金髪さんの居ない銀英伝   作:ドロップ&キック

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ちょっと捏造エセエフ設定が入りまーす。


第012話:”メルカッツさんは雷撃艇職人”

 

 

 

帝国軍のみがもつ固有の戦闘宇宙艇、”雷撃艇”はかなりユニークな艇種と言える。

 

前回にも似た様なことを書いたが……スパルタニアンは基本的に対艦戦闘をメインに、同盟軍艦の数的劣勢を補うために開発された小型戦闘艇だ。単独でのワープもできなければ駆逐艦の主砲の前ですら直撃すれば落ちる程度の防御力しかない。

しかし、敵弾を受けるのではなく『当たらなければどうということはない』と言わんばかりに軍艦に対する相対的な運動性を高め、持ち前の的の小ささの相乗効果で被弾率を下げるという発想で設計された。

 

その戦術に何度も煮え湯を飲まされた帝国が開発したのが純対戦闘艇用戦闘艇、スパルタニアン・キラーのワルキューレだった。

しかしスパルタニアン・キラーを優先し更なる運動性を求めた結果、運動性やターレットスラスターに物を言わせた変化自在の動きでスパルタニアンを翻弄することは出来たが、いかんせん火力と防御力は劣る物となった。

これは別段、おかしな話ではなく敵艦を沈めることを目的にしたスパルタニアンとスパルタニアンを狩ることを目的にしたワルキューレの設計思想の違いだ。

むしろ後発のワルキューレに対し、絶え間ない改良で多少は不利でも対抗できてるスパルタニアンの基礎設計の秀逸さと拡張/発展性の高さをほめるべきだろう。

 

 

 

さてこの帝国と同盟の名機を比較するのはこれくらいにして、そろそろ雷撃艇に話を戻そう。

ワルキューレは対スパルタニアン戦を想定して作られてる以上、より頑強な艦船相手に戦うのは今一つ攻撃力が物足りない。

そんな現状を打破すべく開発されたのが雷撃艇だった。

 

開発コンセプトは(別の世界線とは微妙に異なるかもしれないが)至ってシンプルで、「スパルタニアンを無視して敵艦を沈めることに専念する戦闘艇」だった。

むしろ初期のスパルタニアンに近いコンセプトだろう。

スパルタニアンはワルキューレという強力なライバルの登場により、その進化の過程で否が応でもでも対戦闘艇能力を向上させざる得なかった。

何しろ敵艦に肉薄して撃沈する前にワルキューレに食い散らされては元も子もないのだから。

余裕があるなら同盟とてワルキューレ・キラーを開発したいのであろうが……生憎、艦隊戦における()()()()に大枚を支払うより艦隊整備に注力したかったし、スパルタニアンの改良型でもどうにか対応できるならそうしておきたかった。

 

ゆえに空戦能力は目覚しい向上を果たしたが、本来の対艦攻撃艇としての能力はさはど上昇してるとは言えないのが実情だ。

だが、そうであるがゆえにワルキューレもスパルタニアンの発展と改良に対抗すべく対艇戦闘力を向上させるしかなく、対艦戦闘力はどうしても後手に回すしかなかった。

 

帝国/同盟を問わず軍艦と呼ばれるものは大体二種類のパッシブ式防御装置を持っている。

一つは”防御スクリーン”。艦前面に展開し強力な敵艦の砲火を文字通り真正面から受け止める幾重もの『単位相指向型(モノフェーズ)光波』を重ねた光学防壁だ。この装備は敵の砲撃を防御しつつ防御主の攻撃を透過させることが可能であり、光学エネルギー/運動エネルギー兵器双方に有効ではあるが。消費エネルギーも大きく基本は常時ではなく戦闘時のみに展開され、また敵艦の集中砲火で飽和させられれば貫かれることも多々あるようだ。だが、戦闘艇程度の火力では普通は太刀打ちできないだろう。

もう一つは艦を繭状に包み込むように発生させる”防護フィールド”。これは磁場や電磁波を利用した可変形状式の反発力場であり、一種のディストーション・フィールドといえる。ただ防御フィールドは「出力を上げれば敵の攻撃にも有用」という程度だ。それも当たり前の話で敵の主砲を防ぐ純粋な光学盾として開発された防御スクリーンに対し、防護フィールドの役割は宇宙空間に漂うデブリなどの超高速衝突体の接触から船体を守ることを基本に搭載されている。またそれゆえに常時展開型だ。

 

ワルキューレの対艦戦術は、接触しそうな至近距離まで近寄り敵艦の防護フィールドを自艇のバリアをピンポイントに集約し敵フィールドに局所的に干渉/中和し相対速度を合わせながら突入、フィールドの()()でレーザーなりレールガンなりで破壊するのだ。

実際、そんな銃剣突撃じみた、あるいは戦場で曲芸じみた戦闘機動をできる腕前をもったパイロットが圧倒的少数派なのは言うまでもない。

 

そこで帝国の戦闘艇開発部門は一つの決断を下した。

いっそワルキューレの対艦攻撃機能はオマケ程度と割り切り、対艦専用の戦闘艇を作ってしまおうと。

火力は近距離なら防護フィールド()()敵艦にダメージを与えられる物が望ましいとされ、防御力は敵艦の主砲は無理でも対空兵装にある程度は耐えられること、機動力は基本強襲となるので直線速度は速いが運動性は敵艦が回避運動を行っても追従できれば良いとされた。

結果として小ぶりなワルキューレどころかスパルタニアンよりもはるかに大型な艇になってしまい、いわゆる艦載機としては運用できず効率的な集中運用をしようと思ったら専用の母艦が必要となってしまった。

 

だが他の兵器と同じく長所と同じくらいの短所を抱えながらも本来の目的に使用された際の雷撃艇は、強力な戦力となりうる。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「天頂方向より敵雷撃艇部隊、来ますっ!!」

 

第2艦隊旗艦”パトロクロス”のブリッジにオペレーターの悲鳴のような声が響いた。

 

「全艦対空砲撃を密にせよ! 艦隊防空弾幕シーケンス用意! データリンク/火器管制演算リソース優先度を一時的に対艦砲戦から対艇防空戦にシフト! 火線を集中させ敵を近寄らせるなっ!!」

 

張りのある声を響かせていたのは、提督のパエッタ中将ではなく艦隊筆頭参謀のワイドボーン准将だった。

彼はパエッタを一瞥し、

 

「で、よろしいですな?」

 

「あ、ああ」

 

その鋭い視線に竦んだようにパエッタは力なく頷いた。

パエッタはわかってしまったのだ。

この若者が自分では見通せない戦場の風景を見ていることが……

だが、その時、

 

「直撃、来ます!」

 

「ワイドボーン、巡航艦が盾に!」

 

オペレーターとラップの声が重なり、

 

「全員、伏せろぉーーーっ!!」

 

ワイドボーンの言葉とブリッジに轟音が響いた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作の技術設定を微妙に改竄。

ワイドボーン&ラップ、覚醒フラグ?


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