Overlord of Overdose ~黒の聖者・白の奴隷~ 作:Me No
「こんにちは、ンフィーレアさん」
「どうも。組合長さん」
ンフィーレアが蒼の薔薇に名指しでの依頼を行いたいと告げると、受付嬢はすぐに別室へと案内した。
お茶を出され待つこと数分――部屋に入ってきたのは冒険者組合長のアインザックだ。
「受付嬢から聞きました。アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』に名指しの依頼――しかも、早急にお願いしたいとか?」
「はい。そうなんです」
アインザックはンフィーレアを一瞥し、彼の深刻そうな表情を見つめる。
祖母のリイジーとの付き合いから、アインザックはンフィーレアを知っている。
あまり付き合いはないが、切迫した内容であることは顔を見れば分かった。
「勿論、それはかまいません。ただ、可能な限り早くとの事ですが大金になりますよ?」
「かまいません。それよりも、どれくらいの日数がかかりますか?」
即答したンフィーレアにアインザックは驚きを隠せなかった。
「そうですな。まず、魔術師組合の魔法詠唱者に《伝言/メッセージ》を用いて通信した後、魔法的手段を用いてメンバーを移送する。というのが最速の手段になるでしょうな。蒼の薔薇のメンバーは五人ですから金貨五十枚程度が移送費用になります。これなら明後日の今頃にはこちらに到着しているでしょう」
「では、それでお願いします」
流石はエ・ランテル一番の薬師を祖母に持つだけはある。
金貨五十枚もあれば、一般人の家庭なら五年は慎ましく暮らしていける額だ。
「余程、急ぎの依頼のようですね。彼女らにはその旨伝えることに致しましょう。ちなみに依頼内容を受付嬢には話せず、私に直接話したいとの事ですが、どのような案件か聞かせていただけますか?」
「はい。実は……」
ンフィーレアはアインザックに先程のことを話し出した。
「……と、言うわけで僕は八本指が絡んでいると思うんです」
「………………」
「ですから、アダマンタイト級冒険者の方に力を貸してもらおうと思いまして」
アインザックは神妙な顔でンフィーレアの話しに聞き入っていた。
「ンフィーレアさん」
「はい」
次に出た言葉は予想外の物だった。
「そういう話であれば依頼を引き受けるわけにはいきませんな」
「は?」
「冒険者組合は国家の争いには加担しない。それが不文律ですので」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 相手は八本指なんですよ?!」
リ・エスティーゼ王国最大の暗部であり、最悪の犯罪組織だ。
「そんな奴を排除するのに冒険者が力を貸すことがどうして駄目なんですか!?」
「ふむ。ンフィーレアさんは私の話を聞いておられましたか?」
「それはこっちの台詞ですよ! それともエ・ランテルの冒険者組合長は犯罪組織を擁護するようなお立場なのですか?!」
あくまで冷静なアインザックにンフィーレアは憮然とした態度で返した。
「勿論、違いますとも。どちらにも力を貸さない中立の立場です」
「なっ! ど、どうしてですか!?」
「まだまだ、お若いですな。さて、何処から話せばいいものやら……」
アインザックは困ったように思案する。
「仮に王国の冒険者組合が総出で八本指撲滅に尽力したとしましょう。そして、それを成し遂げたとしたら王国はどうなるとお思いですかな?」
「えっ? 今よりずっと良くなるに決まってるじゃないですか!」
「ほう。彼らがいなくなれば平和になると? まさか。王国に更なる混乱を招くことになるでしょうな」
「はいっ? 何を言って――」
「――いいですかな?」
ンフィーレアの言葉を強引に遮ってアインザックは続ける。
「例えば、ですが――八本指は今でも違法である奴隷商売を行っています。噂によれば金次第では命すら自由に出来る娼館もあるとか……」
「………………」
おぞましい話しにンフィーレアは嫌悪感を隠せない。
そして、次に想像したのは用済みになったエンリがそんな場所に落ちることだ。
そんな想像に、思わず自らの手が拳を作った。
「そこにいる奴隷達は不幸なのでしょうかね? 私はそうは思いませんな」
………………。
「組合長。あなた、正気ですか?」
意味が分からず、ンフィーレアはそう問いかけることしか出来ない。
「正気ですとも。では、この娼館を冒険者組合が潰したとしましょう。そこにいる娼婦達は助けられた後、どうやって生きていくのです? そこにいるから生きていけるのでしょう?」
「ふ、普通に働けばいいでしょう!」
「そんな連中を雇うような働き口などありませんよ。あれば、そもそもそんな場所には落ちない――とも限らないのは、今の王国の悪いところですな」
「………………」
ンフィーレアは言葉を呑んだ。
「だったら教会にでも逃げ込みますか? それで食っていけるなら寒村に住む者達は皆、神を頼ればいいと思いますよ」
「八本指も必要であると?」
「この世に悪の栄えた試しはありません。純粋な悪――生者を憎むアンデッドなどですな。彼らはそもそも社会に存在することが許されません。しかし、八本指は違う。彼らのような組織が存在するという事はその存在が許される理由があるのです」
この世は別に道理と真実で出来ているわけではない。
必要悪という言葉が存在するように、やむをえず必要とされるものも存在するのだ。
噛んで含めるように話すアインザックの姿が、ンフィーレアには教えを説く神父のようにも思えた。
「私達は人を守るために創られた武力組織です。その力をどんな理由があったとしても人に向けて振るってはならない。力を持つからこそ、自らに課した規律を守らねばならないのです。それを損なえば、誰かに都合のいい道具に成り下がります」
「………………」
「あくまで理想論ですがね。私も、冒険者組合が完璧に理念を実行出来ている等とは言いません」
「だったら、どうすればいいんですか?」
王国に頼るのか?
