Roar!   作:渋川 武志

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SCENE-4 朝の電車

安央「・・・・・・・」

 

杏奈「・・・・・・・」

 

安央のすぐ横に杏奈は立っていた。非常にぎゅうぎゅうの満員電車である。

 

杏奈「(痴漢しろ・・・・!触れ・・・ほら触れ男よ)」

 

杏奈「(最近は痴漢免罪が増えすぎて男どもは痴漢をしなくなってきている。

   ブッ細工な自意識過剰ババア共のせいであたしの一日の楽しみが奪われているのだ・・。

   そう、あたしは触られたいのだ。痴漢してほしいのだ。

   自分でいうのもなんだが渋谷や原宿歩いたら

   芸能事務所からスカウトされるくらいのビジュアルは持っている。

   それに結構肉付きもいいほう。これはあんまり自慢できないけど。

   こんな女がすぐそばに居てなおかつ胸を体に当てていたら

   どんな馬鹿な男でも本能で感じる。

   この女は求めている、性を求めていると。

   だからほら、触れ、男子高校生よ。

   触るがいい、存分に、飽きるまで・・・」

 

安央「・・・・・・」

 

杏奈「(嘘だろ・・!?この男まったく反応しないぞ!?つかどこ見てんだ!こっち見ろや!

    胸見ろや!!!EだぞE!!EXTREAMのE!!!)」

 

安央「・・・・・・」

 

杏奈「(嘘だ・・・こんな男がこの世にいるわけない・・・。

   どんな男でも・・・東大生でも、真面目そうなサラリーマンでも

   あたしのグランドキャニオンまで手を伸ばしてきたというのに!!

   80の爺でも尻を揉んできたというのに!!

   この男は!!血気盛んな男子高校生であるはずのこの男は!!

   反応すらしないのか!?)」

 

 

杏奈「(こうなっては・・・)」

 

杏奈「(さらに攻める!!くらえ・・・腕パイばさみ!!)」

 

杏奈「(さすがに谷間に腕を挟まれたら・・・こっちに視線を)」

 

安央「ん・・・ふん・・」

 

 

安央は左腕を胸で挟まれたが・・・

何かが当たってるなー、なんだろう、なんだ胸か。

そんな感じで一瞬だけ胸を見て顔を前に戻した。

 

 

杏奈「(ひえええええええええええ!?なんだこの男は!?

   今触ったし!?触ったのに!?何あの顔。

   なんだ胸かと言わんばかりのあの顔は!?

   まさかコイツ凄い女たらしで

   もはや胸では満足できない境地に達しているのではないか・??)」

 

杏奈「(どうすればいいんだ・・・・今の私には答えを出せない・・・)」

 

安央「・・・・!」

 

アナウンス「次は~神楽坂~、神楽坂ですっ」

 

杏奈「(降りて行ってしまった・・・。

    完全に無力だった・・。なすすべもなく、敗北を喫してしまった。  

    だが明日は・・・明日こそは・・・

    必ず振り向かせてみせる!)」

 

安央「(あの女の人妙に距離近かったな・・・まさか・・・いやそれはないな・・・

   生まれてこの方異性として見られてない男ランキング

   ぶっちぎり1位のこの俺のことを

   毎日同じ電車に乗っているからという理由で好きになる人間がこの世にいるわけ・・・

   ないとも言い切れん!!)」

 

 

ここに壮大なずれが生じていた。

 

このずれがいずれ、巨大な地殻変動を起こすことになるとは

 

この時、まだ誰も知らなかった・・・・。

 


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