金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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珍しく日に二度目の投稿。


第004話:”彼れを知りて己を知れば、百戦して危うからず”

 

 

 

「まさに先輩の言うとおり、”彼れを知りて己を知れば、百戦して危うからず”ってとこですね」

 

ヤンはニヤリと微笑みながら懐刀の一振り、故リヒャルト・フォン・グリンメルスハウゼンから黒皮の手帳や()()と共に受け継いだウルリッヒ・ケスラーを促した。

 

そして一同の眼前には三次元投影(ホログラム)式の空間展張ディスプレイによりアスターテ近海の彼我の戦力予想模式図がリアルタイムで表示されていた。

この手の装備は普通、ブリッジにしかないが情報を重んじるヤンはそのスケールダウン版をブリュンヒルトの私室に取り付けていたのだった。

 

「さてウルリッヒ、我々の前に立ちはだかる敬愛すべき同盟の勇者、第2艦隊を率いるパエッタ中将に第4艦隊のパストーレ中将、さらには第6艦隊のムーア中将を君はどう評する?」

 

ヤンは公的な場ではなく私的な場では”反乱軍”という呼び方を使わないことは近しい者の間ではよく知られていた。

彼に言わせれば、『敵対者を蔑んだところで我が軍が強くなるわけでもあるまいし。むしろ無意識の侮りとなるのなら害悪でしかない』とのこと。

 

「”金権主義者(トリューニヒト)の腰巾着”ですね。あの者の政治的バックアップがなければ提督の器があるかは疑わしい」

 

「いっそ清々しいまでにバッサリと切り捨てたもんだね」

 

ヤンは苦笑するが否定はしない。

前世の記憶を頼りにしすぎるのも危険だが、公的なものだけでなく私的にもフェザーンを経由して行った諜報や情報収集の結果、彼らの人物像は彼が”知っていた”ものと大きな差異は無い様で安堵した経緯がある。

 

「パストーレ中将は予想外の事態が起きたときの対応力に乏しく、思考の柔軟さや精神的安定に問題があります。ムーア中将は粗暴な性格から思考が硬直しやすく頑迷な性質なようです。攻勢作戦は出来ても耐えの防御戦に対する適性は低いかと」

 

ケスラーの報告にヤンとメルカッツは同時に頷き、

 

「パエッタ中将は二人に比べてバランスこそ取れているけど、果断さはなく小さくまとまりがち……ってとこかい?」

 

「御意」

 

そう返すケスラーに、

 

「だとすると潰す順番は第4→第6→第2の順番かな? 位置的にも無理や矛盾はないし」

 

「そのココロは?」

 

面白そうな顔をする休みの日になるたびにオーディーンにあるローエングラム伯爵の別邸かお隣のキルヒアイスの実家で飯を食ってることの多い食客将軍のファーレンハイトに対し、ヤンは『わかってるくせに』と言いたげな表情で、

 

「要の位置……中央に居るパストーレ中将は奇襲に弱い。それに彼我の距離が最も近いからね。まず真ん中の艦隊を潰して左右の連携を断つ」

 

不意にヤンの視線が鋭くなり、

 

「第4艦隊の殲滅には時間はかけられないよ? 手間取ると左右から第2と第6に挟撃される……だから奇襲で一気呵成に攻め、一撃離脱気味に削って戦力より脱落させる。第2ではなく第6を次の標的にするのは防戦となったときの粘り腰の差だね。誤差の範囲かもしれないけど……あっさりつぶしてくれるならそれに越したことはない。我々は三連戦しなくてはならないんだから、時間はかけたくない」

 

 

 

「ほう……我が後輩は、第2をこの3艦隊の中では最も難敵と見るか」

 

メルカッツの言葉にヤンは頷き、

 

「ええ。さっきも言ったとおり、思い切った手は打ってこなくともバランスがいい。それに、」

 

ヤンは立体投影される画像に第2艦隊の人員リストを追加し、

 

「提督の質もさることながら、あそこの参謀には気になる名前がありますから」

 

と二人分の名のホログラムを指でなぞり色を変えると同時にパーソナルデータを呼び出した。

 

「”マルコム・ワイドボーン”に”ジャン・ロベール・ラップ”……? おや? どこかで聞いたことがあるような?」

 

首をひねるメルカッツに、ヤンに二杯目の紅茶を煎れたキルヒアイスはにっこりと微笑み、

 

「自由惑星同盟のプロパガンダで言うところの”エル・ファシルの英雄()()()”ですよ。メルカッツ大将」

 

だが表情に対し、その目は笑っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




元の世界線に例えるとこんな感じ?

キルヒアイス→ユリアン
ファーレンハイト→アッテンボロー
メルカッツ→ビュコック爺さん
シェーンコップ→巨大ドワーフ

ちなみにシトレポジは某ミュッケンさん?

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