金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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サブタイ元ネタはアレですな。
射てる→射る+いてこましたる?
ただし射るのは中性子ビームのようですが。


第040話:”イリヤ様が射てる”

 

 

 

「ふん……つまらぬ有象無象どもだ。ろくな抵抗も出来ずに瓦解するとはな。同じ帝国貴族として嘆かわしいにもほどがある」

 

と宇宙戦艦の艦橋、それもアドミラル・シートに腰掛けて、壊滅した貴族艦隊を鼻で笑うのは、年端もいかぬ……見かけ通りなら、年齢が二桁に達したかどうかも怪しそうな幼女だった。

先天性色素欠乏(アルビノ)と思われる雪のように白い肌に白銀の長い髪……身長140cmに満たないだろう、出るとこは当然のように出ていない凹凸の乏しい華奢な肢体……

 

「これではヴァルハラも門戸を開かんだろう。あれは戦士の魂が最後に行き着く場だからな……戦士でもない者に開くわけも無い」

 

ただ、そのルビーのように紅い瞳には、常人を竦ませ睥睨するような力があった。

幼い体を漆黒の軍服と純白のマントに包み、指揮杖代わりに握るは身の丈を越える《ピンク色》のバルディッシュ!

制帽を阿弥陀に被り、スクリーン一杯に広がる船の残骸を上機嫌に見据える彼女こそ……

 

「敗残兵どもよ! その魂の奥底に刻むがよい! 我が名はElijah(イリヤ)! エリザベート・イリヤ・フォン・カストロプである!!」

 

ファーストネームではなく”自分でつけた”ミドルネームを強調するイリヤ。

Elijah……イリヤ、もしくはエリヤ。それは新旧の聖書にも登場する古代の王にして奇跡を起こせし者の名……

皆さんも既にお気づきだろう。

この娘、

 

「我が名の元に平伏するがよい!!」

 

見事なまでに重度の中二病を患っていたのだ!!

 

 

 

年齢的にはしょうがないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

「どうやら彼女は絶好調みたいだねぇ」

 

と緊張感の無い声で、宇宙時代でもしぶとく生き残ってる紙媒体の新聞を読むヤン。

ここは毎度御馴染みヤン元帥府の執務室。

 

船がそろそろ揃い始めているので、提督達はいそいそと編成された艦隊の調練を兼ねた愛艦の慣らし航海(シェイク・ダウン)へと向かっていた。

 

実は珍しいことにキルヒアイスも不在……というのもヤンの代理として直轄艦隊への訓練観察と乗り手(ていとく)が決まらなかった”フォルセティ”の慣らし航海だ。

基本的に先生にべったりのキルヒアイスだが、いざ有事となったときに『先生の手足のように自在に動かせなければ意味が無い』と張り切って出発していた。

ヤンはヤンで、

 

『ジークもそろそろ、その手の経験を積んでもいい頃だしね』

 

という調子だった。

まあ艦隊訓練の総監としてメルカッツが宇宙に上がってるし、直轄艦隊は自分の分艦隊の訓練もかねて元級友の芸術家肌(メックリンガー)が束ねてるので問題は無いだろう。

 

ついでに言えば、分類上は明らかに悪友であろうブラウベア(オフレッサー)は、実は憲兵隊……というかキスリングに懇願され制圧任務に同行しており、留守にしていた。

 

キスリングの部隊は元帥府付きとはいえ基本的には出向扱いで、ひとたび憲兵隊上層部の命令があれば現場へ駆けつける義務があった。

 

ではオフレッサーに同行を頼むその意図は……逮捕されるのが嫌で「貴族特権を盾に屋敷に立てこもる輩の対処」のためとでもなるだろうか?

基本、軍で逮捕権を行使できるのは憲兵隊だけなのだが……どこにでも往生際が悪い者はいるもんで、貴族特権を振りかざされるとどうにもやりにくい。

というわけで『先生、お願いします!』『うむ』という時代劇の悪側のようなノリで御登場願うのが、強面が揃い踏みのオフレッサー率いる装甲擲弾兵(パンツァー・グラネディア)というわけだ。

 

ついでに言えば、彼らの装備はヤンのテコ入れ……『ブラウベア、出かけるついでに試作陸戦装備のテストを頼めるかい?』と渡された新装備の数々で、ただでさえ厳つい面子が更にその厳つさに磨きをかけていた。

 

例えば供給された”新型軽量装甲服”。性能詳細は省くが……その黒色に染められた硬質な外観は、「どこからどう見ても犬狼伝説(ケルベロス・サーガ)に登場する”プロテクト・ギア”です。ありがとうございました」という感じなのだ。

 

プロテクト・ギアを御存知の皆様には想像して欲しいのだが……重火器やトマホークで武装した死神を具現化したような黒甲冑集団が明らかに治安用ではなく野戦用の戦闘装甲車で乗りつけてぐるりと自分の家を取り囲み、雄叫びをあげ武器を打ち鳴らし、演習モード(非殺傷設定)でMG42っぽい大型速射ブラスターを空に向けて発砲し、庭には同じく爆風も破片も飛ばない非殺傷武器だが代わりに強烈な音と閃光を放つスタン・グレネードを投げ込んでくるのだ。

 

これで心が折れないほうがむしろ異常だろう。

 

