Overlord of Overdose ~黒の聖者・白の奴隷~   作:Me No

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懐かしき黄金時代~ビギナーズラック~

 

「お嬢ちゃん。お小遣いをあげよう」

「わーい」

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の本拠地、ナザリック地下大墳墓にある円卓の間。

 ログインしたみかかを見つけたギルドメンバーのぶくぶく茶釜が無限の背負い袋を一つ差し出してきた。

 みかかを勧誘したのはぶくぶく茶釜で、その甲斐もあって二人は仲がいい。

 ここでは、みかかの周りは全員年上なので妹として振舞うことが出来てストレス発散になっていたし、ぶくぶく茶釜は理想の妹像を彼女に強要……もとい教育することに楽しみを見出していた。

 

 しかし、現実は小説より何とやら。

 

 そんな二人をマリア様辺りが観察してくれていればジャンルも異なっていたのかもしれないが、元々みかかは委員長気質なところがあるので、ぶくぶく茶釜の理想とする姉妹像には至れない所が悩みの種だった。

 

「何かな、何かな~~」

「………………」

 そんな訳で今回はプレゼント大作戦。

 贈り物でご機嫌を取ろうとしているわけなのだが……。

 

「……って、これはガチャのハズレアイテムじゃないですか!?」

「そうだよ~~。大事にしてね」

「しかも、何ですか。この大量のハズレアイテム!?」

 語尾にハートマークをつけるぶくぶく茶釜の前に剣呑な空気を纏ったみかかが詰め寄る。

 

「また、こんな無駄使いをしたんですか!? もうガチャは懲り懲りだって言いましたよね?!」

 ぶくぶく茶釜の前に立ち、両手を腰にあてたみかかが詰問する。

「言ッテナイ」

 かつて流行ったボーカロイドのような機械音声。

 声優であるぶくぶく茶釜の得意技だ。

 

「い・い・ま・し・た!」

「ダガ、私ハ言ッテナイ」

 ぷるぷると震えながらピンク色の粘体の二本の触手が伸びて頭部にくっつく。

 見た目がスライムなので判別つきにくいが、多分耳を塞いだのだろうと思われる。

 騒がしくなった女子メンバーに、他のギルドメンバーが何事かと視線をやって……なんだ、いつものことかと視線を戻した。

 

 ぶくぶく茶釜曰く『現役中学生に怒られる経験プライスレス』

 あの弟との血の絆が垣間見られる一言だった。

 

「う、ううっ……だって、うちのマーレにどうしてもドラゴンをあげたかったんだよ」

「こういうものは出ないと決まってるんです。だから素直に諦めるが吉、ですよ」

「えっ? 出るよ?」

「はい、そこ! また、ギルド長がゴロゴロするので《シューティングスター/流れ星の指輪》の話はやめてください!!」

 不思議そうに言った半魔巨人のやまいこをみかかは指差す。

「ほら、やまちゃんも出てるんだから私もきっと出るよ! 確率1%の壁を越えてみせる!」

「出ません。そのドラゴンって確か1%の壁を乗り越えた後、そこから十何種類選ばれるんですよね?」

「ピックアップ期間だからドラゴンが出るよ! ふふっ、もう二回ほどピックアップを外してるけどね」

 見る者全ての哀れを誘うだろう悲壮感漂う声だ。

 

「大丈夫。ぶくぶくちゃんも出ると思って回してみると出る」

 

「ゲームにそういう精神論とか、マインド的なものを持ち出さないで下さい。茶釜さんが影響されちゃいますから! ささ、やまいこさんはあちらに行きましょう」

「出ると思えば出るんだけどなぁ、ボク」

 やまいこは背中を押されながら不思議そうに呟いた。

 

「ノンノン……リピートアフターミー、かぜっち。頑張るよ、私!」

「ゴメンゴメン、そうだった。かぜっち。頑張れ、かぜっち!」

 ぶくぶく茶釜とやまいこが「イエーイ!」とハイタッチをする。

 

「大体、出ない出ないって言うけど、お嬢ちゃんはどうして出ないと思うわけ? あっ! まさか外した? 爆死しちゃった?」

「爆死って、なんです? ガチャに外れると爆発系の魔法でもかけられるんですか? 生憎と私はガチャなんて、ナンセンスなものはしたことありません」

「ナンセンス?」

 やまいこが聞き返すとみかかは胸を張って答える。

「そうです。私の敬愛するお爺様も仰ってました! 縁日にある当たり付きの籤は出ないものだ。何故なら、最初から当たりを抜いてるから。ガチャも最初から出ないように作っているに違いあ――」