馬鹿馬鹿しい――こんな頼みを聞いてくれるはずがない。
「ですから、こうしませんか? トブの大森林には数十年前、アダマンタイト級冒険者が他の冒険者チームを連れて超稀少な薬草の採取を行ったことがあります。その採取をお願いしたいと」
「えっ?」
「そんな依頼なら喜んでお引き受けしましょう。こちらに来た蒼の薔薇とンフィーレアさんがどんな話をするかまでは私達には関係のないこと。貴方の気が変わって別の依頼をするかもしれませんし、正義感の強い蒼の薔薇がそれを引き受ける可能性もあるでしょう」
「く、組合長さん」
暗く落ち込んだンフィーレアの顔に希望の光が差してきた。
「ここら辺が私の裁量の限度ですな。勘違いしないで頂きたいのだが、私だって別に八本指が栄えればいいとは思ってませんよ」
「あ、ありがとうございます! それでお願いします!!」
「分かりました。では、可及的速やかに依頼を処理いたしますよ」
ンフィーレアが礼を言って部屋を出ていった後、入れ替わるように右隣の部屋に繋がるドアが開いた。
「とんでもない話だな。アインザック」
そこにいたのは魔術師組合長のテオ・ラケシルだ。
「まったくだ。厄介な話しを持ってきてくれたもんだよ」
「随分と似合わない説教をし出すもんだから、一体どうしたのかと思ったぜ?」
ラケシルはアインザックの肩を小突く。
「仕方ないだろう。私は八本指になど関わりたくない。だが、いずれ街の有力者となる彼の頼みを邪険にしては私の心象が下がる。皆が幸せになれる選択を選んだだけさ」
悪びれもせずに宣言するアインザックにラケシルは笑った。
この男はしれっとこういう発言が出来る男だ。
「しかし、なんだ――お前、まさか王都の娼館に行ったことがあるんじゃないだろうな?」
「俺にそういう趣味はないよ。そんな話を聞いたことがあるってだけさ」
「今でもそんな娼館があるのか。そこにいる奴は不幸だな」
ラケシルは不運な娼婦にわずかばかり同情した。
「どうかな。ま、生きてればその内いい事もあるんじゃないか」
「それは持てる者の理屈だよ。さてと、俺はそろそろ魔術師ギルドに戻ることにするよ」
「ああ。またな」
アインザックはラケシルと見送ってから、時計を見る。
「おっと。これはいかん」
ンフィーレアという予想外の飛び入りがあったせいでニ十分ばかり時間を過ぎていた。
相手は十分前には到着しているとの事だったので、悪いことをしてしまった。
アインザックは左隣の部屋に扉を開けると、待たせていた冒険者に話しかけた。
「すまない、モモン君。予定の時間より大分遅くなってしまった。どうしても私でなければ対応できない客が来てしまってね」
「――いいえ。冒険者組合長直々のお呼び出しには感謝していますよ」
そういった漆黒の全身鎧に包まれた男の声は笑っていない。
拳を作っているガントレットはギシギシと音を立てており、制御できない怒りを必至に押さえ込もうとしているようにしか見えなかった。
それを見て、アインザックの背中に冷や汗が出てくる。
(噂どおりの男だな。待たせたのはこちらが悪いが、そこまで激昂することないだろうに……)
三人組の冒険者チームなのだが、誰一人として朗らかな雰囲気を持つ者はいない。
隣に座っている美貌の女性『赤い死神』もゾッとするほどの殺気を放っている。
もう一人、何処かの部族の風習らしく虎の仮面を被った青年も苛立ちを覚えているように見えた。
(まさか、私の話が聞こえてたのか? 彼は冒険者組合の体制には思うところがあると聞いてる)
ともかく、アインザックは場の空気を払拭すべく、彼らが最も望んでいるだろう餌をちらつかせることにした。
「ま、まあ、待たせた甲斐はあると断言しておくよ、実は君達冒険者チームに来てもらったのは異例の昇格試験を受けてもらおうと思ってね」
「……ほう」
アインザックは用意しておいた飴玉を並べるが、最後まで彼等が機嫌を良くする事はなかった。
◆
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい。みかかさん」
深夜、ナザリック地下大墳墓の円卓の間――所用もあってみかかは戻ってきていた。
睡眠不要となった為に深夜は暇であることとアルベドからの定時連絡を相手にするのが面倒になった為だ。
みかかは基本的にメールや電話、《伝言/メッセージ》などは端的に済ませる方である。
アルベドはその逆だ。
とにかく話が長い。
そういう訳で戻ってきたのだが、戻ったら戻ったで大変だった。
アルベド曰く――。
「みかか様をお見送りしてから今日で丁度一日半。時間にして三十六時間。分にして二千百六十分……秒にして十二万九千六百秒と、言ってる間にも十二秒が過ぎてしまいました! 長すぎる時間だと思いませんか?」
――との事。
記録して数えてる所が素敵にドン引きである。
