃った。これにディルムッドは面食らったが、そこはさすがのケルトの戦士、弾丸そのものは危うげなく避けた。
「待て待て待て! お前はサーヴァントだが看護師だろう!?」
「ええ、看護師ですよ。ですから貴方たちを殺すのです。貴方たちは熱病に浮かされている患者のようなもの。ならば私は殺してでも貴方たちを治す!」
……デタラメな理屈だけれど、これがフローレンス・ナイチンゲールなのだ。ここまでの付き合いでイヤってほど知ってる。だって彼女の「命を救う」ことへの信念は本物なのだから。
ディルムッドにもその一点だけは伝わったようで、彼の双槍の構えはより堅固なものへ転じ、ノーモーションでナイチンゲールさんを突きに来た。
わたしは両者の間に入って盾で紅槍の刺突を防いだ。
ディルムッドの紅槍が盾の面に接した瞬間を逃さず、スキル・魔力防御、発動! 盾の跳弾力でディルムッドを下がらせた。
だけども敵とてただでは下がらない。ディルムッドはもう片方の槍でわたしの脇腹を薙ぎにきた。
わたしはとっさに左手で剣を鞘ごとずらして、黄槍を受け止めた。受け止めたものの、少しだけ穂先が掠めて肌が切れた。
大丈夫。デミ・サーヴァントの肉体にとっては、こんなものは掠り傷――の、はずなのに。
この傷、自然治癒する気配がない?
「悪いがその傷は諦めろ。我が
拳銃の連射でフィンを牽制していたナイチンゲールさんが、それを、聞き咎めた。
「
あの、婦長? なんだかお顔がいつもの三倍増しで険しいような……あ。
気づいた時にはすでに遅し。ナイチンゲールさんはわたしが止めるより豪速でディルムッドに突貫をかけていた。
ディルムッドもナイチンゲールさんのただならぬ殺意を感じ取ったらしく、双槍を交差させてナイチンゲールさんが突っ張った手の平を防いだ。
――アルカトラズまでの道中で、いつだったか彼女が言った。
この世で二番目に嫌いなものは、治せない病気。ニュアンスを汲むに、「病気」には「傷」も含まれている。だから――
「そのふざけた兵器を撲滅しますッ!! この世に治らない傷などあってはならないのだからッ!!」
まさにそんな効果の宝具を、ナイチンゲールさんの前で揮ったディルムッドは、本当に運がなかった。
「こ、この膂力…ぐっ…かつて対峙した魔猪に匹敵して…!? 貴様、まさか!?」
「はあああああああああああ!!!!」
ナイチンゲールさんの手がついに黄槍を掴み、そして、握力だけで黄の槍身を砕き折った……!
「飛びのけ、ディルムッド!
横ざまから放たれた水の奔流。フィンの宝具の真名解放。
わたしははっとして、ナイチンゲールさんにぶつからんと迫る奔流の前に立ちふさがって、盾を前へ。
「
盾に真っ向からぶつかった水圧に腕が軋んだ。けれど好都合だ。直線状の攻撃であれば、盾でフィンにこの水流を反射して叩き返す。
魔力防御、最大出力!
弾いた水流は一条に束ねられ、見事フィンにぶち当たり、彼を吹き飛ばした。
「我が君!?」
主君を案じたディルムッドの見せた大きな隙。そこに――真正面から駆け込んだのは、ラーマさんだった。
「羅刹王すら屈した不滅の刃、その身で受けよッ!!」
ラーマさんがわたしとすれ違った直後、すぐそばで刃が肉を裂いた音が上がった。ラーマさんがディルムッドを一刀両断したのだ。
フィンはわたしの前方で昏倒。ディルムッドは血を流す傷口を押さえて膝を屈した。
両者共に、退去が始まる。……わたしたちの勝ち、だ。
「先輩っ」
「フォーウ!」
っと。後ろからリカとフォウさんに、ぶつかるみたいに抱き着かれた。すると、体の節々の痛みが引いていった。リカ、治癒してくれたのね。ありがとう。
「王……くっ」
「はは……まあ、仕方あるまい。いや、存分に戦った。戦い尽くした」
フィンは、光へ崩れていく自身の肉体を気にかける様子もなく、槍を杖代わりに立ち上がると、ディルムッドのほうへ歩いていく。
「私は満足だが、ディルムッド、お前は不満か?」
「はい……此度こそ勝利を、と思っていたので……」
「正直な話、勝敗はどうでもよかったのだ、私は」
フィンは飛び散った水の溜まった一画から両手でそれを掬うと、もう消えゆくばかりのディルムッドの傷口に水を、癒しの両手から施した。
「共に戦えた。ただ純朴に、貪欲に、勝利を求めた。だから、未練がましくしがみつかず、逝くとするさ。供回りを頼めるか?」
「――はい。王よ」
フィン・マックールとディルムッド・オディナ、彼らの霊基の消滅を、わたしはこの目で見届けた。
最期まで鮮やかで軽やかで、痛快な戦士たちだった。今この時だけは、フィンがリカに懸想したことを忘れてあげます。
通信機が鳴った。
わたしは通信機の音声をスピーカーモードにして応答した。
向こう側の相手は……あれ? ジェロニモさんじゃなくて、ロビンさん?
通信越しにロビンさんが告げたのは、たった二言。
《悪ぃ。しくじった》
されど、二言――この上なく絶望的な。
我ながらフィンよりディルムッドに戦闘描写が偏ったのは否めませんね。フィン好きの皆さん、申し訳!m(_ _"m)
婦長がゲイ・ボウ折れたのはね、まあ、婦長ならできるんじゃね? って天啓が下りたのですよ。実際できそうじゃね? 的な。