金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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カストロプの命運は……確定ですな(えっ?


第038話:”どうするんじゃ?”

 

 

 

オイゲン・フォン・カストロプ公爵……15年もの間、財務尚書を勤めたこの男の処分が決まったらしい。

 

そもそもカストロプが今まで生かされてきた理由は、懲りずに帝国に経済侵食をしかけてくるフェザーンの金の流れと、それに組する売国奴の内定調査を行うためだ。

 

それが特定できた昨今、いつ処分されるかは時間の問題だったが……なんのことはない。それが公式に決まったというだけの話だ。

 

「さて、ヤン……ヌシはどう動く?」

 

親しげに問うオールド・マッチョ……もとい。フリードリヒ4世に、

 

「”どう”、とは?」

 

リヒテンラーデは溜息をついて、

 

「おぬしなら一々説明しなくともわかるであろうに」

 

「いえいえ。言葉を聞きながら論点を整理し、思考を積層させるのは重要な作業ですよ?」

 

むしろフリードリヒは面白げに、

 

「なるほどなるほど。我が”()()()()()()()()”は、老化による認知症防止の為に老人達に脳トレせよとおっしゃるか」

 

「いえいえ。未だ衰えの欠片も見えぬ皇帝陛下と()()()()にそのようなことを言うなど、おこがましいを通り越して不敬の極み」

 

「何を白々しい」

 

と呆れ顔のリヒテンラーデ。そして気を取り直し、

 

「カストロプ公オイゲンの死と同時に公の悪事が一切合財白日の下に晒され、その罪をもってお家は断絶、資産は1帝国(ライヒス)マルクも残さず没収じゃ。そうなれば……」

 

「叛乱を起こすでしょうね……公爵になり損ねた息子のマクシミリアンは。というかそこまで徹底的にやるってことは”ブタの貯金箱を叩き割る(不正蓄財を含む全資産没収)”よりも、むしろカストロプ公爵家を歴史用語にするほうが主眼と考えていいので?」

 

ヤンの言葉に頷いたのは、本人曰く”年上の義弟”たるフリードリヒで、

 

「よい見せしめになるであろう?」

 

「それはどちらに対しての? 増長する門閥貴族? フェザーン?」

 

「両方に決っておろう」

 

ヤンの言葉にウインクで返すのは、歴史ある家を蔑ろにすることに定評のあるフリードリヒ。

存外にお茶目な爺である。まるででっかい悪戯小僧のようだが、こういうところがB婦人を骨抜きにしたのではあるまいか? あと筋肉。

 

 

 

「ふむふむ」

 

ヤンは何度か頷き、思考を吟味し出した結論は……

 

「なら、私がすぐ動くのは得策ではないでしょう」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ヤン、どういうことじゃ?」

 

「強いて名づけるなら、”二虎共食の計”ならぬ”二鬣犬(ハイエナ)共食の計”とでもなりましょうか?」

 

「そのココロは?」

 

禅問答の『作麼生(そもさん)説破(せっぱ)』ではないが、小気味のいい斬り返しをしてくるリヒテンラーデに、

 

「門閥貴族の若者達は、味をしめてると思うんですよね……”クロプシュトック事件”の略奪と陵辱を」

 

とヤンは憂いを帯びた表情を見せる。

 

「ほほう。つまりはあの時と同じく貴族達に討伐軍をやらせよと?」

 

フリードリヒに言葉にヤンは頷き、

 

「ええ。ですが絶対にクロプシュトックの時とは、決して同じようにはいかない」

 

「なぜそう言い切れる?」

 

今度問うたのはリヒテンラーデだった。

するとヤンは携帯端末をとりだし、

 

「カストロプ公はフェザーンとの強力なパイプがあるからですよ……ご覧ください」

 

そう言いながら三次元投影されたのは……

 

「こ、これは……!?」

 

海千山千、苛烈な宮廷闘争を生き抜いた古狸、リヒテンラーデも流石に驚いた。

 

「あれはもしや……噂に聞く”アルテミスの首飾り”かのう?」

 

 

 

”アルテミスの首飾り”とは?

