マシュを「先輩」と呼びたいだけの人生だった   作:あんだるしあ(活動終了)

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これの戦闘描写のためだけにパイレーツ観直すべきか真剣に悩んだ


オケアノス4

 わたしとリカとフォウさんは、ドレイク船長自慢の黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)に乗船して、ついに航海へ乗り出した。

 

 わたしはどこまでも広がる大海原を見渡した。

 はあ、と感嘆の息が零れる。

 見渡す限り海だなんて初めてだ。鮮やかな蒼の水面が太陽の光を受けてキラキラ輝いている。それも一面同じ蒼じゃなくて、反照の具合や深度によって色を変えるから、見ていて飽きない。

 

「見て見て、フォウくん。ずーっと海だよー」

「フォウ、フォーウ」

 

 リカもフォウさんも明るい顔と声で水平線まで続く風景を見ている。

 

「リカ、楽しい?」

 

 するとリカはきょとんとしてから、ふんわりと微笑んだ。

 

「あたしが楽しそうに見えるなら、それは先輩が楽しいからです」

「わたし?」

「どんな素敵な場所でも、先輩が楽しくないならあたしも楽しいなんて感じません。逆にどんな過酷な環境でも、先輩が楽しんでるなら、あたしにとってそこは天国です」

 

 ―――いま、とんでもない大告白を受けた気がするぞ。

 

「あ、あの、すいませんでしたっ。やっぱ今の無しで。忘れてくれていいですから」

「やだ。一生忘れない」

「せ、せんぱぁい」

「フォ~ウ♪」

 

 でも残念。はしゃいでばかりじゃいられない。今回は、フランスともローマとも勝手違う。リカたちのことは「先輩」のわたしが責任を持って護――あ、カモメ発見! それに海賊船、も……

 

 見てる。リカとフォウさんが、わたしを、じーっと。

 

「ちょ、ちょっと行ってくるっ」

「お気をつけて!」

「フォウ!」

 

 リカもフォウさんも。敬礼は海賊じゃなくて海軍だよ。嬉しいからいいんだけどね。

 

 

 

 

 わたしはまずドレイク船長のもとへ戻った。

 

「ドレイク船長!」

「ああ、マシュかい。ちょうどいい、アンタも手伝っとくれ。景気づけに一つ沈めてやろうじゃないか」

「互いに不干渉のまま通り過ぎるという選択肢は……」

「ないない。アタシら海賊、あっちも海賊。となれば顔を合わせてやることは決まってんだろう?」

 

 ドクター・ロマンから通信が入った。

 

《人命の被害なら気にしなくていい。波形を探査するに、それは海賊の概念のようなものだろう。『大航海時代』に刻まれた一種の霊体だ。役割を果たすためだけに動いている。『平均的な海賊』の無限コピーとでも言おうか。おそらくその世界を修正しない限り無限に生まれ続けるバグだろう》

「一言で説明すると、幽霊のようなものですね」

 

 ドレイクさんの目に昏い色が浮かんで来た。これは、もしや、ドレイク船長ってまさか――

 

「訂正します。実体のある幽霊です」

「あ、あるんだ実体。ならオッケー! 何の問題もないね」

 

 いや、あえて指摘すまい。ドレイクさんの豪放磊落な笑顔を崩したくない。

 

 幽霊船と黄金の鹿号の距離が縮んでいくにつれて、船内が慌ただしさを増していく。

 大砲に弾丸を詰める人たち、武器庫から種々の武器を持ってくる人たち、望遠鏡で幽霊船を観察してドレイクさんに入れ替わり立ち代わり報告する人たち――

 

「よーし、野郎ども――」

 

 接弦した――!