ちなみにモモンガも同様の事を言われたらしい。
そこまで愛されてるのは嬉しくもある――などと思ってしまう辺り、少しばかり彼女に毒されてきているのかもしれない。
「どうかしましたか?」
「ごめんなさい。つまらないことを考えてました。さっそく始めましょう」
早めに切り上げて彼女の相手をしてあげようと思いながら、みかかは席に着く。
モモンガとは定時連絡である程度の情報は共有しているが踏み込んだ内容については聞いていない。
みかかは最も心配していたから聞くことにした。
「早速ですが、モモンガさんは城塞都市に赴いてみてどうでした?」
「街の感想ですか? そうですね」
特に何もない――と言うのが正直な感想だった。
強いてあげるならマスクなしで外を出歩けるのは新鮮なことだが、それは別にこの街に限ったことではない。
「つまらない感想になりますが普通ですね」
「普通ですか?」
みかかは何だか物足りないといった感じだ。
どうも彼女が期待してたような答えではないらしい。
(しまった。女の子が好きそうな店をリサーチするべきだったか? それとも有益な情報か?)
「うーん。冒険者になってみましたが案外夢のない職場ですし、街にはプレイヤーの陰は見当たりません。観光名所みたいな所もないのでユグドラシルにもあった普通の中世欧州的な都市というのがぴったりなのかと」
「……そうですか。モモンガさんには街の人がどう見えましたか?」
モモンガにしてみれば他愛のない世間話なのだが、さっきからみかかの顔は真剣だ。
それが気になってモモンガも真剣な面持ちで問い返す。
「……どう、とは?」
「私達は異形種のアンデッドです。モモンガさんは人を見ると別に意味は無いけど殺したいとか、苦しめてやりたいとか思いますか?」」
そういう意味か。
モモンガはみかかの悩みを理解した。
(……どう答えるべきか?)
アンデッドの保有する精神的な攻撃に対する完全耐性の結果か、モモンガは自らの姿が変化したことによる恐怖や違和感を一切感じない。
そしてアンデッド故に人間に同族意識を持てず、街の人間を見ても虫を見るような感情しかない。
本来なら同じアンデッドであるみかかも同じ見解を示す所だろう。
しかし、アンデッドでありながら感情の起伏が激しいシャルティアと同様にみかかの感情表現も多彩だ。
モモンガは朝に見た光景を思い出す。
推測するに、みかかは人間に対する同族意識が抜け切れていないのではないだろうか?
「そこまでは思ってません。今は虫を見るような感情しかありませんね」
友人に嘘をつくわけにはいかない。
モモンガは正直に人間への評価を話すことにした。
「モモンガさんにとってはエ・ランテルは虫籠のようなものですか?」
「そうですね。より正確に言うなら蟻の巣でしょうか?」
虫なら種類によってはモモンガを傷つけることも可能だろう。
だが、どう足掻こうがエ・ランテルの人間では自分を傷つけることは出来ない。
そういう意味では城砦都市エ・ランテルに住む人間など蟻程度の価値しかない。
「蟻の巣、ですか」
「はい。だから、人間を殺すことを特に忌避してません。徒に殺すような真似はしませんがナザリックの利益に繋がるのであれば容赦なく殺せます」
「……そうですか」
「……ショックでしたか?」
仲間に嘘はつきたくないので正直な気持ちを話したが、女性に話すような内容ではなかった。
かつての同胞を何の躊躇いもなく殺せますよと言って、相手に良い印象をもたれるわけがない。
女性は何気ない一言で気分が乱高下する生き物だ。
それこそ、次の瞬間から虫を見るような目で見られることすら在り得る。
かつての友人にそんな対応を取られたらモモンガはそれこそ立ち直れない精神的ダメージを受けるだろう。
だが、そんなモモンガの心配は運が良いことに杞憂で済んだ。
「本来ならショックを受ける場面なんでしょうね。でも、今は安心したような、羨ましいような、複雑な気分で困ってます」
「複雑な気分?」
「私も人間が同族には思えません。モモンガさんとは少し見えてる物が違う感じですね」
「見えてる物が違う?」
「はい。モモンガさんは人間が虫に見えると言いましたよね? でも、虫だって生き物ですよね。私にはもっと違う物に見えるんです」
モモンガは黙って、次の言葉を待つ。
「私には人間が飲み物に見えるんです」
「飲み物? あっ……」
みかかの言葉が一瞬理解できず、一拍置いてからその意味を悟った。
彼女は吸血鬼――血を吸う鬼なのだ。
「結構、シュールな光景なんですよ? 人間の頃の認識で言うとお酒の瓶が歩いて話してるみたいな感じでしょうか? 困ったことにこっちの世界に来てから吸血鬼の感性に書き換えられているみたいで、それをおかしいとは思わないんですよね」
それはモモンガには想像できない光景だ。
彼女のように世界が見えたら、どう感じるのだろうか?