同盟が首都惑星ハイネセンの静止衛星軌道上に惑星をぐるりと取り巻くように設置した12個1セットの超大型自動迎撃人工衛星、同盟首都を守る最強の防衛システム……とのことだ。

惑星を取り巻くその姿が首飾りを連想させるためにそう名づけられたが、それとおそらくは同様の代物がカストロプの主星周囲に設置されていた。

 

「おそらくは。もちろん、こんな馬鹿げたシステムを売り渡すのはフェザーンですよ」

 

「あやつら、最近はほんに自重せんのう」

 

とはリヒテンラーデの言。ヤンは激しく同意しながら、

 

「とはいえこれだけだったらさほど脅威にはならないんですよ。所詮、どれほど高性能でも”宇宙空間の固定砲台(ファランクス)”。バカ正直に真正面から撃ち合いでもしない限り、やりようはいくらでもあります」

 

「ということは他にも?」

 

「ええ。むしろこっちの方が厄介かも……」

 

ヤンが画像を切り替えると……

 

「……のう。これは”ヌシの会社(ヴェンリー警備保障)”の艦隊ではないのか?」

 

そこに写っていたのは明らかにアキレウス級を中核とした同盟軍の”()()戦闘艦群”だった。

ただし見慣れぬ黄土色のカラーリングに、カストロプ家の紋章がマーキングされていた。

 

「同盟の軍艦はモジュラー・ブロック工法を用いてますからね。分解/結合が簡単なんですよ。おそらく大物(戦艦級)はバラして別々の輸送船で、何度かに分けて輸送船で運んだのでしょう。そして巡航艦以下は張りぼてで偽装してそのまま”独立商人の輸送船”として帝国に入国させ、『カストロプ家が乗員ごと買い取る』って形にしたのだと思います。まあどちらもカストロプ公の権力があれば人知れずに行うのも容易いでしょう」

 

”同盟”と口にしても誰も咎める者はいない。つまり()()はどういう性質の話し合いが行われる場なのかを如実に示していた。

 

 

 

「それにしても同盟の最高機密に属するはずの”首飾り”に、現役艦……なぜこうも簡単に? いや、帝国内はいい。門閥貴族の頭目に、それと紐で繋がった内務省と軍部の高官がいればどうとでもなる」

 

だがヤンはさして面白くもない表情で、

 

「”()()”の調査によれば、1隻のみ存在するアキレウス級……見た目がかなり違うというか、原型とは似ても似つかない特盛感満載の船ですがおそらくパトロクロス級のバリエーションは、書類上『試験航海中に事故を起こし、廃艦になった船』らしいですよ? 書類通りなら今頃はスクラップ・ヤードにあるはずなのに」

 

二人の老人が微妙な顔になるのを確認し、

 

「腐ってる部位と方向性が違うだけで、腐ってる事象自体は帝国も同盟もさして変わりはしませんよ?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「これは”不愉快な現実”という奴じゃな? もっとも現実は大抵が不愉快なものと相場が決まっておるが」

 

と妙に重みのある言葉を放つフリードリヒ。

 

「なるほどのう……これだけの軍備を事前に、それも秘密裏に整えていたということは薄々と自分が消されることを感づいておったか?」

 

「おそらくは。伊達に15年もの間、国家予算を牛耳ってきたわけじゃないということでしょう。それなりの嗅覚があったと考えるほうが自然です」

 

「してヤン……おぬしがすぐ動かぬ理由、”二鬣犬(ハイエナ)共食の計”とはつまり、」

 

ヤンはニヤリと笑い、

 

「溜め込んだ金を物理的な保身につぎ込んだ名門貴族と、盗賊と大差ない門閥の若手……強欲なもの同士、餌をちらつかせ共食いさせるにはちょうどいいとは思いませんか?」

 

「ほほう。ついでに”噛ませ犬”としても使うつもりじゃろ? あるいは物差しかの?」

 

フリードリヒの本来は聡明な男であることを窺わせる発言に対し、

 

「首飾りはともかく、戦う前に実力を知っておきたい相手がいるんですよ」

 

「ほう……ヌシほどの男が一体、誰を気にかける?」

 

「”エリザベート・()()()”・フォン・カストロプ……マクシミリアンの妹です」

 

「なぬ……?」

 

「去年の帝国三次元チェスオープントーナメントにおいて、弱冠11歳で史上最年少優勝した……まぎれもない()()ですよ。その獰猛な指し手から付いた二つ名は、」

 

ヤンは薄く笑い、

 

「”BERSERK(ベルセルク)”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何気に新キャラ登場フラグ?

一応、オリキャラで道原版のエリザベートさんの差し替えです(^^

それにしてもイリヤにベルセルクって……(笑




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