マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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 文字数め……orz!


ロンドン14

 わたしとリカとフォウさん、それにモードレッド卿で、ロンドンの地上に出た。地下空洞に下りる時にはこの倍のサーヴァントがいたのに、と感傷的になりながら。

 

「ここまでだな」

 

 モードレッド卿が唐突に立ち止まった。理由は明白。彼女の全身が光へとほどけて消失を始めたからだった。

 

「ナーサリー。お前も来い」

 

 リカのリュックサックからひとりでに魔本が飛び出て、モードレッド卿の手に納まった。

 

「……ごめんなさい」

「ばか、お前が謝るなよ。情けないのはオレだけだ。――でもまあ、ロンドンは救えたんだ。オレにしちゃあ上出来だ」

 

 ――イギリスには揺るぎない神話がある。国の危機にアーサー王は蘇り、再び国を統べて災いを打ち破る。でも、実際に駆けつけたロンディニウムの騎士は、叛逆のモードレッド。

 

「無念なのはここで終わりってことだな。本音を言えばお前たちに付いて行きたいが、この通り限界だ。元々、聖杯の霧で呼ばれたんだ。今回は消えるしかない。……悔しいが奴の言う通りだよ。オレたちは呼ばれなければ戦えない。それがサーヴァントの限界だ。時代を築くのは、いつだってその時代に、最先端の未来に生きている人間だからな」

 

 最先端の、未来――

 

「だから、お前らが辿り着くんだ。二人で。オレたちでは辿り着けない場所へ。七つの聖杯を乗り越えて、時代の果てに乗り込んで。魔術王を名乗る、あのいけすかねえ野郎をぶっ飛ばす。それはお前ら二人にしかできない仕事だよ」

 

 モードレッド卿……わたしは、“僕”は……!

 

「いつかまた会える。だから、またな! マシュ、リカ!」

「はい……っ」

「お世話に、なりました、モードレッドさん。――ナーサリーちゃん、ばいばい」

「フォーウ!」

 

 モードレッド卿は魔本と共に笑顔で消滅した。

 

 全サーヴァントがこの時代から退去した。第四特異点での任務が、終わった。こんな、物悲しい形で……

 

《あー、テステス。よし、やっと映像が繋がった。二人とも無事だね? やり残したことはない? ないね。ではレイシフト! 任務達成、お疲れ様~》

 

 意識が、存在が、この時代におけるわたしたちが、意味を失って、輪郭がほどけて――

 

 

 …………

 

 

 ……

 

 

 …

 

 

 意識を取り戻したわたしは、コフィンの中に横たわっていた。

 

 コフィンから起きて外へ出ると、一番にダ・ヴィンチちゃんが出迎えた。

 

「お帰り。今回は無事とは言い難いけど、とにかく帰ってきてくれてよかった」

 

 わたしと同じくコフィンから起き上がったリカが、頭を右へ、左へ。それからダ・ヴィンチちゃんを見上げ直して、小首を傾げた。

 

「ドクターは?」

「ああ。ロマニなら、あそこでヘタレてる」

 

 見れば確かに。管制席にいるドクターは、頭を片手で抱えて無言。

 ――あの人と付き合いの長いわたしは知っている。アレは相当にまずい落ち込み方だ。

 実はあの人、弱音を吐いていればまだいいほうなのだ。ドクターが無言レベルまで凹んだ時は一人にしてあげるのが、わたしの経験則なんだけど……

 

 リカがコフィンから出て、小走りで管制スペースに入った。

 

「ドクター。ただいまなのです」

「うぇえ!? あわわっ、リカ君いつの間に――って、そうか。レオナルドがやってくれたのか……ごめん。ピンチだったのはキミたちなのに。なんていうか、あまりのショックで……判断が遅れてしまって、本当にすまなかった……」

 

 リカは穏やかに首を横に振った。さらさら、亜麻色の長髪が揺れた。

 

「ラスボスの正体が分かりました。色んな情報を持ち帰れました。強制レイシフトであそこからとっとと逃げていたら、何も得るものは無かったでしょう。――あなたの失敗には意味があったのですよ。ドクター・ロマン」

 

 ――わたしも、管制スタッフの皆さんも、開いた口が塞がらなかった。

 

 原因は諸々あるが、わたしが一番度肝を抜かれたのは、リカがハキハキと物を言ったことだ。躊躇いがちで、自信がなくて、つっかえつっかえに口を利くのが、わたしの知る「いつものリカ」なのに。

 

「ですので。落ち込みたいだけ落ち込んで、自分を責めたいだけ責めてからで、いいです。いつまでかかってもいいです。それからでいいですので、また笑ってほしいのですよ」

 

 ――でも、そうか、何でもないことだった。

 思ったことがあるなら、まず言え。わたしもあなたもモードレッド卿にそう叱られた。リカはそれを実践できるようになるのが早かっただけだった。

 

「――他でもないキミにそこまで言わせて、落ち込んでいるわけにはいかないな」

 

 わたしとフォウさんも遅ればせながら管制スペースに入った。

 

 ドクターは、とてもぎこちないけれど笑顔で。立ち上がって顔を上げた時には、司令官の貌をしていた。

 

「引き続きボクらは作戦を続けよう。残る特異点を修正して、世界と未来を焼却させない。――グランドキャスター、魔術王ソロモンを名乗ったあの男が何をしようともだ」

『『『はい!』』』

 

 スタッフさんたち全員が力強く了解した。

 

 

 

 

 士気が高揚する中で、蟠りを胸に抱えているのは、きっとわたし一人だけ。

 ロンドンで“彼”の真名を知ってから、どんなに思っても言葉にはできない猜疑心を持ち帰ってしまった。

 

 

 ――ねえ、ギャラハッド。

   あなた、まだ()()にいるの?




 最後のマシュの独白が、第五章ストーリーの鍵となります。
 え? 次はらっきょコラボ&監獄塔イベじゃないのかって? もち、書いておりますとも。

 第五章のプロット的にネタバレ著しいので先に上げない、というだけで。

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