金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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ケスラー、絶好調!
イリヤ、怒り心頭!
ミュラーーーっ!?


第047話:”若さゆえの過ち”

 

 

 

カストロプ本星に接近する小惑星”アクシズ”……

ウルリッヒ・ケスラー討伐軍司令官の目的は、”アルテミスの首飾り”の火力では破壊しきれないこの巨大質量を落下させること……

 

「貴様、正気かっ!? こんな物を落とせば、星が冷えて人が住めなくなるぞっ!!」

 

落下不可避となる阻止限界点を越える前に軌道を逸らすべく、全力で迎撃に向かったのはエリザベート・イリヤ・フォン・カストロプ率いるカストロプ守備艦隊、通称”イリヤ艦隊”。

なりふり構わずかき集められた玉石混淆の艦艇総数は、5000隻に達する。

 

『それがどうした? 私は討伐に来てるのだよ』

 

「聞いてるぞ! この討伐とやらが成功すればカストロプの半分は貴様らの物になるなるのだろう!? それなのに星を壊してどうするっ!!」

 

イリヤは吼える。

アクシズの表層近辺、ど真ん中に陣取る赤い戦艦を睨みつけながら。

 

『何か誤解しているようだが……我らが盟主、ヤン・ヴェンリー・フォン・ローエングラム伯爵元帥はカストロプ領など別に欲してはおらんよ。ヴェンリー領に続きつい近年ローエングラム領まで手に入れ、新たな領土の経営を軌道に乗せるのに忙しい。この上、カストロプの半分を賜った日には、手が回らなくなるそうだ』

 

「貴様……!!」

 

『気に入らんようなら言い方を変えよう……これは粛清なのだよ! カストロプの重力に魂を引かれ、叛乱を起こした者達への』

 

「それはエゴだ!!」

 

『何を今更。いずれにせよ君がこの現状を変えたいのなら、力尽くでも止めるしかあるまい?』

 

「言ったなっ! なら貴様の言葉通り力尽くで止めてくれよう!! 全軍、突撃せよっ!!」

 

イリヤの号令一下、艦隊が動き始める!

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「……おい、ウルリッヒ・ケスラー」

 

イリヤ艦隊とアクシズ前衛艦隊が。そろそろ互いを射程に入れようかという頃……

 

『何かな? イリヤ嬢』

 

「貴様! いつまでその岩塊にへばりついている!? イソギンチャクか何かかお前はっ!!」

 

イリヤが激昂している理由は、ただ一つ。

センサーに間違いがなければ、宿敵である赤い戦艦……”バルバロッサ”は初期位置から微動だにしていなかった。

ケスラーは内心、「イソギンチャクとは中々上手いことを言う」と感心しながら、

 

『なに、私にも部下というものがいてね。年若い彼も、そろそろフロイラインのダンスへの誘い方や踊り方を覚える頃合だと思っていたのだよ。そうではないかね?』

 

通信画面に強制操作で新たなウィンドウが開かれ、

 

『なあ、ミュラー』

 

 

 

『ケ、ケスラー卿!? いきなりなんてことするんですかっ!?』

 

唐突に画面に映し出されたのは、軍服姿の人のよさそうな青年……

 

「……誰だ? お前は?」

 

そんな彼にイリヤは怪訝そうな表情を隠そうともしない。

 

『ミュラー、敵とはいえ自己紹介くらいしたらどうかな? これはフロイラインに対する礼儀の問題だよ。敵味方に関係なくね』

 

対しケスラーは涼しい顔で、

 

『なっ!?』

 

画面上で困惑と驚愕に染まるミュラーだったが、ケスラーは面白そうな顔をしながら……

 

『卿は少々アドリブに弱いからな。ちょうどいい機会だろ?』

 

『……ケスラー卿、私は軍人であり役者ではないのですが?』

 

『これも立派な軍務さ』

 

 

 