「――お前の爺さんのせいか! お前の爺さんとかパレンケの宝珠とかがあるから、世界は狂ってしまうんだ!!」

 

「きゃーーーー」

 

 波に人が飲まれるように、ピンク色の粘体にシスターが取り込まれた。

 見るものが見れば、アカウント凍結もありそうな光景だ。

 

「ち、違います! あれですよ、みかじめ料? 違いました。授業料というものなのです!! こうして、みんな大人になるんですよ? そして、皆さんの授業料が私のお小遣いになるんです。だから安心していいですよ?」

「ギルド長。こいつ……シメテ良い?」

 ぶくぶく茶釜の声が低い。

 これはマジトーンだ。

「ギルド長権限で許可します。彼女の祖父こそ、私のボーナスの仇です」

「いじめです! いじめが発生してますよーー」

「違う。これは革命だーー」

「おや? 今日も元気にやってますね」

 吸血鬼とスライムが騒ぐ中、蔓で構成された植物系モンスターがやって来た。

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の諸葛孔明、ぷにっと萌えだ。

 状況を察したぷにっと萌えは場の仲裁をするべく、ぶくぶく茶釜に声をかける。

 

「しかし、ぶくぶく茶釜さん。みかかさんの言う事にも一理あるかもしれませんよ?」

「どういう意味かな? ぷにっと萌えさん」

 みかかに伝説の関節技『パロ・スペシャル』をかけた状態でぶくぶく茶釜が尋ねる。

「私もこういうガチャのあるゲームはいくつか遊んでますけど……たまにあるんですよね、これ確率を操作されてるんじゃないか、と思うことが……今まで散々課金したゲームをしばらく放置した後にやるとガチャで貴重なアイテムがわんさか出たりとか経験はないですか?」

 ふふふ、と関節技をかけられた状態でみかかは不敵に笑う。

 

「おや、ぷにっと萌えさんらしくありませんね? それはオカルトです。単なる偶然を、強運だとか、運命だとか思い込んでいるだけなのです」

「まだ言うか、このなんちゃってインデックスは!?」

「いい加減にしてください! いつまでも、やられっぱなしだと思わないことです!」

「何っ?! 脱出不可能の筈のこの技を外した!?」

 そのまま二人は取っ組み合いを始めたのだろうが、傍から見ていると触手に襲われる修道女にしか見えない。

 

「ま、まぁ……本当に公正に確率論が適応出来る状態ならそうでしょうね。しかし、どうでしょう? ユグドラシルもゲームであり、運営も商売ですから儲かるなら儲けを追求すべきです」

「ふむ。つまり、ぷにっと萌えさんは何らかの不正がある、と?」

 年齢差による体力差の前に屈したのか、完全にスライムに取り込まれた状態でみかかは尋ねた。

 

「なんか、みかかさんがスライムに服を溶かされる往年の漫画ヒロインのような状態になってますから、そろそろ止めたほうが……っと、失礼。それが資本主義の原則、法治国家の在るべき姿というやつですよ。つまり、ばれなければ犯罪じゃない」

「相変わらず策士ですねぇ」

「みかかさんはわりとガチャ以外で課金してる方です。一度、やってみては? きっと運営のウィル・オー・ザ・ウィスプが素敵な案内をしてくれると思いますよ」

「こらこら、幼女を底なし沼に誘うのはいただけないなぁ」

「ぶくぶく茶釜さんは底なし沼と分かっていて回すんですね、大人だなぁ」

 みかかはうんうんと頷く。

 

「はい、とっても駄目な大人です。きゃーー」

「買わずにする後悔より買ってする後悔! なぁに、お嬢ちゃんも大人になれば分かる」

「かぜっちの部屋って買ったけど一度も使ってない健康器具が大量にありそうだよね。まぁ、それはともかくとして……ガチャって確か定期的に無料券をくれるよね? みかかちゃんはやったことはある?」

「ありません。どうせ当たりませんのでやりません」

 なんの迷いもなく言い切ったみかかに、ぶくぶく茶釜とやまいこ以外の皆も乾いた笑みを浮かべた。

 

