金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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サブタイ元ネタは、某水城お嬢様の名曲だったり。


第037話:”まっしぶ・おーるだー”

 

 

 

「やあ、船はそろそろ決まったかな?」

 

大体意見がまとまったところで、ヤンがふらりと会議室に顔を出す。

無論、全員が敬礼で迎えるが……

 

「ああ、別にいいよ。悪いけど、私は今から新無憂宮(ノイエ・サンスーシ)に参内しなくてはならなくなってね……ジーク、護衛を頼めるかい?」

 

「もちろんです、先生」

 

「メルカッツ先輩、申し訳ないですが皆の意見を要望書という形で取りまとめておいてくれますか?」

 

「ああ。かまわんさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

待っていたリヒテンラーデと、とりあえずエンカウントを果たしたヤンである。

 

「お早いおつきじゃな。感心だの、婿()殿()

 

割とこの呼び方が気に入ってるらしいリヒテンラーデに、

 

「いえ、お待たせしてしまい申し訳ないです。義祖父殿」

 

と合わせる形で返しておく。

 

「ふふん。ではいくぞ」

 

 

 

バラ園……皇帝フリードリヒ4世の唯一の趣味であるバラの栽培を行う私的な空間、新無憂宮の奥の院にあたる温室……と()()()()()

 

さて曲者、あるいは『煮ても焼いても喰えない奴』という共通項を持つ老人と義理の孫は、丹精に育てられてるらしいバラの回廊を歩き、栽培道具など置いてある温室据付の納屋と呼べるあばら屋へと入る。

 

銀河帝国皇帝と呼ばれながら、本当の意味でプライベートに浸れるのは、この温室とその中にある小さな小屋一つ……そう聞けば、非情な現実と世知辛さに涙を誘うかもしれない。

 

無論、「表向きしか知らない人間」にとっては、だが。

 

 

 

『クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵、ヤン・ヴェンリー・フォン・ローエングラム伯爵の各生体コードを確認しました』

 

木製の扉に偽装した炭素クリスタルを含む積層甲板の扉が閉まるなり、遮音力場が室内に発生し音響学的に外界と遮り、同時に女性の声を模した流暢な合成音声が流れて自動応対アナウンスが開始された

どうでもいいが、宇宙時代までヴォー○ロイドの技術が受け継がれて何よりである。

 

『音声パスワードを入力してください』

 

「「『この門をくぐる者は一切の望みを捨てよ』」」

 

とリヒテンラーデとヤンの声が唱和する。

ちなみにこのパスワード、ダンテの「神曲」地獄篇第三歌に出てくる一節で、ある分野においては御馴染みのフレーズだった。

 

『パスワード確認。声紋合致。ようこそリヒテンラーデ様。ローエングラム様。御主人様がお待ちなのです』

 

語尾が何やらどこぞの駆逐艦娘っぽかった気もするが……声もなんか途中から微妙にロリっぽくなった気もするし。

ヤンの記憶が正しければ、この部屋をはじめこの区画のセキュリティ管理は、無駄に優秀な学習型AIシステムが使われているらしい。

有事の際には、『システムの本気を見るのです!』とか言い出すのだろうか?

どうせならドイツ艦のほうが良かった気もするが……ポンコツ気味なのとか特に。

 

それはともかく……

ヤンとリヒテンラーデはぽっかりと床に開いた穴……地下への階段を下りる。

降りた先はエレベータホールになっており、二人はそれに乗り込むと更に地下へ……

 

 

 

そして着いた先、開いた扉の先に居たのは……

 

「ふんぬ! ふんぬ!」

 

130kgのベンチプレスを軽々と揚げる、

 

「マッチョ老人」

 

「こりゃ!」

 

だが咎めるリヒテンラーデもあまり強くは言えない。

いやだって、確かにヤンの要約はあまりに正しかったのだから。

 

「よう来たの、二人とも」

 

そうニカっと笑うのは、普段は『わざと酒をしみこませアルコールの匂い漂う』ダボダボな服を着て、体形を隠しているが……その実は「脱ぐと私は凄いんです♪」と言わんばかりの肉体美を誇る”フリードリヒ4世”であった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

フリードリヒはベンチプレス台から立ち上がる。

広い肩幅の骨格に張り付くのは六つに割れた腹筋に分厚い大胸筋、二の腕の太さなど明らかにヤンの太もも以上だろう。

まさに全盛期のハルク・ホ○ガンか、はたまたブロック・レスナ○か?

 

「ちょっと待っておれ」

 

とフリードリヒは吊るされたプロ格闘家がよく愛用しているその道では有名なウォーターバッグの前に立ち、

 

「ぬぅん!」

 

”ズドン!”

 

殴った音が既におかしかった……内蔵された衝撃センサーが示した数値は軽く1tを超えていて、更におかしかった。

計測エラーではない。なにせこのモデルは計測の正確さが売りで、間違っても21世紀のゲーセンによくある「中学生が殴ったらパンチ力800kgが出てしまう」ような玩具ではない。

 

「まあまあかのう」

 

スーパーへヴィ級プロボクサーのハードパンチャーと同等の数値を出しといてこの調子……色々とおかしいし偽者くさいが、紛れも無く()()()フリードリヒ4世でなのある。重要なので二度言いました。

 

「相変わらずご壮健なようで何よりですな、陛下」

 

リヒテンラーデは突っ込まない。突っ込んだら負けというのではなく、本当に「凡庸帝の真の姿」はこっちのようだ。

 

「いや、これでも全盛期より大分衰えたわい。中々”酒場の用心棒(バウンサー)”をやっていた頃のようにはいかんのう」

 

と、自分の老いを感じて少ししんみりしてしまうフリードリヒ……これで衰えたというのなら、一体全盛期はどんな化け物だったんだろうか?