オフレッサー的には(ぬる)すぎるミッションだが、明らかに装着時の快適性が格段に増した装甲服をはじめ、限定的とはいえ新装備のテストができてそれなりに旨味があるようだ。

加えて、”オーディン()()”のシミュレーションもこっそりできるとなれば尚更だろう。

 

ちなみに万が一にも頑迷に立てこもりを続けたり、抵抗してきた場合は普通に発砲許可が出ているのは御愛嬌。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

とまあそんなこんなで今の元帥府はガラガラ。無論、元帥府の機能を維持できる人員は残っているが、それ以上のものではない。

そして、

 

「ご主人様、お茶です」

 

「ああ。ありがとう(ダンケ)、ショーシャ」

 

表情には出さないが上機嫌な元帥府付き従軍メイドのショーシャである。

浮気相手になりたいとは言わないし、子種が欲しいとも言わないが、”ヴェンリー家の暗部(カリオストロ)”の女性構成員にはありがちなことなのだが、彼女のヤンへの想いもわりと重い……いや、洒落ではなく。洒落にもならない程度に。

具体的には主の使用済みの物品を後生大事にとっておいて、後で部屋で一人の時にこっそりクンカクンカしたりペロペロしたりするくらいには慕っていた。

その時、自分の下着は洗濯が必要な状態になるようだ。

当然、それがヤンにバレるようなヘマはしない。バレたところでヤンは苦笑するだけだろうが、奥方にバレたらどうなるかは微妙なところだ。

 

「随分と楽しそうに記事をお読みですね?」

 

「まあね。わずか12歳の少女にいい大人の貴族艦隊がケチョンケチョンにやられたともなれば、もう笑うしかないだろ?」

 

ヤンが読む新聞には、

 

『貴族に死後似合うのはヴァルハラなどではない! 似合いなのはコキュートス、それもジュデッカであろうな!』

 

とイリヤが言い放ったとされる啖呵がヘッドラインを飾っていた。

一応、解説しておけばコキュートスはダンテの『神曲』の中では地獄の最下層とされ、ジュデッカはその中心にある場所で『恩ある者を裏切った咎人』が落とされる地とされる。

ヘルヘイムとかニヴルヘイムとか言わないあたりが、彼女らしいといえば彼女らしい。

 

「ご主人様の見立てだと、その天才少女の天才は()()でしょうか?」

 

「多分、本物じゃないかな? 少なくとも軍事的才能は凡庸じゃないよ」

 

 

 

さて、マクシミリアン・フォン・カストロプが叛乱を起こしてからのあらましを軽く書いておこう。

最初、説得の為に旧カストロプ閥の重鎮、フランツ・フォン・マリーンドルフ伯爵がマクシミリアンの説得に向かったが、説得は失敗し軟禁されてしまう。

その時のヤンのコメントは、

 

『説得に応じるくらいなら、最初から叛乱なんて起こさないさ。むしろマリーンドルフ伯を星に招きいれ交渉テーブルについたマクシミリアンを評価するべきじゃないかな? もっとも彼は伯を最初から人質にするつもりだったかもしれないけどね』

 

と割と辛辣な物だった。

ヤンにとっては軟禁されたされないは所詮、カストロプ閥の問題。マリーンドルフ伯が出向いたのも、旧盟主の子息が叛乱などを起こしたら、カストロプ閥全体に咎が及ぶ可能性を考えたからだろうし、自ら率先したのも身の潔白を証明したい……つまり保身目的の行動だと見透かしていた。

 

少なくともヤンは前世において「ヒルダがどうやってラインハルトに取り入ったか?」を聞きかじり程度だが知っていた。なので、その評価はおのずと準じた物になる。

前世の記憶を必要以上に信じるのは危険だが、相対的に比較して大きな差が無いなら参考程度にはなるとヤンは経験から知っていた。

 

誤解の無いように書いておくが……前世においてヒルダ、ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフの行動にヤンは別に嫌悪感を持ったわけではない。ただ、『良くも悪くも貴族政治家らしい行動だねぇ』と思っただけだ。

もっとも、女性として見た場合は、

 

『政治家を娶るほど酔狂じゃないさ』

 

とでも言うだろうか?

ヤン的には、「犬耳や怪しげな尻尾や首輪やリードをもって潤んだ瞳で甘え擦り寄ってくる妻」のほうがよほど魅力的なのだろう。

人としては割と駄目な気もするが……そんな浮世離れ(?)した部分も含めて、ヤンは”可愛いエルフィン(エルフリーデ)”を溺愛していた。

 

 

 

それはともかく、マリーンドルフ伯が軟禁された後……

 

『ふむ。元貴族が起こした乱ならば、同じ貴族が治めるのが道理というものであろう』

 

とフリードリヒ4世が半ば勅と呼べる発言をしたのだ。

平たく言えば”煽った”とも言う。

 

大義名分を得た若手貴族達の選抜チームは、普段は示す機会が無く持て余し気味の『自慢の軍事的才能』を存分にふるい、陵辱と略奪の宴となったクロプシュトック事件の再来を夢見つつカストロプ領へと侵攻をしたが、

 

「それにしても見事なまでに返り討ちにされたもんだ」

 

現在に至るという訳である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




イリヤ様は中二病!!(挨拶

ただしキャラ的には色物なのに、実力は本物なのがこの娘のタチの悪いところ(^^


はてさて、この内乱は果たしてどう動くことやら……



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