「さすがはそこにどんな宝があったとしても、地雷原を見れば即座に撤退する女。まったく……夢もキボーもありゃしない」

 そういって、ぶくぶく茶釜はじゃれつくのを止める。

「リアリストと呼んでください」

「私もリアリストだよ? マーレにドラゴンをあげる、これは決定事項だもん」

「だから――」

「――出るまで回すよ。零じゃないなら、必ず辿り着ける。欲しいものを手に入れるための努力は惜しまない。そうじゃないとこの業界は生きていけないんだなぁ」

「やだ、かぜっち。かっこいい」

 やまいこは感動したように呟き、みかかは苦虫を潰したような顔をする。

 

「何故でしょう? なんだか私が悪者で負けたような気がします」

「まぁ、リスクを負わずにリターンを得ることは出来ませんからね。しかし、人には性分というものがありますから、みかかさんは茶釜さんみたいにならなくてもいいと思いますよ」

「自分の性分くらい弁えているつもりです。まったく、いいでしょう……貯まりに貯まった無料分を回してきますよ、どうせ外れるでしょうけど……」

「駄目だよ、そこで自分なら必ず当たると思って回さないと」

「やまいこさん、ガチャはパンチングマシーンとかではないですからね!? 関係ありませんから!!」

「そうかなぁ」

 不思議そうな顔をするやまいこの横でみかかはコンソールを呼び出して何かを操作する仕草を見せる。

 自分達には見えないが課金ガチャの画面を呼び出してるのだろう。

 

「よく分かりませんが十連ガチャとかいうのをやってみますか。どうせ、外れて皆さんの笑い物にされてしまうのです。なんて哀れな私……」

「外れろ~~。外れろ~~」

「ぶくぶく茶釜さん。そういう大人気ない真似はやめてください」

 

「ちなみに唐突ですが、ここで某有名な法則を」

「有名な、法則?」

「ええ。みかかさんみたいに、どうせ外れる、絶対外れるという人ほど当たりやすい」

「またまた~~。そんな簡単に出るなら私もみかかちゃんでストレス発散しないよ?」

「かぜっち。それは良くないな」

 

「えっ?!」

 

 皆の視線が思わず声が漏れてしまったみかかの方を向いた。

 

「おや、本当に当たったみたいですね?」

「ち、違います! ドラゴンなんて出てませんから!?」

「……ほう」

 ぶくぶく茶釜の背後に炎が上がる。

 嫉妬の炎だ。

 

「どうやらハズレでもないようですが……まぁ、何と言いましょうか可もなく不可もなくという面白みのない結果に……はいっ?!」

 

「ほら、出たでしょ?」

「出てません! 出てませんよ~~?」

「…………ほう」

 

 少しずつぶくぶく茶釜から距離を離すみかか。

 そんな彼女にジリジリと近寄るぶくぶく茶釜と、後ろからスススッと近寄っていくモモンガ。

 

「まったく、ぷにっと萌えさんの言う通りかもしれません。最初の十連だからって、こんな作為的な……ええっ! ちょ、何で!?」

「確保、確保ーー!!」

 ガチャに振り回されたぶくぶく茶釜とビギナーズラックを引き当てたみかかが円卓の間を走り回る。

「この禁書目録! 私の触手で動けなくした上でドロリ濃厚で乳白色なポーションをかけてやる! 他意はない!!」

「やだ、この人。怖い?! 他意ありまくりです! 単なるセクハラスライムです!!」

 

「その内、バターになりそうですね」

「そうなの?」

 ぷにっと萌えの発言は何らかの比喩なのだろうが、やまいこはそれを知らない。

「ええ、まぁ。しかし、何はともあれ……今日もナザリック地下大墳墓は平和です」

「まったくだね」

 ぷにっと萌えとやまいこは言い争いながら追いかけっこをする二人を楽しそうに見つめる。

 それはある日の一時。

 何よりも輝かしい――黄金の日々の一幕だった。

 

 

「それが、どうしてこうなった?」

 白昼夢から目覚めたみかかは起こった事態が飲み込めずに呆然と立ち尽くす。

「貴方様が私の召喚主でございますかにゃ?」

 目の前にいるのは件の課金ガチャで手に入れ、使わずに取っておいたモンスターだ。

 それはナザリック地下大墳墓には存在しない種族、妖精種のケット・シーだ。

 姿としては中型犬ほどのやや大きい猫の姿で、二足で歩き人語を喋っている。

 