ヤンは、今は亡き祖父から聞いたことがある。

『あやつが酒場の皿洗いをやっていたのなぞ、事実ではあっても、あやつのやらかした”若さゆえの過ち”の中じゃ大人しい方だな』……らしい。

 

どうもこの皇帝、弟と兄が骨肉の次期帝位争いをやっていた頃、小遣い稼ぎにバウンサーやったり時には地下闘技場の賭け試合に参戦していたらしい。

祖父によれば、その時の通り名は”偉大なるフリードリヒ大王(フリードリヒ・デア・グロッセ)”……阿呆である。

一時期、地下闘技場で無敗を誇ったらしいが、試合に出ると強すぎて賭けが成立せずに引退したらしい。

ちょうどその時期、兄弟が共倒れしたし、タイミング的にはちょうどよかったのだろう。

 

そう考えると「肉体の頑強さと健全さ」に異常なこだわりをもち身体的弱者を遺伝子レベルで排除したルドルフの正当な後継者というのは存外、フリードリヒなのかもしれない。

少なくとも、歴代の皇帝でここまで立派な肉体を誇った皇帝は、そうは居ないだろう。

 

ちなみにその地下闘技場のプロモーターをやっていたのも先々代……そりゃあヤンもグリンメルスハウゼンと繋がりもできるだろう。

 

「こりゃ程なく要介護じゃのう。シュザンナには迷惑かけてしまうかもしれん」

 

「陛下、特技欄に”ゲルマン式投げ落とし(ジャーマン・スープレックス)”と書ける御老体に介護が必要とは思えませんが?」

 

肩にタオルをかけかんらかんらと笑うカ○ル・ゴッチ……もとい。フリードリヒに思わずツッコミを入れてしまうヤンであった。

やはり「その妹、見た目に反して中身は凶悪につき」を地で()()アンネローゼを寵姫にしてるんだから、この老人もやはり大概だった。

 

 

 

「ところで陛下、今回は何用ですか? まさかスパーリングの相手をせよとか言うんじゃないでしょうね?」

 

すると皇帝はにやりと笑い、

 

「だとしたらどうする?」

 

「謹んで義祖父殿にお役目進呈いたします」

 

「年寄りに無理難題を投げるでない! せめてオフレッサーを呼ばんか!」

 

ヤンもだが、リヒテンラーデも何気に色々酷かった。

 

「冗談じゃ」

 

当たり前である。この二人、どっちをとっても1tパンチに耐えられそうもない。五十歩百歩だろうが……ヤンよりリヒテンラーデの方がまだ耐久力がありそうに見えるのは何故だろうか?

 

そしてフリードリヒはスポーツドリンクを飲みながら、事も無げに切り出す。

 

「そろそろカストロプ公がヴァルハラに旅立つそうじゃ」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

明日の天気を告げるような気楽さで言われたそれに、

 

「そろそろ()()ということですか?」

 

と同じような口調で完全な他人事として返すヤン。

 

「うむ。豚は一番太った頃が食べごろだからのう」

 

とはリヒテンラーデ。やはりこの爺様酷い。

 

「つまり公の才覚では、これ以上の()()は無理と……」

 

 

 

オイゲン・フォン・カストロプ公爵。現銀河帝国財務尚書。15年もの間、財務尚書を勤め権力を乱用して不正蓄財を重ねる……というのがその人物像だ。

無論、不正蓄財と一言で言っても、掠め取った国家予算や賄賂の類は数知れずで、その蓄財の為に犯した殺人やその他余罪もまた数多い。

 

ただ、これまでそのような俗物が()()()()()理由は、勿論ある。

カストロプは同じく拝金主義のフェザーンと非常に相性が良かったらしく、金への執着が強い繋がりを作りいつの頃からか「帝国におけるフェザーンの”経済的バックドア”」となっていた。

 

無論、そのような所業は疾うの昔に察知されており……だからこそ、帝国へのフェザーンの金の流れを掴む”囮”として重宝されていたのだ。

実際、カストロプが居なければフェザーンと裏で繋がってる、潜在的なものや無自覚なものを含めた正しい意味での”()()()”を浮かびあがらせるのは、かなり面倒な作業だったろう。

最初の頃、就任直後こそ慎重だった物の、やがて人間にありがちな感覚の麻痺でより派手に大胆にカストロプは金をかき集めるようになっていた。

そして同時に自分の権力を、公爵という爵位を過信するようになっていた。

曰く、『どれほど違法な手段で金を集めようと、儂には誰も手出しできん』と。

 

だが、彼は気づいていなかった。

金の流れからフェザーンの侵食ネットワークの特定を終えたとき、彼の命運は半分は尽きていたことを、だ。

ただ、それでも今まで生かされた意味があるとすれば、緊急財政出動が必要な場合の”ブタの貯金箱”の役割といったところか?

 

「もはや硬貨の入らなくなったブタの貯金箱など、カチ割って中身を出すに限るじゃろ?」

 

フリードリヒはそう快活に笑いながらウインクするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ついにでてきた今生版フリード爺様の肉体美!(挨拶

久しぶりの投稿で、私は一体何を書いてる?(笑
実は酒の匂いは完全にフェイクだった罠ってわけです。


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