さてさて、ここはブリュンヒルトのヤンの私室。
提督の執務室らしくそれなりに豪華な作りだが、さすがに軍艦だけあって某ブラウンシュバイク家やリッテンハイム家のお召し戦艦ほど貴族趣味丸出しではない。
とはいえ飲み会……もとい。ブリーフィングを兼ねた茶会を開ける程度の広さと応接セットはあり、ヤン・ヴェンリー・フォン・ローエングラムはそれを十分に活用していた。
何が言いたいかといえば、要するに身内を集めた親睦会を開催していた。ある意味、艦隊における本当のブリーフィングともいえるが。
集まってるのはヤンはもちろん、副官兼執事じみているジークフリート・
「せっかく敵が三派に分かれて分進してきてるんだから、合撃される前に速度を生かして各個撃破を狙うっていうのはさほど奇策じゃないと思うんだけどなぁ」
とヤンはここに呼ばれなかった今頃盛大に「机上の空論」と言語のブーメランを飛ばしてるだろうシュターデンを思いながらぼやいた。
「きっと理屈倒れ殿には、”
しれっと毒を吐くファーレンハイトにウンウンとうなずくキルヒアイス。
「ひどいな君たちも」
ヤンは思わず苦笑するも、
「ファーレンハイト君、ところでその”
「しかしキルヒアイスのように直接薫陶を受けたわけではないので、”先生”とは呼べませんからね。同じ理由で教官も却下。かといって公ならともかく私的空間で爵位や階級で呼ばれることも好まない……小官なりに考えた結果です」
どうやら比較的に歳が近いせいか、あるいは食い詰め貧乏貴族の子弟たるファーレンハイトと元平民で現帝国騎士のキルヒアイスには共通項でもあるのか若手同士ずいぶん気が合うようだ。
もっとも別の世界線と違ってキルヒアイスの交友関係は、飛び級進学した士官学校の少し年上の学友を中心に広くもないが狭くもない。
例えば、彼が未だ交流のある先輩の中には某鉄壁の名があったりするのだが……それは追々語られるだろう。きっと。
現状で一つ言えるとすれば、彼なりに努力して交友関係を広げ維持するようにしているのは、師匠たるヤンが生き方を多少なりとも反省したのか割と社交性を持って生きてるせいもあるということだろう。
ヤンにとり、本質的には人付き合いは未だ煩わしい範疇に入るものだが……貴族として生まれ生きている以上、決して人間関係は軽視していない。
一度ならずも痛い目を見て短い人生を終え、ようやく自己保身やら腹芸やらを身に着けたともいえるが……
その成果はきちんとあがっていて、彼の”生きている人脈”は中々に豪華なラインナップを誇っている。
例えば幼年学校/士官学校を足早に卒業したキルヒアイスが「自分をもっと鍛えたい」と言い出したときに放り込んだのは”
まあその後、帝国のブランデー品評会にて必ずベスト10入りする上物のブランデーの時ならずの差し入れで歓喜に沸きかえった擲弾兵官舎は、なし崩しに上から下まで飲めや歌えやの大宴会に突入。
擲弾兵の猛者達を酔い潰しという戦術で粗方殲滅/蹂躙した後、意気投合ししみじみと改めて固めの杯を合わせる黒髪の冴えない”非常勤提督”と巨大ドワーフの姿があったという。
遥か太古、それこそロードス島なんかの御伽噺の時代からドワーフは斧好きで酒好きと相場が決まっており、またウワバミっぷりに関しては人後に落ちないヤンなので、出会ってしまえば友誼を結ぶのは当然なのかもしれない。
官舎を出るとき、このどちらかといえば『首から下は”貴族の標準型(=役に立たない)”』と呼ばれるヤンが肉体的屈強さにかけては帝国随一と目される宴会に参加した親愛なる装甲擲弾兵諸兄全員から畏怖と尊敬と二日酔いの混じった敬礼で見送られた……というのは最も新しい帝国都市伝説の一つだった。
もっともこれとて貴族としての評価の中に”帝国貴族一の変り種”を持つヤンのエピソードの一つに過ぎないが。
☆☆☆
「シュターデン卿はこの際、置いておくとして」
さりげなくシュターデンをディスるメルカッツ。きっとこの老将もヤンに毒された一人だろう。
「後輩、敵はこちらの各個撃破で大人しく食われるような相手なのかね?」
ヤンはニヤリと笑うとケスラーを見やった。
巨大ドワーフ=人型ヒグマ=装甲擲弾総監
やんはぶらんでーのちからでぱんつぁーぐらねでぃあをみかたにつけた!