「確かにそうなのだけど……一つ、聞いてもいいかしら?」

「一つと言わずにゃんにゃりと」

 その愛くるしさに本日のみかか当番、一般メイドのシクススがほっこりとした表情を浮かべている中、みかかは渋面を作りながら質問する。

 

「あなた……レベルはお幾つ?」

「一ですにゃ」

「そう。一レベル……やっぱり、そうなのね」

 みかかの特殊技術でも感じた……放つ気配が弱すぎるのだ。

 だが、それはおかしい。

 在り得ないと言ってもいい。

 絶対に、おかしいのだ。

 

「ええっと……一レベルだけど、何か凄い特殊技術を持っていたりするわけかしら?」

「にゃんにもございませんにゃ」

「あらまぁ」

 みかかとケット・シーは申し合わせたようなタイミングで微笑んだ。

「………………シクスス」

「はい! 何で御座いましょうか?」

「モモンガを呼んできて、大至急」

「は、はい!?」

 異様な圧力のあるみかかの笑顔にビクリと震えながら、シクススはモモンガの元に急ぐのだった。

 

「我が友よ、どうかしたのか?」

 これからパンドラズ・アクターとルプスレギナを連れて城砦都市へ赴こうとしていた所をモモンガは呼び出された。

 みかかの部屋に入ったモモンガはここでは見慣れないモンスターに疑問の声をあげた。

「ん? それはケット・シーか?」

「はい。えっと、ギルド長が覚えていらっしゃるかどうか分かりませんが……課金ガチャのレアモンスターです」

「課金ガチャ? ああっ! 無料分で回した十連ガチャが大当たりをした時のアレか!? 随分と懐かしいものを持ち出してきたな」

「ええ。忘却領域に仕舞ってたのを思い出しまして。でも、おかしいんですよ」

「ん? おかしいとは?」

「試しに一つ召喚してみたのですが一レベルでユニークスキルがあるわけでもない。本当にただの種族レベル一のモンスターなんです」

「それは……確かに妙だな」

「そうなんです! あの時のことはよく覚えてます! ちゃんとレアって出てたんですから!?」

「ふむ。ちなみにグレードは?」

「……グレード?」

 モモンガの言葉にみかかは首を傾げた。

 

「ん? もしかして……単なるレアか?」

「単なるレア? 意味が良く分かりませんが、レアです」

「………………」

 ああ、そういうことか。

 モモンガはあの時の事を思い出し、今更ながらのオチに僅かに苦笑した。

「そうだったな。君は、ガチャなどしたことがなかったのだった。だったら、分からなくても無理はない」

「……?」

 未だ理解が及ばないみかかにモモンガは驚愕の事実を告げた。

 

「我が友よ。ガチャにおいてレアとはレアではないのだ」

 

「え? レアですよ? 十連の結果表示が出たときにRの文字がありました。Rってレアの意味だと思ったのですが……」

 みかかの答えは「出るよ?」と言ったやまいこを思い出させた。

「あ~~。いや、そうなのだが、そうではないのだ」

「……?」

「うむ。何を言っているのかよく分からないかもしれないが、ユグドラシルの課金ガチャにおいてレアとはレアではない。実はレアリティにも種類があるのだ」

「はい?」

「ノーマル、ハイノーマルから始まり、レアはレア、ハイレア、さらにこの上に四種類があるのだが私が持つ指輪は何と最高位の……」

 

「 な ん で す か 、 そ れ は ! ? 」

 

 みかかの絶叫に思わず、その場の皆が飛びのいた。

 

「意味が分かりません! それ、レアなのに全然レアじゃないじゃないですか!? 運営は馬鹿ですか、死ぬんですか!?」

 ユグドラシルの運営は自分達がここにやって来たあの日に事実上死んでいるのでは、と思うが……今の状況でそれを指摘するほどモモンガも馬鹿ではない。

 

「えっ?! じゃあ、何ですか? Rが一杯出て――ほら、やっぱり私ってば神様に愛されてるから? とか内心調子に乗っていた私はどうなるんですか!?」

「そんなことを思っていたのか、君は」

 まぁ、単なる黒歴史ではないだろうか?