「それもあって血を吸いたくなるんですよ」
「みかかさんは吸血鬼ですからね」
「はい。元が人間だったせいなのか分かりませんけど、人間――特に若い女性の血が好みなんだと思います」
「そうだったんですね」
(だからあの人間とあんなに親しそうにしていたのか。別にそんな事をしなくても手はあっただろうに……)
吸血鬼の種族的能力の一つに魅了の魔眼というものがある。
魅了とはかけられた相手にとって強く信頼できる友人であると認識を誤認させることが出来る。
ただし、死亡したり大怪我をしたりするような友人がしそうもない命令や友人であっても聞けない頼みには従わない。
そういった命令を行うときはより強力な精神支配を用いる必要があり、これであればどのような命令でも実行する。
人間種に対する特効性能を有するみかかが魅了の魔眼を使用すると達成値にボーナスがついて魅了と精神支配の中間のような効果が現れる。
分かりやすく言えば、友人ではなく恋人や家族であると誤認させることが出来る。
これにより愛する者の為なら己の命すら厭わない人間が存在するように、場合によっては死すら命じることが可能となる。
つまり、みかかはその気になれば簡単に吸血行為を行える筈なのだ。
能力を用いずに、わざわざ一から人間関係を構築しているのは人の心の残滓がそうさせているのだろう。
だとしたら彼女の前では人間の扱いに注意を払わないといけなくなる。
(冒険者ギルドで聞いた話をどう切り出すか。そして、どう彼女を説得すべきか)
「みかかさん。少しお話があるんです」
「なんでしょう?」
「この世界の金銭を得る為、取引にいかれましたよね?」
「あっ、そうでした。どっちが多く稼げるかでモモンガさんと勝負してましたね!」
無限の背負い袋を取り出す彼女は上機嫌でモモンガの様子の変化に気付けてない。
「どうですか? 貴重な薬草を売ったのでそこそこの金額になりましたよ? なんと金貨四十枚です!」
この世界の貨幣は基本的に四種類。
銅貨、銀貨、金貨、白金貨で一枚辺りの価値は銅貨が千円、銀貨が一万円、金貨が十万円、白金貨が百万円。
そうなるとみかかは四百万円を稼いだことになる。
「……むっ、負けましたね」
モモンガも大量のモンスターを狩り殺してかなりの金銭を得たが、金貨にして三十枚ほどだ。
「私の読み通り、この世界でも命に関わる物の価値は高いです。とは言え、大部分はアウラとマーレがトブの大森林で採取したものなので私の手柄ではないですけどね。だから勝負はモモンガさんの勝利ということで」
「いやいや、どんな形でも勝負は勝負ですから」
「そうですか? でも、実は肝心の商談の方が破談になってしまうかもしれなくて」
「あれ? そうなんですか?
モモンガはみかかに営業の相談を受けたことを思い出す。
別に身内だからというわけではないが、みかかの提案は悪くないように思えた。
互いに利益を得られる関係は商売として最も良好な関係であり取引相手としては申し分ない。
どちらか一方の力が上だとそれを盾に無茶な要求を突きつけられたりすることがあるからだ。
てっきり上手くいくと思っていたのに、何かあったのだろうか?