 

()えぇ!!」

 

 全大砲が弾丸を幽霊船に向けて発射した。

 

 幽霊船からも弾丸が跳んできたけれど、黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)に当たることはなかった。わたしが盾を開くまでもなく、船体が弾丸を避けた。

 魔術も神秘もない、操舵手の優れた技術によって回避した。

 ――これが、海賊。

 

「連中にウチの舟板を踏ませるな! アタシに続け、アホウども!」

『オオオオオォォォーーー!!』

 

 ドレイクさんが一番に幽霊船に飛び移るのに続いて、カトラスを持った海賊の皆さんが怒涛のように幽霊船に押しかけた。――はっ、見惚れてる場合じゃなかった。わたしも行かなければ。

 

 わたしは船の桟に上がった。――真下は、海。心臓が絞られた心地がした。

 

 だめ。立ち竦んでる情けない姿をリカに見せるわけにはいかない。だってわたしは「先輩」なんだから。

 

 だから、だからわたし、跳ぉ……べぇ!!

 

 や、やった。着地成功――と安心する暇はなかった。

 幽霊船の海賊がわたしに斬りつけようとしている。わたしは急いで盾でそれを防いだ。ここからどう反撃するか――

 

 と、急に敵が倒れた。顔を上げると、離れた位置からドレイク船長が、笑って銃を持つ手をひらひら振っていた。あの人がこの海賊を撃ったんだ。

 

 幽霊船の上にいるコピー海賊は半数以下に減っている。

 

 わたしは今度、自分から踏み出して、盾を全力で薙いだ。盾の圧でコピー海賊を5人ほど吹き飛ばせた。

 

 ついに残りのコピー海賊を、ドレイクさんが銃撃で仕留めた。

 

「さてさて、何かお宝でも――」

「水を差して申し訳ありません、船長。経験則ですが、こういった特殊な場は制圧すると消滅します。すぐに撤退すべきかと」

「そうなのかい? ま、そういうことならしょうがないさね。野郎ども、撤収だ!」

 

 ドレイクさんも海賊団の皆さんも次々と黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)に戻っていく。

 最後にわたしが黄金の鹿号に跳び移ってデッキに着地した所で、ちょうど幽霊船が分解・消失した。

 

「先輩っ」

「フォフォウ!」

 

 リカがフォウさんを肩に乗せて、わたしに駆け寄ってきた。

 

「大丈夫でしたか?」

「ええ。どこもケガしてないでしょう?」

「――――」

「リカ?」

「っ、いいえ、そうですね。何ともなかったならそれが一番、ですよね、はい」

「あなたこそ大丈夫だったの?」

「それは、はい。何とも。あ! 隠れないで、ちゃんと先輩が戦ってるとこ、ずっと見てましたよ!? ね、フォウくん」

「フォウフォーウ!」

 

 ――自衛手段がない分、わたしより恐怖は強いだろうに。

 

 わたしはリカを抱き寄せて、亜麻色の頭を撫でてあげた。ありがとうの気持ちを込めて。

 

 潮風が吹きつけたので、わたしは顔を上げた。

 黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)が再び海を進み始めていた。

 戦闘後で汗を掻いた体に、風が少しばかり寒かった。でもこんなに天気がいいんだから、お日様の光ですぐに温まるよね?

 

 

 

 

「ところでさー」

「はい?」

「結局、この海には『何』があると思う?」

「ドクターの仰ることが正しいなら、財宝はあるかもしれません。ただ、そうなると……財宝を狙う海賊もまた、ドレイクさんだけではないでしょう」

「あっはっは、滾るねえ! 早い者勝ちってのは実に分かりやすい」

 

 そんな話をしていると、物見の方がやって来た。東北東方向に島が見つかったそうだ。

 海賊島を出て、初めての陸地。

 わたしはドクターに確認した。――島にはサーヴァント反応がある。

 

 わたしはドレイク船長に頼んで、子分の皆さんには船に残ってもらうようにした。この中でサーヴァントと渡り合えるのは、わたしたちと、聖杯を持つドレイクさんだけ。子分さんたちを護りながら戦うだけの力量は、わたしには、まだ、ない。

 

 

 

 

 

 新しく見つかった島。

 わたしと、リカとフォウさん、それにドレイクさんとで、砂浜から上陸した。

 

 慎重に進まなくては。せめてこの島にいるサーヴァントが敵なのか味方なのか分かるまでは。

 

 ……む? ドレイク船長、おもむろに銃を抜いて、どうされ……

 

「そのあたりかあ?」

 

 撃った。…………撃った?

