マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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終わらねえええええええ!!!!orz


オケアノス14

 水平線から迫るアルゴー号の船影が徐々に大きくなっていく。

 

 ―――決行の日は来た。

 

 海岸には、アルテミスさん、アタランテさん、ダビデ王が並んでいる。

 鏑矢を放ったのはアタランテさん。矢文を送った時と同じ精密さと、それ以上の魔力が込められた矢が、アルゴー号へと翔ける。

 

「手応え有り。意図は伝わったようだ。ここからは宝具の大盤振る舞いと行くぞ。訴状の矢文(ボイポス・カタストロフェ)!!」

「さあ、ダーリン! 愛を放つわよ! 月女神の愛矢恋矢(トライスター・アモーレ・ミオ)!!」

「モテモテで羨ましいなイアソン君。羨ましいのでお裾分けだ。五つの石(ハメシュ・アヴァニム)!」

 

 矢と投石の雨がアルゴー号を――イアソンだけを間断なく襲う。Aランクの攻撃も混ざっているんだ。あちら側は防御に専念するしかない。アタランテさんの分析が確かなら、イアソンは我が身可愛さに、護衛としてヘクトールとメディアを傍らに残し、ヘラクレスだけをこちらに上陸させる。

 

 アルゴー号のそばで水飛沫が上がった。泳いで海岸に迫ってくる巨体。

 ――来る。

 

「来たわよ、リカ。しっかりと私の身を守りなさい」

 

 わたしの後ろで待機していたリカは、頷き、エウリュアレさんと手を繋いだ。

 

《経路はボクがナビする。リカ君はとにかくエウリュアレと一緒に走ればいい》

「はい!!」

 

 ヘラクレスがついに上陸した。狂い濁った眼は、それでもしかとエウリュアレさんを見据えている。

 そのヘラクレスと、リカとエウリュアレさんの間に、わたしとドレイク船長が割って入って立ち塞がった。

 

「まずはここで抑えます!」

「とことんまで援護するよ! マシュ、この作戦はアンタに懸かってる!」

「はい! マシュ・キリエライト、行きます!」

 

 後ろでリカがエウリュアレさんと一緒に駆け出した足音が聞こえた。これで後ろに憚ることなく思いきりやれる。

 

 ――作戦はこうだ。

 上陸するヘラクレスの前に、狙いであるエウリュアレさんをあえて立たせる。ヘラクレスがエウリュアレさんを認識した瞬間が号砲。

 わたしの盾で何が何でもヘラクレスを押し留め、その間にリカはエウリュアレさんと一緒に「目的地」へ走る。

 ヘラクレスに突破されたら、わたしは俊足に名高いアタランテさんに担がれて、次のポイントで再びヘラクレスを足止めする。その間にまたリカたちが走って逃げる。このくり返し。

 

 

 第一、第二、第三、問題なくポイント通過! 次からは地下墓地(カタコンベ)が戦場だ。

 

 わたしは皆さんと一緒に地下に潜って、すぐさま走り出した。ヘラクレスがリカたちを追い詰めてしまう前に合流しなければ。

 

「リカッッ!!!!」

「先輩っ」

 

 リカとエウリュアレさんは、何と、アークを設置した場を越えてさらに奥で座り込んでいた。まさか、アークを飛び越えたの!? 何て無茶なことを……!

 

「そこまでだ、ヘラクレス!」

 

 アタランテさんの声で我に返った。いけない、気を引き締めなくちゃ。ここからが大一番だ。

 

「ヘラクレス。あなたの目の前にあるのが、イアソンが求めていた宝具です。触れれば死をもたらすアーク。今だ十の命を持つあなたを倒すには、これしかない」

 

 ヘラクレスをここで仕留める。そのためにみんなが頑張ったんだから。

 

「リカ。もうちょっとだけ我慢してくれる?」

「はい先輩」

「いい子」

 

 見ていてね、リカ。あなたの先輩の勇姿を。リカの「先輩」として、サーヴァントとして、決してあなたに恥じる戦いはしないから。

 