 

「ははは。まぁ、知らなかったのだから仕方ないさ……私も最初はハイレアとスーパーレアはどっちがレアだったかと戸惑ったこともある」

「どっちもレアですしおすし」

 みかかは拗ねたようにそっぽを向いている。

 

「ふはははは………………ちっ! 良い所を」

 モモンガはそんなみかかを見て、さらに微笑ましい気持ちにかられ……それが一瞬で沈下されて、今度は不機嫌になった。

 至高なる四十一人の二人が気分を害したのを感じたのだろう……ケット・シーは二人の顔を交互に見ながら、自分の運命がどうなるのだろうと不安げな顔を浮かべて震えていた。

 

「み、みかか様!」

 そんな猫妖精を見かねたのか、シクススが緊張しながら声をかける。

「どうかしたの?」

「ハッ、恐れながら申し上げます! その、そちらのケット・シーさんも一レベルかもしれませんが、きっとお役に立てるのではないかと愚考致します! ですから、どうか……どうか、寛大な措置を!」

 

「……ふうん」

 みかかはシクススを一瞥してから意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「まったく貴方の言うとおりだわ、シクスス。私だって鬼ではないのだから、ちゃんと有効利用するわよ?」

「ありがとうございます!」

「これだけ大きいなら一食分のカロリーにはなりそうね? シクススは猫は好き?」

 冷笑を浮かべて質問する。

「はい! 猫さんは大好きです! え? カ、カロリー? えっ?!」

 悲壮な顔を浮かべるシクススと断頭台に立つ罪人のような様相のケット・シーを見て、さすがにモモンガも哀れに思って声かけた。

 

「それくらいにしてやってくれ。二人……いや、一人と一匹が怯えているぞ?」

「……ちょっとした悪趣味な冗談よ。ありがとう、シクススは優しい子ね。そうね……シクスス、良かったらこの猫に名前をつけてくれないかしら?」

「この猫さんに……私が、お名前をですか?」

 シクススはどうやら動物をさん付けするようだ。

 

「これも何かの縁だろう……シクスス、私からも頼む。新しいナザリックのシモベに名を与えてやってくれ」

「ハッ! モモンガ様、みかか様のご命令とあれば……そ、そうですねえ」

 シクススは真剣にケット・シーを凝視する。

 円を描くように歩いて身体を観察したり、屈んで頭を撫でたり、肉球に触れたり、持ち上げてみたり……真剣な顔でケット・シーに接している。

 

 時間がかかりそうなら、また後で……と言おうとしたのだが、真剣な彼女を前にして二人は声をかけるのが躊躇われた。

 

「決まりました!」

 シクススは自信満々といった表情を浮かべた。

「そう。じゃあ、教えてくれる?」

「ロックス、というのは如何でしょうか?」

「いい名前だと思うわ。では、召喚主として命じる――貴方は今日からロックスと名乗りなさい」

 名づけられたケット・シーは二足歩行する猫の身体で器用に臣下の礼を取った。

「ハッ……ありがとうございますにゃ」

「頑張って下さいね、ロックス」

「ハッ、名付け親たるシクスス様が誇れる働きを行うことを誓います」

 シクススとロックスに芽生えた新たな絆……それに満足しながら、モモンガはみかかに声をかけた。

 

「では、そろそろ私はパンドラズ・アクターとルプスレギナを連れて城砦都市に向かおうと思う」

「ギルド長には釈迦に説法でしょうけど、くれぐれもお気をつけて」

「分かっている。油断はしないさ――そちらも面倒だろうが、例の件は頼んだ」

「極めて了解。どうぞ、みかかにお任せあれ」

「頼りにしている」

 そういって、みかかの部屋を後にするモモンガをシクススとロックスが頭を下げて見送る。

 

「シクスス。私も今からメンバーを連れて外に出る――ロックス。貴方も一緒に来なさい」

「ハッ」

「いってらっしゃいませ。みかか様、ロックス――どうか、お気をつけて」

 シクススに見送られて、みかかも部屋を後にする。

 向かう先はカルネ村――そして、その先に広がるトブの大森林だ。

 

 




やまいこ「いいよ、ガチャが外れるって言うんなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!」
みかか「脳筋過ぎます!?」

 ピックアップが出ない? 何時から当たりさえすればピックアップが出ると錯覚していた?
 出るまで回せ、回転数が全てだ。
 そんな回です。

 冗談はともかくギルド『アインズ・ウール・ゴウン』全盛期の頃のお話。
 こういうのもたまに小噺で挟みたいと思ってます。
 
 次回は皆、大好き。
 オーバーロードのマスコット、あの方の登場です(多分

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