「その、現経営者のリイジーさんは乗り気だったんですけど、次期経営者のお孫さんがそうではなかったようで……」
「ああ。そういう事ってありますね」
営業職のモモンガとしては馴染みのあるパターンだ。
「そうなんですか?」
「ええ。一代で伸し上がった会社にはよくあるパターンですよ。二代目が駄目にして三代目が会社を潰すって聞いたことありませんか?」
「……聞いたことはありますが、それって都市伝説の類じゃないんですか?」
「はははっ。いやいや、実際多いですよ」
モモンガはみかかの不思議そうな呟きに思わず笑った。
使い潰された慣用句、どこかで聞いたような話というのはそれだけよくある事なのだ。
「ちなみにその三代目はどんな感じの人でしたか?」
「う~~ん。ちょっと人見知りレベルが高そうでしたね。ロクに会話もしてないので何とも……」
「ああ。だとしたら、保守的な人なのかもしれませんね」
経営者は大別すれば二つの分類に分けられる。
ひたすら手を広げるのか、己の手の内にあるものを守るのか、だ。
「その人が内向的な人なら安定を求めるのは王道といえば王道でしょうね」
「それが好条件であっても、ですか?」
みかかはモモンガに問いかけてくる。
どうやら彼女には理解しがたい感覚のようだ。
「好条件だから尚更なんですよ。そういう人は甘い話には乗りません」
「確かにモモンガさんの言う通りかもしれませんね」
みかかはモモンガの指摘に感心したように頷いた。
いかにも床を見つめて黙りこっていた彼が取りそうな判断だからだ。
「都市一番の薬師といっても祖母と孫の二人経営なんでしょう? だったら守りに入るのも分かる気がしますね」
「経営者なら店を広げる機会をぶら下げれば食いつくと判断したのですが、どうやら逆効果だったようですね」
「そうですね」
みかかに足りないものはリサーチ能力だろう。
取引先の内情を事前に調べておけば結果も変わったかもしれない。
「勉強になりました。ありがとうございます」
「いえいえ。営業にはある程度の運も必要ですからそんなに気にする必要はありませんよ」
そう言ってモモンガは律儀に頭を下げるみかかを慰める。
「私も情報収集が上手くいってませんからね。失敗したらしたで、二人で守護者達への言い訳を考えましょう」
冒険者ギルドの一件で、モモンガ達は素質はあるが怖い人というイメージが定着してしまった。
皮肉なことだが、モモンガは登録時に名乗ったモモン・ザ・ダークウォリアーの名で呼ばれ恐れられている状態だ。
現在はダークヒーロー路線に乗り換えるべく鋭意努力中である。
「べ、別に私はまだ失敗したわけじゃありませんからね?! お祖母さんのほうはやり手に見えたので何とか契約を取り付けられるかもしれませんし!!」
「いや、どちらかと言うとその連中との取引は断られる方が都合がいいです。その方がこちらも気も楽ですし」
「えっ? それはどうしてですか?」
みかかは不思議そうに尋ねる。
モモンガは意を決して打ち明けることにした。
「みかかさん。冒険者ギルドで偶然、聞こえたんですが……みかかさんは次期経営者の男に犯罪者だと思われてますよ?」
「………………」
モモンガから告げられた驚愕の事実に目をぱちくりと瞬かせる。
それから一拍置いて絶叫した。
「はぁああああああああああああああああああ?!」
テーブルを叩いて立ち上がった。
「な、なんで?!」
「心当たりはないんですか? 冒険者ギルドでは最高位の冒険者を雇って、カルネ村を調査しに行くって話しになってます」
「あ、ありませんよ! 黙って床とお見合いしてると思ったら、そんな事考えてたんですか! あの、エロゲ主人公!!」
「エ、エロゲ主人公?!」
モモンガが訳も分からず聞き返すと、みかかはモモンガに足音も荒く詰め寄ってくる。
「そうですよ! ペロロンチーノさんに見せてやりたいくらいです!! こーんな髪型した男です!」
みかかは自分の手で前髪を垂らすように押さえて見せた。
「髪が長いんですか?」
「長いと言うかシェードですよ、あれは! だから、あだ名はエロゲ主人公なんです!!」
「………………」
なるほど、わからん。
「素朴な疑問なんですけど、なんでみかかさんがエロゲの主人公の髪型なんて知ってるんですか?」
「ペロロンチーノさんが強引に貸してくれたんですよ。すっごい昔のエロゲの全年齢版を」
「あ、ああ……みかかさんにも布教してたんですね」
モモンガに渡されたのは全年齢ではない方だったが。
「はい。一時期借りたゲームの主人公達が何故か判を押したようにあんな髪型をしていたのを覚えてます!」
「へ、へぇ」
モモンガは借りた――というより押し付けられたのだが結局遊んでいない。
モモンガにとってはユグドラシルが大事だったからだ。
「そんな事はどうでもいいんです! なんで私が犯罪者呼ばわりされないといけないんです?」
「ただの犯罪者ではなく八本指と呼ばれる組織犯罪集団のようです」
日本風に言えばヤクザ、海外風に言えばマフィアだろうか。
「……む、むうっ」
その言葉に何故か噛み付かんばかりのみかかの勢いが削がれた。
「それだけじゃありません。彼、ンフィーレア・バレアレは《タレント/生まれながらの異能》の持ち主です」
「……なんですって?」
みかかの顔が一気に真剣なものに変わった。
《タレント/生まれながらの異能》
ユグドラシルにはないこの世界の人間が生まれながらに持っている特殊な力の事だ。
存在自体は珍しくないそうだが、その力は強力な物から弱いものまで様々である。
「能力はありとあらゆるマジックアイテムを使用可能というもので都市内では有名だそうですよ」
「………………」
みかかは物理職でありながら、スクロールを使用することにより魔法を扱うことが出来る。
彼はそんなみかかの能力の上位互換の性能を持っているようだ。
「便利な能力を持ってるんですね。あの子」
「ええ。だから近いうちに始末しようかと思ってます。なので取引に関しては心配することはありません」
「………………えっ?」
みかかは思わず詰め寄ってしまったモモンガの顔を見つめた。
流れ出したような血にも似た色の光が空虚な眼窟の中に灯っている。
その血色の灯火は激しく燃えるような力強さが感じ取れた。
「俺の友を薄汚い犯罪者風情と同列だと語ったんです。そんな虫けらを生かしておく理由はない」
みかかの聞きなれたモモンガの声ではない。
守護者達と接する時のモモンガ様の声だ。
それはつまり、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の長としての意見を述べているということだ。
「モモンガさん? ちょ、ちょっと待って下さい!」
そういう場合ではないが、みかかは頬が赤くなった。
いや、ただの暴言にそこまで怒ってくれるのはある意味で嬉しい限りだが、そういう場合ではない。
彼のためにも自分のためにも、そしてギルドの為にも、そんな事をさせるわけにはいかない。
「やはり、止めますか?」
「止めますよ! お気持ちは嬉しいですけど、そんな私に疑いをかけたくらいで……」
「みかかさん。彼は貴方に明確な敵意を持ってます。だから、私は始末しようと思ったんです」
「えっ?」
その言葉はみかかの想像の埒外にあるものだった。
(敵意? 何故? カルネ村で薬草採取が出来なくなるから?)