 

 わたしは慌てて盾を実体化させた。敵影らしきものは、わたしの視界にはいないけれど。

 

「何となく気配がしたから撃ってみた」

「『何となく』!? 『撃ってみた』!?」

「悪い予感がしたら銃声で打ち払う。生きるためのコツだよ?」

 

 何て乱暴な。それは無法者の精神構造だ。

 

 リカが、きょと、と小首を傾げた。まるで動揺が窺えない……この子はこんなに肝が据わっていたっけ?

 

「当たりました?」

「あはは、そんなの見るまで分かるもんか。死んだか殺したか、ちょいと見てくるよ。リカも付いて来るかい?」

 

 リカがわたしをふり返った。目が、ドレイクさんと行っていいかを問うている。

 ……ええい、ままよ。こうなったら逃げ隠れしても手遅れだ。リカを一人にはできない。

 

 結局わたしたちは全員で、ドレイクさんが銃弾を撃ち込んだ茂みに割って入った。

 

 

 

 

 茂みから続く山林地帯に、人や魔物はいなかった。あったのは、石板が一つ。刻んであるのはルーン文字だった。ドクターに解読を頼んだのだけど、答えたのはダ・ヴィンチちゃん。通信の向こうでドクターが「仕事取らないで」と言っているのが聞こえた。

 

 肝心の石板の内容はというと――「一度は眠りし血斧王、再びここに蘇る」と。

 

《け、血斧王は9世紀のノルウェーを支配したヴァイキングの王だよ!》

 

 慌てて言うくらいに仕事取られたくないんですね、ドクター……同情します。

 

「ヴァイキングね。言うなればアタシたちのご先祖様か。その王様がこの島にいるって?」

「その通りです」

「それじゃあなおさら、そいつに獲られちまう前にお宝を探し出さないとね。さあ進もうじゃないか」

 

 ドレイクさんは意気揚々と、森をさらに分け入って進んでいく。わたしは、段差や苔むした地面の前でリカの手を引きつつ、ドレイクさんの背中を追いかけた。

 

「ん~、くんくん。財宝のにおいがしないかな~」

「船長、財宝は匂いませんよ」

「あっはっは! そう思うかい? だが財宝ってのは匂うもんなんだよ」

 

 海賊となると五感まで一般人と違うベクトルを向いていそう、なんて思ってしまったわたしである。

 

「その目は信じてないな? それじゃあ賭けと行こうか。アタシの言った通り、ここに財宝があったら……そうだ! 世界一周の旅に付き合うってのはどうだい?」

「世界一周、ですか」

「この海域を脱出してイングランドに戻ったら、アタシは黄金の鹿号で世界を巡るつもりだったのさ。どうだい? アンタが協力してくれるなら、どんな状況でもひっくり返せそうなんだけどねぇ」

 

 ――わたしはカルデアの外を知らない。こうして色んな時代にレイシフトして色んな環境に触れただけでも儲けものなのに、これ以上にたくさんの世界を知りに行って――いいの?

 

「その代わりアタシが負けたら……うーむ。何か欲しいものでもあるかい?」

「……何も要りません」

 

 リカの答えた通り。強いて言うなら、こうしてドレイクさんに協力してもらっていることが報酬だ。

 

「――リカ。それってつまり、欲しい物が無いんじゃなくて、何も望んでないって意味かい?」

「……そういうことになる、と思います」

「難儀な性格してんだね。アンタ」

 

 ? ドレイクさんの言ってること、両方とも同じに聞こえるのに。二人にしか分からないニュアンスの差があるらしい。――ちょっと、疎外感。




最後のリカとドレイクのやりとり、地味に大事だったりするんです。

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