 わたしは盾を突き出してヘラクレスと正面から向き合った。

 静寂は一拍。

 ヘラクレスが突進し、わたしはそのヘラクレスを最大出力の魔力防御で受け止めた。

 

 ただの一合で、わたしたちの足元は軽く陥没した。このままヘラクレスと競り合っていては、地下道が崩落しかねない。わたしは即座にヘラクレスの斧剣の軌道を盾でずらして、ふり払った。

 

 ――狭い地下道では、ヘラクレスの巨体と大きなモーションは枷となる。しかし、(自分で言うのも何だけど)ちょこまかしたわたしには絶好のロケーション。

 

 ヘラクレスもまた地形の不利を悟ったようで、二撃目は初撃よりずっと浅い剣閃。

 対しこちらは一点突破のアーチャークラスと、拳銃が主武装のドレイクさんだ。鋭い矢が、石が、弾丸が、数十センチずつヘラクレスを後退させていく手応えがある。

 

「これで――倒れて!」

 

 わたしは、低い位置に来たヘラクレスの斧剣に上から飛び乗った。瞬き一つ分だけヘラクレスを縫い留めた。

 ここからヘラクレスに体当たりして、一気にアークまで後退させる。ヘラクレスがアークに少しでも触れさえすればチェックメイト――!

 

 わたしは盾を両手で握り締めて、全身でヘラクレスにぶつかった。

 

「押し込めえええええええ!!」

「はああああああああ―――!!!!」

 

 ヘラクレスの巨体を、石床を粉砕しながら押す。前へ、前へ! アークまで!

 

 鈍い音がして、わたしの前進もまた止まった。――ヘラクレスがアークにぶつかったからだ。

 

 閃光で視界が塗り潰されて、直後、ヘラクレスの姿は地下道になかった。

 

 

 

 

 ……信じられない。わたし、本当にヘラクレスを倒せた。倒してしまった。

 

 茫然としていたわたしと、アークの後ろに座り込んでいたリカの目が合った。

 わたしは我に返って、急いでリカたちに駆け寄った。

 

「リカ! 大丈夫!?」

「は、はい先輩っ。どこもケガしてないのです」

「フォウフォウ」

 

 ――危うく思い違いをする所だった。強敵を斃せたって、難関を退けたって、それでリカに何かあったんじゃ意味がない。勝利の余韻も達成感も、この後輩の無事には替えられない。わたしはそんなもののためでなく、護るために戦っているのだから。

 

「さあ、残るはあのいけ好かないイアソンだ。この海を解放しに行くよ、マシュ! リカ!」

「「はい!」」

 

 

 

 

 わたしたちはついに第三特異点の最終行程に――いいや、この大海原での最後の航海に乗り出した。

 

 わたしはまっすぐアルゴー号の船体を見据えた。不思議と怯んだり竦んだりする気持ちはなかった。

 そのわたしの隣に、自然な足取りでリカが並んだ。

 わたしはリカと一度だけ見つめ合った。わたしたちはどちらともなく手を繋いだ。

 

黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)! これが最後の航海、最後の海賊だ! 目標はアルゴー号! 連中が持っている財宝はアタシたちの自由の海だ! 全部まとめて取り返すよ! 鐘を鳴らしな、兄弟!」

 

 黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)は最速でアルゴー号に迫っていく。

 船からの大砲の斉射。加えて、エウリュアレさんを除くアーチャー3騎による射と投石。攻撃の全てがアルゴー号の船体を傷つけはしないにしても、アルゴノーツの戦力を削っていく。

 

 この事態に慌てふためいているのは、アルゴー号デッキで喚いているイアソンだけ。

 メディアは残念そうに、ヘクトールは溜息をついて、それでもわたしたちの決戦に即応する態勢であるのが見て取れた。

 

 黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)がアルゴー号に、接弦した――!

 

 わたしはリカとフォウさんを抱えてアルゴー号に跳び移った。この航海で仲間となったサーヴァント総員、さらにはドレイク船長も一緒に。

 

 デッキに着地して、わたしは即座に盾を実体化してエウリュアレさんの前に立った。

 図ったように飛来した十字槍。どうにか防ぐのが間に合った……!