「なんにせよ、俺にとっては――今ここにいる貴方や、かつての仲間を侮辱するような輩にかける情けはありません」
「………………」
まずいことになったな、とみかかは胸中で呟いた。
(……これか。私の感じてた違和感は)
モモンガが本気で怒っている所を見るのはこれで二度目だ。
一度目は六年ぶりに再会した時の円卓の間になる。
再会した時から少し不安には思っていたのだ。
六年という月日。
サービス終了日だから集まらないかというメール。
誰もいない円卓の間。
そこで一人、声を荒げていたモモンガを見た時、みかかは悟ったのだ。
皆、ここを去ったのだろうと――そして、彼にとってユグドラシルがどれほど大事なものであったのかを。
音信不通で六年ぶりに会った自分を、少し侮辱されたくらいで殺そうとするほど思ってくれているのが何よりの証だ。
(だからこそ私が止めないと。このままじゃ、いけない)
「モモンガさん。ンフィーレアは危険である反面、利用価値も高い人物です。出来れば、ナザリックの手中に収めたいと思いませんか?」
「みかかさんが説得するつもりですか? 今の状況では厳しいですよ?」
「きっと誤解があるのだと思います。仮に誤解でなくても一度は警告すべきです。私の知ってるモモンガさんはそういう人でした」
「………………」
モモンガは基本的に警告を二度もしない。
何故なら、その人物の選択を尊重するからだ。
たとえ、その結果がその者にとっての不幸になるとしても。
「ギルド長。どうか、みかかにお任せあれ。きっと誤解を解いてみせます」
「………………」
その台詞はかつてよく耳にした言葉だ。
自分も仲間もその言葉を信頼し、彼女に任せてきた。
「……分かりました。では、みかかさんにお任せします。ただし、みかかさんの勧誘が失敗する、もしくは彼がみかかさんに対して具体的な害を為そうとした時点でこちらで始末をつけますよ?」
「はい」
今のモモンガを相手に、これ以上の譲歩を勝ち取るのは難しい。
他人の命をチップに賭け事をするなど、偉くなったものだと自分を卑下してしまうが仕方ない。
みかかにとってンフィーレアは身も知らない他人だ。
(だからこそ分からない。どうして私は敵意を持たれたの?)
みかかには答えが思い浮かばず、首を傾げるばかりだった。
◆
城砦都市エ・ランテル共同墓地の地下で秘密結社『ズーラーノーン』十二高弟のカジットとクレマンティーヌは合流を果たした。
「漆黒の悪夢ぅ? 何よ、それ」
「知らぬのも無理は無い。つい先日現れたばかりの新人冒険者チームだからな。だが、その実力はあなどれんぞ」
カジットから聞いた情報にクレマンティーヌは笑った。
「それが本当なら、確かにそいつはヤバイ奴かもねぇ」
殺気だけでミスリル級冒険者を廃業に追い込むなどクレマンティーヌを持ってしても不可能だ。
しかし、噂に尾ひれは付き物だ。
クレマンティーヌは余り本気にしていない。
そんな彼女を嗜めるかのようにカジットは続ける。
「その場に居合わせた冒険者達も次々と辞めている。眉唾とも思えん」
「うーん。それなら確かに嘘ってわけじゃなさそうだね」
それにカジットの情熱を考えれば中途半端な調査を行ったとは思えない。
「荒唐無稽としか言いようがない話だが、御主ならどう見る?」
「妥当な線なら第四位階……或いは第五位階の幻術に特化した魔法詠唱者、かな」
「……幻術か。確かに特化した魔法詠唱者ならそんな現象を起こすことも可能か」
それが特化系魔法詠唱者の強みだ。
得意分野を潰されると極端に弱体化するが、得意分野においては頭一つ分飛びぬけた能力を持っている。
それならば件の芸当も可能となるだろう。
「そいつの仲間に虎の仮面被った頭のおかしい奴がいるんでしょ? そいつがそうなんじゃない?」
だとすれば恐ろしい相手ではあるが、十分に戦える。
所詮、魔法詠唱者などスッと行ってドスッで終わる脆い相手だ。
「カジッちゃんが心配するのは分かるよ? だけど戦士というのはないね。私の知ってる六大神の末裔、神人でもそんな殺気は出せないんだから」
「お前が時折話す眉唾もののアレか。ならば戦士ではなく魔法詠唱者で決まりだな」
「だったら、手伝ってくれるよね?」
クレマンティーヌが至宝を手にカジットに問いかける。
その手に握られた物はカジットの悲願を叶える宝だ。
