金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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それは何時かヤン自身が歩いた道?





第014話:”運命なんて無いと言いたいもんだね”

 

 

 

帝国軍アスターテ遠征艦隊”ブリュンヒルト”

 

 

 

「メルカッツ大将麾下雷撃艇部隊、敵艦隊旗艦に損傷を与えたり!!」

 

オペレーターの弾むような声に沸きたつブリッジ。

 

「敵の通信を傍受! 解析成功! 敵司令部の被害甚大! 提督、重篤の模様!! 指揮不能!」

 

さて余談ながらこの戦場には地味ながら帝国も同盟も少数ではあるが”()()()”を試験的に投入していた。

今回は帝国側にスポットを当ててみよう。

例えばそれは、ワルキューレの左右のターレット・スラスターユニットに武装に変えてアクティブ/パッシブの光学センサーを含む各種センサーを搭載した”偵察型”、武装の代わりにロングレンジのディッシュタイプ・レーダーを搭載した”早期警戒型”、この二種はいずれも”艦隊の目”を担うべく特化の方向に改装された艇であった。

ついでに言うとこのタイプは練習機にも使われる復座型ワルキューレを原型に開発されており、パイロット以外にオペレーターが乗り込む。

その効果は十分に発揮され、前の二度の戦闘でヤン艦隊が先手を取れたのは、この二種の活躍が決して小さくはない。

 

また雷撃艇には機雷敷設型のバリエーションが知られているが、これにも1種のバリエーションが追加されていた。

それは可動部分のない、ワルキューレに比べ大柄なボディの容積を生かし、レールガンの代わりにECM/ECCMなど電子戦機器とそれを操るシステムオペレーターを搭載、通信の中継もこなせる”電子作戦型”だ。

今、まさに敵の通信を傍受したのがこの電子作戦型雷撃艇だった。

 

艦隊の目となる偵察型ワルキューレに早期警戒型ワルキューレ、敵を通信工学的に撹乱しつつ聞き耳も立てる電子作戦型雷撃艇……この三種のバリエーション・モデルは『物理武装ではなく情報その物を武器とする”武装なき決戦兵器”』という共通項があった。

そしてこれらの開発には、情報というものを誰よりも重んじるヤン・ヴェンリー・フォン・ローエングラム伯爵上級大将の意向があり、実際に改修キットの開発が行われたのはヴェンリー財閥傘下の1企業だった。

 

更に言うならこれは帝国軍の正規兵器開発計画ではなく、プライベート・プランとして開発/製造されたものであり、今回の作戦に投入されたのも実は実戦テストを兼ねた「有用性を示す”帝国軍への売り込み(デモンストレーション)”」という意味合いもあった。

評価試験材料にされた同盟軍はたまったものではないだろうが、ヤンは中々に優秀な商売人なようである。

 

 

 

投入された新兵器がそれぞれの特化した効力を裏方ながら発揮し、沸き立つ艦橋だったが……

 

「なお敵の指揮権はマルコム・ワイドボーン准将なる艦隊参謀長に移行した模様! 他、指揮可能と思われる艦隊司令部要員はジャン・ロベール・ラップ大佐!」

 

その瞬間、ヤンはあからさまに渋面を作った。

 

「やれやれ。どうやら面倒な手合いが生き残ってしまったようだね……あの二人はよほど彼らの神様に好かれているのか、それとも私が主神オーディーンにでも嫌われているのかな?」

 

(まさか歴史の修正力があるなんて思いたくはないけど……)

 

「されど歴史は繰り返す、か」

 

 

 

「閣下?」

 

心配そうな視線を向けてくるキルヒアイスにヤンは渋さを引っ込めいつもの柔和な表情になると、

 

「ジーク、私は運命という言葉が嫌いでね」

 

「知っています。確か”人の自由意志に対する冒涜”でしたか?」

 

「ああ。だから運命的なものを感じるとつい反抗したくなる。我ながら子供っぽいとは思うけどね」

 

「といいますと?」

 

「”エル・ファシルの英雄コンビが揃って巨大な敵の前に挑む”。実に彼ら好みの”運命的なヒロイック・サーガ”だと思わないか?」

 

キルヒアイスが少し困った顔をするが、

 

(それにしても……敵国の軍人とはいえ、かつての親友の()()()と呼べる相手の無事を喜ぶより、生きてることを残念に思うとはね)

 

「私も随分と生き汚くなったもんだよ」

 

ヤンは少しだけ自分が嫌になりそうだった。

 

 

 

「閣下はそれで良いと思いますが?」

 

「なぜだい?」

 

「小官を含め閣下がヴァルハラに逝かれては困る人間が、帝国には数多く居ます」

 

それもまた事実だとヤンは自覚している。

何の因果か帝国に貴族として生まれてきて30年近く……かつての享年に近づくにつれ、自分が抱えるものはどんどん増えていった。

これで抱えることを拒否できるほど嫌えたらよかったのだが、キルヒアイスに妹のアンネローゼ……他にも好ましいと思えるものが、切り捨てられなくなってしまった者達が多くなりすぎてしまっていた。

 

だからこそ、むしろ帝国は改良/改善すべき余地は多々あれど、ゴールデンバウム王朝は倒れて然るべきとは思えないようになってしまっていた。

必要なのは皇帝を殺す革命ではなく、社会の害悪を取り除く変革だとも。

困ったことにヤンは、自分が既に薄れ逝く記憶の中にある同盟よりも現在生きている帝国のほうが気に入っていたのだ。

 

 

「やれやれ。そう言われては迂闊に戦死することもできないじゃないか」

 

ヤンは軽く髪を掻く。その表情は少し照れくさそうに、

 

「では、せいぜい生き残る努力をするとするかな?」

 

そしてスッと目を細め、

 

「全艦、第一戦速で前進せよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




謎組織のヴェンリー財閥。

その始まりは意外に古く、高祖父(曽祖父の親)の代に起業した通運会社が始まりだという。

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