「お前ら! コメディを演じたいのなら他所でやれっ! わざわざカストロプまで来てやるんじゃないっ!!」

 

ついに堪忍袋の緒が切れたように指揮杖代わりに愛用してるピンクのバルデッシュを画面に突きつけるイリヤだったが、

 

『冗談ではない。我々は本気で戦争を楽しみにきたのだよ。それに私もだが彼もコメディアンではなく、正真正銘君の眼前に展開している艦隊の若き司令官さ』

 

イリヤがもうじき射程に収める敵前衛艦隊……琉球武器の”(サイ)”のような印象の無骨な戦艦を中心とした艦隊が、顔立ちは整っているが、いやだからこそ軍人よりも映画俳優の方が似合いそうな灰銀髪の青年が提督だということにイリヤは心底驚いたらしく、

 

「この若造がかっ!?」

 

『君のほうが遥かに若く見えるけどね、”お嬢ちゃん”』

 

流石に”見た目幼女(イリヤ)”から若造呼ばわりされたのは心外だったのか、ちょっとムッとした様子で切り返すミュラー。

ケスラーは「これも若さか」と聞こえぬ小声で呟いた。

 

「ほほう……このエリザベート・イリヤ・フォン・カストロプを、お嬢ちゃん呼ばわりとはいい度胸だな? その度胸に免じて名を聞いてやる」

 

『別に度胸があると自負してるわけじゃないが……小官はナイトハルト・ミュラー准将。君を倒しに来たローエングラム元帥府に属する提督の一人だ』

 

「カカッ! 言いよる! お前のような青二才に我が討たれると申すかっ!!」

 

『少なくとも君が私に勝つよりは、勝算あると思うけど?』

 

イリヤはギロリと睨み、

 

「ミュラーとやら気に入ったぞ! 思わず捻り潰してしまいたいほどになっ!!」

 

『それはこちらの台詞だ! 潰せるものなら潰してみせるがいい!!』

 

「ウルリッヒ・ケスラー! 今すぐこの”()()”を駆逐して、岩の玉座でふんぞり返っている貴様を引きずり出してやる! 首を洗って待ってるがいいっ!!」

 

『笑わせるな! お前の相手などケスラー卿が出るまでも無い!!』

 

 

 

そして二人の声が唱和する!

 

「『全艦、砲撃戦用意!!』」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

通信を遮断したケスラーは、「いつもの自分」にメンタルを戻し、気持ちをリセットする。

”演技者としての自分”は、とりあえず当面は必要ないはずだ。

 

ケスラーは現在の結果に、情報将校という意味においては非常に満足していた。

プロパガンダ放送で”アクシズ落下”がカストロプ討伐の本命だと信じ込ませることができた。

 

そして今回の通信で、「バルバロッサはアクシズの最終防衛ラインに居る」とイリヤに完全に()()させることができた。

言うまでも無くイリヤとのファースト・コンタクトから演説、そして今回のセカンド・コンタクトに至るまで、全ては計算ずくの謀略だったのだ。

 

ケスラーの目的は、アクシズ落しなどではなくあくまで”イリヤ艦隊の無力化=イリヤの捕縛”である。

ミュラーに事前相談なしで繋げたのもその一環。ミュラーに演技はまず不可能と見ていたので、だからぶっつけ本番でやったのだが……

 

(想像以上の成果だ……)

 

ミュラーがしどろもどろになって侮られたなら、それはそれでやりようはあった。

だが、成果は上々。イリヤは自分がアクシズに居ると信じ込み、最初に倒すべき敵をミュラーに定め、自分を認識しながらも思考の外に追いやった。

だが……

 

「ミュラー……12歳の女の子と同じ目線で言い争ってどうする」

 

ちょっとミュラーが心配なケスラーであった。

 

「見てしまうものだな。若さゆえの過ちというものは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




鉄壁さんがフラグ建てよった!(挨拶

ミュラーで遊んでるようでいて、実はしっかり計略の内だったケスラーです(^^


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