叡者の額冠。
スレイン法国の最秘宝の一つであり、巫女姫の"証"でもある。
装備者の自我を封じることで、人間そのものを超高位魔法を吐き出すだけのアイテムを変える神器だ。
本来であれば、このアイテムを使用できる女の確立は百万人に一人という割合だ。
しかし、この街にはこのアイテムを使用できる男がいる。
ンフィーレア・バレアレ。
この街でも有名なタレント持ちの男を生贄にすることで、カジットは夢に大きく近づくことが出来る。
「いいだろう。ただし条件がある。お前がその冒険者チームを直々に調べることだ」
だからこそ、カジットは用心深く動く。
ここで気持ちが逸れば、全てが無に帰す可能性があるからだ。
「……んーいいよぉ、ただし交換条件で私も調べて欲しい奴がいるんだけど」
「何?」
「どこの奴か知らないけど、ちょっと気になる相手がいてね。下手をするとカジッちゃんの儀式を邪魔する奴かも知れないよぉ?」
「いいだろう。そんな相手がいるなら調べないわけにはいかぬ。どんな奴だ、言え」
「すっごい目立つからすぐに分かると思うよ? すっごく可愛らしいメイドちゃんとご主人様だから――念入りにぶっ壊してやりたくなるほどねぇ」
まるで口が裂けたような笑みを浮かべて、クレマンティーヌはお気に入りの獲物について話し出した。
◆
城砦都市エ・ランテルで一番の宿屋といえば『黄金の輝き亭』になる。
星の明かりだけを頼りに昼に主人が購入した本をシコクは読んでいた。
猫の手で器用にページをめくっていたシコクがぴたりと止まり、顔を上げる。
「何用じゃ? ルプスレギナ」
シコクの視線の先にあるのは鍵のかかっていない窓だ。
それが開いて、閉まる。
常人であれば勝手に窓が開いて閉まるという不可思議な光景に見えただろう。
「どうもっす。遊びに来ましたっすよー」
明るい声と共に美貌の女性が姿を現した。
ナザリックが誇る戦闘メイド『プレアデス』の一人、ルプスレギナ・ベータだ。
「《完全不可視化/パーフェクト・インヴィジビリティ》を使ったのに、あっさりばれたっすね? あっ、今は城塞都市の赤い死神、ルプスと呼んで欲しいっす」
「了解した。で、用件は?」
途端、ルプスレギナの様子が変わる。
「モモンガ様よりみかか様が戻るまでは、こちらに身を寄せるようにと申し付かっております。それと伝令を頼まれました」
「ほう。何じゃろ?」
「私もその場にいたのですが、本日ンフィーレア・バレアレがみかか様とカルネ村の調査を冒険者ギルドに依頼しました。二日後には王国のアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』と呼ばれる五人組がやってくるそうです」
再び本に視線を戻したシコクに向かってルプスレギナは報告する。
「左様か」
「それとンフィーレアは全てのマジックアイテムを使用可能という強力な《タレント/生まれながらの異能》の持ち主です」
「左様か」
「………………」
ルプスレギナはチラリとシコクの顔を盗み見るが猫の顔に変化は無い。
「どうかしたかの?」
「いえ。ンフィーレア・バレアレの扱いについてモモンガ様とみかか様で御意見が違えたようで……」
「皆まで言わずとも分かった。大方、殺す殺さんの話しになったという所じゃろ?」
ルプスレギナは頷いた。
「まさしく――何故、分かられたのですか?」
「そうあれと望まれたから――ただ、うちら幽霊種の種族的特長に第七感というものがある。さらに上位種になると第七感を超えた阿頼耶識というものに変わるのも関係しとるのかもしれん」
「なるほど。私の獣の勘のようなものですね」
「さもありなん」
それからしばらく規則的にページを捲る音だけが響く。
伝令の終わったルプスレギナに興味がないのかシコクは相手をしてくれる気配はなさそうだ。
仕方ないので積まれている本を一つ取って開いてみるが、文字がまったく読めない。
どれも文字ばかりの本で漫画はなさそうだった。
「退屈なんで、ちょっとお話ししてもいいっすか?」
「かまわんよ」
本から目を離さず、シコクは答える。
どうもルプスレギナの変化には興味はないらしい。
「この本、こっちの世界の言葉っすよね? 読めるんすか?」
「覚えた」
「はっ?」
「何を不思議がる必要がある? 御主とて時間をかければこれくらいの事出来るじゃろ?」