 

 盾で弾いた十字槍は宙を舞って、持ち主であるヘクトールの手に戻った。

 

「フランス、ローマと来て今度はここ。遠路はるばるご苦労さん。オジサン、そういう根気は評価するなあ」

 

 ヘクトールの後ろにいるのはメディアとイアソンだけ。この三名がアルゴノーツの最後の戦力と見て間違いない。

 

「……エウリュアレさん」

「今さら変な遠慮しないの、マシュ。あなたたちはさっさとあのナチュラルにハイな魔女を退けに行きなさい」

 

 ――船に乗り込む前。厄介極まりない残存戦力のヘクトールとメディア、特にヘクトールとどう戦うか、わたしたちは話し合った。その時にエウリュアレさんが名乗りを挙げたのだ。ヘクトールは自分が引きつける、と。

 

 ヘクトールはまだアークにエウリュアレさんを生贄に捧げる企みを諦めていない。だからエウリュアレさんを生け捕りにしようとする。

 言い換えれば、ヘクトールはエウリュアレさんだけは殺せない。そこに付け込む隙がある。女神のエウリュアレさんだけではあまりにか弱いので、ダビデ王を除く全員が彼女と共にヘクトールの対処に当たる編成となった。

 

「ご武運をお祈り申し上げます、女神エウリュアレ」

「……ステンノと一緒に数多の勇者を送り出してきた私がそう言われる日が来るなんてね。まったく。サーヴァントになんてなるものじゃないわね」

 

 エウリュアレさんの手に小型の金の弓矢が顕れた。か弱い女神の、か細い武器。アステリオスさんを殺した仇への、小さくも鋭い闘志のカタチ。

 

「ドレイク船長、エウリュアレさんをお願いします」

「任せな、兄弟。コイツはアタシらのお宝だ。あんな奴らに髪の毛一本だって――くれてやるもんか!」

 

 ドレイク船長が銃を抜いてヘクトールへ撃った。それが開戦の狼煙。

 

 わたしはリカとフォウさんと、そしてダビデ王と一緒に、メディアとイアソンへ向けて走った。

 

「イアソンさま、どうなさいますか? 降伏も撤退も不可能。私は治癒と防衛しか能の無い魔術師。さあ、いかがいたしましょう?」

「うるさい、黙れッ! 妻なら妻らしく、夫の身を守ることを考えろ!」

「ええ。もちろん考えています、マスター。だってそれがサーヴァントですものね」

 

 二の腕に悪寒が走った。メディアの目の、怖気のするほどの無垢に。

 その怖気の意味を突き止めるより先に、ダビデ王がイアソンに呼びかけた。

 

「戦う前に、イアソン君に一つ質問がある。エウリュアレをアークに捧げるなんて馬鹿な考え、誰に吹き込まれたんだい? あの箱は死を定め、死をもたらす物だ。それに神霊を捧げたりしたら、ただでさえ不安定なこの時代そのものが滅んでいた」

「――――馬鹿な。嘘だろう、そんなはずは……メディア? 今の話は、嘘だよな?」

 

 その言葉で充分だった。神霊を捧げれば無限の力を得られますよ、なんて大法螺をイアソンに吹き込んだのは、メディアなんだ。

 

「神霊をアークに捧げれば、無敵の力が得られるのだろう……? だって、あの御方はそう言って」

「はい、嘘ではありません」

 

 メディアの間髪入れない答えに、イアソンの顔に笑みが戻りかけ――

 

「だって、時代が死ねば世界が滅ぶ。世界が滅ぶということは、敵が存在しなくなる。ほら、無敵でしょう?」

 

 妻の宣告によって、彼の夢想は木っ端微塵にされた。




 ヘラクレス戦の参考にアニメUBWのセイバーvsバーサーカーのシーンを何度も観返しました。斧剣に乗るとかもろ我が王インスパイア。
 それにしても第三章は終わりが見えない……
 まだ3章なのにこれとか、この先の章は軽く30話突破しそうで怖い(((;゚Д゚)))ガクガクブルブル

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