「いや、凄いっす。尊敬するっすよ」
異国の言葉を翻訳し、即座に覚えるなど一苦労だ。
流石はナザリックでも一、ニを争う頭脳の持ち主である。
「あー。後、さっきからめっちゃ気になってるんっすけど……」
「うん?」
ルプスレギナは奥の部屋――寝室に続く扉を指差した。
「あの部屋にいるのは村娘ちゃんっすよね?」
「そうじゃよ。カルネ村のエンリ・エモット。今回のガイド役じゃな」
「あー、やっぱり?」
ルプスレギナは頬を指で軽く引っかいてから、シコクに尋ねた。
「ナニやってんすか? あの子」
「寝とるだけじゃが?」
「えっ? 寝てる?」
ルプスレギナは疑わしそうに扉の奥へと神経を集中させ、再度尋ねる。
「みかか様の特殊技術で眠らされとるから朝までは絶対起きん。それがどうかしたかの?」
「いや、ほら……私ってワーウルフじゃないっすか」
「うむ」
「狼なんで鼻と耳が利くんっすよ。あっちの部屋から発情期の雌の分泌物の匂いと、頑張ってる声が駄々漏れなんすけど……」
「それは難儀な事じゃな。代価にはその羽を、と言う所じゃよ」
シコクが本の表紙をルプスレギナに向かって見せる。
そこには純白の羽が黒く染まっていく天使の絵が描かれていた。
「どういう意味っすか?」
「これじゃ」
ふよふよとテーブルに置かれていた小瓶が宙を浮いてルプスレギナの前までやってくる。
「うあ!? これ、香水っすね!」
それを手に取った瞬間、ルプスレギナは鼻をつまんだ。
「ああ、すまぬ。御主には匂いがきつかったかの?」
「はい! これってアルベド様がお使いになってる奴っすね。ううっー。香水の類は正直勘弁してほしいっす」
ルプスレギナが耐えられないとばかり香水の瓶を投げると再び重力を無視した動きで元の場所に戻った。
「ちなみに、あれは守護者統括殿が街に向かう際にみかか様に渡したものなんじゃが、思うところあってうちが預かっとった」
「……はぁ。そんな事していいんっすか? アルベド様にばれたら面倒臭いことになるっすよ?」
ルプスレギナは匂いが移ったのか自分の手の匂いを嗅いで、嫌な顔を浮かべている。
「その自慢の鼻でよく匂ってみるがよい。そしたらうちが懐に収めた理由が分かる」
「……? …………?? ………………うあっ、最低っす」
ルプスレギナは手の匂いをくんくんと嗅いでから、ドン引きした表情で呻いた。
「その反応を見るにうちの予測は当たったようじゃな。古来より乙女は愛する相手に菓子を贈るときは髪の毛やら何やらを混ぜたと聞くが……」
「これは血っすね。私みたいに嗅覚に優れた種族じゃないと見逃すほどに希釈されてますけど」
「みかか様は吸血鬼じゃからの。血の匂いはみかか様の気を引く上に、守護者統括殿の種族も相まって極上の媚薬になるという寸法じゃろうよ」
「あー。それを人間で試したんっすね? うあーそれはひとたまりもないっす」
淫魔の吐く息、汗、血液はそれ自体が強烈な媚薬であり、魅了の効果を有している。
至高なる御方であれば容易に抵抗出来るだろうが、幾ら希釈されてるとは言え、ただの人間が抵抗出来るわけがない。
その結果が、扉の向こうにあるわけだ。
この匂いにあの声――さぞかし強烈な淫夢を見ていることだろう。
「しっかし……なんでまた、そんな事するっすか?」
「忘却領域に捨てられた廃棄品とは言え、無料で貸し出すわけにもいくまい? レンタル料代わりに実験台になってもらっただけじゃよ」
その質問にシコクは笑った。
「それにみかか様に溺れて貰ったほうが色々と都合がいいからのう」
「……だとしたら、まずいと思うっす」
「何がじゃ?」
「エンリ・エモットはモモンガ様に不快だなって言われたんっすよ。だから始末する運びになると思うんっすけど……」
「………………うん?」
みかかが円卓の間で首を傾げている頃、それに同調するようにシコクも小首を傾げて沈黙するのだった。
ンフィーレア「蒼の薔薇ーー!! はやくきてくれーーっ!!!!」
アインザック「金貨五十枚になります」
現在のレートに換算すると五百万円である。
頑張れ、エロゲ主人公(90年代)
見所はエンリさん。
彼女は勉強熱心なタチキャラです。
今回のイベントにより特殊技術を取得。
夜の運動会の達成値にボーナスがつきます。やったぜ。
なんか今回、そういうネタ多いですね。
嫌いな人はごめんなさい。